EurActiv 2017年7月5日
EU の専門家ら
農薬中の内分泌かく乱化学物質のための
基準に合意

フレデリック・サイモン EURACTIV.com
情報源:EurActiv, 5 July 2017
EU experts agree on criteria for endocrine disrupting chemicals in pesticides
By Frederic Simon / EURACTIV.com
https://www.euractiv.com/section/energy-environment/news/
eu-experts-agreeoncriteria-for-endocrine-disrupting-chemicals-in-pesticides/


訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2017年7月11日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/edc/EU/
170705_EurActiv_EU_experts_agree_on_criteria_for_EDCs_in_pesticides.html


 EU 加盟28か国からの専門家らは7月4日(火)、化粧品、おもちゃ、そして食品容器中などで用いられている同様な化学物質のためのより広い規制に向けた第一歩として、欧州委員会により提案された植物保護製品中の内分泌かく乱物質を同定するための基準の提案リストを承認した。
 殺虫剤及び殺生物剤中で使用されるホルモンかく乱化学物質を決定するための科学的基準が、欧州委員会の植物、動物、食品、及び飼料に関する常設委員会の委員である EU 加盟国代表者らにより採択された。

  EU健康食品安全委員会委員長ヴィテニス・アンドリウカイティスは、その合意を”偉大な成功”であると述べ、意思決定プロセスに関わる欧州議会と理事会に円滑な採択を求めた。

 そのリストは、”殺虫剤や殺生物剤の枠を越えた内分泌かく乱物質へのEU市民の暴露を最小にするための新たな戦略への取組みに、欧州委員会が着手することを可能にすることにより、健康と環境を保護するための更なる行動のための手段を提供するであろう”と、同委員長は声明の中で述べた。

 その新たな戦略は、例えば、おもちゃ、化粧品、そして食品容器をカバーすることを目指すであろうと同委員長は付け加えた。

 この決定は、長年EU加盟国を二つに分断して、内分泌かく乱物質の定義に関連する延々と続いた論争(訳注1) を終わらせるよう意図されている。

スウェーデン、内分泌かく乱物質に関する裁判で欧州委員会に勝訴
 欧州連合の一般裁判所(General Court)は2015年12月16日(水)、欧州委員会はホルモン影響化学物質又は’内分泌かく乱物質’のための定義を発表を怠ったことによりEU法に違反したと述べて、スウェーデンを支持した。
 欧州委員会は、内分泌かく乱特性を持つ化学物質を同定するための一連の科学的基準の提案を、スウェーデンによるEU執行部に対する訴訟の勝訴(訳注2)をもって督促されつつ、法的に求められた期限より3年遅れて、2016 年に発表した。

ハザード対ポテンシー

 背景には、スウェーデンとデンマークに支持されたフランスが、”物質のポテンシー(効力)、又は薬剤が人間の組織に影響を与えるために必要な量(訳注:用量−反応曲線による図解)は勘案せず、ハザード(危険)の固有の特性に基づく”定義を採用するよう求める規制当局へのキャンペーンがあった。

 この定義に基づき、フランスは、それらのホルモン系への影響に関して科学界が認識する確実性のレベルに基づく、”確認されている(verified)”、”推定される(presumed)”、及び”疑われる(suspected)”という3つの広範な基準を確立することを提案した。

 しかしこれら3つのカテゴリーは、実際のリスクを評価するためには、ポテンシーはもちろん、ハザードと暴露を合わせた考慮が必要性であると主張するドイツ及び強力な化学物質ロビー勢力による抵抗にあった。

内分泌かく乱物質に関するEU基準は不十分であると化学産業が警告
 農薬中及び殺生物剤中の内分泌かく乱物質を同定するための欧州委員会の基準案は、人と環境を保護するためには”十分ではない”と、欧州化学工業連盟が警告した。
 ”ポテンシーを導入しなければ、カフェインや大豆たんぱくのような摂取しても安全である日常的な食品や飲料中に存在する物質が内分泌かく乱物質として同定されてしまう”と、欧州化学工業連盟 (CEFIC) は警告した。

 農薬産業界もまた、この観念は毒性学の基本的な原則であると述べて、本質的な基準として”ポテンシーを考慮する必要性”を強調した。

フランスの屈服

 フランスは最終的にドイツからの圧力に屈服し、採択された文言は3つ基準を含まず、物質を広範な毒性カテゴリーに分類することは難しくなった。

 与党であったときに厳格な基準をは働きかけていたフランス社会党は、この件に関して政府が変節したことをとがめ、環境活動家から環境大臣になったニコラ・ユロ(訳注3)を非難した。

 ”本日フランスにより同意された文言は、有害な物質を定義するために非常に高い立証責任を求めるので、全く受け入れることはできない”と、欧州議会のフランス社会党代表団は述べた。

 それに同意する議会のグリーンズ(緑)グループは、”欧州委員会の基準は、内分泌かく乱物質を同定することが非常に難しくし、わずかな製品しか市場から撤去されないであろう”と述べた。同グループは提案された基準を断固拒否するために、欧州議会で多数を占めることを誓った。

 ”欧州委員会のように、ほとんどの加盟国は、農薬の範囲を超えて有害影響があるのに、公衆の安全より一握りの巨大農薬会社の利益を優先している”とグリーンズは声明の中で述べた。

 これらの要求は、欧州議会と加盟国に ”この提案は初めからやり直せ” と求める消費者団体 BEUC によっても繰り返された。

 一方、他の者は議会に将来の規制のためにこの提案を受け入れるよう要求した。

 ”もちろん、ある者はグラスは半分しか満たされていないという見方をしたいかもしれない”と、中道右派欧州人民党(EPP)のフランス選出欧州議会議員フランソワーズ・グロステートは述べた。”しかし、このように多くの障害と遅れが生じた後なので、欧州議会がこれらの基準の実施を邪魔するとは到底思えない。反対に、私はこれをべースに、我々は仲間の市民たちの健康を保護できるよう、この定義の迅速な適用のために働かなくてはならないと信じる”。

立場

 農薬製造者を代表する欧州作物保護協会(ECPA)は、それらは”当局が害を引き起こす真の能力を持つ物質と、そうでないものとを明確に区別することを可能にしない”と述べつつ、提案された基準を拒否するようEU議員らに要求した。

 ”欧州委員会自身が認めるように、その基準は健康と環境に新たな保護をもたらさず、欧州の農民にとって必要な他の利用可能な多くツールの勝手な削減を耐え忍んでいる彼らに、さらに不均衡で差別的な影響を与えるだけである。理事会と欧州議会はこの提案を拒絶することを望む”と、 ECPA は声明の中で述べた。

 70以上の環境 NGOs からなる連合体 EDC-Free Europe は、内分泌かく乱物質に関して”最後の段階でフランスが立場を変えたことは残念である”と述べ、議会はこの提案を拒絶するよう求めた。”その基準は非常に高い立証責任を求め、物質を内分泌かく乱物質として同定することを非常に難しくし、その結果、長い遅延をもたらすことになる”と同連合は声明の中で述べた。

 それは、6月15日に内分泌学と内分泌科学における世界の指導者を代表する内分泌学会、欧州内分泌学会、及び欧州小児内分泌学会により発表された、欧州委員会提案の基準に重大な懸念を表明する共同声明に、注意を向けた。

 3つの科学団体によれば、”その基準は、野生生物や人間のシステムと類似性がある標的昆虫の内分泌系をかく乱するよう特別に設計された化学物質のために、恣意的な適用除外を含んでいる。その結果、その基準は科学に基づくと言うことはできない”と、この3つの科学者団体は6月の共同声明中で述べている。

 また3団体は、”欧州委員会の現在の提案は、世界保健機関の内分泌かく乱物質(ED)の定義に大きく依拠しているが、その基準は追加的な科学的証拠が必要かも知れない化学物質に対応するプロセスを組み込んでいないので、それは公衆の健康を保護するうえで効果的ではない”とも書いている。その結果、”多くの内分泌かく乱物質(EDs)は、現在提案されているような基準によっては、そのように同定されることはないであろう”と彼らは主張した。

  提案された基準は”予防原則に反する、すなわち保護的行動は科学的不確実性に勝るべきである”と付け加えつつ、”我々は、加盟国の多くが欧州委員会の欠陥ある提案に同意したことを残念に思う”と、欧州消費者団体(BEUC)の執行ディレクターであるモニーク・ゴエンスは述べた。

 欧州消費者団体(BEUC)によれば、内分泌かく乱物質のEUの定義は、”ホルモン系をかく乱するかもしれない全ての化学物質、すなわち、 ”既知” の内分泌かく乱物質、及び ”疑いのある” 内分泌かく乱物質の両方を捕らえる必要がある。欧州消費者団体(BEUC)は議会と理事会が次の様な基準を採択するよう促した。
  • 合理的な立証責任を求め、予防原則を敬うこと。
  • 利用可能な証拠のレベルに従い、多層の分類カテゴリー、すなわ、、”知られている(known)”、”推定される(“presumed)”、及び”疑われる(suspected)” 内分泌かく乱物質を導入すること。このような分類は、発がん性、 DNA の変更、又は生殖毒性を引き起こす化学物質に対して、すでに適用されている。
  • 殺虫剤から化粧品やおもちゃに至るまで、EU市民と環境を保護する全ての関連法に適用されること。
 ”これではとても成功とは言えない”と、危険な農薬の有害影響を最小にするために活動する600団体以上の非政府組織のネットワークである PAN ヨーロッパは述べた。”現在の EDC 基準提案は、人と環境の健康を効果的に保護しないとして、内分泌学分野の専門家らから繰り返し批判を受けていた”と、同ネットワークは振り返る。

 ”本日、悲しいことに、我々は欧州委員会とほとんどのEU加盟国が、人々、環境、そして将来の世代を保護することよりも、市場から内分泌かく乱農薬を排除することの経済的影響の方をより懸念しているということが分かった。現在は、欧州委員会が実行することを拒絶した内容を、改めて要求するのかどうかということは、欧州議会次第である”。

背景

内分泌かく乱物質:有害か否か?
 がんと生殖問題の上昇が、科学者らの内分泌かく乱化学物質への注意を喚起し、予防原則と調和して、この物質の厳格な規制を求める声が上がった。しかし他の人々はプラスチックや農薬のような日用品中のこれらの化学物質の価値を強調し、もし予防的措置が取られるなら、科学の基盤が覆されるリスクがあると警告した。
 がんと生殖問題の上昇が、科学者らの内分泌かく乱化学物質への注意を喚起し、予防原則と調和して、この物質の厳格な規制を求める声が上がった。

 人々は、少し例を挙げれば、食品、飲料、医薬品、農薬、化粧品、プラスチック、洗剤、難燃剤、おもちゃなどを含んで、日用品を通じてホルモンかく乱k額物質に暴露している。それらは空気中、そしてダスト中にさえ見つけることができ、皮膚、呼吸、飲食を通じて我々の体内に入り込んでくる。これらの化学物質はまた、母親から胎盤又は母乳を通じて子どもに伝わる。

   しかし他の人々はプラスチックや農薬のような日用品中のこれらの化学物質の価値を強調し、予防的アプローチを用いてこれらの物質を禁止することの経済的影響について警告した。

 世界保健機関によれば、内分泌かく乱物質とは、非常に弱い暴露レベルであっても、ホルモン系の機能をかく乱し、その結果、人の健康と生殖に有害な影響を及ぼす物質、又は物質の混合物である。

 欧州委員会は、2013年12月までに潜在的な内分泌かく乱物質を定義するための科学的基準を示すことを求められていたが、最初に影響評価を策定することを望んだので、その決定は遅れた。この件に関して迅速な規制措置を支持したスウェーデンは、欧州委員会を訴え、最終的に勝訴した。

 2016年、EU執行部は最終的に、植物保護製品(農薬)と殺生物剤中の内分泌かく乱特性をもつ物質を同定するための、長らく待ちわびられていた一連の基準を発表した(訳注4)。

 採択されれば、このEU規制は、法律で内分泌かく乱物質のための基準を定義する世界で初めてのものになるであろう。


訳注1:欧州委員会が提案する内分泌かく乱物質同定基準の論点
訳注2
訳注3
訳注4


化学物質問題市民研究会
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