「まえがき」から引用する。
筋違い角戦法は典型的な「手将棋」です。 相手を未知の世界に、自分だけは知っている世界に引きずり込んで戦う将棋です。この本を読み、 相手が読んでいなければ、きっと面白い戦いができるでしょう。
p.8 には「◇プロの筋違い角、アマの筋違い角」という小見出しで、次の記述がある。
筋違い角の歴史をひもとくと昭和の古き棋書にはA図がプロの筋違い角戦法、 B図がアマの筋違い角戦法と記されている。
A図は次のとおりである。
☖塚田 角 | 9 | 8 | 7 | 6 | 5 | 4 | 3 | 2 | 1 | ||
香 | 桂 | 銀 | 金 | 玉 | 桂 | 香 | 一 | ☗木村 なし | |||
飛 | 金 | 銀 | 二 | ||||||||
歩 | 歩 | 歩 | 歩 | 歩 | 歩 | 歩 | 三 | ||||
歩 | 四 | ||||||||||
歩 | 角 | 歩 | 五 | ||||||||
歩 | 六 | ||||||||||
歩 | 歩 | 銀 | 歩 | 歩 | 歩 | 歩 | 歩 | 七 | |||
飛 | 八 | ||||||||||
香 | 桂 | 金 | 玉 | 金 | 銀 | 桂 | 香 | 九 |
B図は☗7六歩☖3四歩☗2二角成☖同銀☗4五角の局面で、盤面を出すほどではないので省略する。 私の実戦では、A図になったことはあってもB図になったことはない。というのは、私は先手では筋違い角戦法を仕掛けることはなく、 かつ私が後手番では☗7六歩に対しては必ず☖8四歩とするからである。A図は先手が居飛車で角換わりを指向すれば出やすい局面だから、 私が遭遇するのはこのA図である。さて、このA図に対してどのように指すか。実はこのA図の筋違い角については述べられていない。 本書で解説されるのはほとんどB図の筋違い角である。なお、ほとんどといったのは、B図以外の筋違い角についても述べられているが、 それは後手番での筋違い角の手法である。
本書は武市三郎と美馬和夫の共著である。美馬氏はアマチュア将棋界で名の知られた強豪で、 すぐに使える! B 級戦法コレクションの実質的な著者でもある。 「すぐに使える!……」では本書の引用もあり、双方を読めば筋違い角戦法に関する理解が深まるだろう。
超有名棋士は意外なほど、その棋士の名を関した戦法や対策がない。
たとえば、中学生でプロになった棋士としては加藤一二三、谷川浩司、羽生善治、渡辺明、藤井聡太がいるが、
彼らの名前を関した戦法は聞いたことがない。もっとも、聞いたことがない、というのは言いすぎだろう。
たとえば、羽生の名前を関した「羽生流」とよばれる戦い方は、あまりポピュラーではないものの、
「羽生流袖飛車」とか「羽生流右玉」という名前に見られる。他にも羽生流の名前が付くものに、
羽生流の筋違い角対策がある。先手筋違い角を採用した鈴木大介六段に対して、
後手の羽生善治四冠(段位・称号はいずれも当時)の取った手法が話題となった。
以下本書から引用する。
後手は☖5三歩・5四銀型から4五の位を取り、居玉のまま☖2二飛と転換する大胆な指し方である。(中略)
以下後手が上から押しつぶすような攻めを敢行し押し切っている。
pp.104-107 では、「第4節 ☖2二飛転換型」として、羽生善治が用いた筋違い角対策への対応法が述べられている。
p.9 の小見出しに◇草案は木村名人
とあるが、正しくは《◇創案は木村名人》だろう。
事実、同じページの本文には☗4五角は木村名人創案の新手である。
とある。
なお、指摘するには味の悪い誤植がある。これ以上の言及は控えておく。
書名 | 奇襲の王様 筋違い角のすべて |
著者 | 武市三郎・美馬和夫 |
発行日 | 2019 年 9 月 30 日 初版第1刷 |
販売 | マイナビ出版 |
定価 | 1540 円(本体) |
サイズ | |
NDC | 796 |
ISBN | 978-4-8399-6696-6 |
その他 | 草加市立図書館で借りて読む |
まりんきょ学問所 > 読んだ本の記録 > 武市三郎, 美馬和夫 : 奇襲の王様 筋違い角のすべて