EurActiv 2009年1月14日
欧州議会 反対の声の中で農薬法案を承認

情報源:EurActiv, 14 January 2009
Parliament seals pesticides deal amid opposition
http://www.euractiv.com/en/environment/parliament-seals-pesticides-deal-amid-opposition/article-178470

訳:安間 武/化学物質問題市民研究会
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2009年1月16日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/eu/eu/euractiv/090114_Parliament_seals_pesticides_deal.html


背景
 農薬の影響に対する公衆の懸念が高まる中で、欧州委員会は2006年7月に、農業における農薬の危険な又は過剰な使用から人の健康と環境を守ることを目的として”農薬法案(パッケージ)”を発表した。このパッケージはヨーロッパにおける農薬の使用と認可を厳しくすることを求めた規則COM(2006) 388 final)と農薬の持続可能な使用のための共通の目標と枠組みを規定する指令COM(2006) 373 finalからなる。

 農薬法案(パッケージ)に関する利害関係者の議論は主に、市場認可のための農薬成分の評価としてリスクベースからハザードベース基準へのシフトに注がれた。人の健康と環境に潜在的に深刻なリスクを及ぼす農薬成分に関する市場での禁止(”カットオフ基準”)が健康・環境NGOによって称賛され、産業側からは厳しく批判された。

 EU加盟国と議会の交渉は昨年12月にパッケージに関する妥協案への合意に達した。(EurActiv 19/12/08
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 欧州委員会は、イギリス、スペイン、及びハンガリーの強い反対、そしてこの立法が農産物及び食料価格に及ぼす影響について、もっと評価を実施すべきとの要求にもかわらず、昨日(1月13日)有毒な農薬の使用を制限する法案を採択した(訳注:EurActiv 2009年1月14日 欧州議会 反対の声の中で農薬政策を承認)。

 同法案パッケージは閣僚理事会による正式承認が必要であり、昨年クリスマス前に妥協に達したが、法案全体について意見が割れたままである(EurActiv 19/12/08)(訳注:有毒な農薬禁止に関する合意に到達)。

 同法案は人の健康と環境に潜在的な脅威を及ぼす多くの有害物質の禁止をもたらすのであり、加盟国に対してはより持続可能な農薬使用を取り入れることを義務付ける。

 イギリス、アイルランド、スペイン、及びハンガリーは、この法案は農業生産に深刻な影響を与え食料価格が高騰すると主張して、反対した。しかし、4か国がまとまっても理事会での多数派投票を阻止するだけの少数派を形成するには十分ではなく、理事会は同法案を”Aポイント”(討議なしに採択)で採択するように見える。

 ”昨日投票された同法案は確固としたものであり、拘束力がある”と理事会の報道官は述べ、農薬使用と市場認可に関する規則(Regulation)が官報(Official Journal)で発表されれば、直ちに適用されることになると付け加えた。

 しかし彼女は、農薬の持続可能な使用に関する指令(Directive)は、指令というものはある程度自由に解釈され国内法に展開されるので、幾分拘束力が弱いとみなすことができると述べた。今回の指令にはコミトロジー手続き(訳注)によりさらに具体化される必要がある多くの実施措置を含んでおり、それらは反対派に法案成立を遅延させ後退させるチャンスを与える。
(訳注:コミトロジー手続き
 欧州委員会が加盟国の代表等からなる専門委員会のようなものを設けて、事実上その場で内容を決定し、欧州委員会指令として採択するプロセス。手続き的に議会や理事会の審議プロセスを経ない。)

 この法案に不満の人々は、立法の中間レビューを議論を再開する機会として、特に、新たな College of Commissioners 及び新たな欧州議会という文脈で利用することができる。

立場
 グリーン議員ヒルトラッド・ブレイヤー(Greens/EFA、ドイツ)−欧州議会の農薬使用と認可に関する法案起草者で議会を通じて立法を指揮した議員−は次のように述べた。”この合意は、もっと革新をもたらしEUをこの分野の先頭に立たせるものなので、環境、公衆健康、及び消費者の保護のためだけでなく、欧州の経済のためにもうまくいった”。

 議員クリスティーナ・クラス(EPP-ED、ドイツ)−欧州議会の持続可能な農薬使用に関する法案起草者−はこの指令について、”欧州の消費者と環境を保護するために正しい方向への第一歩”であると述べた。彼女は、”職業的利用者のための訓練と個人的使用者への適切な情報によるリスク管理が重要である”と強調した。

 欧州委員会は、新たな立法は、”人の健康と環境の保護を強化し、農業生産のよりよい保護をもたらし、植物保防疫剤(農薬)の単一市場を拡大し深めるであろう”と強調して法案の採択を歓迎した。

 イギリスの保守党議員を除いた全ての議会勢力はこの採決を歓迎した。イギリス議員らは新たな法は、にんじん、穀物、じゃがいも、たまねぎ、パースニップ、などを含む食料の生産高を減少させ、消費者価格を押し上げると主張した。”議会の見解はバランスが取れていない。議員らは農薬を我々の作物を維持する必要なツールとして見ていない”と議員ロバート・スターディは嘆いた。

 カットオフ基準の採択は産業に対して大きな懸念があるが、並行貿易(parallel trade)に関する新たなルールや国の暫定的な認可など、新たな法の他の側面は欧州作物保護協会((ECPA)によって歓迎された。
(訳注:並行貿易
 貿易業者が安く売られている国で商品を購入し、その製造業者の販売ネットワーク外にある国で高い値段で販売することを表す用語。)

 農薬の持続可能な使用に関する法案もまた、産業界によって大いに歓迎されたが、その理由を”我々の製品(農薬)の安全で環境的に健全な使用に対する我々の長期的観点に立つ約束を一定の形にするものである”とECPAの理事フリードハイム・シミダーは述べた。

 しかし彼は、リスク削減の適切な手段でもなく持続可能な実施の促進でもない、どのような”任意の使用削減”に対しても警告した。”実際、農薬の使用量(総量であろうと処理の数であろうと)とリスクとの間には直接的な関係はない。植物防疫剤(農薬)の持続可能な使用に関する国家行動計画を策定する時に、この側面が考慮されることが重要である”とシミダーは主張した。

 EU農民の組織であるCopa-Cogecaの事務局長ペッカ・ペソンネンは、カットオフ基準に関する議会の決定は健全でリスクベースの評価に基づいてなされていないと嘆いたが、”効果的な植物保護・・・は一般的に可能であるという彼の信念を強調した”。

 彼はEU農業分野に対する新たな法案の全体影響は、それがどのように実施されるのかに強く依存していると強調し、EU機関はこの合意がもたらす全ての結果を検証する詳細な影響評価を開始するよう主張した。”特に、非EU諸国からの輸入の結果もまた評価されるべきであり、EU農民に禁止される農薬成分は輸入製品にも禁止されるべきである。もし、そうでなければ、最終消費者は禁止農薬成分を使用した製品を購入することになり、ヨーロッパ農業の競争力は損なわれるであろう”と彼は説明した。

 欧州青果物加工産業組織(OEITFL)は、”この規則は、作物の栽培に求められる必須の多くの農薬が市場から取り下げられるなら、地域で栽培した野菜を調達できるかどうかについて産業に不確実性を残す”と述べた。

 欧州鉄道産業は、農薬は線路での作業を可能とし列車の運転士が信号灯をはっきり見ることを確実にするために鉄道線路及び緊急ルート内の植物を管理するために用いられるので、”この新たな法案は鉄道の安全を維持するための化学物質による解決の採用を制限することになる”という懸念を表明した。

 ”緩衝地帯の設置義務と植物防疫剤(農薬)の使用に関するその他の制限はヨーロッパの鉄道の安全維持に問題となり得る”と欧州鉄道基盤管理協会(EIM)事務局長のミカエル・ロブソンは述べた。

 グリーンピース欧州ユニットは、この新たな法は、”体内のホルモンレベルをかく乱し、免疫系と神経系を損なう数百の有害な物質に欧州の市民と環境を暴露させたままにし、がんを引き起こし又は生殖系を損なうことができる全ての農薬を直ちに禁止することに失敗した”と嘆いた。”この法の大志の欠如は、ヨーロッパの食料が多くの危険な化学物質によって今後も長い間、汚染され続けるであろうことを意味する”とグリーンピースの化学物質専門家マンフレッド・クラウターは述べた。

 その他のNGOは、この採択はよりよい公衆の健康に向けた第一歩であるとして歓迎した。しかし、健康環境連合の副代表であるモニカ・グアリノニは、議会が”胎児の神経系と免疫系の損傷に関連する農薬に対して緩やかにすることに合意した”ことを残念がった。

 ”この合意はまた、各国政府が各国での認可決定をする権利を弱め、産業が自分たちの意に反する各国政府の決定に対して積極的な法的措置をとるためのドアを開くものである”と農薬行動ネットワーク(PAN)の広報官エリオット・キャンネンルは付け加えた。

次のステップ:
今年後半:農薬使用と認可に関する規則(Regulation)が発効し実施される。現行法規の下で市場に出すことができる農薬は、それらの既存の認可有効期限が切れるまで利用できる。

2011年初頭:加盟国は農薬の持続可能な使用に関する指令(Directive)を実施しなくてはならない。

関連リンク
European Union:
NGOs:

■訳注:関連情報


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