「なんだ、この揺れは!?」
ザラムが驚いて跳ねるように後方に下がり、カロンとサクが戸惑いながらもそれに続く。
揺れはさらに大きくなり、それと共にスマルの体からも陽炎のようなものが湧き上がり、風もないのにその髪がゆらゆらと揺れ始めた。
他が後方に下がったのとは逆に、前に歩み出たユウヒがスマルと並ぶ。
その肩に手を添えたユウヒが、スマルに声をかけた。
「いいよ、スマル」
その声にただ頷いて応えたスマルの唇の動きが止まる。
気を落ち着かせるように大きく呼吸をし、次の瞬間、強く地面に叩きつけたスマルの手が、まるで吸い込まれたかのように砂の中にずんっと手首まで埋まった。
「開口!!」
スマルが言うと、スマルの手を中心に砂の大地に不自然な亀裂が放射線状に走った。
そしてそのまま砂がさらさらと流れ出し、スマルのすぐ目の前の大地がまるで生きているかのように大きくせり上がり始める。
どんどん盛り上がり、そこにいる人間達よりもさらに高くなった頃、砂の壁のように見えたそこに大きな穴が出現し、さらには下へと続く階段が姿を現した。
階段を確認したスマルが砂の中から腕を引き抜くと、それまでの揺れは嘘のように鎮まり、盛り上がった部分から流れ落ちる砂の微かな音だけが残った。
「す、すごい……」
ザラムがまるで熱に浮かされたような顔で興奮気味につぶやく。
立ち上がったスマルがユウヒに視線を移すと、ユウヒは黙って笑みを浮かべてそれに応えた。
「大丈夫か?」
近寄ってきたサクに言われて、顔を上げたスマルが頷く。
「まだ入り口に立っただけだよ。さぁ、行こう」
そう言ってスマルが階段を降り始め、ユウヒがそれに続く。
カロンに促されたザラムがその後を追い、最後に残ったサクの肩をカロンがポンと叩いた。
「あなたも随分心配症なんですね、サク」
「……無茶する人間ばかりだから、俺がこういう役回りになるんですよ」
その答えにカロンが満足そうに頷いて言った。
「それは調度いいですね。あなたは我々の頭脳ですから、そうやって退いた位置にいて常に冷静な判断をしていてもらわないとね」
「そんなたいしたもんじゃないですよ。ジンやあなたみたいな曲者もいるし、逆に貧乏くじ引いた気分でしかない」
「まぁまぁ、そう言わないで……」
そう言ってまた人当たりの良さそうな笑みを浮かべてカロンがサクを促す。
されるがままにサクが先に行き、続いてカロンがゆっくりと階段を降り始めた。
崩れそうで崩れない不思議な砂の壁を伝いながら、下へ、下へと降りていく。
陽の光の届かないその場所は、肌寒いほどにひんやりと涼しかった。
砂を踏みしめるじりりという音以外は何もしないその場所をひたすら降りていくと、地下にあるとは思えないほどに広い空間に出た。
スマルが手で印を結び呪文を唱えると、辺りの壁に橙色の灯がぽうっと順に灯されていく。
ユラユラと揺れるその灯は優しい暖かさをもったものだったが、それは火ではなく何か得たいの知れない発光体だった。
「なんだ、ここは……こんなものがあるなんて、聞いたことがないぞ」
戸惑い混じりにザラムがそうつぶやいたのも無理はない。
そこには明らかに人間の手によるものとしか思えない、見上げるほどに大きな砂岩でできた建造物があったのだ。
クジャでよく目にしていた建造物を思い浮かべて比較してみる。
すると目の前のそれはどちらかと言うとルゥーン様式の神殿造りに近いようだった。
大きな柱を何本も並べ、柱と柱の間には神、この場合は黄龍と思われる彫刻が施されている。
彫刻には一つとして同じものはなく、いつ頃造られたものなのかは不明だったが、建造当時のままの姿を今に残していた。
「へぇ……これは見事ですね」
カロンがそう言って同じようにそれを見上げ、サクもその視線を追う。
そしてよろよろとよろめくようにその建造物に近寄っていくと、中央の入り口のような場所の両側にある柱の一つに静かに手を伸ばして触れた。
「ついに……ここまで来たか」
サクのその小さなつぶやきをカロンは聞き逃さなかった。
「ついに、ですか?」
聞き返されて、サク自身が一番驚いたようだった。
「……何ででしょうね。そう、思ったんです」
まるで懐かしむような目をして、サクはその建造物を見つめていた。
カロンはそんなサクをそこに残してスマルとユウヒのいる場所に近付いて行った。
「この先に、黄龍が封印されているのですか?」
カロンが問うと、スマルは少し考えてから口を開いた。
「えぇ。ここから中に進んでいくと、黄龍のいる場所に繋がります」
「繋がる? では、ここにいるというわけでもないんですね」
「はい、正確には」
そう言うと、スマルはまた歩き出した。
「行きましょう。黄龍が待ってます」
終始無言のユウヒがまたそのすぐ後に続く。
カロンはまだ柱のところにいるサクと、興味津々であちこち見て回っているザラムに声をかけてから、スマル達を追った。