内分泌学会 2017年4月2日
内分泌学会から欧州委員会委員長ユンケルへ及び
第一副委員長テインメルマンスへの
EDC 基準提案に関する書簡


情報源:Endocrine Society, April 2, 2017
Endocrine Society Letter to European Commission President Juncker and
First Vice President Timmermans Regarding EDC Criteria Proposal
https://www.endocrine.org/-/media/endosociety/files/advocacy-and-outreach/society-letters/
letter-from-the-endocrine-society-regarding-edc-criteria.pdf?la=en


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
掲載日:2017年5月7日
このページへのリンク
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/edc/Int/170402_Letter_
from_END_to_EC_on_Proposal_on_Identification_of_EDCs.html

ジャン=クロード・ユンケル、欧州委員会委員長
フランス・ティメルマンス、欧州委員会第一副委員長
2017年4月2日

親愛なるユンケル委員長及びティメルマンス第一副委員長、

 内分泌学会を代表して、私は欧州委員会の提案する内分泌かく乱物質(EDs)に関する基準についての我々の深刻な懸念を表明するためにこの書簡を書いています。現在策定されている基準は、多くのEDを同定することができず、欧州連合(EU)に関する EU 条約により求められている健康と環境の保護の高いレベルを確保することができないように見えます。さらに、その基準は内分泌系をかく乱するよう特別に設計された化学物質の適用除外を含んでいます。その結果、その基準は、より良い規制戦略に従う一貫性を欠き、効果的又は効率的ではないので、科学に基づいているとは言うことができず、また目的に適っているとみなすことはできません。

 2016年に設立された内分泌学会は、ホルモン系の研究とホルモン関連の病気を治療する世界最古で最大の組織です。120か国以上からの18,000 人以上の会員の中には、ホルモンと内分泌かく乱化学物質に関する世界的な専門家がいます。我々の研究者と医師は、生体医学研究を推進し、公衆の健康を改善したいという望みにより動機づけられています。

 現在の提案は、世界保健機関の ED の定義に大きく基づいていますが、その基準は、決定のための適切な信頼のレベルに到達するために追加的な科学的証拠が必要とされるかも知れないこれらの化学物質に対応するためのプロセスを統合していないので、公衆の健康を保護することに効果的ではないでしょう。その結果、多くの EDs は現在書かれている基準によっては、そのように同定されないかもしれません。潜在的な EDs に関する科学的知識の速度は急速に増大しています。2015年に発表された EDCs に関する内分泌学会の第二次科学的声明(訳注1)は、ピアレビューされた科学的文献の参照を 1,300以上含んでおり、その大部分はこの10年間に発表されたものです。

 私たちはまた、基準に抜け穴を追加することに強く反対します。現在書かれている基準は、内分泌系を干渉することにより効果をもたらす殺生物剤と農薬を除外するためのある免除を含んでいます。この適用除外は、科学に基づくと想定されている同定プロセスの文脈の中で恣意的です。したがって、その基準は、 EDCs であるように設計されているある化学物質は適用法令の文脈の中で EDCs と定義され得ないという点で異なる枠組みを作り出すことにより、一貫性が欠けることになります。

 内分泌学会は、当初の EDC ロードマップで示されたオプション3(訳注2)に沿っていないということに失望しています。このオプションは、効率的であり、効果的であり、そして発がん性の同定スキームと相乗効果を持つであろう EDCs の同定と一貫したシステムを作り出すことになるでしょう。現在の提案を考慮しつつ、私たちは欧州委員会に対して次のことにより、 EDCs の同定のための基準を改善するよう要請いたします。
  1. 内分泌系に作用するよう設計された殺生物剤と農薬のための適用除外を取り去ること。
  2. 既知の EDCs のためのカテゴリーを含む EDCs の科学に基づく定義を忠実に守ること。
  3. リスク・ベースにより基準を低下させることなく、ハザード・ベースによる同定を維持すること。
 私たちのコメントを検討いただき、ありがとうございます。もしご質問があれば、又は、内分泌学会の専門家と連絡を取りたいとお考えなら、科学政策副ディレクターであるジョセフ・ラクソ博士(jlaakso@endocrine.org)に連絡してください。

敬具

ヘンリー・クローネンベルク MD
内分泌学会会長


訳注1:内分泌かく乱化学物質に関する科学的声明(EDC-2)
内分泌学会プレスリリース 2015年9月28日 化学物質への曝露は糖尿病と肥満のリスク上昇に関連する

訳注2:オプション3 (参考)
EHP 2016年10月号掲載論文 【最終版】 欧州連合における内分泌かく乱物質を同定するための規制基準の策定に関連する科学的問題
(抜粋)
疑わしい EDs と内分泌活性物質(オプション3)

 オプション2での ED 定義に加えて、オプション3は、当該化学物質の証拠の強さを表現する二つの追加カテゴリー、”疑わしい内分泌かく乱物質”と”内分泌活性物質(EAS)”を提案している。

 ”疑わしい内分泌かく乱物質”は、ロードマップの中で、”人間、環境中に生息する動物種、又は実験的研究から得られた内分泌介在有害影響の証拠が幾分あるが、その証拠はその物質をカテゴリーTに入れるほど強くない”として定義されている(European Commission 2014)。この定義は、WHO/IPCS の可能性ある内分泌かく乱物質という定義に近い。(”内分泌系の機能を変更し、その結果、正常な生物、又はその子孫、又はその(部分)個体群に内分泌かく乱をもたらすことが予測される特性を持つ外因性化合物又は混合物”)(WHO/IPCS 2002)。

 ”内分泌活性物質”は、欧州委員会のロードマップの中で、”正常な生物中で内分泌かく乱介在の有害影響の可能性が幾分あり、その証拠はその物質をカテゴリーT[ED]又はU[疑わしいED]に入れるには十分な説得力がないような物質”(European Commission 2014)として定義されている。 我々は、”内分泌活性物質(endocrine-active substance)”という用語はこの証拠のレベルがより低いということを伝えないと信じる。(Table 2 の中で示される発がん性の分類と同様に ED[カテゴリーT]、推定される ED (presumed ED)、及び疑わしい ED(suspected ED のような階層構造の方がこの目的にはより適切であろう)。対照的に、内分泌活性物質は EFSA によって、”内分泌系に直接的に又は間接的に作用し、その結果、内分泌系、標的臓器、及び組織に影響をもたらすことができる物質”として定義されている(EFSA Scientific Committee 2013)。その用語は、”何らかの方法で内分泌系に作用するが、必ずしも有害影響をもたらさない全ての物質”を包含するために使用される。この定義は、その物質の作用様式(内分泌系の干渉)に関しては証拠があるが、有害影響の誘導に関しては証拠がないという概念を伝え、そのことは、内分泌活性物質という用語に即している。従って、我々は欧州委員会ロードマップでの定義の代わりに、EFSA の内分泌活性物質の定義を使用することを示唆する。



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