「お前は何だか全然平気なんだな、こういうの」
シュウが戸惑ったようにユウヒに声をかける。
ユウヒは驚いたようにシュウを振り返ったが、くすりと笑って口を開いた。
「そりゃ、ね。だってシュウは私の恋人でも何でもないし。まぁそういうもんなんじゃないのって、そんなとこかな」
「ふぅ〜ん……で、ユウヒの周りの、その俺みたいに馬鹿やらかした男は? どんな男なんだ?」
そんな会話を交わしながら、二人はユウヒの部屋の前に着いた。
躊躇うことなく扉を開けてユウヒが先に部屋に入り、その中にシュウを招き入れた。
「すまない。入らせてもらうよ」
シュウはそう言って部屋の中に入ってきた。
どこか申し訳無さそうに所在無く立っているシュウに、ユウヒは椅子勧めて自分は寝台に座った。
「女の部屋だからってそんなに恐縮することないって! だいたい、この部屋でそういう反応してくれるのなんてシュウが初めてだわ」
「え? そうなのか?」
「そうよ! まったく……今朝なんて人がまだ寝てるっていうのに、あの馬鹿。悪びれもせず入ってきやがって」
吐き捨てるようにいうユウヒにシュウが驚いて言った。
「寝込みを襲われでもしたのか? 大丈夫か?」
「あぁぁぁぁぁ、ないない。そんなの全然ないわよ。ジンは馬鹿だから仕方がないの。いろいろあってお茶引っ掛けてやったから、もういいわ」
「お茶……」
シュウはそう言って絶句した。
「あ、ごめん。着替えるんだったわよね。私、先に店に行ってるね。たぶんジンが朝ごはんかお弁当か、作ってくれてると思うの」
「そうか。すまんな。着替えたらすぐに行く」
ユウヒが頷いて部屋を出ていこうとすると、シュウが思い出したように背後から声をかけた。
「そういや……さっき言ってた男、どんな奴なんだ?」
シュウの言葉にユウヒの足が止まる。
何の話かと少し考えるような素振りを見せた後、ユウヒは振り返った。
「さっき、の? ……あぁ、スマルですよ。じゃ、先行ってるんで」
そう言ってユウヒが出ていくと共に扉が閉まり、呆然としたシュウだけが部屋に一人残った。
「……え?」
自分の耳を疑うように、首を傾げ、そしてシュウはおもむろに着替え始めた。
「ぅわ、ひっでぇ。何だよこれ。あの人の言葉じゃないが、よくもまぁ騎獣が乗せてくれたもんだな」
顔を歪めて脱いだ服をぐるぐるとまるめて傍らに叩き付ける。
迎えに行く友人が女だとは一言も言わなかったはずなのに、いったいどこで気付かれたのか。
シュウは自嘲するように苦笑して、大急ぎで着替え始めた。
ユウヒの部屋だというそこは、女の部屋にしては妙に殺風景だったが、それでもところどころに置かれている小さな置物が、その部屋の主の人と形をよく現していた。
――それにしても……。
着替える手を休めることなくシュウはふと思った。
――あのスマルがねぇ……意外だな。
シュウは慣れた手つきで腰布もするすると巻き、いつものように帯剣する。
持っていた袋にぐしゃぐしゃと詰め込まれた衣服からは、まだ香の匂いが漂っていた。
そうして着替え終わったシュウは、長い髪をざっくりとかき上げてユウヒの部屋をあとにした。