「どうだった? ルゥーンの砂漠は」
サリヤが砂避けの布を取りながら、近付いてきた。
「おっしゃっていた事がわかりました。カラカラに乾いちゃうかなって思って覚悟してたんですけど……なんか、驚きです」
「でしょう? スマルさんも、大丈夫だった?」
「えぇ、おかげさまで」
サリヤは安心したように笑みを浮かべると、扉の鍵を開け、その建物の中に入って行った。
スマルとユウヒもそれに続き、入ってすぐの壁の杭に砂避けの布をかけた。
見れば見るほど奇妙な作りの建物だった。
いや、建物というよりは繰り抜いた大きな一枚岩のような場所で、その周りには何もない。
建物の中央には櫓を組まれており、梯子で屋根の上に出られるようになっている。
屋上に出られる場所は他の部分よりもかなり高くなっており、塔というには随分と低いが、周りに何もないため全方位が見渡せた。
櫓のある部分はかなり広い空間になっていて、そこには何かごちゃごちゃと書き込まれた円形の大きな卓が置かれていた。
棚にある書物はどれも分厚いものばかりで、ルゥーン数字で通し番号がふられている。
きょろきょろと物珍しげにユウヒとスマルが部屋の中を見て回っていると、荷物を部屋に置いて身なりも整えたサリヤが戻ってくるなり楽しそうに二人に声をかけた。
「荷物もまだ置かないで……何か面白いものでもあったかしら?」
ハッとした様にスマルとユウヒは顔を見合わせて、それから揃ってサリヤの方を見た。
サリヤは大きな円卓の方へと進み、そこに描かれた模様を指でなぞるようにして触りながら言った。
「ここは、私の仕事場よ。星読みの塔。まぁここは塔と言っても随分低いけれど……私、個人のものだからね。周りに何もないから星の観察にはとてもいい場所なのよ。最初は岩の上に上っていたのだけれど、あんまりいい場所だったから、岩を勝手におうちにしてしまったわ」
ユウヒとスマルはサリヤに近付いて、不思議そうにサリヤの手の下に描かれた模様をまじまじと見つめた。
その様子に、サリヤは二人の肩をぽんと叩いて言った。
「少し寒いけれど、今日は屋根の上でお話をしながら夕食にしましょう。今夜は星がよく見えるわ。お食事、お弁当にして持ってきて良かった」
はずむようにそう言うと、砂避けの布を手にお弁当だと言っていた包みを持ってにっこりと微笑んだ。
「荷物を部屋に運び込んだら、上に来て。先に行ってるわね」
そう言って、サリヤはその年齢の女性にしてはかなり身軽に、櫓の中央にある梯子をひょいひょと上って行ってしまった。
スマルとユウヒは顔を見合わせ、荷物を運んでいたカロンを今さらのように手伝い始めた。
今夜はどうやらカロンもここに泊まるらしく、スマルとユウヒの荷物をすべてそれぞれの部屋に運び終えた後、申し訳程度の少ない荷物を別室に運び込んでいた。
自室にさがろうとするカロンを捕まえ、三人分の砂避けを持って大急ぎで梯子を上る。
屋根の上に出た三人を待っていたのは、砂避けの布に包まり静かに優しく微笑むサリヤと、降るような満点の星空だった。
「ぅわぁ……」
「すげぇ……」
まったく灯りのない夜空を見上げるのは、二人とも初めてだった。
自分用の砂避け布を受け取り、カロンはサリヤの隣に静かに腰を下ろす。
スマルとユウヒは感嘆の声を漏らしたっきり、しばらくそのまま星空を眺めていた。
「どうかしら、ルゥーンの星空は」
頃合を見計らったようにサリヤに声をかけられ、二人は溜息と共にその視線を地上に戻した。