EHN 2013年10月15日
産業界とのつながりが深い科学者が
EUの諮問委員会を辞任

解説:ステファン・ホーレル(EHN)

情報源:Environmental Health News, October 15, 2013
Scientist with extensive industry ties quits EU advisory panel
By Stephane Horel, Environmental Health News
http://www.environmentalhealthnews.org/ehs/news/2013/scientist-resigns

訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2013年11月4日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/edc/EU/ehn_131015_
scientist_with_industry_ties_quits_EU_advisory_panel.html


 欧州連合の化学物質規制計画に批判的であり、規制を受ける側の会社と広範な金銭的結びつきを持っていたドイツの科学者が、欧州委員会の重要な科学委員会を辞任した。

 ウォルフグガング・デカントは、欧州連合の内分泌かく乱物質を規制する計画を批判した議論ある論説の著者18人の一人である。9月のEnvironmental Health Newsによる調査訳注1)が、デカントと他の16人は、化学物質、医薬品、化粧品、タバコ、農薬、バイオテクノロジー産業と協力関係にあったことを暴き出した。

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Toxicology Forum
Wolfgang Dekant
 ウルツブルグ大学の毒性学教授デカントは先月、欧州委員会の新規出現健康リスクに関する科学委員会を辞任した。この委員会は、抗菌耐性、生殖低下、及びナノ物質のような新規技術など、様々な話題に関して、EUの政策策定者に科学的意見を提供する。

 2000年以来欧州委員会に専門家として務めたデカントは、自分自身の意思で辞職したと述べた。彼の辞任の手紙の日付は9月6日であり、それは科学者たちの間で物議をかもした論説に署名した後のことであった。

 ”私の時間を厳しく制約する最近の多くの展開のために、私はこの仕事に貢献するための十分な時間を割くことができない”と彼は欧州委員会に書いた。”したがって私は委員会を直ちに辞任する”。

 デカントは、2013年3月以降、辞任を考えていたと電子メールで述べているが、その理由は、諮問委員会で働くことはルクセンブルグへの出張を余儀なくされ、”非常に長い意見/多くの会議に時間を要する”ということであった。

 委員(及び欧州委員会)は、私がとどまることを望んだ”と彼は述べた。

 欧州委員会の報道官フレデリック・ビンセントは、デカントが先月辞任したと確認すること以外はコメントすることを断った。しかしデカントの名前は、EHNの記事が発表されてから数日後まで、欧州委員会の諮問委員のリストから外されなかった。

 ”私は、デカントがなぜ辞任したのか知らない”と欧州議会のフランス選出議員であり、グリーン/FEAグループの副代表であるマイケル・リバシは述べた。”しかし私は、科学委員会のメンバーに求められる卓越していることの基準は、科学者は可能な限り独立しており、利害関係の開示のような最も基本的な科学的倫理の規則を尊敬することであると理解している”。

 EHNの調査(訳注1)は、デカントは欧州委員会が、エストロゲン(女性ホルモンの一種)、テストロゲン(男性ホルモンの一種)、及び甲状腺ホルモンのようなホルモン機能を阻害する物質である内分泌かく乱物質のために開発している政策によって規制を受けるであろう会社と長い間、関係を持っていたという長い歴史を持っていることを示している。

 そのような化学物質には、硬質プラスチックや食品缶づめの内面コーティングに使用される議論あるビスフェノールA、ビニルや香料中に見出されるフタル酸エステル類;家具の難燃剤、及び農薬などが含まれる。動物実験及びいくつかのヒト研究は、これらの化学物質を生殖障害、がん、神経系影響、及びその他の疾病と関連付けている。

 ヨーロッパは、日常的消費者製品に含まれるこれらの化学物質のいくつかを禁止する特定の政策を採択する世界で最初の地域になるであろう。ヨーロッパで製品を販売する世界中の会社は遵守しなくてはならないのでその利害関係は大きい。

 今年の初めに、全て科学誌の編集者であるデカントと他の17人の科学者らは、14の科学誌に発表された論説に署名した。彼らは、漏えいした欧州環境総局による提案草稿中に示される化学物質の規制への予防的アプローチを批判した。彼らは、この提案を”科学的に根拠がなく”、”常識、よく確立された科学、及びリスク評価を無視している”と呼んだ。

 この論説は、”欧州委員会による差し迫った決定に影響を与えるよう設計された介入として意図されているように見える”と反論の中で書いた産業との利害関係がないと宣言した41人を含んで、他の科学者たちの激怒を買った。別の104人の科学者と科学誌編集者は、その論説を”公衆衛生に対する”重大な仕打ちと呼んで”二番目の反論を書いた。

 この議論は、欧州委員会にとってふたつの問題に焦点を当てている。すなわち、内分泌かく乱化学物質にとって安全な濃度(訳注:閾値)というものがあるのかどうか決定すること、及び市場から排除されるべき農薬を特定するための基準を定義することである。

 論説に署名した科学者のうち、デカントは新たな戦略による規制を受けるであろう産業に最も強く関係をもっていたように見える。

 Toxicology Letters誌の編集長であるデカントは、2013年に欧州委員会の科学委員会に対して、彼は18のコンサルタント契約を会社と結んでいるとする利害関係の宣言をしたが、彼はその会社名は明かしていない。

 もうひとつの文書が、デカントがビスフェノールAの製造者を代表するポリカーボネート/BPA 世界グループ(Polycarbonate/BPA Global Group)−米国化学工業協会(American Chemistry Council)の一部、から金を受け取っていたことを示している。彼は、”ビスフェノールAへの曝露は一般集団に健康リスクをもたらさない”と結論付けた2008年のレビューのために金を支払われていた。同じ頃の2006年から2008年の期間、彼は欧州食品安全機関(EFSA)の科学委員会に仕えていたが、同委員会はEUの1日当たりのBPA耐容摂取量は安全であると報告した。

 デカントはまた、フタル酸エステル類の製造者を代表する欧州グループ(ECPI)のために2012年にフタル酸エステル類に関するレビューを、また臭素化難燃剤産業の世界的協会(EBFRIP)のために2010年に難燃剤 TBBPAに関するレビューを書いた。

 彼はまた、農薬の分解生成物に関する2010年の記事について、化学物質と農薬の製造者であるBASFの従業員及び私的コンサルタントとの共著者であり、また、3-(4-メチルベンジリデン)カンファーとUVフィルターに関する2006年のふたつの研究について、この化学物質の製造者であるMerckの従業員との共著者であった。

 BPA、フタル酸エステル類、TBBPA、3-(4-メチルベンジリデン)カンファー、及びいくつかの農薬は、EUの新たな政策の下に規制されるかもしれない内分泌かく乱物質である。

 2011年以来、デカントはまた、香料研究所(Research Institute for Fragrance Material)の科学諮問委員会のメンバーであったが、同研究所は 香料、洗剤、及び化粧品産業界の組織であり、そのメンバーには、BASF、ロレアル(L’Oreal)、ユニリーバ(Unilever)が含まれる。彼は、2007年にはドイツ自動車産業協会のアドバイザーであった。

 デカントの研究活動のあるものは、2006年以来ハネウェルのような私的後援者によって支援されている。2013年の研究について、彼は、アメリカのテトラヒドロフランの製造者のコンソーシアムであるテトラヒドロフラン・タスクフォース、欧州化学工業連盟(CEFIC)、及びトキシコロジー・フォーラムから金銭的支援を受けていた。

 デカントは2005年に、産業界圧力団体(industry lobby group)である国際ライフサイエンス研究所(ILSI Europe)と協力関係にあった。

 彼の産業界との結びつきについて問われたときにデカントは、”科学的議論を判断する時に判断ツールとして利益相反を考慮しない”と回答した。

   産業界を含んで複数の資金源から金を受け取ることは、今日、研究を行うためには”通常のこと”であるとデカントは述べた。”もし、全ての資金源からの金を求めに行かなくては、もはや研究などできない”。

 EHNの調査についてはここ訳注1)をお読みください。

 ステファン・ホーレル(Stephane Horel)は、利益相反と公衆の健康問題に及ぼす影響を調査するパリを拠点とするフリーランス・ジャーナリストであり、ドキュメンタリー作者である。彼女はヨーロッパで内分泌かく乱物質の規制についてのドキュメンタリーに関して活動している。

 質問やコメントは、EHN編集長 Marla Cone at mcone@ehn.org にどうぞ。


訳注0:議論ある論説
Scientifically unfounded precaution drives European Commission’s recommendations on EDC regulation, while defying common sense, well-established science and risk assessment principles

訳注1:EHNの調査
EHN 2013年9月23日 特別報告:EUの化学物質政策を批判する科学者らは産業界とつながりがある

訳注2:反論
Environmental Health 2013年8月27日 論評 内分泌かく乱物質に関して科学と政治を混ぜ合せてはならない:毒性学誌編集者らによる”常識的介入”への回答



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