街と言うにはあまりに殺風景で、集落と言おうにも建物も疎らだ。
吹き抜ける乾いた風は、何にぶつかるでもなく通り過ぎていく。
ユウヒとスマルが辿り着いたのはそんな場所だった。
「これは……想像以上っていうか」
「あぁ。宿なんてあるのか?」
二人して少しだけ途方に暮れる。
「宿はあるでしょ。国境越えて、最初の集落だもん」
「だよなぁ」
そう言って思わず顔を見合わせた二人のすぐ前に、一人の男が立ちはだかった。
何事かと身構えるユウヒとスマルだったが、その男はすぐ様両手を掲げ、やけに丁寧に拝礼してから顔を上げた。
「何かお困りの様子ですね。どうなさいました?」
その顔に浮かんでいた人当たりの良い笑顔が、いたずらっぽく歪む。
スマルは呆気にとられて言葉を失い、ユウヒは噴出しそうになるのを堪えながら言った。
「えぇ。実はここ、初めてなんで宿とか、ちょっとわからなくて」
「さようでございましたか。それでしたら私がお役に立てるかと存じます。よろしかったらご案内して差し上げますが、ご主人様はいかがなさいますか?」
涼しげな顔でそう言ったその商人風の男は、楽しげにスマルの方に視線を移した。
「えっ? いや、その……ご主人って……」
「そうしていただけると助かります」
「では、こちらへ」
男と平然と会話するユウヒに、スマルが戸惑った様子で耳打ちする。
「おい」
「……何?」
「あれって、カロンさんだよな? なんであぁなんだ?」
「いいから。今は彼について行こうよ」
「ん? まぁ、いいけど」
含み笑いのユウヒに納得がいかない表情でスマルが頷く。
商人風の男は、二人がついて来ているのを確認しながら少し前をすたすたと歩いていき、三つ目の建物の前に立った時にその足を止めた。
ユウヒ達がその後ろに並んで立つと、男は振り返って笑みを浮かべた。
「こちらで少々お待ちいただけますか?」
その言葉にユウヒ達が頷くのを確認すると、男は慣れた様子でその建物の中に入っていった。
「宿ってかんじじゃ……ないよな?」
スマルがぼそっとこぼすとユウヒも頷いてそれを肯定した。
確かにそこは看板があるわけでもなく、カロンが扉を開けた時に垣間見えた内装も、到底宿屋とは思えない、極普通の民家といった佇まいだった。
話はすでに通っていたらしく、カロンはすぐ戻ってきた。
「お待たせしました。どうぞ、お入り下さい」
そう言って扉を内側から開けて、ユウヒとスマルを迎え入れる。
泥か粘土質の何かで外壁を塗り固めたようなその建物の内部はひんやりと涼しく、そして思っていた以上に薄暗かった。
扉を閉めたカロンが、戸惑った様子で立ち尽くしている二人の前にまわり込んでにこりと微笑んで言った。
「お疲れ様でしたね、ユウヒさん、スマル」
カロンがようやく二人の名前を口にすると、スマルが安心したように口を開いた。
「あの、カロンさん。ここは? 宿じゃぁないッスよねぇ?」
「えぇ、宿ではないですね。でも今日はこちらにお泊り下さい。お二人とも、お疲れでしょう?」
そう言って、カロンは二人をさらに中へ入るように促した。
「その廊下の右側に部屋があります。そちらでお待ち下さい。私は騎獣からあなた方の荷物を下ろしてまいります」
あいかわらず、カロンの口調は客相手のようでよそよそしい。
スマルは違和感を覚えつつも、指示された部屋に向かった。
そこはどうやら客間らしく、スマルが覗くと大きな卓子の両側に椅子が二つずつ並べられ、ユウヒとここの主人と思われる初老の女が向かい合って座っていた。