将棋の本、将棋指しの書いた本を紹介する。
私の尊敬する有吉九段の著書はあまり多くない。 私が知っているのはこの本と「振飛車撃破」しかない。しかも後者は持っておらず、 この「将棋実力テスト」も実家のどこかに眠っている。 いわゆる「次の一手形式」の本であり、あまり有吉流というものは感じられないが、 初段を目指す私には非常に参考になった。
羽生の頭脳は、この本と第10巻を持っていたが、第10巻は引越しの途中で失ってしまった。 この第9巻は後手△2三歩型と相横歩取りについて書かれている。 相横歩取りは、これよりさらに細かな研究がされていて、私はそれにはついていけていないので、 怖い戦法である。(2009-08-23)
横歩取りだけは、羽生の頭脳と、この本の2つの定跡本を持っている。 横歩取りは、知らないと指しこなせないからだ。(2009-08-23)
深浦さんの無類の研究精神が発揮された本。 広く浅くの方針ではあるが、私のようなめんどくさがりやにはありがたい。 「あとがき、と言いつつ加筆する最前線について」なんて、かっこいい。(2009-08-23)
コンピュータ書を除けば私は巷のベストセラーを買わない。 しかし、私はこの本を買って持っている。 なぜかというと、ベストセラーになる前に買ったからである。 さて、この本は何度も読み、その度に涙している。今こうやって書いていても目が潤む始末だ。 つれあいからは「何度も同じ本を良く飽きずに読めるわねえ」と呆れられているが、 それでも、村山聖の力強い生き方は、のうのうと生活している私の心を奥深く打つ。 たぶん、このドキュメントが、将棋ではない他の分野に取材したものであれば、 手に取ることも、関心をひくこともなかっただろう。 村山さんとは、名前がほとんど同じ(私は MARUYAMA Satosi, 彼は MURAYAMA Satosi で、 姓の A と U の順番が違うだけ)、つれあいの実家が広島であるという二つの理由で、 愛着を感じるのだ。
この本をどうして買ったのかと言うと、著者が谷川先生だったからである。 中身を見ると、一歩間違えば高慢と取られかねない個所をぎりぎり押さえて書かれていて、 なるほどと思わせる出来であった。 内容は言っては悪いが凡百の経営書に似ている。しかし、この感想は間違っている。 なぜかというと、凡百の経営書を読んでいないからだ。 そして、谷川先生の言うことならばたとえ言い古されていることでも、 私が反感を持ちかねない個所でも、なるほどと思ってしまう。俗に言う「信用」である。 私は谷川先生とは面識もなく、おみかけしたこともないのだが、 浩司氏のお兄さんである俊昭氏とは二言三言お話したことがある。 その時のことはどこかに書いたが、とにかく俊昭氏のファンになってしまった。 この本を読んでいちいち頷く理由に、俊昭氏の人柄が一躍かっていることはまちがいない。
「ビッグコミック」に連載され、小学館コミックスとなり全9巻で完結した。 涙もろい私は、読む度に泣いてしまう。
ベストセラーは買わない、と見得を切ったにもかかわらず、 この本を買った。尊敬する方が勧めたからである。
読んでみて、やはり一流の人は違うとひしひしと感じた。 とても私にはマネをすることはできない。否、マネをしてはいけない。
この本のおいしい所については、諸氏の批評や感想があるだろう。 私は別の所を話題にする。
この本は一般向の本である。だから、あまり将棋の細々したことや、 ファン以外知らないことはなるべく出さないようにするはずである。 しかし羽生氏は、有吉道夫先生のことを2回引合に出している。 有吉道夫九段は残念なことにプロ将棋界でしか知られていないが、 年齢を重ねても(生年1935年)現役でなおかつ元気に活躍されている方である。 あえて一般向の本で有吉先生の名前を出したのは、 ずっと将棋に関する情熱を持ちつづけていたい、 と羽生氏が思った結果であったのだろう。
ちなみに有吉先生は、羽生氏が七冠独占を達成した対局で、 立会人を勤めていた。このときは羽生氏がひどい風邪をひいていて、 対局に悪影響が出るのではと外野は心配していた。 このとき有吉先生は 「なに、対局に集中すれば風邪なんて関係ありませんよ」 と答えたという。
本に書かれていたこととして有吉先生の例を挙げた。 逆に、書かれていなかったこともある。 島研のことだ。島研とは、プロ棋士である島朗八段が、 羽生氏のほか佐藤康光氏と森内俊之氏を集め、 4人で将棋の研究をした会のことである。 この本の156頁で、三人寄れば文殊の知恵、という見出しがあり、 共同研究の功罪について触れられている。 結論として羽生氏は、「自分の力で一から考え、自分で結論を出す」 と言い切っている。この本の流れからはそうなるだろう。 しかし、将棋の作りがこの10年変わってきた理由の一つは、 共同研究により将棋の深さの解明が速くなったからと私は考えている。 そのような共同研究の場を作り、 かつ超一流(名人/竜王経験者)の3人を見いだし育てた島朗八段の眼力と環境作りを、 私は尊敬している。(2005-01-09)
注:島朗氏は、2008年4月17日付で九段になった。
先崎さんの書いた本は何でも面白い。 もちろん、この本も面白い。いくつか紹介しよう。
p.210 に「詰将棋の天才たち」というコラムがある。 詰将棋の作家を天才として論じていることが、印象に残った。 それも、特定の人物を名指しして、である。
私の好きな詰め将棋はたくさんあるが、その中で印象に強く残っているのが、 新ヶ江幸弘さんの四銀詰である。 (作品はhttp://monsieur.ddo.jp/tsume/shingae.htmlの上のほう参照) 看寿賞に輝くこの作品を、先崎さんも激賞している。私もうれしくなった。
さて、私が驚いたことがある。先崎さんの著書(か監修書)の将棋入門の本で、 詰め将棋の例として、この四銀詰を取り上げているのである。 合駒の読みが難しいこの詰め将棋を取り上げるとは、 よほど思い入れがあるのだなあ。(2008-09-14)
p.120に「TVに出ずんば棋士にあらず!?」というコラムがある。 先崎氏の知人の話である。ある年、先崎氏がNHK杯の予選に負けてしまい、 テレビに出られなかった。先崎氏がテレビに出ていないことを知った知人は、 「先生……先生将棋、をやめちまったのかい」と尋ねた、という話である。
この話に続けて、先崎氏が紹介している話がある。
(囲碁の)小林光一九段は、囲碁界最高のタイトルである棋聖を長く保持していたが、 その最中、北海道に住む父親から 「お前も棋聖ばっかり取ってないでNHKを優勝してくれ」といわれ閉口したそうである。
これを聞いて、私はこんな話を思い出した。 作家の清水義範が、朝日新聞で連載をしていた。これを知った名古屋のファンが、 「次は中日新聞で書けるようにがんばって」と応援した話である。
こういった人たちを笑うのは失礼である(こっそり笑ってしまうが)。 私だって、同じような過ちを他にしているかもしれないから。 と同時に、こういった素直さが私は好きだ。(2009-08-22)
谷川氏にしては文体が少しおどけている気がするが、読んでいて清々しい文章だ。 久しぶりに手をとって眺めていると、次の文章が目に入った。 将棋ファンの女性が増えてくれることを願う段落の一部である(p.173)。
例えば、王様がミッキーマウスで、歩が白雪姫の小人たちであったり、 あるいは飛車が BMW で、金がかわいい金太郎だったりしたら……。 金太郎がミッキーマウスを追い詰めるところなんか、 なかなか愛らしくていいのではないだろうか。
これは、≪どうぶつしょうぎ≫の予告ではないだろうか。 (2010-04-04)