花村元司: 復刻版 よくわかる駒落ち

作成日 : 2023-11-07
最終更新日 :

概要

「はしがき」から引用する。

いままでの駒落ち定跡は,序盤から中盤までの指し方を書いたものばかりで, 定跡のこれにてよしという局面になっても,下手が負けてしまうことが多々あったのです。

私としては,それでは十分な定跡書というのに適当でないと思い, 序盤,中盤から終盤まで,こくめいに平手戦にも活用できる「上手泣かせ」の一連の好手筋をもり込み, それに対し上手も鬼手,妙手,秘手をもって応じる最善の手順を,さらに,現在のまでの定跡書にない花村流を数多く取り入れてみました。

なお、東京書店の将棋の本は、指し手の先手・後手(下手・上手)の区別を、指した駒に駒の形をした枠と向きを添えて書く独特の記法を採用しているが、 引用時には通常の☗☖を指し手の前に付ける記法を採用する。

銀多伝定跡

2 枚落ち定跡として、本書では銀多伝定跡とカニ囲い定跡が解説されている。後者は現在では「二歩突き切り定跡」と呼ばれる。 さて、本書は銀多伝定跡が先に解説されている。この順序は珍しいかもしれない。 本書 p.48 で、次の記述がある。

☗7八飛と歩を守ることができるのは☗7八金と早く上がっておかないからです。 下手として☗7八金と形をきめるのは,その時機がたいせつなのです。(中略)

筆者としては、この☗7八飛と歩を守るほうを本手として取り上げたいと思います。どうも大駒が 2 つくっついてかんばしくないようですが, これは上手からの攻撃を一時とめておいて,その間に陣容の整備をしてしまおうということで,考えとしては適切なのです.

この箇所を読んで、先崎学の「駒落ちのはなし」を思い出した。 やはり銀多伝定跡の類似局面で次のように述べている。(pp.221-222)

ひとつだけ注意しておきたいのは☖8五金の瞬間に☗7八飛(参考 1 図)と受ける方が結構多いということだ。こう指せと書いてある本があるのかもしれない。

だが、この形は駒が偏ってしまい、また8七の地点が薄くなってしまうので、あまりおすすめではない。だいいち銀多伝の背骨というべき中飛車からそれてしまう。(後略)

どちらの主張が正しいのだろうか。

カニ囲い定跡

次にカニ囲い定跡が解説されている。 本書 p.77 で、次の記述がある。

☖6六歩は,金銀の働く場所をつくると同時に,角を6六によんで,逆に攻めようとするのです。

☗6六角は当然の 1 手で,☗6六角などは,絶対に指してはいけない手なのです。

この箇所を読んで、先崎学の「駒落ちのはなし」を思い出した。やはり二歩突き切り定跡の別の局面で次のように述べている。(p.158)

強く☗6六同角と取る手はない手ではない。私の経験からいうと、指導対局でこの歩を角で取られる方は、年配の方が多いように思う。 ひょっとしたら、昔の定跡書に書いてある手なのかもしれない。

だが、この手は上手が歩切れの時ならば決め手になるのだが、一歩あるとなかなかうまく決まらないのだ。

2 つの盤面の違いは、花村本では上手の金が6四にあるのに対し、先崎本では7五にある点だ。もっとも、先崎本の別の個所で、 上手の金が6四にある場合で上手が☖6六歩と突いた局面でも、著者の先崎は☗6六同歩を推奨している。花村は故人だが、仮に花村と先崎の二人が対談したならどんなことを言い合うだろうか。

書誌情報

書名 復刻版 よくわかる駒落ち
著者 花村元司
発行日 平成 21 年(2009) 年 3 月 13 日 第3刷
発行 東京書店
販売
定価 1400 円(本体)
サイズ
NDC 796
ISBN 4-88574-430-3
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MARUYAMA Satosi