世界のEDC政策の動向
欧州連合(EU)の動き


化学物質問題市民研究会
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
更新日:2021年2月2日
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国際的な動き欧州連合(EU)の動きアメリカの動き日本の動きEDCsの低用量曝露当研究会が紹介した世界のEDC 政策関連情報

■欧州連合(EU)の動き
2020年2019年2018年2017年2016年2015年2014年まで


2020 年の動き (21/02/02)

欧州化学物質戦略はEDC 暴露の抑制を目指す (21/02/02)
 欧州委員会は2020年10月、内分泌かく乱化学物質への暴露とその健康への影響から国民を保護することを目的とした、持続可能性のための新しい化学物質戦略を発表 (Healio News 2020年10月28日

ヨーロッパにおける内分泌かく乱物質:19人の”専門家”が議論を汚染している (21/02/02)
 薄っぺらな専門性と隠された利益相反をもつ毒性学者のグループが非常に低用量で有害な合成物質に関するヨーロッパの規制の実施を妨げようと働いている (EHN 2020年6月22日

内分泌かく乱物質に対する欧州委員会の約束を実行に移すべき時である (21/02/02)
 EDCs は、従来のリスク評価手法の下では’安全’であると考えられる低用量暴露で影響を及ぼすことができる。毒性学の格言である ’毒は用量次第(dose makes the poison)’ は EDCs の全ての場合に当てはまるわけではない。(ECHA ゲスト・コーナー 2020年3月12日:ナターシャ・シンゴッティ(HEAL)


2019 年の動き (19/05/04) (19/05/29)
欧州議会 内分泌かく乱物質に関する決議を採択 (19/05/29)
 欧州議会は、会期最終日の4月18日に欧州委員会に対して2020年6月までに法案を策定することにより内分泌かく乱物質(EDCs)からのより高い保護を確実にすることを求める決議(法的拘束力はない)を採択しました。

 決議は、2012年の UNEP/WHO 報告書や2018年11月7日に発表された欧州委員会のコミュニケーション『内分泌かく乱物質に関する包括的な欧州連合の枠組みに向けて』、そしてこれまでになされた欧州議会における内分泌かく乱物質(EDCs)に関する様々な決定を参照しつつ、欧州委員会に対し、2020年6月までに WHO の定義に基づく EDCs のための水平的定義を開発することを含んで、下記の要求を挙げています。
  1. コミュニケーションの中で欧州委員会によって提案された EDCs のための欧州連合の枠組みは、 EDCs への暴露のために、人間の健康と環境への脅威に対応するために適切ではなく、第7次環境行動計画(7th EAP)によって求められることを生みだしていないことを考慮して;
  2. EDCs は発がん性物質、変異原性物質、又は生殖毒性物質(CMR 物質)として分類される物質と同等の懸念があるものであり、したがって欧州連合の法律の中で同じように扱われるべきであることを考慮して;
  3. 欧州委員会に対し、EDCs への人間と環境の全体暴露を効果的に最小化することにより、 EDCs に対する人間の健康と環境の高いレベルの保護を確実にするために必要な全ての行動を速やかにとることを要求し;
  4. 欧州委員会に対し、2020年6月までに WHO の定義に基づく EDCs のための水平的定義(horizontal definition)を開発することを要求し;
  5. 欧州委員会に対し、水平的定義には適切なガイダンス文書が伴うことを確実にすることを要求し;
  6. 欧州委員会に対し、化粧品規則に CMR 物質と同様に EDCs に関する特定の条項を挿入するための法案を 2020年までに作成することを要求し;
  7. 欧州委員会に対し、玩具安全指令に CMR 物質と同様に EDCs に関する特定の条項を挿入するための法案を 2020年までに作成すること、しかし EDCs には閾値は適用不可能なので、分類の閾値に対してどのような参照も持たないことを要求し;
  8. 欧州委員会に対し、有害な物質の含有を効果的に低減するために、 EDCs の使用を代替するための具体的な条項により食品接触材料に関する規則を改定することを要求し;
  9. 新たなアプローチ方法論を含んで、 EDCs を適切に特定するために、テスト開発と検証を加速する緊急の必要性があることを考慮し;
  10. 欧州委員会に対し、EDCs を適切に特定できるよう最新の技術的及び科学的進捗を考慮するために、全ての関連する法律でデータ要求は継続して更新されることを確実にすることを要求し;
  11. 欧州委員会に対し、EU の関連する全て法律の中で複合影響と複合暴露を考慮することを要求し;
  12. 欧州委員会に対し、飲料水中を含んで環境中の EDCs の監視はもちろん、人間と動の物集団に於ける EDCs の適切な生物監視を確実にすることを要求し;
  13. 欧州委員会に対し、EDCs に関する欧州連合の枠組みが、可能な限り迅速に採択されるべき有害物質のない環境のための欧州連合の戦略に効果的に寄与することを確実にすることを要求し;
  14. 欧州委員会に対し、より安全な代替物質はもちろん、特に後成的で継代的な影響、微生物叢(マイクロバイオーム)への影響、新奇の EDC 様態、及び用量反応関数の特性化についての EDCs 研究を推進することを要求し;
  15. 欧州委員会委員長に対して、この決議を理事会及び欧州委員会、そして加盟国の政府と議会に伝達するよう指示する。
(関連情報)
▼欧州議会 PETI 委員会による委託研究 (19/05/04)
 2019年3月 欧州議会 PETI 委員会による委託研究(内分泌かく乱物質: 科学的証拠から人間健康の保護まで)が発表されました。著者は内分泌かくらん化学物質専門家バーバラ・デメニクス、Ph.D.(フランス国立自然史博物館)と、レミー・スラマ、 Ph.D.(フランス国立健康医学研究所)です。

 本文は、アブストラクト、エグセクティブサマリー、1.内分泌かく乱物質の概念、2.既知及び疑いのある主要な内分泌かく乱物質族:広範な暴露と有害健康影響の証拠、3. EU における内分泌かく乱物質の現在の規制、4.内分泌かく乱物質の特定、5.健康を保護するための全分野にわたる EDs の管理、そして勧告で構成されています。

 勧告は、分野を超えた調和のとれた一連の規制、分野を超えた EDs の定義、 CMRs と同じく証拠のレベルに基づく 3つのハザード分類、ガイダンス文書、テスト開発/要求、他の 12項目から成っています。

 内分泌学会やランセット掲載記事などの学界、 CHEM Trust や EDC-Free Europe などの NGOs が、この研究を歓迎しています。
  • 内分泌学会は、同報告書の中心的勧告である全てのホルモン経路のためのテスト開発と科学的検証(バリデーション)を加速する必要があるということに同意するとし、テスト手法は、人間と生態系の健康に関連がある新たな、もっと敏感な評価項目を取り入れるべきであり、エストロゲンとアンドロゲンの経路を超越したホルモン系を評価するための革新的な戦略が必要であるとしています。

  • ランセット記事は、”重大なことに、 EDCs が発がん性物質、変異原性物質、及び生殖毒性物質と同等の懸念のレベルを持つ、ハザードの特別のクラスとして考慮されることを証拠が正当化している”とする著者らの主張に言及し、もしそれが実現されれば、その勧告は多くの物質の有害性と安全性のより良い理解をもたらすであろうと述べています。

  • CHEM Trustは、報告書の勧告の中でも、とりわけ下記 3点に言及し、その重要性を強調しています。
    • EDCs のよりよい管理とEU域内の諸規制の一貫性のために、EDCs は発がん性物質、変異原性物質、及び生殖毒性物質のように取り扱われるべきこと。
    • 複数の物質による広範な EDCs 暴露があるので、規制のための評価では複合影響が考慮される必要があること。
    • EDCs を特定し、会社によって求められる標準安全情報の一部とするために、もっと感度の高い評価項目を持つよりよいテストの開発が強く求られること。
(関連情報)

2018 年の動き (18/06/13)(19/05/29)
▼内分泌かく乱物質に関するコミュニケーション (19/05/29)追加
 2018年11月7日に欧州委員会は内分泌かく乱物質:EUの市民と環境を守る将来のための戦略に関するコミュニケーションを発表しました。EUの戦略的な取り組みは、科学と予防原則の適用に強固に基づき、次のことを目指しているとしています。
  • 妊娠や思春期のような人生の重要な時期に特別の注意を払いつつ、我々の内分泌かく乱物質への全体的な暴露を最小にすること。
  • 既存の研究に基づき、知識のギャップが存在する領域に特別な注意を払いつつ、ホライズン・ヨーロッパ(訳注:2021年〜2027年の7年間を対象とするフレームワークプログラム(研究開発戦略センター(CRDS))の脈絡の中で、効果的で前向きな意思決定のための徹底的な研究の基礎の開発を加速すること。
  • 全ての利害関係者が意見を聴取され、一緒に活動することが可能な、積極的な対話を促進すること。
 NGOs の連合体である EDC-Free Europe は、コミュニケーションは暴露を最小にするという目標を持ち、市民のための EDCs に関する多くの国際的な連携、研究、及び情報提供を約束していることは歓迎できるとしていますが、有害な曝露を減らすための具体的な措置に欠け、また欧州委員会は現状のEU化学物質法の見直しをすでに実施しているにもかかわらず、その約束をフィットネスチェック(ある政策分野の規制の枠組みが目的に合致しているかどうかを審査する包括的な政策評価)にかけることを決定したので、どのような政策行動もさらに遅れることになるとしています。

(関連情報)
欧州委員会 プレスリリース 2018年11月7日 内分泌かく乱物質:EUの市民と環境を守る将来のための戦略
EDC-Free Europe 2018年11月7日 EDC-Free Europe は、内分泌かく乱物質に関する新たなEUコミュニケーションに反応する

▼植物保護製品(農薬)及び殺生物製品のための基準 (18/06/13)
 欧州委員会の修正基準案は、2017年12月13日に植物・動物・食品・飼料常設委員会(SCOPAFF)で植物保護製品(農薬)の文脈で賛成を得ました。欧州議会と理事会の双方は検討期限(2018年4月19日)までに反対の意思表示をしませんでした。植物保護製品のための基準に関しては、2018年5月10日に発効し、2018年11月10日から適用されます。

 殺生物製品のための基準に関しては、2017年9月4日に欧州委員会は同基準に関する委任規制を採択しました。欧州議会と理事会の双方は検討期限(2017年11月4日)までに反対の意思表示をしませんでした。殺生物製品のための基準は2017年12月7日に発効し、2018年6月7日から適用されました。

   内分泌学会は、「EU の基準は公衆を内分泌かく乱化学物質から保護するには不十分であり、公衆の健康を保護する戦略の見直しを求める」 とするプレスリリースを2018年6月7日に発表しました。

(関連情報)
欧州委員会 (2018年6月7日現在) 内分泌かく乱物質を同定するための科学的基準を設定するプロセス
内分泌学会 プレスリリース 2018年6月7日 EU の基準は公衆を内分泌かく乱化学物質から保護するには不十分である


2017 年の動き (18/01/04)
 欧州委員会は内分泌かく乱物質の同定と分類のための基準を2013年12月中に採択することになっていましたが、主に産業側の妨害により大幅に遅れ、ようやく2016年6月15日に基準案を発表しました。しかしこの基準では、人の健康を守ることはできないとして多くの科学者や NGOs に強く批判されました(2016年の動き)。2017年10月4日に同基準案は欧州議会で否決されたので、欧州委員会は修正基準案を策定し、2017年12月13日に常設委員会で植物保護製品(農薬)の文脈で賛成を得ました。殺生物製品のための基準に関しては、2017年9月4日に欧州委員会は同基準に関する委任規制を採択しました。両基準はそれぞれ、欧州議会と欧州理事会の承認を必要とします。

(関連情報)
 ・欧州委員会のEDC基準案に対するいくつかの加盟国や科学者、 NGOs による批判
 ・欧州委員会の基準案を欧州委員会の常設委員会の各国代表が承認(2017年7月4日)
 ・欧州委員会基準案を欧州議会環境委員会及び議会が否決(2017年10月4日)
 ・欧州委員会の修正基準案を欧州委員会の常設委員会の各国代表が承認(2017年12月13日)
 ・内分泌学会の声明(2017年2月14日)及び書簡(2017年4月2日)
 ・EUにおけるビスフェノールA(2017年6月16日)及びフタル酸エステル類(2017年2月16日)の規制

▼欧州委員会の基準案に対するいくつかの加盟国や科学者、 NGOs による批判
 2016年6月に基準案が発表されて以来約1年間にわたり議論され、下記の様な批判がなされました。
▼欧州委員会の基準案を欧州委員会の常設委員会の各国代表が承認(2017年7月4日)
  • 2017年7月4日、殺虫剤及び殺生物剤中で使用されるホルモンかく乱化学物質を決定するための科学的基準が、欧州委員会の植物、動物、食品、及び飼料に関する常設委員会の委員である EU 加盟国代表者らにより採択されました。

  • 常設委員会での承認について ChemSec上席毒性学者アンナ・レンクイスト博士は、一方で長く待ちわびた基準をきちんと発効させるためのプロセスをこれ以上遅らせることはできないが、他方、今回投票にかけられた基準案には、いくつかの重大な欠陥と抜け穴があり、EDC として同定されようとする、ほとんど全ての物質に対して異議を唱えることが可能となるとし、そのジレンマを語っています。そして今後展開されるであろう適用除外と共に、ガイドラインを策定する欧州食品安全委員会(EFSA)が非常に重要になるとしています。
▼欧州委員会基準案を欧州議会環境委員会及び議会が否決 (2017年10月4日)
▼欧州委員会の修正基準案を欧州委員会の常設委員会の各国代表が承認 ▼内分泌学会の声明及び書簡
  • 2017年2月14日、内分泌学会は欧州委員会の内分泌かく乱化学物質(EDCs)の定義と同定に関する規制基準の修正提案は、規制当局が非現実的に高い立証責任を求めていること、作物に害を及ぼす昆虫や動物のような有害生物の内分泌系をかく乱する化学物質について広範な適用除外を設けていること、及び特定の化学物質が EDCs としてどのように作用するかを示す既存の証拠の量に基づき複数のカテゴリーを設けていないことを挙げて、内分泌かく乱化学物質から公衆を保護する能力を制限していると述べました。
  • クローネンベルク内分泌学会会長からユンケル欧州委員会委員長宛てに欧州委員会の提案する内分泌かく乱物質(EDs)に関する基準についての深刻な懸念を表明する書簡が出されました。次のことによりEDCs の同定のための基準を改善するよう要請しています。
    1. 内分泌系に作用するよう設計された殺生物剤と農薬のための適用除外を取り去ること。
    2. 既知の EDCs のためのカテゴリーを含む EDCs の科学に基づく定義を忠実に守ること。
    3. リスク・ベースにより基準を低下させることなく、ハザード・ベースによる同定を維持すること。

▼EUにおけるビスフェノールA及びフタル酸エステル類の規制

2016 年の動き (16/11/19)
(関連情報)
 ▼科学者らがオプション3を勧告(2016年4月25日)
 ▼欧州委員会が基準案を発表 (2016年6月15日)
 ▼欧州委員会基準案への科学者やNGOsのコメント (6月15日以降)

▼科学者らがオプション3を勧告 (2016年4月25日)
  • レミー・スラマら7人の科学学者が 「欧州連合における内分泌かく乱物質を同定するための規制基準の設定に関連する科学的問題」 と題する論文を【早期公開版(オリジナル)】として 2016年4月25日付けで EHP に掲載しました。尚、欧州委員会の基準案発表後、EHP 2016年10月号に掲載されたこの論文の【最終版(当研究会訳)】には 「校正時の追記」 が次の様に追加されました。
    ”この原稿の受理後、2016年6月16日に欧州委員会は農薬及び殺生物剤規則の文脈でEDs を定義するための提案を発表した。 その提案は EDs を含む農薬の管理のハザードベースの論理を捨て去ることを示唆している。コメントについて Kortenkamp et al. (2016) を参照のこと”。

  • この論文では2014年6月に欧州委員会によって発表されたロードマップの中で示された4つのオプションを解説し、その中のオプション3を勧告しました。

    • オプション1は、政策に変更はなく、基準の規定事項はない。

    • オプション2は、EDs を同定するための世界保健機関(WHO)の定義に従っている(WHO/IPCS 2002)。このオプションは、
      1. 環境中に生息する人間又は生物種に内分泌介在の有害影響を引き起こすことが知られている又は推定される物質として EDs を同定する。
      2. 内分泌介在の有害影響は、他の有害影響からの非特異的な二次的結果であるべきではないことを規定する。
      3. 有害影響を定義する。
      4. その影響は環境中に生息する人間と動物種に関連性がないことを示す情報がある物質は除外する。
      5. 同定のために従うべき段階的な手順をリストする。

    • オプション3は、オプション2の ED 同定に従い、さらに、証拠の強さに基づく追加的な分類(疑わしい内分泌かく乱物質と内分泌活性物質)を定義する。

      • 疑わしい内分泌かく乱物質は、ロードマップの中で、”人間、環境中に生息する動物種、又は実験的研究から得られた内分泌介在有害影響の証拠が幾分あるが、その証拠はその物質をカテゴリーTに入れるほど強くない”として定義されている。

      • 内分泌活性物質は、ロードマップの中で、”正常な生物中で内分泌かく乱介在の有害影響の可能性が幾分あり、その証拠はその物質をカテゴリーT[ED]又はU[疑わしいED]に入れるには十分な説得力がないような物質”として定義されている。

    • オプション4は、WHO/IPCS の ED 定義に従い、ハザード特性化の要素として効力(ポテンシー)を含める。効力(ポテンシー)は定義されていないし、ED 定義と結合されるべき方法でもない。

  • 著者らは、 EDs を同定するために欧州委員会によって提案されたそれぞれのオプションを示して議論し、具体的な勧告とその根拠を下記の様に示しました。

    勧告 根拠
    1. WHO/IPCS (2002) の EDs、潜在的(疑われる)EDs、及び有害影響の定義、及び EFSA の内分泌活性物質の定義を参考にすること。 科学的合意に従う。
    2. 効力に言及せずにハザードを同定すること。 効力はよく定義されておらず、エンドポイントに依存し、発がん性物質のような同等の懸念ある他のハザードを定義するのに使用されておらず、リスク評価の範疇に属し、ハザード同定には属さない。
    3. ハザード同定とリスク特性化は別の問題であるとみなすこと。同定の物質についてハザードベースからリスクベースの規制に変更するために科学的基準を利用しないこと。 法の精神のどのような変更も EU 委任法令を介してではなく、法律の中で明示的に行われるべきである。
    4. 影響評価調査とは無関係の科学的 ED 基準を確立すること。 影響評価調査は科学的定義を提供することを意味しない。
    5. EDs の特性化に証拠のレベルを導入すること(オプション3)。 発がん性物質及び EDs と同等の懸念ある他のハザード物質に適切であることが証明されている。

▼欧州委員会が基準案を発表 (2016年6月15日)
▼欧州委員会基準案への科学者やNGOsのコメント (6月15日以降)

2015 年の動き (16/11/22)

(内容)
 ▼スウェーデンによる訴訟(2014年〜2015年)
 ▼内分泌かく乱物質への暴露がもたらす健康懸念及び社会的損失

▼スウェーデンによる訴訟(2014年〜2015年)
▼内分泌かく乱物質への暴露がもたらす健康懸念及び社会的損失
  • 内分泌学会は2015年3月5日のプレスリリースで次の様に警告しました。内分泌学会 プレスリリース 2015年3月5日 内分泌かく乱化学物質の推定費用 EU で年間 1,500億ユーロを越える
    • 最近発表された新たな一連の研究によれば、内分泌かく乱化学物質への暴露は、欧州連合における実際の医療費用及び仕事の機会損失で年間1,570億ユーロ(2,090億ドル)(約24兆円)の経済的負担となる。
    • 不妊と男性の生殖機能障害、先天異常、肥満、糖尿病、心血管系疾病、及び神経行動及び学習障害は、ある程度、内分泌かく乱化学物質(EDCs)への暴露に起因する病気である。1,570億ユーロという見積もりは控え目であり、ヨーロッパの国内総生産(GDP)の1.23%にあたる。これらの費用は実際には、2,700億ユーロ(3,590億ドル)(約35兆円)で、GDP の2%に達するかもしれない。
    • EDCsは、体のホルモンを模倣し、妨げ、又は干渉する。 EDCs は、レジスターからの領収書や食品缶詰の内面ライニング中で見いだされるビスフェノールA(BPA)、プラスチック製品や化粧品中に見い出されるある種のフタル酸エステル類、及び難燃剤やクロルピリホスのような農薬などに含まれる。

  • 北欧理事会(Nordic Council)(訳注)は2015年3月26日、EU が有害な化学物質への暴露、特に子どもたちの暴露を防ぐためにもっと効果的な政策を策定し、内分泌かく乱化学物質を同定するための基準を策定することを求める声明を発表しました。 (norden news 2015年3月26日 北欧理事会 有害物質のない日々の環境を求める

    結論として北欧理事会は次のことを要求するとしています。
    • 欧州議会は、化学物質に関するEU立法の開発と強化に関して、欧州委員会とともに、積極的に厳しく追究すること。
    • 欧州委員会は:
      • 内分泌かく乱特性をもつ物質の定義を明確にするであろうEU立法のための包括的な基準のための提案を可能な限り速やかに提示すること。
      • EDCsについての情報が含まれるよう、関連するEU法内の標準的情報要求を改善すること。
      • 利用可能なデータに基づき、疑われる内分泌かく乱特性をもつ物質の審査を導入すること。
      • 潜在的な影響を評価するために疑われるEDCsの独自のテストを導入すること。
      • より厳格な化学物質政策を策定するプロセスの一部として、有害な物質を有害性の少ない物質に置きかえる代替を促進すること。
      • 同定された EDCs への人間、特に子どもの暴露を最小にすることを目指す規則を導入すること。
訳注:北欧理事会/ウィキペディア
 北欧理事会は、バラバラだった北欧の国々が第二次世界大戦に巻き込まれて大きな苦しみを受けたことを反省し、北欧諸国の団結を目指してスカンディナヴィア三王国が中心となって1952年に設立された。現在は、デンマーク、スウェーデン、フィンランド、ノルウェー、アイスランド、グリーンランド(デンマークの自治領)、フェロー諸島(デンマークの自治領)、オーランド諸島(フィンランドの自治領)の5ヶ国3地域で構成される。 また、エストニア、ラトビア、リトアニアがオブザーバーとして参加している。本部はデンマークのコペンハーゲンにある。



2014 年までの動き

 下記は主に 「2015年5月 ステファン・ホーレルと CEO による報告書”有害な出来事”」 に基づき、欧州連合の2014 年までの動きを取りまとめたものである。
(内容)
 ▼EDCsを規制する法的根拠
 ▼コルテンカンプ報告書(2012年1月)
 ▼コルテンカンプ報告書への攻撃(2012年10月)
 ▼欧州委員各総局へのロビーイング
 ▼EFSA への権限委任(2012年10月)
 ▼欧州議会議員アサ・ウェストランド報告書(2012年10月)
 ▼欧州州議会議員ガーリングの作業部会(2012年9月)
 ▼ロビーイング攻撃:影響評価を要求(2013年)
 ▼ロビーイング攻撃:環大西洋貿易投資協定(TTIP)
 ▼産業側科学者らの異常な書簡と論説(2013年6月)
 ▼事務総局の妨害(2013年7月)
 ▼驚きの合意(2013年10月)
 ▼各国、理事会、議会、NGOs の抗議(2014年〜2015年)
 ▼ロードマップの策定(2014年6月)
 ▼ロードマップに関するパブリック・コンサルテーション(2014年9月)
 ▼新委員長ユンケルによる環境総局の排除(2014年9月)


▼EDCsを規制する法的根拠
  • 少なくとも 3つの EU の法律が明確な期限をもって内分泌かく乱物質に対して取るべき行動を要求しています。2006年の化学物質規則(REACH)、2009年の農薬規則(1107/2009)、そして2012年の殺生物剤規則(528/2012)です。欧州委員会内部で、環境総局はこれらを主導する権限を委ねられていました。法的要求に則して、環境総局は独立系専門家によるひとつの調査を委託し、それは2012年に発表されました(コルテンカンプ報告書)。

  • REACH 第57条で高懸念物質(SVHC)と"同等の懸念"として内分泌かく乱物質は認可対象となりますが、2011年12月にオクチルフェノールが初めてREACH 第57条の"同等の懸念ある物質"として認められ、REACH における内分泌かく乱物質規制の突破口を開きました(ケムセック 2011年12月13日 REACH 候補リストに初めて内分泌かく乱物質)。

  • 2009年の農薬規則は、 EDCs のために、”ハザードベースの(有害性に基づく)カットオフ基準”のアプローチを確立しました。その法律は EDCs を有害(ハザード)であるとみなすので、内分泌かく乱特性があるとされた農薬は、EU 市場ではもはや認可されないことになります(EurActiv 2009年1月14日 欧州議会 反対の声の中で農薬法案を承認)。この”ハザードベースのアプローチ”は、暴露の”安全”レベルを定義することを目指す従来のリスク評価手法を置きかえるものです。欧州委員会は、2013年12月14日までに EDCs を同定するための科学的定義と基準を開発しなくてはならないことになりました。

  • しかし、イギリス及びドイツは2011年5月に、EDC 規制の ”大きなビジネス影響” への懸念を隠すことなく、産業界が望む、最も”強力な”EDCs だけを排除するカットオフ基準を主張する共同提案を発表しました。

  • 化学物質が規制される時に、それらは使用の”安全レベル”が存在するという前提で評価されます。閾値は、”無毒性量(NOAEL)”以下に設定されます。しかし、ある化学物質は、人々が暴露しても安全であるとする”安全レベル”又は閾値を持たないということが受け入れられています。発がん性、変異原性、及び生殖毒性化学物質(CMR)、そしてまた残留性、生物蓄積性、及び有毒性物質(PBTs)等の場合です。
▼コルテンカンプ報告書(2012年1月)
  • 環境総局の委託に基づき、ロンドンにあるブルネル大学のアンドレア・コルテンカンプ教授によって率いられた専門家グループによって作成された『内分泌かく乱物質の最先端の評価 (以後、コルテンカンプ報告書)』が2012年1月に発表されました。コルテンカンプ報告書は、EDCs に関する科学の詳細なレビューであり、数百ページに及び、毒性学的及び疫学的研究に関する多くの最新の文献を分析し、EDCs の環境と人間への影響の証拠をくまなく調べたものです。それによれば、EDCs を規制するためには3つの要素が必要であるとしています。
     1. 定義 (何を取り扱いたいのか?)
     2. テスト (EDC を同定するためのツールがあるか?)
     3. 基準 (規制の決定のためにテスト結果をどのように解釈するか?)

  • 安全閾値の疑問は、EDCs に関する議論の核心です。コルテンカンプ報告書によれば、現在我々が持っているツールはこれらの化学物質のための閾値を検出するのに適切ではなく、このことは、EDCs は”閾値なし”化学物質として規制されるべきであるとしています。

  • コルテンカンプ教授の説明によれば、イギリスおよびドイツが提案する”最も強力な EDCs だけを排除する効力基準”の背景にある考えは、”最悪の犯人”を選び出し、残りの EDCs は規制しないですませるためのツールとして利用することであるとし、そのような効力値は”大いに恣意的であり、科学的に正当ではない”と、明確に述べています。
▼コルテンカンプ報告書への攻撃 (2012年10月)
  • コルテンカンプ報告書の結論は産業側を怒らせ、産業側学者とともに激しい攻撃が行われました。カットオフ基準として効力を含めることは実際に、かなりの数の農薬製品を禁止から救うことになり、従って、それは化学物質及び農薬産業側の重要なロビーイング要求になりました。
     その後、この考えは、BASF, Bayer, Dow, 及び Syngenta をメンバーとして含む産業界科学組織である CETOC (欧州化学物質生態毒性及び毒性学センター)により後援されて、2012年10月に産業側のジャーナルに科学記事として発表されました。

▼欧州委員各総局へのロビーイング
  • ホーレル報告書によれば、会社側ロビーイストの欧州委員会等へのロビーイング策略は次のようなものです。
    • 善玉を孤立させる
       通商総局、企業総局、及び事務総局のような欧州委員会の関係部門に働きかけて、環境総局に反対させる。
    • 経済的損失というデマを飛ばす
       ロビーインググループは、EU 部門に彼らの分野に及ぼす経済的影響がいかに悪いかを伝えるために芝居がかった数字を作り出す。
    • プロのロビーイスト
       会社やロビー団体は、戦略の開発、当局や意思決定者との会議の斡旋等のために、ロビーイング専門のコンサルタント会社(広告/広報会社とも呼ばれる)や法律会社を雇う。
    • 科学を損なう
       コルテンカンプ報告書の批判者等を組織化し、資金援助をする。
    • 遅延と脱線を図る
       産業側は、影響評価を求めることにより、十分に長い間、EDC 規制の議論を遅らせることを期待して時間を稼ぐことを目論んでいる。
    • EU 規制を損なうために”自由貿易”協定を利用する
       環大西洋貿易投資パートナーシップ(TTIP)交渉は、食品と環境の安全の規則をアメリカと合せることを目指しており、このことは多くの場合、EU の規則を緩和する結果となり得る。
    • メッセージを繰り返すために’他の声’を動員する
       EDC 基準の攻撃を一斉に唱えるよう科学者、農民組織、その他を資金援助し、又は支援する。
▼EFSA への権限委任(2012年10月)
  • ホーレル報告書によれば、2012年10月1日、環境総局の立場を損なう驚くべき動きがありました。欧州食品安全機関(EFSA)は、欧州委員会により、”食物連鎖中に存在する可能性のある内分泌かく乱物質に関連する人の健康と環境リスク”に関する科学的見解を生成するよう命じられたと発表しました(ケムセック(ChemSec)2012年10月1日 欧州委員会が欧州食品安全機関(EFSA)に内分泌かく乱物質の人と環境へのリスクに関する同定の意見を求める)。このことは、内分泌かく乱物質のための科学的基準全体について EFSA に彼らの見解を採用する機会を与えることを意味します。

  • EFSA への公式の権限委任は、健康消費者保護総局(DG SANCO)長官パオラ・テストーリコッジにより署名されましたが、環境総局にはその公式委任状は配布されず、数日たってから連絡がありました。この敵意ある行為をもって、健康消費者保護総局(DG SANCO)は EDC 基準の開発の支配を引き継ぐために環境総局を外したのです。

  • ちなみに、EFSAは、2015年1月21日のプレスリリースで、包括的なビスフェノールA(BPA)暴露と毒性の再評価の結果、現在の暴露レベルでは BPA は消費者のどのようなグループ(胎児、幼児、若者を含む)にも健康リスクを及ぼさず、食事、あるいは暴露源の組み合わせ(食事、ダスト、化粧品、及び感熱紙)からの暴露は、安全レベル(一日耐容摂取量 TDI)より著しく低いと、結論付けています(EFSA Press Release 2015年1月21日 ビスフェノールA 暴露による消費者の健康リスクはない)。
▼欧州議会議員アサ・ウェストランド報告書(2012年10月)
  • 2012年4月に、スウェーデン社会主義民主党の欧州議会議員(MEP)アサ・ウェストランドに率いられて自発的な報告書の作成が開始され、2012年10月に ”内分泌かく乱物質から公衆の健康を保護することに関するドラフト報告書(以後ウェストランド報告書)”として発表されました(ChemSec News 2012年10月31日 欧州議会報告書(ドラフト) 内分泌かく乱物質はSVHCsとして規制される必要がある)。その概要は次のようなものです。
    • ヒトのホルモン関連障害や疾病の増大を示す証拠が増大しており、その一部は内分泌かく乱物質(EDCs)への曝露が寄与しているが、その因果関係を完全に証明するには、・影響発現の時間遅れ・同定時期の曝露影響(発達段階やクリティカルウインドウ)・多種化学物質への曝露(複合曝露)・低用量曝露・非単調用量反応・ヒトや動物の内分泌系についての知識不足、などの要因のために、困難がある。
    • EUの関連法令には内分泌かく乱特性の基準がなく、届出のための標準的データ要求がない。
    • EDCs曝露影響を最小にするために、まず予防原則を適用し、次に関連法規に照らして社会経済的評価を実施する。
    • 知識の欠如がヒトと動物の保護のための措置を妨げてはならない。
    • EDCsを有害物質クラスとし、テスト手法と情報要求を含む包括的なEDCs基準を作成することを求める。
    • 内分泌かく乱物質を定義するための基準は、 ”有害影響”と”ホルモン関連作用”を定義する基準に基くこと;これらの基準の両方は、包括的な評価を実行するために同時に比較検討されるべきことを考慮すること;有害ではないという科学的な証拠がない限り、明らかにされた影響は有害であるとみなされるべきことを考慮すること;どのような可能性ある組み合わせ影響も考慮されるべきことを強調すること。
    • OECDテスト手法には性ホルモン、甲状腺、ステロイド発生などはあるが、インスリン、成長ホルモンなどEDCs系のその他のテスト手法はないので、可能性ある低用量曝露と非単調用量反応関係を考慮して開発しなくてはならない。
    • 公衆が内分泌かく乱物質に曝露するのをできるだけ速やかに防ぎ、動物による実験の数を減らすという観点から、もし製造者/輸入者が化学構造に類似性があるのにその化学物質が安全であることを立証できない場合には、政策決定者は同様な化学物質構造を持つ化学物質をひとつのグループとして扱うことができるはずであると言うことを考慮すること。
    • 欧州委員会はEDCsのEU戦略を見直すときに、予防原則を強調すべきである。
    • EDCsはREACHの高懸念物質(SVHC)であるとみなし、認可又は制限対象とすべきである。
    • EDCsにはこれ以下の曝露なら安全であるという閾値は存在しない。
▼欧州州議会議員ガーリングの作業部会(2012年9月)
  • ウェストランド報告書は、イギリス保守党の欧州議会議員で、イギリス農業界の代弁者であるジュリー・ガーリングにより直接的に異議を唱えられました。2012年9月に、ガーリングは、’リスクベース政策策定に関する非公式作業部会’を立ち上げました。彼女のウェブサイトで、あまりに多くの決定が、”真のリスクに対する合理的で科学主導の検証と措置より、むしろ、認識される有害性(ハザード)への極めて過剰な反応”に基づいていることが懸念されると彼女は述べています。

  • この非公式な作業部会を代表して、彼女は、2013年1月22日に、内分泌かく乱物質に関するウェストランド報告に関連して、”リスク対ハザード” というタイトルの非公開のイベントを開催し、欧州委員会委員長の主席科学諮問委員 アン・グローバー、EFSA の科学戦略調整部長、及びバイエル社の毒性学者である業界団体 ECETOC 議長をゲストスピーカーとして招待しました。

  • グローバーに送付された”確定ゲストのリスト”は、ブリュッセルにおける多数の化学物質ロビー団体、CEFIC、ECPA、プラスチック・ヨーロッパ、欧州おもちゃ産業、バイエル、ECETOC、BASF、エクソンモービル、米国商工会議所(AmCham EU)、広告会社 Burson Marsteller の代表者らを含んでいました。

  • それにもかかわらず、ウェストランドは議会において彼女の決議について大多数の支持をうまく確保し、2013年3月14日、EFSA の見解が発表される数日前に、採択されました。それは、欧州委員会及び議会議員に対して、予防原則に基づき、内分泌かく乱物質の暴露を低減するための適切な措置をとることを求めています。しかし、採択されたウェストランド報告書も結局、立法化されることはありませんでした。

  • イギリスのガーディアン紙は2015年2月2日に、ホルモンかく乱化学物質に関するEUの報告書が妨害されずに立法化されていれば、数十億ポンドに値する31種類の農薬が、その潜在的な健康リスクのために禁止されたはずであるとする記事を掲載しました(The Guardian 2015年2月2日 握りつぶされた EU 報告書: 数十億ポンドに値する農薬を禁止していたことになったであろう)。

▼ロビーイング攻撃:影響評価を要求(2013年)
  • 2013年早春はひとつの転換点であるといわれています。EDCs は ”解決されるべき世界の脅威”と述べる WHO/UNEP の報告書が1月に発表されました(新たな報告書 『内分泌かく乱化学物質の科学の現状 2012年(State of the Science of Endocrine Disrupting Chemicals 2012)』)。環境総局により成し遂げられた仕事を支持するウェストランドにより主導された議会報告書が発表されました。そしてコルテンカンプ報告書と EFSA の意見に基づいて環境総局専門家委員会は彼ら自身の最終報告書を発表しました。環境総局は、EDCs を同定する基準の提案を完成させることに着手しました。

  • 化学産業界は、自分たちにはアガリ役がないことを悟り、最も効力の高い(強い)内分泌かく乱物質だけを禁止させるという戦略はうまくいきそうにないように見えました。彼らは恐れを感じ始め、妨害する方法として EDC 基準の策定を遅らせる戦略をとりました。すなわち、影響評価を要求することです。

  • 影響評価は、経済的、社会的、及び環境的な影響を評価すること目的とするものですが、費用−便益分析で、環境・健康問題をなくすことにより社会が受ける便益に関する数値を決めることより、規制のコストに関する数値を決めることの方がはるかに容易なので、”それらは一般的にひどく歪められることを知っている”と、欧州環境庁(EEA)の元・上席顧問であるデービッド・ギーが述べていることをホーレル報告書は紹介しています。

  • 産業側にとって都合のよいことには、影響評価は平均12〜15か月を要し、従ってそれは使い勝手のよい戦術として利用することができることです。

  • 産業界のロビーイングはの標的は、健康消費者保護総局(DG SANCO)、企業通商総局、そしてまた事務総局でした。その目的は、彼らの支持を取りつけ、環境総局の抵抗を孤立させることでした。

  • 2013年3月、農薬産業ロビー団体 ECPA は、内分泌かく乱物質のための基準案の経済的影響を評価する文書を作成しました。それは主に、2009年にイギリス政府により実施された影響評価に基づいており、大げさな数字と主張を含んでいました。

  • 2013年6月7日、全ての関連する欧州委員会総局は環境総局により、彼らのドラフト基準案に関してコメントするよう招聘されたました。’内部調整会議’と呼ばれるこの会議は、運命を左右する分かれ道でした。環境総局のドラフトは拒絶されました。

▼ロビーイング攻撃:環大西洋貿易投資協定(TTIP)
  • この間、産業側は、EDC 規制に反対するロビーに有利な絶好の機会を与えられました。EU とUS(アメリカ)の環大西洋貿易投資協定(TTIP)、別名、環大西洋自由貿易協定(TAFTA)の協議です。TTIP の主要な目標のひとつは、貿易の流れに資するために、EU とアメリカの間の規制の相違を適確に制限することです(The Guardian 2015年1月7日 報告:大西洋横断貿易協定は有害農薬の使用を増やす エリザベス・グロスマン)。EDCs の規制は両経済圏の間の規則における重要な新たな相違となるので、これらの協議は、EDC の問題からすっかり免れるための絶好の機会として産業側は利用しました。

  • アメリカ化学工業協会(ACC)とクロップライフ・アメリカ(CLA)は、2012年末に米EPA の化学物質安全汚染防止局(OCSPP)に書簡を送り、その中で、彼らは、EU の EDC 基準は、”世界の通商に有害で大きな影響を及ぼすであろうという重大な懸念を持っている”と述べました。

  • 2012年、欧州委員会の通商総局は、当時実施されていた TTIP に関するパブリック・コメント(コンサルテーション)に関与するために、EU の農薬ロビー団体である ECPA に近づき、”ヨーロッパの農薬産業はビジネスのための枠組みを改善するという点で、我々が注目する重要な産業部門のひとつなので、あなた方の貢献、理想的にはあなた方のアメリカでのパートナーによる支援、を非常に歓迎する”と、通商総局は ECPA にeメールを送りました。

  • クロップライフ・アメリカ(CLA)の代表派遣者らは、 ECPA により企画されていた3月20日に欧州委員会の事務総局で開催される会議に参加するよう招待されました。CLA の要求は、彼らの意見書に明確に述べられていました。

    • EU 規則ハザード・ベースのカットオフ基準 1107/2009 は US-EU 貿易に影響を及ぼすべきではない。
    • リスク評価を回避して、製品(農薬)の使用を規制するための EU による製品の一時停止、又は禁止は US-EU 貿易に影響を及ぼすべきではない。
    • もし EU が、リスク評価に基づくアプローチをとらずに、内分泌かく乱物質のために提案される新たな規制体制を求めるなら、アメリカ政府は、「衛生と植物防疫の措置に関する WTO 協定」 の権限を用いて自国を守るべきである。

  • 米国通商代表部は、内分泌かく乱物質の規制を TTIP を通じて排除されるべき’貿易障壁’として、明示的に指弾しました。産業側はまたしばしば、EU 規制は”健全な科学(sound science)に基づくべきである”ことを要求しました。この旗印の表現は、タバコ産業により作り出されたものです。

  • 米通商代表部は、”米産業界、特に化学業界及び作物保護業界は、妥当であり国際的に受け入れられている(1)強さ;(2)暴露;(3)鉛毒性;(4)重大性;及び(5)不可逆性を含む科学的及び毒性学的基準を除外しているこのハザードベースの分類又はカットオフ基準アプローチに反対するコメントを提出しました。

  • さらに、米産業界は環境総局に対してカテゴリーベースのアプローチを求めていないEU規則 1107/2009 (訳注:植物防疫製品(PPP)に関する規則)の中の文言を考慮して、その提案中に”内分泌かく乱特性の決定のための科学的基準”を反映するよう求めました。米EPAは、11月の提案に関する技術的コメントを提供することによって、環境総局の非公式なパブリック・コンサルテーションに参加した”と2014年 技術的貿易障壁に関する報告書の中で述べています(米通商代表部 2014年 技術的貿易障壁に関する報告書からの抜粋  欧州委員会の内分泌かく乱物質の分類提案)。
▼産業側科学者らの異常な書簡と論説(2013年6月)
  • 2013年6月17日、ドイツの毒性学者ウォルフガング・デカントに率いられた56人の科学者らのグループは、バローゾ欧州委員会委員長の主席科学顧問アン・グローバーに、EDCs に関して環境総局によってなされた仕事を攻撃する書簡を送りました。

  • 2013年7月5日に、コンスタンツ大学の毒性学者ダニエル・ディエトリッヒに率いられた18人の編集者と共同編集者により署名された『科学的に根拠のない予防が欧州委員会の EDC 規制に関する勧告を駆り立てる一方で、よく確立した科学及びリスク評価原則という常識を無視している』 と題する論説が発表され、その翌月には14の科学誌に掲載されました。この様な手口は科学文献の歴史上、例を見ない手法であると言われています。

  • 最も重要なことは、アン・グローバーがその書簡の写しをバローゾの内閣と事務総局長キャサリン・デイに送ったことです。環境総局により実施された科学的作業を問題にする正当な理由があるという印象を与えつつ、彼女は正念場で欧州委員会の上層部に環境総局への警戒のメッセージを送ったのです。

  • EHN 2013年9月23日 特別報告:EUの化学物質政策を批判する科学者らは産業界とつながりがある”によれば、内分泌かく乱化学物質を規制するためのヨーロッパにおける計画を批判する論説を発表した18人の科学者のうち17人は、過去又は現在、規制される産業界とつながりがあるとしています。そのうちの一人で、規制を受ける側の会社と広範な金銭的結びつきを持っていたことを指摘されたドイツの科学者ウォルフグガング・デカントは欧州委員会の科学委員会を辞任しました(EHN 2013年10月15日 産業界とのつながりが深い科学者がEUの諮問委員会を辞任)。

  • この極めて異常な書簡と論説のタイミングを考えて、EDCs への行動に反対する産業側の熱が高まっていることに人々は驚きました。2013年8月末に最初の反証が、41人の内分泌かく乱に関する主導的専門家により、 ”Environmental Health”誌に発表されたました(Environmental Health 2013年8月27日 論評 内分泌かく乱物質に関して科学と政治を混ぜ合せてはならない: 毒性学誌編集者らによる”常識的介入”への回答)。著者41人のうち4人は画期的な WHO/UNEP 2013年報告書に、2人はコルテンカンプ報告書に参加していました。”我々は、ディエトリッヒ論説は、内分泌かく乱化学物質に関する欧州委員会による差し迫った決定に影響を及ぼすよう企てられたひとつの干渉として意図されているように見えることを懸念している”と、書いています。

  • 2番目の反証は、2週間ほど後に内分泌学会のジャーナルに発表され、こちらは 104人の科学者及びジャーナルの編集者らにより署名されました。この論説は、”欧州委員会、毒性学の分野を含む科学、そして最も重要なことは公衆の健康に甚大な迷惑をかけている”と書いています。

  • 環境健康ニュース(EHN)に投稿した二人の学者は、 ”ふたつのステップが重要である。科学者は、利益相反を明らかにすべきであり、科学の多様な解釈の強い点と弱い点を明確にすることによって、”信頼できる仲介者”として務めるべきであると述べています。(環境健康ニュース(EHN) 2014年4月21日 意見:内分泌かく乱物質にもっと多くの光を、もっと冷静に 投稿:By Kevin C. Elliott(ケビン C. エリオット)及びDavid B. Resnik(デービッド B. レスニク)。
▼事務総局の妨害(2013年7月)
  • 2013年7月、事務総局長キャサリン・デイは、環境総局長と健康消費者保護総局長(DG SANCO)に覚書を送り、EDC 基準に関して一緒に作業をするよう命じ、提案は”影響評価によって裏付けられるべきであり、それは基準とそれらの影響についての様々な選択肢に関するパブリック・コンサルテーション(コメント)に基づく”べきことことを要求しました。

  • 事務総局長デイはさらに、”利害関係者らのコミュニティがもつ多岐にわたる見解、及び化学産業界と国際貿易の一部に及ぼす潜在的な影響のために、この問題は敏感である”と主張しました。

  • 欧州委員会によって後に確認されたように、産業界のロビーイングと科学者らによる書簡は、実際にこの結果にとって決定的な要因でした。

  • 影響評価を実施するというこの決定をもって、事務総局は環境総局の EDC に関する作業を妨害しました。議会により定められた2013年12月という期限があるにもかかわらず、期限のない遅延となりました。産業側は、基準を弱める企てに必要な時間を稼ぐために、そして EU-US 貿易交渉で提案されている自由貿易、すなわち規制緩和から利益を得るために、うまくことを運んだのです。

  • この問題を綿密に追っていた 8人の欧州議会議員のグループは、当時の欧州委員会委員長バローゾに書簡を送ってこれに反撃しました。”科学的基準は、政策的決定を伝えるためのツールである影響評価ではなく、客観的な科学的研究に基づくものであると人は予期していたので、この決定は驚きである。・・・発端から影響評価を実施するということは、科学を政策決定と混同し、ハザードをリスクと混同しているように見える”。
▼驚きの合意(2013年10月)
  • 2013年10月24日、欧州委員会委員長の主席科学顧問であるアン・グローバーは、二つの陣営からの代表を彼女の事務所に招いて会議を開催しました。グローバーへの書簡で環境総局の仕事を批判した陣営の科学者らと、環境総局を支持したEDC 科学者陣営ですが、後者にはコルテンカンプ報告書の著者アンドレアス・コルテンカンプも含まれていました。

  • 驚くべきことに、この会議で、批判グループは、彼らの立場を根本的に変えて、合意声明に署名することに同意しました。それは彼らの当初の宣言とは、とりわけ EDCs に安全閾値があるかどうかの問題に関し、矛盾するものであったからです。”閾値は存在しないということはあり得ることである”、そして”感受性の欠如のために全ての生物に実験だけにより閾値を定義することは不可能である”とその合意書は述べていました。

  • 2013年11月23日、アン・グローバーは、環境総局、健康消費者保護総局(DG SANCO)、及び事務総局に、この科学会議の結末について連絡しました。しかし、論争を終わりにするそのような劇的な180 度の転換も、欧州委員会を粉砕し、影響評価を実施するための都合のよい言い訳を無効にするというような結果にはなりませんでした。

  • 欧州委員会は2009年の農薬規則により公式に規定された2013年12月までという期限を守らなかったし、新たなスケジュールも示しませんでした。

  • 2014年3月25日、8人の欧州議会議員のグループが最終的に彼らの2013年10月のバローゾ宛の書簡への回答を受け取りました。カール・フォルケンバーグ(環境総局)とパオラ・テストーリ コッジ(健康消費者保護総局)により署名されたその回答は、EDC 基準に関連する”ある産業分野への可能性ある潜在的な著しい影響についての懸念”だけでなく、”昨年夏から拡大している内分泌かく乱化学物質に関する科学界における活発な議論”をも理由に、影響評価を正当化しました。
▼各国、理事会、議会、NGOs の抗議(2014年〜2015年)
▼ロードマップの策定(2014年6月)
  • 影響評価の範囲を規定し、その中で評価されるべき政策オプションを示す”ロードマップ”を設計する任務を与えられた環境総局と健康消費者保護総局(SANCO)は、研究、気候、農業、企業及び通商を含む欧州委員会中の部署から参加者を招聘し、2014年1月20日に影響評価運営グループの第1回会合を開催しました。

  • 農薬のロビー団体 ECPA は、この会議についてよく知っており、1週間前に影響評価に関する彼らの”提案”を健康消費者保護総局(SANCO)に送っていました。数日後、 CEFIC も同じことをしました。ECPA と CEFIC は、明らかにほとんど同等の論旨を作成しましたが、とりわけ、EDC 基準の影響の”意味のある評価”に到達するために、影響評価は十分に詳細であるべき、すなわち、予想される影響をそれぞれの農薬毎又は農薬のグループ毎に、そしてそれらの同定の用途毎に、分けて詳細に評価することを要求しました。

  • しかし、このことは、どの農薬を欧州委員会が内分泌かく乱物質であると疑っているか外部の世界に明確に示すことになるので、彼らは公衆には曖昧にさせておくことを強く勧告しました。彼らは、内分泌かく乱性を疑われる物質の公的リストを生成するようなやり方で発表されると、過去の経験から、ある利害関係者らはその様なリストを”ブラックリスト”として使用するかもしれず、それにより不当な競争をもたらす可能性があると述べました。

  • 2014年6月20日、環境総局と健康消費者保護総局(SANCO)の間の数か月にわたる厳しい交渉の後に発表されたロードマップには、環境総局の専門家グループにより2013年3月に排除されていた効力基準が復活していました。 

  • Chemical Watch は2014年6月18日の記事の中で、その概要を次のように紹介しています。(Chemical Watch, 18 June 2014, EU Commission publishes EDC roadmap Policy options include more risk and socio-economic assessment

    • このロードマップは、規制の意思決定へのアプローチとともに、管理の対象となる EDCs を分類するための様々なオプションを規定している。4つの政策オプションが検討されているが、オプション 1 は何も変更がなく、殺生物性製品規則(BPR)及び植物防疫製品規則(PPPR)中で規定されている暫定基準が適用される。

    • 残りの3つのオプションは全て世界保健機関(WHO)及び国際化学物質安全性計画(IPCS)により定義された有害性同定基準に基づいている。これらの下に、EDCs は既存の知識、実験的研究、及び QSAR (定量的構造活性相関)のようなその他の情報を通じて同定される内分泌が関連する有害影響の証拠は明確である必要がある。有害影響は定義されている。内分泌作用のメカニズムに関する情報は関連性がある。残りの提案は:
      • オプション 2 :有害影響とメカニズムを評価するための6つのステップを含む。
      • オプション 3 :カテゴリーI (既知の内分泌かく乱物質)、カテゴリーII(疑いのあるかく乱物質)、カテゴリーIII(内分泌活性物質)という分類を導入する。
      • オプション 4 :有害性特性化の一部として強さ(potency)を含む。
▼ロードマップに関するパブリック・コンサルテーション(2014年9月)
  • 2014年9月29日から、この欠陥あるロードマップに関するパブリック・コンサルテーションが実施されました。米政府のパブリック・コンサルテーションへの意見提出は、”環境総局提案は科学的アプローチを取り入れなかった”とし、もしそれが採用されれば影響を受けたであろう EU の輸入額として産業側の見積もり金額 653 億ユーロ(そのうち 40 億ユーロ以上がアメリカの輸出)を引用しつつ、環境総局提案を切り捨てることにより、基準を緩いレベルに押しとどめようとしました。

  • 労働組合、消費者、公衆健康医療専門家、がん防止運動家、環境活動家、及び女性の団体を含む広範な公益連合 EDC Free Europe は 2014年12月3日、”ホルモンかく乱化学物質にノーと言おう!”というメッセージを掲げて、あなたの意見を直接伝え、我々の健康を守るために我々の生活からホルモンかく乱化学物質を緊急に排除することを要求する唯一の機会であるとして、このパブリック・コンサルテーションへの参加を呼びかけました。(EDC Free Europe 2014年12月3日 ホルモンかく乱化学物質にノーと言おう!

  • ホルモンかく乱化学物質への毎日の暴露は、現在と将来の世代の健康を守るために止めなくてはならない。パブリック・コンサルテーションに答えることにより、あなたは深刻な懸念があるという強いメッセージを欧州委員会に送り、我々を、環境を、そしてヨーロパ及びそれを越える子どもたちを守るための行動を支援することができる。我々の要求は世界中の主導的科学者、世界保健機関(WHO)、そして国連環境計画(UNEP)の仕事に基づいている。
▼新委員長ユンケルによる環境総局の排除(2014年9月)
  • 2014年5月の選挙により、新たな議会と新たな委員が選出されました。2014年9月10日、新たな欧州委員会委員長ジャンクロード・ユンケルは、新たな委員の名前と今後5年間の彼の優先事項を発表しました。プレスリリースの最後に欧州委員会内の業務の変更の詳細を示す長い表があり、環境総局は EDC 基準に関する主導的立場を公式に解任され、 健康消費者保護総局(SANCO)が EDC 基準の責任部署となったことが示されていました。

  • ホーレル報告書によれば、EDC 基準に関する影響評価は完了するまでに長い時間がかかり、最も早いケースでも、EDC 基準は、2016年後半以前には発表の準備ができず、化学物質及び農薬産業の 二つの進路、すなわちEU プロセスと TTIP 交渉へのロビーイングは、衰えることはないであろうと述べています。

  • しかし、同報告書は、”両方の進路にはかすかな希望の光が見える。空前の動きとして、2015年1月、欧州議会と理事会は、EDCs 基準を確立することを怠ったとして欧州委員会に対するスウェーデンの訴訟を公式に支持することを決定した。イギリスなどのわずかな棄権はあったが圧倒的な 21 加盟国は賛成票を投じた。TTIP 交渉は、批判的な世論と抵抗の増大により難航している。EU におけるこの重要な健康環境政策に関わる戦いはまだまだ続く”と結んでいます。


化学物質問題市民研究会
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