空にまだ、濃く深い緑色を帯びた暗闇が重たく横たわった夜明け前。
篝火が風に揺れる薄暗い王宮の中を動く人影と、それを遠くから見守る視線。
たくさんの世話になった者達に無言の別れを告げて、ユウヒは城を出た。
休暇だと言いながらも実は王の命を受け、ユウヒと連れ立って城を出たシュウ。
「俺は、何か不測の事態が起こった際には、お前を斬れと命じられている。命を絶て、と」
そうユウヒに告げた禁軍将軍シュウの本当の目的はいったい何なのか…
シュウと共にユウヒが訪れたのは港町のはずれの酒場。
久しぶりに顔を合わせたジンは、あいかわらずの薄笑いでユウヒを迎える。
胸の奥に秘めた不安や戸惑い、そして決意を口にするユウヒをジンは…。
禁軍将軍からの命を受け、故郷ホムラ郷の刀鍛冶、トーマのもとに戻ったスマル。
全ての準備を整え、旅立ちを目前に師匠であるトーマ、リン、そしてヨキの言葉が
図らずもスマルの内面に問いかける。揺れる想いを抱えたスマルの内に、黄龍の声が響く。
近付く新王即位の日。青龍省、通称春省の春官であるサクは、その準備に駆け回っていた。
執務室に戻ったサクは春大臣ショウエイから呼び出しを受け、直々に仕事を仰せつかった。
大臣の部屋の奥の間にある貴重な品々を前に、サクの能力が試される。
目覚めると、そこにはジンの姿があった。夜明けを待つまでの間、ジンから伝えられる言葉。
蒼月を玉座に、この国をあるべき姿に。瞳に宿るのは、二人の決意の光だった。
迎えにきたシュウと共に、ユウヒを乗せた騎獣は西の空へと駆け出した。
白虎旗の翻る城砦を抜け、白州から無事ルゥーンへと出たユウヒ。
真実を知りつつも全てを胸の奥に仕舞い込んでシュウはクジャに帰っていった。
親友スマルから受け取った新しい剣を手に、ユウヒはまた新たな一歩を踏み出す。
連れて行かれた場所で出会ったのは星読みのサリヤという初老の女。ジンの羽根だという存在。
そしてスマルが初めて知る、王になる事と引き換えにユウヒの体に起こった変化。
スマルもまた、黄龍という運命との出会いを前に、一人悩み続ける日々を送っていた。
心に響いてくるサリヤの言葉。蘇るのは、燃え盛る炎の記憶と、忠実なる友の言葉。
「蒼月」という名に隠された本当の意味を知り、ユウヒの目から涙が溢れた。
そして見知らぬ男達と共に去ったユウヒ。何者かの陰謀か、それとも……
時は少し遡り、ユウヒのいなくなったクジャでは、警戒態勢の中、即位の儀が執り行われた。
国内の政情を踏まえ規模を縮小したとはいえ、新王の正式な即位に国の重鎮達は安堵する。
そんな慌しい中、サクのもとに、ルゥーンでのユウヒ拘束の知らせが飛び込んできた。
ルゥーンでスマルと合流したサクは、サリヤと共に王の待つルゥーン王宮に向かう。
拘束されたユウヒを取り戻すため、クジャの土使いとしてスマルはある条件を提示する。
サクとカロンも初めて耳にする真実。サリヤも自分の本当の目的を口にする。
古の言葉を囁きながら、スマルがその両手で茶色の大地を強く叩き付ける。
閉ざされていた道には光が満ち溢れ、一行はついに黄龍の待つ神殿へと足を踏み入れた。
長く閉ざされていたその扉は開かれて、遠い昔の約束がついに果たされる時がくる。
古よりクジャから切り離され封印されていた黄龍が解放される。
城に戻ったユウヒを誰よりも案じていたのは、他ならぬルゥーン王ヨシュナだった。
新たにまた覚悟を決めたユウヒの下に、一人の男が現れた。その男の正体は……
黒州、王都ライジ・クジャ、そして砂漠の国ルゥーン。
様々な立場の者達がそれぞれの場所で少しずつ前へと進み始める。
その小さな一歩一歩はやがて一つの大きな道へと繋がっていく……――。