橋本 長道:奨励会~将棋プロ棋士への細い道~

作成日:2020-06-24
最終更新日:

概要

将棋プロ棋士の養成機関である「奨励会」とその周辺について

感想

p.31 で「年間対局数から見てみると、棋士というのは非常にコストパフォーマンスに優れた職業ということが見えてくる」 と書かれている。これは、対局に費やす時間あたりに得られる収入、という意味だろう。しかし、 対局に勝たないと対局の頻度が少なくなり、必然的に収入は減少する。 対局に勝つためには研究が必要であり、その研究には時間が必要である。その研究も、 時間さえかければいいというものではない。対局に勝てるような研究でなければ、 無意味になってしまう。このあたりのことはもちろん触れられている。 将棋の棋士だけではない。プロはみなそうであるが、研究や練習という、表に出ない時間も考えておかねばならない、 と私は思う。著者はこう述べる:「研究や練習をどれぐらいするかは個人の自由だが、結果はすべて自分に返ってくる。 会社員とは全く違う職種であることは意識しておくべきだろう。」

私が一言付け加えるとしたら、会社員であっても、自分を律するための時間、すなわち研究や練習は必要と考えている。 もちろん、会社へ行って時間を過ごすだけで済む会社員もいる。 しかし、会社にいる時間だけでなく、会社にいない時間も自分を律するために使っている会社員もいる。 そのような会社員が報われることがあるかというと、そういうわけではない。これも実社会だ、と思う。

将棋というゲームに関して、著者は 21 世紀の日本社会で必須の娯楽になる、と考えているようだ (pp.41-42)。わたしもそう思う。しかし、私が将棋道場に行ってさす相手は、 将棋は指すけれど感想戦もしないような、あまりたちのよろしくない大人が多かった。 わたしもそんな大人に(そして老人に)なるのかと思うと、あまり希望的観測は述べられない。 ただ、著者は「私自身、将棋と麻雀さえ続けられれば、老後も退屈せずに済むのではないかと考えている」 と述べている。私は麻雀を打たなくなって久しいが、麻雀とあと1つ2つの趣味があれば、 老後は退屈しないと思っている。

さて、奨励会である。本書では奨励会のことについて、かつて著者が所属していただけあって、 なかなか内実に迫るものがあった。

私は将棋を趣味としているが、将棋を指す友人は今ほとんどいない( 将棋に限らずもとから友人が少ない)。 ただ、かつての知人に元奨励会員だった方がいて、 私はこの方を無条件に尊敬している。この方からは奨励会時代のことについて話を聞くことはなかったが、 現在は立派な会社員として活躍しておられる。この方と平手で将棋を指す機会が数回あって、 最初に指した将棋は中盤戦まで互角だったのが私の将棋の歴史の中で自慢できる数少ない体験である。

p.156 に詰将棋推薦図書として、『詰将棋パラダイス』が挙げられている。これはどうだろうか? もちろん、詰将棋は指し将棋の規則に従ってはいるが、詰将棋パラダイスの詰将棋は、 純粋なパズルとしての要素が強く、したがって指し将棋と相容れないものがあるのではないかと思う。 p.154 では、「とにかく難解な詰将棋にチャレンジする」分類として、『詰将棋パラダイス』がある。 私は通読したことがないのだが、たとえば、『詰将棋パラダイス』の常連作家である、 若島正、駒場和男、山田修司、上田吉一、 巨椋鴻之介らの詰将棋作品集を見る限り、難解な詰将棋という印象なのだ。 もちろん、難解というのは、芸術性が高い、という意味でもある。著者は、 長時間にわたる思考の体力を身に着けるという意味で、一見遠回りに見える修行が必要という文脈で、 <プロはプロでもトッププロを目ざす者に限り>詰将棋パラダイスやその源流である将棋図巧、 将棋無双を解く訓練が大事だと言っている。これに関しては、私から何もいうことがない。

最後に、将棋で強くなる勉強法が挙げられている。そのなかで、将棋ソフトがある。 この項に<(将棋ソフトは)プロにとっては最高の武器となるが、 アマや奨励会員にとってはマイナスに働くこともある。最近の将棋ソフトは、いわば「オーパーツ」なのだ> という文章がある。この「オーパーツ」ということばを私は知らなかった。 Wikipedia によれば、「場違いな工芸品」という説明がある。

この将棋ソフトの推薦図書に『コンピュータ発!現代将棋新定跡』が紹介されている。 なお、この推薦図書については、著者の note を見てほしい。

書 名奨励会~将棋プロ棋士への細い道~
著 者橋本 長道
発行日2018 年 6 月 30 日 第 1 刷
発行元マイナビ出版
定 価850 円(本体)
サイズ新書版
NDC796
ISBN978-4-8399-6691-1
その他マイナビ新書

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MARUYAMA Satosi