内分泌かく乱特性の決定のための科学的基準の詳細に関する基準の採択を怠ったことにより、欧州委員会は EU 法に違反した。
殺生物性製品は、人間又は動物の健康に有害な生物及び天然又は工業物質を害する生物と闘うために必要である。しかし、これらの製品はその本質的な特性及び関連する用途のために、人間、動物、及び環境に様々なリスクを引き起こすことができる。
EU 内で市場における殺生物性製品の自由な流通を改善し、一方、人間と動物の健康及び環境の高いレベルの保護を確保するために、EU 議会は、殺生物性製品の市場での入手と使用を可能とする規則 528/2012 を採択した[脚注1](訳注1:殺生物性製品規則 (BPR)。 以後、本訳では”その規則”と称する)。
脚注1:殺生物性製品の上市と使用を可能にすることに関する2012年5月22日の欧州議会及び理事会の規則(EU)528/2012 (OJ 2012 L 167, p. 1)
Regulation (EU) No 528/2012 of the European Parliament and of the Council of 22 May 2012 concerning the making available on the market and use of biocidal products (OJ 2012 L 167, p. 1).
その規則は、原則として承認されない活性成分を規定している。それは、今後確立されるべき基準に基づき、人間に有害かもしれない、又はこれらの特性を有していることが示されている内分泌かく乱特性を持っているとみなされる活性成分を含んでいる。
この規則については、遅くとも 2013年12月13日までに欧州委員会は内分泌かく乱特性の決定のための科学的基準の詳細に関して委任された法行為(delegated acts)(訳注2)を採択することになっていた。
スウェーデン政府は、2014年6月4日に一般裁判所(General Court)(訳注3)に提出した訴状により、欧州委員会がその規則の中で規定されている措置を採択しないことでその規則に違反したとすることの確認を求めつつ不作為の訴えを起こした。欧州連合の機能に関する条約(TFEU条約)第265条に規定されている不作為の訴訟の目的は、ある機関が法に従わずにルールを定めるのを抑制したということの確認を EU 法廷から得ることである。そのようなことはかなりまれなことである。
本日の判決で、一般裁判所は第一に、欧州委員会は内分泌かく乱特性の決定のための科学的基準の明細に関しては委任法令を採択する明確で的確で無条件の義務を有するということ、及びそれは 2013年12月13日までになされるべきであったことは、その規則の中で明白であることを見出した。それにもかかわらず、欧州委員会はそのような法令を採択しなかった。その規則は完全に明白であり、どのようなあいまいさもないのだから、その文脈又は目的に照らして、その義務を他に解釈する理由はない。
それに関して、一般裁判所は、その規則の採択後、議会は法的に拘束力のある文書で委任法令の採択のための期限を修正することも廃止することもしなかったということを付け加える。欧州委員会は議会がその期日を延期するために、その規則を修正することの提案もしていない。
次に、一般裁判所は、欧州委員会が 2013年夏に、提案していた科学的基準は科学に基づいておらず、それを実施すれば域内市場に影響を及ぼすであろうという理由で、批判の対象になっていたという事実に頼ることができないということを特筆する。その批判の存在は、欧州委員会がその規則に示されている 2013年12月13日以前に委任法令を採択する義務を負っているという事実と無関係である。
その規則は、議会により望まれた、殺生物性製品の上市と使用に関するルールの調和により域内市場の機能を改善することと、一方、人間と動物の健康及び環境の高いレベルで保護することとの間のバランスを反映している。議会により委任された権限の行使において、欧州委員会はそのバランスに疑問を呈することはできない。これらの状況の中で、その規則がまた域内市場の機能を改善することを求めているという事実は、どのような根拠があろうとも、それだけで、欧州委員が委任法令を採択するという明確で的確で無条件の義務に疑問を呈することはできず、あるいは欧州委員会が彼らの採択を控えるのを許すことはできない。
欧州委員会により言及されている、様々な可能性ある解決の影響を評価することを目指す影響分析の実行の必要性に関して、一般裁判所は、そのような影響分析を求める条項はその規則にないことが分かった。そのうえ、たとえ欧州委員会がそのような影響分析を実施すべきであったとしても、その規則に条項がないのだから、そのことは決して、これらの委任法令の採択のために規定された期限を順守するということを免れさせるものではない。
かくして一般裁判所は、内分泌かく乱特性の決定のための科学的基準の詳細に関する委任法令の採択を怠ったことにより、欧州委員会は規則 528/2012EU における義務を果たすことを怠ったと結論付ける。
備考:法の論点に限り、この決定の通知後2か月以内に一般裁判所(the General Court)の決定に対して司法裁判所(The Court of Justice)に控訴してもよい。
訳注1:殺生物性製品規則
訳注2:委任された法行為
訳注3:欧州連合司法裁判所
訳注:関連情報
訳注:近年のEUにおけるEDCsに関する動き
- 世界のEDC政策の動向
- 欧州連合司法裁判所 2015年12月16日 プレスリリー スェーデン対欧州委員会の訴訟判決
- HEAL 2015年11月18日/最新更新 2015年11月26日 EU における公判が欧州委員会のホルモンかく乱化学物質に関する遅れに光を当てる
- Food Packaging Forum 2015年11月9日 欧州連合の内分泌かく乱物質スクリーニングのための方法論
- Newswise 2015年6月1日 内分泌学会 内分泌かく乱物質の同定と評価に関して欧州委員会に語る
- ChemSec News 2015年6月1日 ケムセック REACH の下での ホルモンかく乱物質への行動を求める
2015年5月 ステファン・ホーレルと COE 有害な出来事:化学物質ロビーはどのようにホルモンかく乱化学物質への取組みを妨害したか
- norden news 2015年3月26日 北欧理事会 有害物質のない日々の環境を求める
- 内分泌学会 プレスリリース 2015年3月5日 内分泌かく乱化学物質の推定費用 EU で年間 1,500億ユーロを越える
- The Guardian 2015年2月2日 握りつぶされた EU 報告書: 数十億ポンドに値する農薬を禁止していたことになったであろう
- ChemSec News 2015年1月28日 加盟国及び欧州議会 EDC基準に関するスウェーデンの訴訟に参加
- EFSA Press Release 2015年1月21日 ビスフェノールA 暴露による消費者の健康リスクはない
- EDC Free Europe 2014年12月3日 ホルモンかく乱化学物質にノーと言おう!
- フランスのテレビで放映された新たな調査フィルム:Endocrination
- EurActiv 2014年7月2日 デンマーク政府 計画していたフタル酸エステル類の禁止を中止
- PAN-Europe 2014年6月18日 プレスリリース 内分泌かく乱基準 更新:どこにもたどり着かないロードマップ
- EurActiv 2014年6月11日 フランスが内分泌かく乱物質への迅速な行動を主張する
- Independent Science News 2014年5月26日 EU 安全機関は産業界のために迫りくる農薬禁止の逃げ道を企んでいることを見つかる
- Chemical Watch, 28 May 2014 Sweden sues EU Commission over EDC criteria delay - Environment minister seeks support from more governments
- EurActiv 2014年3月3日 内分泌かく乱物質に関する基準を発表するよう欧州委員会への圧力が高まる
- EurActiv 26 February 2014 Sweden to sue the Commission for delaying hormone-affecting criteria
(EurActiv 2014年2月26日 スウェーデン ホルモン影響基準の遅延について欧州委員会を提訴するかもしれない)
- January 23rd, 2014 S&Ds strongly criticise the Commission for delaying action on endocrine disruptors
(2014年1月23日 社会民主進歩同盟(S&Ds)内分泌かく乱物質に関する行動を遅らせる欧州委員会を強く批判)
- HEAL 2013年11月13日 プレスリリース 内分泌かく乱物質の規制の遅れは慢性疾患の防止と医療のための機会を無駄にする
- 2013年10月24日 欧州委員会 内分泌かく乱物質に関する専門家会議 議事録
- EHN 2013年10月15日 産業界とのつながりが深い科学者がEUの諮問委員会を辞任
- 2013年10月7日 スウェーデン及びデンマークの環境大臣から欧州委員会環境委員及び産業委員への内分泌かく乱化学物質に関する書簡
- 2012年10月2日 NGOs から欧州委員会ダリ委員及びポトチュニック委員への書簡
- EHN 2013年9月23日 特別報告:EUの化学物質政策を批判する科学者らは産業界とつながりがある
- Environmental Health 2013年8月27日 論評 内分泌かく乱物質に関して科学と政治を混ぜ合せてはならない: 毒性学誌編集者らによる”常識的介入”への回答
- 欧州労働組合研究所(ETUI) News 2013年6月26日 内分泌かく乱物質:パラダイムシフトを求める
- ラマツィーニ協会 プレスリリース 2013年6月13日 ラマツィーニ協会 内分泌かく乱化学物質(EDCs)と欧州連合における化学物質安全政策に関する公式見解を発表
- EurActiv 2013年5月24日 89人の科学者がホルモンかく乱化学物質に行動を起こすようEUに求めベルレモン宣言に署名
- 2013年3月27日 行動を求めるNGOs キャンペーン EDC フリー ホルモンかく乱化学物質をやめろ
- HEALプレスリリース 2013年3月13日 欧州議会の内分泌かく乱物質(EDCs)に関する採択は、健康を守ることの緊急性を伝えるものである
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