2015年5月 ステファン・ホーレルと
Corporate Europe Observatory (CEO)
有害な出来事
化学物質圧力団体はどのように
ホルモンかく乱化学物質への取組みを妨害したか

情報源:A Toxic Affair
How The Chemical Lobby Blocked Action on Hormone Disrupting Chemicals
May 2015
Published by: Stephane Horel and Corporate Europe Observatory (CEO)
Editing: Katharine Ainger, Design and illustrations: Ricardo Santos
http://corporateeurope.org/sites/default/files/toxic_lobby_edc.pdf

訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2015年5月30日
最新更新日:2015年7月15日(全訳)
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/edc/EU/2015_May_A_Toxic_Affair.html

内容

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 ▼エグゼクティブ・サマリー
 ▼序文
 ▼意思決定者と科学者
   ・ボックス1: 法規
   ・ボックス2: 内分泌かく乱物質とは何か?
   ・ボックス3: 会社側ロビーイストのごまかしと策略
   ・ボックス4: 誰がロビーイストか?
   ・ボックス5: 巨額の予算
   ・ボックス6: 回転ドア
   ・ボックス7: ビスフェノールAの議論ある問題
 ▼コルテンカンプ報告書への攻撃
 ▼EFSA の策略
   ・ボックス8: 製品防衛会社とは何か?
   ・浮上した二つの e メール
 ▼一方、EU 議会は
 ▼ロビーイング攻撃 第一ラウンド:影響評価
   ・ボックス9: 正確には、どの様な影響を評価をしようとしているのか?
   ・どのようにして化学物質ロビーはホルモンかく乱物質への行動を妨害したか
 ▼ロビーイング攻撃 第二ラウンド:環大西洋貿易投資協定(TTIP)
   ・ボックス10: 欧州委員会−産業界の共生:’規制協力’の促進
   ・ボックス11: ’健全な科学’という美辞麗句
 ▼懸念する科学者らは産業側の先棒か?
 ▼決定的な一撃
 ▼驚きの合意案
 ▼どこにも行きつかないロードマップ
   ・ボックス12: 米政府 パブリック・コンサルテーションに意見提出
 ▼委員長ユンケルによる仲間の解任
   ・ボックス13: さらに多くの声が産業側コーラスに加わる
 ▼アネックス1: 2013年3月〜7月 産業側ロビーの EDC に関する欧州委員会への書信の事例 ほとんどすべてが影響評価を求めている

 Corporate Europe Observatory (CEO) は、EU の政策策定において企業及びその圧力団体が享受する特権的アクセスと影響力を暴露するために活動する研究及びキャンペーン団体である。CEO は、企業権力の支配に対する代替を開発するために、ヨーロッパ内外の公益団体及び社会運動と連携して活動している。www.corporateeurope.org

 ステファン・ホーレル(Stephane Horel)は、パリを拠点とする独立系ジャーナリストである。彼女は環境及び公衆健康問題に関する企業の影響と利益相反を調査している。EU による内分泌かく乱物質の規制に関する彼女の記事のひとつは、 Laurel of the Columbia Journalism Review を受賞した。彼女はまた、フランス TV で放映されたドキュメンタリー(Endocrination - What's Up / France 5, 2014)(訳注1)を監督した。


 エグゼクティブ・サマリー
 内分泌かく乱物質は、プラスチックや化粧品から殺虫剤まで様々な日用品中に存在する化学物質である。生物のホルモン(内分泌)系と相互作用することができるので、それらは健康と環境への重大な影響を及ぼすことが疑われている。

 EU の法は、明確な期限の下に内分泌かく乱物質に行動を起こすことを求めている。これらの規則によれば、もしある化学物質が内分泌かく乱物質として特定されたなら、禁止がともなう。現在のアプローチは、リスク評価手順に従い評価され、それにより暴露の安全レベルが設定されるというものである。しかし、内分泌かく乱物質については、そのような’安全レベル’を設定することは不可能であろう。

 欧州委員会の環境総局は、’何が内分泌かく乱物質か’についての科学的基準を確立する任務を課せられていた。化学産業関係者は、ある内分泌かく乱化学物質(EDCs)の可能性ある禁止に対して戦闘準備をしていた。関与している主要な圧力団体(ロビー)は化学物質と農薬の業界団体(CEFIC と ECPA)であり、先頭に立つ企業は BASF と Bayer であった。しかし彼らは、様々な加盟国、欧州委員会内部および欧州議会内の関係者の中に味方を見つけていた。

 用いられた主なロビーイング戦術は、、EDCs に関する独立した科学を損ない信用を落とすことを企てて、欧州委員会内の他の総局に対して環境総局に反対するよう圧力をかける一方で、産業側自身の調査だけを’健全な科学’として促進し、産業界が被るとする経済的ダメージについてデマをとばし、EU 米国間の包括的貿易投資協定(TTIP)の交渉を新たな’貿易障壁’から防ぐためのテコとして使用することであった。

 2013年の早春まで環境総局は圧力に屈しなかったので、産業側ロビーは遅延戦略として影響評価(impact assessment)の要求に注力した。獰猛なロビーイング圧力は最高潮に達し、EDCs を特定するための科学的基準のための環境総局の提案が欧州委員会内の他の総局により最終的に拒否された。さらに、2013年7月に事務総長キャサリン・デイは、産業側が非常に望んでいた影響評価を命令した。

 この動きは、欧州委員会が EU の法により求められた科学的基準を示すための2013年12月という期限を守れないということを意味した。影響評価は途上であり決定プロセスはまだ進行中なので、EDCs を特定するための最終基準の提示は、最も早いシナリオの場合でも2017年であると予測される。

 この報告書は、EU の主要な公衆健康への取組みが、欧州委員会内関係者と連携した企業側圧力団体により、どのように効果的に妨害されたかについての物語である。それは、産業側が企業ロビーイングのいくつかの古典的戦術をどのようにうまく利用したかを示している。この報告書は、ある公務員らは、たとえ欧州連合の中で公衆健康を任務として雇用されていても、公衆の利益よりも企業の利益のために仕えているように見える。


 序文
 内分泌かく乱物質は、プラスチックや化粧品から殺虫剤まで様々な日用品中に存在する化学物質である。生物のホルモン(内分泌)系と相互作用することができるので、それらは健康と環境への重大な影響を及ぼすことが疑われている。内分泌かく乱化学物質(EDCs)への人間の暴露は、不妊、がん、肥満のような疾病に関連するとされている。この深刻な公衆健康問題の医療費は、EU だけでも年間 1,570億ユーロに達すると最近見積もられ[1](訳注2)、法律制定者らが措置を取り始めたので、産業界は、この EU 最大のロビーイング戦争のひとつのために動員をかけた。

 少なくとも 3つの EU の法律が明確な期限をもって内分泌かく乱物質に対して取るべき行動を要求している。2006年の化学物質規則(REACH)、2009年の農薬規則(1107/2009)、そして2012年の殺生物剤規則(528/2012)である。欧州委員会内部で、環境総局はこれらを主導する権限を委ねられていた。法的要求に則して、環境総局は独立系専門家によるひとつの調査を委託し、それは2012年に発表された。それに従うために、立法措置が取られる前に内分泌かく乱物質を定義するための科学的基準を定めるひとつの提案がなされた。ここまでは順調であった。

 内分泌かく乱物質にとられるどのような可能性ある措置も、自分たちの利益が侵されると考える多くの産業側関係者にとって不快の種であった。彼らは、規制におけるどのような取り組みにも反駁するために、EU 及びアメリカの両方で、個別の会社、ロビー連合、及びコンサルタントを動員した。これらのロビーは、大きな化学産業と、内分泌かく乱物質を疑われる化学物質の使用又は製造で大きな影響を受ける農薬やプラスチック製造者のようなもっと特定の業種の両方を代表していた。

 この会社側のキャンペーンでは多様なロビーイング戦術が用いられた。それらは経済的損失、EDCs の有害影響を指摘する科学的証拠の信用失墜、そして遅延を推し進めるための理由のデマをとばすというような古典的な戦術を含んでいる。

 EU は、アメリカとの自由貿易交渉、すなわち環大西洋貿易投資パートナーシップ(TTIP)又は環大西洋自由貿易協定(AFTA)とも呼ばれる産業界に好都合なプロジェクトを推進していたので、EDCs に関わる可能性のあるどのような規制をも万難を排して遅らせることが産業側にとって極めて重要なことである(訳注3)。この経済政策の主要な目標のひとつは、貿易を促進するために、EU とアメリカの規制の相違をなくすことである。従って、内分泌かく乱物質に対する EU の行動は、交渉における主要な取引材料となっている。

 この報告書は、公衆の健康と環境を直接的に危うくする EDCs への EU の取組みを止めさせるために、化学会社と彼らのロビー集団が、欧州委員会内部の関係者らと一緒になって、どの様に活動したかを検証するものである。


 意思決定者と科学者
 2009年、環境総局は、内分泌かく乱物質、略して EDCs の規制を任務とするリーダに指名された (参照:ボックス1 法規、及びボックス2 内分泌かく乱物質とは何か?)。その最初の取組みは、入札の後、内分泌かく乱物質の最新の科学に関する報告書の作成を委託することであった。ロンドンにあるブルネル大学のアンドレア・コルテンカンプ教授によって率いられた専門家グループによって作成された『内分泌かく乱物質の最先端の評価 (以後、コルテンカンプ報告書)』が2012年1月に発表された[2](訳注4)。

 コルテンカンプ報告書は、EDCs に関する科学の詳細なレビューであり、数百ページに及び、毒性学的及び疫学的研究に関する多くの最新の文献を分析し、EDCs の環境と人間への影響の証拠をくまなく調べたものである。著者らは、EDCs を規制するためのどのような試みも、ひとつの難しい課題、すなわち EDCs のための汎用的で直ぐに使用できる検出キットのようなものは存在しないという事実に直面するであろうと結論付けた。その理由は、ホルモン系は極めて複雑であり、EDCs は、ほとんど知られていない多くの異なる方法でそれを乗っ取る(ハイジャックする)ことができるからである。

 実際に、その報告書は、増大する EDCs についての知識と、EU が化学物質を規制する方法との間にある大きなギャップを特定した。彼らは、EU は EDCs を特定し、その影響を見つけ出すための適切なテスト手法を備えていないと主張した。従ってその報告書は、公衆の健康に対する大きな脅威をに対応するために、EDCs を特定し規制するためのいくつかの措置を勧告した。

 コルテンカンプ教授によりまとめられたように、EDCs を規制するためには3つの要素が必要である。

 1. 定義 (何を取り扱いたいのか?)
 2. テスト (EDC を特定するためのツールがあるか?)
 3. 基準 (規制の決定のためにテスト結果をどのように解釈するか?)[3

 これらを実現するために、環境総局は広範な政策開発の取組みに着手した。2010年に環境総局は、加盟国、各国規制当局、公立研究センター、そしてまた関連する他の総局(健康と消費者、研究、企業、雇用)、欧州食品安全機関(EFSA)、及び他の EU 組織からの40人以上の専門家からなる特別作業部会を立ち上げた。5つの’オブザーバー’席が産業側と NGOs のために用意された。加えて、環境総局は翌年、基準の開発に関する技術的助言を提供するための’専門家諮問部会’を創設した[4]。

 両方の部会内で、世界保健機関/国際化学物質安全性計画(WHO/IPCS)の定義を受け入れるとする合意が急速に出現した。その定義は、”内分泌かく乱物質は、内分泌系の機能を変更し、その結果、損なわれていない生物、又はその子孫、又はその(部分)集団に有害な健康影響を引き起こす外因性の物質又は混合物”である[5]。適切なこの定義により、注目は内分泌かく乱物質の特定基準に移り、それが戦場となって行った[6]。


ボックス1: 法規
 2009年の農薬規則は、 EDCs のために、’ハザードベースの(有害性に基づく)カットオフ基準’を確立した。その法律は EDCs を有害(ハザード)であるとみなすので、内分泌かく乱特性のある農薬は、EU 市場ではもはや認可されないであろう。この、’ハザードベースのアプローチ’は、ボックス2 で記述されているように、暴露の’安全’レベルを定義することを目指す従来のリスク評価手法を置きかえるものである。欧州委員会は、2013年12月14日より前に EDCs を特定するための科学的定義と基準を開発しなくてはならなかった。

 また、2006年の REACH 化学物質規則の条項で求められるように欧州委員会は、閾値を EDCs に設定することができるのかどうかを決定しなくてはならなかった。もし、閾値がなく、EDCs はどのような濃度であっても危険ならば、これらの化学物質は最終的には代替されるか又は禁止されなくてはならないであろう。一方、もし閾値が確かに存在し、EDCs はある濃度以下の条件では安全であるとみなされるなら、それらは市場に残されるであろう。この決定は2013年1月1日より前になされることになっていた[7]。

 化学産業ロビー集団は、農薬規則のハザードベース・アプローチに強く反対している。彼らは、EDCs は他のどのような化学物質と同様に現在のリスク評価を通じて規制できると主張している[8]。



ボックス2:  内分泌かく乱物質とは何か?
 内分泌かく乱化学物質(EDCs)は、哺乳類、魚類、カエル類、その他の生物種のホルモン系をかく乱することができる。それらの毒性は1990年代の初めに科学者らによって完全に認められたことで始まった。EDCs は、その作用が体の多くの機能に影響を及ぼすエストロゲン、テストステロン 又は甲状腺ホルモンのようなホルモンのレベルを擬態し、阻害し、又は変更する能力をもつ。生物の発達の初期段階におけるこれらの化学物質への暴露は、後になって初めて明らかになるであろう不可逆的な影響を引き起こすことができる[9]。EDCs は、前立腺がん、乳がん、精巣がん、不妊、性器形成異常、脳の発達、糖尿病、肥満などの多くの’現代’病の発病にある役割を果たす高い蓋然性がある。1,000近くの物質が現在までのところ潜在的な内分泌かく乱物質として特定されているが[10]、しかしその総計は倍かもしれない[11]。EDCs は、農薬、プラスチック、化粧品、絨毯、コンピユータ類、及び建築材のような広範に使用されている製品中に見出される。それらは、食物、空気、ダスト、川、海、野生生物、そして・・・私たちの体に入り込む。EDC のひとつの例であるビスフェノールA(BPA)は健康への懸念から、EUでは赤ちゃん用ほ乳瓶での使用がすでに禁止されている。

 2013年、ある重要な報告書が EDCs に行動を起こすことの緊急性を強調した。『内分泌かく乱化学物質の科学の現状』 が世界保健機関(WHO)と国連環境計画(UNEP)により共同で発表され(訳注5)、既に市場にある化学物質の大部分は潜在的な内分泌かく乱影響についてテストされたことがなく、国際的なテスト手法は既知の内分泌かく乱影響のあるものだけを確保しているに過ぎないということを強調した。EDCs は、”解決されるべき世界の脅威”であるとこの WHO/UNEP 報告書は結論付けている[12]。

 この報告書はまた、そのような化学物質への人と野生生物の両方の暴露は、増大する多くの暴露源に起因し、これらの物質の混合物−いわゆる複合影響(cocktail effect)−は、ひどく過小評価されている。報告書はこれらの影響は個々の化学物質のために確立される安全レベル以下でも起きるかもしれないということを強調した。

 化学物質が規制される時に(しかしそれらの多くは規制されていないが)、それらは使用の’安全レベル’が存在するという前提で評価される。閾値は、”無毒性量/no observed adverse effect level (NOAEL)”以下に設定されている。しかし、ある化学物質は、人々が暴露しても安全であるとする’安全レベル’又は閾値を持たないということが受け入れられている。発がん性、変異原性、及び生殖毒性化学物質(CMR)、そしてまた残留性、生物蓄積性、及び有毒性物質(PBTs)等の場合である。’安全’閾値の疑問は、EDCs に関する議論の核心である。今日、EDCs に関する科学の最も詳細なレビューのひとつであるコルテンカンプ教授により率いられたチームによる欧州委員会のための権威ある報告書によれば、現在我々が持っているツールはこれらの化学物質のための閾値を検出するのに適切ではない[13]。このことは、EDCs は”閾値なし”化学物質として規制されるべきであることを暗示している。

 コルテンカンプ報告書は、有害性、作用様式、効力、鉛毒性、特殊性、厳しさ、不可逆性、関連性のような、互いに補完しあうであろう基準のリストを勧告した。同報告書は、どの様な基準もカットオフ・フィルターとして分離して使用されるべきではないと述べた[14]。しかし2011年5月に、イギリス及びドイツの当局は、EDC 基準に関する立場を述べる共同提案を発表した[15]。EDC 規制の ”大きなビジネス影響” への懸念を隠すことなく、この二つの加盟国は、最も”強力な”EDCs だけを排除するカットオフ基準を主張した。この提案の背景にある考えは、コルテンカンプ教授の説明によれば、”最悪の犯人”を選び出し、残りの EDCs は規制しないですませるためのツールとして、この効力の基準(criterion of potency)を利用することである[16]。コルテンカンプ報告書は、そのような効力値は”大いに恣意的であり、科学的に正当ではない”と、明確に述べた。このことは、この二つの加盟国にとってまだ問題ではなかった。

 カットオフ基準として効力を含めることは実際に、かなりの数の農薬製品を禁止から救うことになる。従って、それは化学物質及び農薬産業側の重要なロビーイング要求になった。その後、この考えは、2012年10月に産業側のジャーナルに科学記事として発表された[17]。その記事は、 BASF, Bayer, Dow, 及び Syngenta をメンバーとして含む産業界科学組織である CETOC (欧州化学物質生態毒性・毒性センター )により後援された[18]。


ボックス3: 会社側ロビーイストのごまかしと策略
善玉を孤立させる
 通商総局、企業総局、及び事務総局のような欧州委員会の関係部門に働きかけて、環境総局に反対させる。

経済的損失というデマを飛ばす
 ロビーインググループは、EU 部門に彼らの分野に及ぼす経済的影響がいかに悪いかを伝えるために芝居がかった数字を作り出す。

プロのロビーイスト
 会社やロビー団体は、戦略の開発、当局や意思決定者との会議の斡旋等のために、ロビーイング専門コンサルタント会社(広告/広報会社とも呼ばれる)や法律会社を雇う。

科学を損なう
 コルテンカンプ報告書の批判者等を組織化し、資金援助をする。

遅らせと脱線させる
 産業側は、影響評価を求めることにより、十分に長い間、EDC 規制の議論を遅らせることを期待して時間を稼ぐことを目論んでいる。

EU 規制を損なうために”自由貿易”協定を利用する
 環大西洋貿易投資パートナーシップ(TTIP)交渉は、食品と環境の安全の規則をアメリカと合せることを目指しており、このことは多くの場合、EU の規則を緩和する結果となリ得る。

メッセージを繰り返すために’他の声’を動員する
 EDC 基準の攻撃を一斉に唱えるよう科学者、農民組織、その他を資金援助し、又は支援する。



ボックス4: 誰がロビーイストか?
 ブリュッセルは今日、世界における企業ロビーイングのワシントン DC に次ぐ、第二の首都である。推定2〜3万人のロビーイストたちが EU 街に住み、彼らの大部分は企業を代表している[19]。全ての大企業は自身のロビー事務所を持ち、内部のロビーイストを抱えている。

 しかし、内分泌かく乱物質基準についてのような組織化されたキャンペーンが、異なる分野を代表する産業組織;この場合は CEFIC (European Chemical Industry Council 欧州化学工業連盟) 及び二つの関連組織 ECPA (European Crop Protection Association 欧州作物保護協会) 及び PlasticsEurope(プラスチック製造業団体);及び Cosmetics Europe(化粧品製造業団体)を通じてしばしば行われる。ECPA の代表は Bayer のマーチン・ダウキンズである。CEFIC の推進部隊は、現役及び元 BASF 社員である。 PlasticEurope の代表パトリック・トーマスは、ビスフェノールAの主要な世界的製造者である Bayer MaterialScience AG の最高経営責任者(CEO)である。

 アメリカ産業界の権益はブリュッセルでよく発揮されている。ほとんどの農薬会社は、ECPA の姉妹組織である Croplife America (農薬製造業団体)のメンバーである。彼らの権益はまた、ブリュッセルを拠点とする広告会社 EPPA と密接に活動している American Chamber of Commerce (AmCham EU) アメリカ商工会議所により守られている。 専門化されたプロ集団(hired-gun)であるロビーイング専門コンサルタント会社(広告会社(PR)/広報会社(PA)とも呼ばれる)は、これらの企業の権益を守るために特定の仕事を請け負う。

 それから、ECETOC(European Centre for Ecotoxicology and Toxicology of Chemicals 欧州化学物質生態毒性・毒性センター)のような科学的議論及び公開討論でビジネス権益を促進させることを目的とする産業ロビーのプラットフォームもある。ECETOC は自身のウェブサイトで、”産業の資金を受けた専門的非営利シンクタンク”であると述べ、その目的は”化学物質リスク評価の質を強化することである”としている[20]。Bayer, BASF, Dow, DuPont 及び Syngenta は、多くの企業会員からなる ECETOC の一員である[21]。



ボックス5: 巨額の予算
 EU におけるロビーイングに関する信頼できる、高品質の情報は希薄である。 EU 透明性登録( European Transparency Register)は自主的なものであり、登録された情報はチェックされていない。同登録によれば、2012年には CEFIC の総予算は 4,000万ユーロ(約500億円)であり、そのうちロビーイングに 600万ユーロ(約8億円)”だけ”を使ったと報告した[22]。しかし、ブリュッセルで彼らの企業メンバーを守ることが、彼らの唯一の存在理由(raison d'etre)である。ECPA はロビーイングに年間 5〜10万ユーロ(約700〜1,400万円)を使うにすぎないと主張している[23]。彼らは、彼らのロビーイストが欧州委員会、欧州議会、又は EFSA のような機関に働きかけるのに費やす時間数に基づく給与合計、プラスいくらかの一般経費を勘定しているだけである。これらの自己申告の金額は真のロビーイングコストを表すものではない。



ボックス6: 回転ドア
 ロビー団体はしばしば、’回転ドア’という古典的な戦術を採用する;言い換えれば、政府内の仕事に携わっていた人々を雇用する。多くのロビーイストは欧州委員会の担当者、又は欧州議会の元議員、又は理事会の元職員である。従って、彼らは元の同僚に働きかけるのに都合がよい立場にあり、彼らはシステムが内部でどのように機能するのかを知っている。この回転ドアは、他の方向にも向きを変える。すなわち、産業内部から誰かが公的認可における主要な立場に転出する時である。

 農薬ロビーには多くの事例がある。ECPA の現在の職員を見れば:スチュアート・ラザーフォードは環境総局で、アガサ・ピエトラシウクは農薬に関して健康消費者保護総局(DG SANCO)でかつて働いており、一方、ジェス・ オフリン、ミカル・キシンスキー及びアナ・ガット・セレントニはすべて、元欧州議会議員の秘書である[24]。オフリンは、2014年の欧州選挙まで、英保守党の欧州議会議員(MEP)ジュリ・アーリングのために働いた[25]。CEFIC のロビーイストであるレナ・ペレニウスは以前、化学物質規則 REACH に関して環境総局で働いた[26]。ラルフ・バーブスターラーについては、彼は初めは BASF で働いていたが、次に(BASF が弱体化を図ろうと目論んだ) REACH に関して働くために欧州委員会に移った。その後、彼はドイツ省庁に職を得て、現在は再び BASF にロビーイストとして戻り、そこで彼は、内分泌かく乱物質として知られるフタル酸エステル類のような可塑剤に関して働いている[27]、[28]。

 アメリカでは、回転ドアの利用はもっと一般的である。責任政治センター(Centre for Responsive Politics)によれば、2013〜2014年の期間の CropLife America のロビーイストの半分以上は、以前に政府の仕事を得ていた[29]。



ボックス7: ビスフェノールAの議論ある問題
 化学物質ビスフェノールA(BPA)は、最もよく知られた内分泌かく乱化学物質の例である[30]。それは主に、飛散防止ポリカーボネートプラスチックを作るために使用され、これらの材料から漏れだすことが見出されている。EU では2011年から赤ちゃん用ほ乳瓶での使用が禁止されている[31]。しかしBPA は、食品や飲料の缶の内面、歯科充填剤、及び熱転写印字紙のような消費者製品中でまだ広く使用されている。フランス食品安全委員会(ANSES)は 2011年に、たとえEFSA によって許容される’安全’な用量より低いレベルの暴露であっても、BPAによる健康影響は動物実験で実証されており、人間でも疑いが持たれていると結論付けた[32]。EFSA は、2015年1月のBPAに関する最新のレビュー及び意見を含んで、これとは異なる結論を導き出しており、それは新たな批判を引き起こした。これに対して、フランス環境大臣セゴレーヌ・ロイアルは、この問題に関して産業側が圧力をかけていたことを公然と警告した[33]。



 コルテンカンプ報告書への攻撃

 コルテンカンプ報告書の結論は産業側を怒らせた。直ぐに攻撃が始まった。最初のものは、2012年5月にピアレビュー科学ジャーナルに発表された”批判”であった[34]。それは、アメリカの化学産業界のロビーイング組織である米国化学工業協会(ACC)により後援されていた。全ての著者5人は産業界のためにコンサルタントとして働き、そのうち2人は、産業界のために内分泌かく乱化学物質(ビスフェノールA)に関する研究を実施しており、その顧客にはバイエル社も含まれる[36]製品防衛会社(product-defence company)であるグラディアント社( Gradient Corp)に雇われていた[35]。
 もうひとつの産業側からの批判は ECETOC (欧州化学物質生態毒性・毒性センター)により、同じくアメリカを拠点とする製品防衛会社であるエクスポーネント(Exponen)に委託された[3738]。三番目の攻撃は、イギリス政府から来た。2012年7月、英環境食糧地域省(Defra)は、その有害物質諮問委員会(HSAC)からコルテンカンプ報告書の手法を批判する無署名の3頁に及ぶ”コメント”を発表した[39]。

 2012年中頃には、環境総局が産業側の希望を取り入れることに不本意であることが全く明らかになっていた。しかし、環境総局は、様々な圧力に直面していた。イギリスおよびドイツ政府から、産業側から、そしてそれだけでなく欧州委員会自身の内部からも・・・。


 EFSA の策略

 2012年10月1日、環境総局の立場を損なう驚くべき動きがあった。欧州食品安全機関(EFSA)は、欧州委員会により、”食物連鎖中に存在する可能性ある内分泌かく乱物質に関連する人の健康と環境リスク”に関する科学的見解を作成するよう命じられたと発表した[40]。このことは、内分泌かく乱物質のための科学的基準全体について EFSA に彼らの見解を採用する機会を与えることを意味する。

 EFSA への公式の権限委任は、健康消費者保護総局(DG SANCO)長官パオラ・テストーリコッジにより署名された[41]。環境総局にはその公式委任状は配布されず、数日たってから連絡があった[42]。この敵意ある行為をもって、健康消費者保護総局(DG SANCO)はEDC基準の開発の支配を引き継ぐために環境総局を外した。コルテンカンプ教授は、彼の同僚のある者は、”産業側とある加盟国により提案された効力ベースのカットオフ基準を EFSA が支持することを予想した”ということを打ち明けた[43]。

 EFSA は、EDCs に関する適確な科学的判定を下すのに最も適切な組織であったのか? EFSA の以前の ビスフェノールAに関する仕事は物議をもたらし、例えばフランス食品環境労働衛生安全庁(ANSES)によって批判された[44]。

 EFSA は作業を進め、EDCs に関する作業部会を立ち上げた。その直ぐ後で、あるメディア報道が内分泌かく乱物質に関する EFSA 作業部会の18加盟国のうち8か国が利益相反に関わっていることを示した。そのうち3か国は産業側ロビーグループである国際生命科学研究所(ILSI)と、1か国が CEFIC と、もう1か国がシンジェンタ(Syngenta)と結びついていた[45]。

 さらに、 EFSA 作業部会は、イギリスおよびドイツの政権により雇われた3人の専門家を含めたが、彼らはすでに効力基準論争(potency criteria debate)の時に産業界寄りの立場をとっていた。最終的に18人の専門家のうち4人だけが内分泌かく乱物質に関する実際の科学的研究を行った。人間の内分泌学の専門家は一人もいなかった。それでは、このEFSA作業部会は何を結論として提案したのか?


ボックス8: 製品防衛会社とは何か?
 製品防衛会社(Product defence companies)は、彼らの顧客の好みに合せて科学を適合させ、歪める大きなビジネスを行う会社である。これらの会社は、研究を行い、顧客の利益に適うデータを生成し、又は顧客の利益に反する研究を批判するために科学者を雇う。参考図書『疑いが彼らの製品である』(訳注6)の著者デービッド・マイケルズは、製品防衛会社について次のように述べている。”私は、製品防衛会社により発表された研究で、研究のスポンサーの必要と相反するものを見たことがない。その意図は、真の科学に疑いを投げかけることである”[47]。

 二つの eメールが浮上し、文書公開要求を通じて入手されたが、それは EFSA 作業部会の少なくとも一人のメンバーが、EDCs に関する EFSA の見解についてそれが発表される少し前に疑いを持ったことを強く示唆するものである。その eメールは、2013年2月19日にEDCsに関するひとつの権威ある報告書が世界保健機関と国連環境計画(UNEP)により発表されたという事実に関連する。

浮上した二つの e メール
 翌日送付された eメールの中で、この作業部会のメンバーは、彼(又は彼女)の同僚ら及び彼らの作業を監督する EFSA スタッフに、作業部会自身の作業品質について重大な懸念を述べた[48]:

”同僚の皆さん、
 生命は複雑です・・・。

 我々の今の報告書案を WHO-UNEP 報告書と比べるとばつが悪い気がします。 WHO-UNEP 報告書が[内分泌かく乱物質に]特有であるとして強調し、取り上げた問題を、我々は報告書の中で軽視し、あるいは避けようとさえしています。WHO-UNEP は、化学物質の在来のリスク評価手法は[内分泌かく乱物質を]評価するという目的にふさわしくないという結論を出しているのに(17頁)、我々は正に全く反対の結論に至ろうとしています・・・。

 彼らは、なぜ”閾値”が[内分泌かく乱物質に]適用できないのかを優雅に議論しています。しかし我々は、これらの問題に生ぬるい態度です。私は、(3月20日に予定されている)記者会見と利害関係者会議に出る必要がないのなら、また聴衆が WHO-UNEP 報告書を読んでいることを知りながら、今の EFSA [科学委員会]報告を発表したり、それを弁護したりする必要がないのなら、私は幸いです。率直に言って絶体絶命の境地です・・・。私は、我々の報告書を作り直すか、少なくともそれを大幅に修正する以外に道はないと思います。

 我々は、[内分泌かく乱物質]を特定するのための次のステップとして予防と制限を備えた素晴らしい WHO-UNEP 報告書を利用することができたはずです。しかし残念ながら我々はそれをせず、今、がたがたです”。


 これに対してEDC 作業部会を監督する EFSA 職員バーナード・ボッテクスは次のように回答した。

 我々の世俗からかけ離れた結論、そして不確実性、データの欠如、そして特定された手法を考慮すれば、防護するのは難しいかもしれない結論、すなわち[内分泌かく乱物質]は、ほとんどの他の化学物質と同じようにみなされ、リスク評価されるべきであると我々が説明している今の結論のオプション 2 と 3 を 再考することが[我々には必要である]。これらの新たな要因に基づく言い換えのために、何かよい提案があれば歓迎します”[49]。


  コメントを求められた時に EFSA は、これらの eメールは広範な科学的討議の中で取り交わされたものであり、したがって”隔絶されたものとしてみられるべきではない”と回答した。他の専門家らはこれとは反対の見解を表明したと EFSA は述べた。EFSA は、 WHO/UNEP 報告書の範囲は低用量影響のような問題に関しては”より深い議論の余地を許している”とし、EFSA は現在これらの影響についての新たな研究を委任したと付け加えた[50]。

 EFSA の見解は、2013年3月20日に最終的に発表された[51]。上記の eメールの不安にもかかわらず、ボッテクスが修正するよう提案した EFSA の見解の結びは最終的に変更されずそのままであった。EDCs は、”かくして人の健康と環境に懸念あるほとんどの他の物質のように扱うことができる、すなわち、ハザード評価だけでなく、リスク評価の対象となる”と、結論は述べた。この報告書の前段で説明したように、化学物質のハザード評価は、内分泌かく乱特性のような潜在的なハザード(有害性)を特定する。リスク評価は、’使用の安全レベル’の確立後に行うことができるが、このことが内分泌かく乱物質に本当に可能なのかどうか疑問である。

 EFSA はある程度、この問題をうまく避けようとした。すなわちその文言は EDCs がリスク評価の対象とすべきであるとは求めていない。そしてこれには好都合な理由がある。EU の農薬規制は EDCs について、リスク評価アプローチではなく、ハザードベースのアプローチを規定している。EU の機関である EFSA はおそらく、このヨーロッパの法律と矛盾するように見られることを望まなかったのであろう。

 EFSA の見解は、そのような矛盾やその他の問題ある部分を含んでいるが、それでも産業側の望む効力カットオフ基準(potency cut-off criterion)を提案したり推奨することはしていない。もし、EFSA に効力カットオフ基準を合法化してもらうことで、環境総局がそれを含めることを余儀なくさせることが健康消費者保護総局(DG SANCO)の意図であったなら、その目論みは結局失敗した。


 一方、EU 議会は

 内部分泌かく乱物質は欧州議会でもまた議論の対象になっていた。2012年4月に、スウェーデン社会主義民主党の欧州議会議員(MEP)アサ・ウェストランドに率いられて自発的な報告書の作成が開始された。(訳注7)。この報告書は環境総局によって既にとられている予防的アプローチを支持した。ウェストランドは、特に初めの頃に多くの電話や eメールを化学産業ロビーイストから受けたことを明らかにした。”産業側は、議論を混乱させ、最も有害な化学物質だけを廃止することに注意を向けようとした。しかし、最初に、何が最も有害な内分泌かく乱物質であるかということ知らなくてはならない”と彼女は述べた[52]。

 ウェストランドの仕事は、イギリス保守党の欧州議会議員(MEP)ジュリー・ガーリング(欧州保守改革派)により直接的に異議を唱えられた。ガーリングはイギリス保守党における農業界の代弁者である。彼女は、農薬や遺伝子組み換えのような問題については、その見解が産業側権益に有利であるということを隠そうとしない[5354]。

 2012年9月に、ガーリングは、’リスクベース政策策定に関する非公式作業部会’を立ち上げた。彼女のウェブサイトで、あまりに多くの決定が、”真のリスクに対する合理的で科学主導の検証と措置より、むしろ、認識される有害性(ハザード)への極めて過剰な反応”に基づいていることが懸念されると彼女は述べている[55]。

 この非公式な作業部会を代表して(他のメンバーがいるのかどうか不明)、彼女は、2013年1月22日に、内分泌かく乱物質に関するウェストランド報告に関連して、”リスク対ハザード” というタイトルの非公開のイベントを開催した。ガーリングは、欧州委員会委員長の主席科学諮問委員であるアン・グローバーにゲスト・スピーカとして招待する書簡を送った。彼女の書簡の中で、ガーリングはウェストランドの報告書を、”化学物質法の分野で政策決定がなされる時に、リスクがどのように無視されるかのよい事例”と呼んだ。彼女はこのイベントを、”リスクベースの政策策定を支持する人々と会うことができる機会”であるとして促進した[56]。ここでもう一度確認しておくが、”リスクベースの政策策定”とは、’使用の安全レベルはどのような化学物質についても確立することができる”というアプローチである。

 グローバーは、EFSA の科学戦略調整部長ヒューバート・デルイケル、及びバイエル社の毒性学者であり ECETOC 議長レミ・バースとともに、ゲストスピーカーとしての招待を受け入れた。グローバーに送付された”確定ゲストのリスト”は、誰が”リスクベースの政策策定の支持者” であるとガーリングに見られているかの明確な絵を与えるものである。そのリストは、ブリュッセルにおける多数の化学物質ロビー団体の代表者を含んでいた。CEFIC、ECPA、プラスチックヨーロッパ、欧州おもちゃ産業、バイエル、ECETOC、BASF、エクソンモービル、米国商工会議所(AmCham EU)、広告会社 Burson Marsteller。しかし環境又は公衆健康NGOは1団体も含まれていなかった。おまけに、ウェストランド自身さえも、イベントのタイトルに彼女の名前があったにもかかわらず、招待されなかった[57]。

 ウェストランドの報告書に関する環境委員会での投票の準備中に、議員(MEPs)ジュリー・ガーリングとミロスラフ・オウズキ (両議員とも欧州保守改革派 ECR) は共同でウェストランド報告に対する22項目の修正を挙げた。彼らの変更は、例えば予防原則を文言から外させ、古典的なリスク評価の促進で置きかえることを目指していた[58]。ウェストランドの報告書の文言を弱めるために同様な修正を挙げた議員(MEPs)は、 Oreste Rossi (from the right-wing and Eurosceptic Europe of Freedom and Democracy Group - EFD), Pilar Ayuso (from the also Conservative Group of the European People's Party - EPP), Cristina Gutierrez-Cortines (EPP) and Andres Perello Rodriguez (from the Socialists and Democrats Group - S&D)。

 それにもかかわらず、ウェストランドは議会において彼女の決議について大多数の支持をうまく確保し、2013年3月14日、EFSA の見解が発表される数日前に、採択された。それは予防原則が欧州委員会及び議会議員に内分泌かく乱物質の短期的及び長期的暴露を低減するために適切な措置をとるよう求めているということを明白に述べた。産業側、イギリスおよびドイツが言っていたこととは反対に、その決議はまた、”どの様な単一の基準も、内分泌かく乱物質のカットオフ又は特定のために決定的であると見なされるべきではない”ことを強調した。要するに効力基準は廃棄されるべきことを意味する。


 ロビーイング攻撃 第一ラウンド:影響評価
 2013年早春はひとつの転換点であった。EDCs は ”解決されるべき世界の脅威”と述べる WHO/UNEP の報告書が1月に発表された(訳注5)。環境総局により成し遂げられた仕事を支持するウェストランドにより主導された議会報告書があった。そしてコルテンカンプ報告書とEFSA の意見に基づいて環境総局専門家委員会は彼ら自身の最終報告書を発表した[59]。環境総局は、EDCs を特定する基準の提案を完成させることに着手した。

 化学産業界は、自分たちにはアガリ役がないことを悟った。最も効力の高い(強い)内分泌かく乱物質だけを禁止させるという戦略は失敗する運命にあるように見えた。彼らはおそれを感じ始め、妨害する方法を探していた。この場合は遅らせることである。ひとつの理想的なやり方は影響評価を要求することである。最低12カ月はかかるこの行政上の手順は、欧州委員会の政策提案の肯定的及び否定的影響を評価することを目的とする。歴史は、その結果は他の何よりも経済的利益に肩入れしやすくなることを示している(ボックス9:正確には、どの様な影響を評価をしようとしているのか? を参照)。これが有害ロビーが行おうと決めたことである。

 2013年春、産業側ロビーの影響評価キャンペーンはエンジンを全開した(例えばアネックスI を参照)。欧州委員会内の特別の標的は、 健康消費者保護総局(DG SANCO)、企業通商総局、そしてまた事務総局であった。目的:彼らの支持を取りつけ、環境総局の抵抗を孤立させること。もちろん、彼らは、EDCs 基準が彼ら自身の産業にとってどのような意味を持つのかに関して彼ら自身の大げさな数字を直ぐに示すであろう。それは全く、’狼が来た’と嘘をつき、今後の新たな環境又は公衆健康の立法によるコストを過大評価し、それが生み出す(金銭的及び非金銭的)便益は決して考慮しない古典的な戦略である[60]。

 2013年3月、農薬産業ロビー団体 ECPA は、内分泌かく乱物質のための基準案の経済的影響を評価する文書を作成した[61]。それは主に、2009年にイギリス政府により実施された影響評価に基づいており、いくつかの人騒がせな主張を含んでいた。それは、基準は”ヨーロッパで作物保護製品(訳注:農薬)の入手を著しく低減する”であろうと述べた。EDC 基準により影響を受ける製品の市場価値は、”30〜40億ユーロ(約4,000〜5,500億円)”に達するであろう。小麦、ジャガイモ、アブラナ、及びブドウのような主要作物の生産損出は、”年平均10〜20%になり、病害発生の年には最高50%の損出となるであろう”。さらに、基準はもちろん、”世界の取引”を著しく妨げるであろう。この重要なロビーイング文書は、その後欧州委員会担当者らに広く配布された。

 2013年6月、環境総局の提案は発表される前の最終段階に入った。最後の瞬間まで、産業側は圧力をかけるためにあらゆることを試みた。そのことの例証として、欧州委員会委員長の主席科学諮問委員であるアン・グローバーに会おうとした2013年5月末の 駐欧州米国商工会議所(AmchamEU)と EPPA (ロビーイング請負会社)による、ほとんどなりふり構わぬ所業がある。彼女は即座に断ったが、駐欧州米国商工会議所の環境委員会議長である EPPA のミグレーナ・ミホバは、”15分でもよいから”、”産業側の懸念を伝えたいので”と彼女に面会を懇願した[62]。


ボックス9: 正確には、どの様な影響を評価をしようとしているのか?

 たとえ影響評価が欧州委員会の取組みの”潜在的な経済的、社会的、及び環境的結果”を評価することが想定されていたとしても[63]、その結果は公衆健康や環境的側面より経済的側面に偏るように見えるが、その単純な理由は、後者は評価がより難しいということである。

 ”我々は、費用−便益分析、影響評価をした以前の取組みから、今後40〜50年間、生殖問題がない場合の社会が受ける便益に関する数値を決めることより、規制のコストに関する数値を決めることの方がはるかに容易なので、それらは一般的にひどく歪められることを知っている”と、欧州環境庁(EEA)の科学、政策、新たなに出現している問題に関する元・上席顧問であるデービッド・ギーは述べた[64]。産業側にとって都合のよいことには、影響評価は平均12〜15か月を要し、従ってそれは使い勝手のよい戦術として利用することができる。




 どのようにして化学物質ロビーはホルモンかく乱物質への行動を妨害したか
 2013年6月7日9時30分きっかりに全ての関連する欧州委員会総局は環境総局により、彼らのドラフト基準案に関してコメントするよう招聘された[65]。’内部調整会議’と呼ばれるこの会議は、運命を左右する分かれ道であった。しかし昼食時までに、そのドラフトは拒絶され、決裂した。

 その後に生じたことから、環境総局の提案は、間違いなく会議の前にすでに外部に漏れていたと想定することができる。正に同日の6月7日、午後 2時4分きっかりに、化学会社の巨人バイエルは、絞り込んだeメールを欧州委員会の最高レベルである事務総局に送付した。受信者はマリアン・クリングベイルとステファン・モサである。マリアン・クリングベイルは副事務総長であり、EU 影響評価の責任者であった。同郷の女性にドイツ語でメールを書いたバイエルは、イギリスの影響評価、及びアイルランド農業食料開発局、Teagasc による ”小麦の病害管理プログラムと生産に及ぼす不適切な内分泌かく乱の定義の影響について” と題する同様な報告書の両方を提唱した。”産業分野と農業分野に大きな影響を及ぼすにもかかわらず”、”欧州委員会は現在までのところ影響評価を実施することを拒絶している”とバイエルは不満を述べ、”従って我々は影響評価の実施のためにあなたに立ちあがっていただくよう要請する”と述べた[66]。

 数週間して、影響評価を支持するロビーイングはさらに強化された。

 欧州委員会は、影響評価の要求に屈するのであろうか? 最初に我々は、どの様な EDC 規制にも反対する化学産業側の二つのロビーイング経路、すなわちEU−アメリカ通商協議に目を向ける必要がある。


 ロビーイング攻撃 第二ラウンド:環大西洋貿易投資協定(TTIP)
 この間、産業側は、EDC 規制に反対するロビーに有利な、二番目の比類のない機会を与えられた。EU とUS(アメリカ)の環大西洋貿易投資協定(TTIP)、別名、環大西洋自由貿易協定(TAFTA)の協議である。TTIP の主要な目標のひとつは、貿易の流れに資するために、EU とアメリカの間の規制の相違を適確に制限することである。EDCs の規制は両経済圏の間の規則における重要な新たな相違となるであろう。従って、これらの協議は、EDC の問題からすっかり免れるための絶好の機会として産業側によってとらえられている(訳注3)。

 アメリカ側では、アメリカ化学工業協会(ACC)とクロップライフ・アメリカ(CLA)は、2012年末に米EPAの化学物質安全汚染防止局(OCSPP)に書簡を送り、その中で、彼らは、EU の EDC 基準は、”世界の通商に有害で大きな影響を及ぼすであろう”という、”重大な懸念”を持っていると述べた[67]。彼らは、アメリカのアプローチとはかなり異なる EU のアプローチ採用は、潜在的なアメリカ−EU 自由貿易協定が対応すべく設計されているある種の規制障壁をまさに設置することになると警告した。

 2013年3月、名前を隠したコンサルタントがアメリカの農薬ロビーグループ、クロップライフ・アメリカの代派遣者らのためにブリュッセルでいくつかの会議を組織した。欧州委員会事務総局のジャン・フェリエールに送られたeメールによれば、かれらの主な懸念は、 ”TTIP のための US-EU 協議の目的と整合性があるようには見えない”来たるべき EDCs 規制であった[68]。クロップライフ・アメリカの代表派遣者らは、すでに ECPA により企画されていた3月20日に事務総局で開催される会議に参加するよう招待された。

 彼らの要求は、クロップライフ・アメリカの意見書に明確に述べられていた[69]。

  • EU 規則ハザード・ベースのカットオフ基準 1107/2009 は US-EU 貿易に影響を及ぼすべきではない。
  • リスク評価を回避して、製品(訳注:農薬)の使用を規制するための EU による製品の一時停止、又は禁止は US-EU 貿易に影響を及ぼすべきではない。
  • もし EU が、リスク評価に基づくアプローチをとらずに、内分泌かく乱物質のために提案される新たな規制体制を求めるなら、アメリカ政府は、「衛生と植物防疫の措置に関する WTO 協定」 の権限を用いて自国を守るべきである。

ボックス10: 欧州委員会−産業界の共生:’規制協力’の促進

 もし産業側が彼ら自身によるロビーイングで十分に成果をあげられない場合には、通商総局がやさしく肘で押して彼らを助けるであろうことを示す証拠がある。2012年、通商総局は、当時実施されていた TTIP に関するパブリック・コメント(コンサルテーション)に関与するために、農薬ロビー・グループである ECPA に近づいた。ヨーロッパの農薬産業は”ビジネスのための枠組みを改善するという点で、我々が注目する重要な産業部門のひとつなので、あなた方の貢献、理想的にはあなた方のアメリカでのパートナーによる支援、を非常に歓迎する”と、通商総局は ECPA にeメールを送った[71]。数週間後に ECPA は、たとえば食品中の残留農薬の調和、及び’規制協力’の推進をもとめつつ、アメリカにおける姉妹組織であるクロップライフ・アメリカとともに応じた[72]。規制協力は、将来にわたって基準の相違を防ぐためのツールである。これは、健康と環境を守ることを目指すどのような立法にとっても、重要な新たな脅威である。

 そのすぐ後に、化学産業ロビー(CEFIC 及びアメリカ化学工業協会)は、EDCs のような新たに出現している問題を取り扱うために”共同科学諮問協議会”という非常によく似たアイディアを提案した[73]。

 2013年6月17日、ジョゼ・マヌエル・バローゾとバラック・オバマは、EU-US 貿易協定に関する協議の公式の立ち上げを発表した[74]。

 2013年の夏以来、EDCs に関するどのような規制行動にも反対するために TTIP を利用することを弱めなかった。しかし、通商総局は、欧州の人々に TTIP を売り込むのが難しくなってきた。通商総局担当官ジーンラク・デマーティは、 ”TTIP は既存の EU 化学物質法令を壊すようなものではないというメッセージを広めるために”もっと声だかな産業界の支援が必要であると CEFIC に嘆願した[75]。アメリカ政府は、産業側の代理としての役割りについてもっと率直である。米国通商代表部は、内分泌かく乱物質の規制を TTIP を通じて排除されるべき’貿易障壁’として、明示的に指弾した[76](訳注8)。産業側はまたしばしば、EU 規制は”健全な科学(sound science)に基づくべきである”ことを要求した。この旗印の表現は、タバコ産業により作り出された(ボックス11 参照)。


ボックス11: ’健全な科学’という美辞麗句

 1950年代のタバコから気候変動まで、産業側の製品の有害影響を示す科学的証拠に対して”疑念を作り出す”ための産業側の企みの長い歴史がある[78](訳注9)。このことを行うひとつの方法は、例えば、これらの有害影響の可能性ある他の原因を指摘する研究に資金提供をすることである。そして産業側は彼らの研究は’健全な科学(sound science)’であると主張する一方で、不都合な研究は’エセ科学(junk science)’、(他に用いられる表現として、’科学に基づかない’、あるいは ’証拠に基づかない’もある。)とレッテルをはる。

 TTIP の出現により、産業側は、オーウェル風の’健全な科学’という言葉を、予防原則を含んで、EU の食品安全システムを攻撃する場面に再利用している。例えば、 ECPA とクロップライフは、あたかも EU の農薬規制は科学に基づかないと言わんばかりに、”農薬規制のために統合された基盤として科学に基づくリスク評価を取り入れること”を要求している[79]。

 産業側の枠組みに参加している政治的名士の一人の例は、英国保守党の欧州議会議員ジュリー・ガーリングである。『自由貿易への脅威エセ科学』 と題するウォールストリート・ジャーナルでの意見記事の中で彼女は、TTIP の成功に対する最大の脅威は、EU における内分泌かく乱問題と予防原則の使用であると書いた。彼女は、EDCs (及び他の分類の化学物質)の人の健康への危害の証拠は、”せいぜい仮説であり、恐らく非現実的であり、間違いなく科学的に確立されていない”と述べた。内分泌かく乱物質という名は、”反化学物質活動家らにより着せられた汚名である”と続け、彼女は、ヨーロッパは健全な科学に基づく真実で既知の影響を評価するシステムに移行する必要があると結んだ[80]。

 しかし、アスベストから鉛、そしてタバコから農薬のあるものまで、有害物質に対処する政府の行動が数年間、ある場合には数十年間、産業側の科学を損なうロビーイングのために、遅延させられている。



 懸念する科学者らは産業側の先棒か?

 産業側ロビーイング攻撃は2013年6月にピークに達したが、この月にもうひとつの声が彼らの大合唱に加わった。

 2013年6月17日、ドイツの毒性学者ウォルフガング・デカント(Wolfgang Dekant)に率いられた56人の科学者らのグループは、バローゾ欧州委員会委員長の主席科学顧問アン・グローバーに、EDCs に関して環境総局によってなされた仕事を攻撃する書簡を送った[77]。”現在策定中の枠組みは、実質的によく確立され教えられている薬理学及び毒性学の原則の全てを無視している”と彼らは、どのような明確な文書をも示さずに断言した。この書簡は2013年7月5日にあるオンライン毒性学誌に彼らの論点を明らかにする論説(editorial)とともに発表されるまで、公開されなかった。『科学的に根拠のない予防が欧州委員会の EDC 規制に関する勧告を駆り立てる一方で、よく確立した科学及びリスク評価原則という常識を無視している』 と題する論説が、コンスタンツ大学の毒性学者ダニエル・ディエトリッヒ[81]に率いられた18人の編集者と共同編集者により署名された。その論説はその翌月には14の科学誌に掲載された。この様な手口は科学文献の歴史上、例を見ない手法であった。

 この極めて異常な書簡と論説のタイミングを考えて、EDCs への行動に反対する産業側の熱が高まっていることに人々は驚いた。2013年8月末に最初の反証が、41人の内分泌かく乱に関する主導的専門家により、 ”Environmental Health”誌に発表されたが(訳注10)、41人のうち4人は画期的な WHO/UNEP 2013年報告書に、2人はコルテンカンプ報告書に参加していた。”我々は、ディエトリッヒ論説は、内分泌かく乱化学物質に関する欧州委員会による差し迫った決定に影響を及ぼすよう企てられたひとつの干渉として意図されているように見えることを懸念している”と、彼らは書いた[82]。2番目の反証は、2週間ほど後に内分泌学会のジャーナルに発表され、こちらは 104人の科学者及びジャーナルの編集者らにより署名された。この論説は、”欧州委員会、毒性学の分野を含む科学、そして最も重要なことは公衆の健康に甚大な迷惑をかけている”と、彼らは結論付けた[83]。

 そのすぐ後に、環境健康ニュース(EHN)は、ディエトリッヒ論説に署名した18人の編集者のうち17人は化学物質、農薬、化粧品、医薬品、バイオテクノロジー、又はタバコ産業とさえと結びついていることを報告した(訳注11)。化学産業界に関する限り、米・化学工業協会(ACC)、欧州化学工業連盟(CEFIC)、欧州化学物質生態毒性・毒性センター(ECETOC)及び国際生命科学研究所(ILSI)とのつながりを特定できるであろう[84]。さらに、アン・グローバーへの書簡の原署名者56人のうち、少なくとも33人は産業側との結びつきがある[85]。ある者は産業側協会から研究資金を受け取っており、一方ある者は産業側のコンサルタント又は顧問として仕えている。

 注目すべきことは、主席科学顧問アン・グローバーに送付された書簡の署名者の中に 3人の科学者、すなわちダイアン・ベンフォード、ギゼラ・ デジャン、及びジョセフ・シュラッターがおり、彼らは、EDCs に関する 2012-2013 年の 欧州食品安全機関(EFSA)作業部会のメンバーでもあったということである。ベンフォード、デジャン及びシュラッターは 3人とも、商業分野との利益相反を持っていることが発見された科学者らの一部であった[86]。  環境総局の仕事をおとしめる書簡は急所を突いたように見える。EDC 基準を批判するその書簡を受けとってからわずか 3日後に、アン・グローバーは環境総局長カール・ファルケンベルクに覚書を送った。 彼女は、”毒性学の分野で非常に著名な多数の専門家”から書簡を受け取ったと、彼らを EDC 問題の権威として紹介しつつ、覚書に書いた。そして彼女は次のことの説明を求めた。どのように証拠はレビューされたのか? なぜ EFSA の意見は無視されたのか? EDC 規制は生体外(in vitro)テストだけに基づくであろうというのは本当か? その論調は好意的なものではなかった[87]。

 しかし最も重要なことは、彼女がその書簡の写しをバローゾの内閣と事務総局長キャサリン・デイに送ったことであす。環境総局により実施された科学的作業を問題にする正当な理由があるという印象を与えつつ、彼女は正念場で欧州委員会の上層部に非常ベルを鳴らした。


 決定的な一撃

 2013年7月2日、EDC 基準に関する決定プロセスは最終的に脱線させられた。事務総局長キャサリン・デイは、環境総局長カール・ファルケンベルクと健康消費者保護総局長(DG SANCO)パオラ・テストーリコッジに覚書を送り、EDC 基準に関して一緒に作業をするよう命じ、提案は”影響評価によって裏付けられるべきであり、それは基準とそれらの影響についての様々な選択肢に関するパブリック・コンサルテーション(コメント)に基づく”ことを要求した[88]。

 キャサリン・デイはさらに、”利害関係者らのコミュニティがもつ多岐にわたる見解、及び化学産業界と国際貿易の一部に及ぼす潜在的な影響のために、この問題は敏感である”と主張した。欧州委員会の様々な役務は、産業委託とイギリスの影響評価、及び TTIP に関わる警告により系統的に影響を受けていたので、化学産業と国際貿易のある部分に及ぼす潜在的な影響についての懸念は容易に説明がつく。しかし、”利害関係者らのコミュニティがもつ多岐にわたる見解”とは何か? 雑多な科学者の集まりを除いてどれが多岐にわたる見解なのか? 2週間早いアン・グローバーの介入によって誰の批判が重みと信用を与えられたのか?

 欧州委員会によって後に確認されたように、産業界のロビーイングと科学者らによる書簡は、実際にこの結果にとって決定的な要因であった[89]。

 影響評価を実施するというこの決定をもって、事務総局は環境総局のEDCに関する作業を妨害した。言うまでもなくプロセスは、議会により定められた2013年12月という期限があるにもかかわらず、期限のない遅延となった。産業側は、基準を弱める企てに必要な時間を稼ぐために、そして EU-US 貿易交渉で提案されている’自由貿易’、すなわち規制緩和から利益を得るために、うまくことを運んだ。EDCs の規制で損失を被るほとんどのビジネスはこれを祝ったであろう。

 2013年9月の初めに、EDC 基準に関して影響評価ををするという決定は最終的に公にされた。この問題を綿密に追っていた 8人の欧州議会議員のグループは、当時の欧州委員会委員長バローゾに書簡を送ってこれに反応した。”科学的基準は、政策的決定を伝えるためのツールである影響評価ではなく、客観的な科学的研究に基づくものであると人は予期していたので、この決定は驚きである”。言い換えれば、もしその目的が EDC とは何かという科学的定義を開発することなら、潜在的な経済的(又はその他の)影響は全く見当違いであるとして、議員らは次のように言及した。”発端から影響評価を実施するということは、科学を政策決定と混同し、ハザードをリスクと混同しているように見える”[90]。


 驚きの合意案

 それにもかかわらず、2013年10月24日、主席科学顧問アン・グローバーは、二つの’陣営’からの代表を彼女の事務所に招いて会議を開催した。グローバーへの書簡で環境総局の仕事を批判した陣営は、アラン・ブービス(Alan Boobis)、ウォルフガング・デカント(Wolfgang Dekant)、及びヘルムート・グライム(Helmut Greim)をそろえた。’EDC 科学者陣営’は、アンナマリア・アンダーソン(Anna Maria Andersson)、ウラー・ハース(Ulla Haas) 、及びアンドレアス・コルテンカンプ(Andreas Kortenkamp)(訳注:コルテンカンプ報告書の著者!)であった。この対決がその様な驚くべき結果をもたらすとは誰も予測しなかった。批判グループは、彼らの立場を根本的に変えた。彼らは、合意声明に署名することに同意したが、それは彼らの当初の宣言とは、とりわけ EDCs に安全閾値があるかどうかの問題に関し、矛盾するものであった。”閾値は存在しないということはあり得ることである”、そして”感受性の欠如のために全ての生物に実験だけにより閾値を定義することは不可能である”とその文書は述べていた[91]。

 11月23日、アン・グローバーは、環境総局、健康消費者保護総局(DG SANCO)、及び事務総局に、この科学会議の結末について連絡した。論争を終わりにするそのような劇的な180 度の転換は欧州委員会を粉砕し、影響評価を実施するための都合のよい言い訳を無効にすると人に思わせたかもしれない。しかし、そうはならなかった。

 欧州委員会は2009年の農薬規則により公式に規定された2013年12月までという期限を守らなかったし、新たなスケジュールも示さなかった。

 欧州議会の社会主義者グループ(S&D)の議員らは欧州委員会に対して、法的な期限は過ぎており、EDCs の科学的基準はすでに発表されていなくてはならないはずであったと注意を喚起した[92]。

 2014年3月25日、8人の欧州議会議員のグループが最終的に彼らの2013年10月のバローゾ宛の書簡への回答を受け取った。カール・フォルケンバーグ(環境総局)とパオラ・テストーリ コッジ(健康消費者保護総局)により署名されたその回答は、EDC 基準に関連する”ある産業分野への可能性ある潜在的な著しい影響についての懸念”だけでなく、”昨年夏から拡大している内分泌かく乱化学物質に関する科学界における活発な議論”をも理由に、影響評価を正当化した[93]。欧州委員会は再び、この議論はアン・グローバーの事務所で数か月前にすでに終息したという事実を無視する選択をした。

 人々が非常に動転させられたの欧州議会内だけではなかった。2014年3月に、スウェーデンは欧州委員会を”不作為”を理由に訴えた(訳注12)。


 どこにも行きつかないロードマップ

 産業側の誰も影響評価という用語に注意を向けなかった。環境総局と健康消費者保護総局(SANCO)は、影響評価の範囲を規定し、その中で評価されるべき政策オプションを示すであろう”ロードマップ”を設計する任務を与えられた。彼らは、研究、気候、農業、企業及び通商を含む欧州委員会中の部署から参加者を招聘し、2014年1月20日に影響評価運営グループの第1回会合を開催した[94]。

 農薬のロビー団体 ECPA は、誰が出席するかはもちろん、この会議についてよく知っていた。1週間前の1月13日、彼らは、影響評価に関する彼らの”提案”を健康消費者保護総局(SANCO)に送った[95]。数日後、 CEFIC も同じことをした[96]。

 ECPA と CEFIC は、明らかにほとんど同等の論旨を作成した。とりわけ、EDC 基準の影響の”意味のある評価”に到達するために、影響評価は十分に詳細であるべき、すなわち、予想される影響をそれぞれの農薬毎又は農薬のグループ毎に、そしてそれらの特定の用途毎に、分けて詳細に評価することを彼らは要求した。

 しかし、このことは、どの農薬を欧州委員会が内分泌かく乱物質であると疑っているか外部の世界に明確に示すことになるので、彼らは公衆には曖昧にさせておくことを”強く勧告した”。彼ら自身のことばを借りれば、”これは、内分泌かく乱性を疑われる物質の公的リストを生成するようなやり方で発表されるべきではない。過去の経験は、ある利害関係者らはその様なリストを”ブラックリスト”として使用するかもしれず、それにより不当な競争をもたらす可能性があることを示している”。

 2014年6月20日、環境総局と健康消費者保護総局(SANCO)の間の数か月にわたる厳しい交渉の後、ロードマップが最終的に発表された[96]。驚いたことに、環境総局の専門家グループにより2013年3月に排除されていた効力基準(potency criterion)が復活していたのだ! 次のステップはこの欠陥あるロードマップに関するパブリック・コンサルテーションであり、それは2014年9月29日から実施された[99]。


ボックス 12: 米政府 パブリック・コンサルテーションに意見提出

 米政府のパブリック・コンサルテーションへの意見提出は、”環境総局提案は科学的アプローチを取り入れなかった”とし、もしそれが採用されれば影響を受けたであろう EU の輸入額として産業側の見積もり金額 653 億ユーロ(そのうち 40 億ユーロ以上がアメリカの輸出)を引用しつつ、環境総局提案を切り捨てることにより、基準を緩いレベルに押しとどめようとした[100]。


 委員長ユンケルによる仲間の解任

 一方、2014年5月の選挙により、新たな議会と新たな委員が選出された。2014年9月10日、新たな欧州委員会委員長ジャンクロード・ユンケルは、新たな委員の名前と今後5年間の彼の優先事項を発表した。プレスリリースの最後に、欧州委員会内の業務の変更の詳細を示す長い表があった[101]。環境総局は EDC 基準に関する主導的立場を公式に解任され、 健康消費者保護総局(SANCO)が EDC 基準の責任部署となった。

 EDC 基準に関する影響評価は完了するまでに長い時間がかかるであろう。最も早いケースであっても、EDC 基準は、2016年後半以前には発表の準備ができないであろう。化学物質及び農薬産業のロビーイングは、二つの平行する進路に沿って衰えることはないであろう。EUプロセスの妨害(ボックス13参照)と TTIP 交渉である。

 しかし、両方の進路にはかすかな希望の光が見える。空前の動きとして、2015年1月、欧州議会と理事会は、EDCs 基準を確立することを怠ったとして欧州委員会に対するスウェーデンの訴訟を公式に支持することを決定した[104]。イギリスなどのわずかな棄権はあったが圧倒的な21加盟国は賛成票を投じた。TTIP 交渉は、批判的な世論と抵抗の増大により難航している。EU におけるこの重要な健康環境政策に関わる戦いはまだまだ続く。


ボックス13: さらに多くの声が産業側コーラスに加わる

 産業側ロビーイングのペテン’第三者の声’の多くの事例はブリュッセルで見られた。2015年1月、BASF の後援で開催された EDC に関する’科学政策朝食会’[102]で、エジンバラ大学の生殖健康学教授であり、アン・グローバーへの書簡の署名者の一人であるリチャード・シャープがプレゼンテーションを行った。このイベントは欧州議会議員ジャン・ハイテマ(オランダ自由民主国民党)により主催された。リチャード・シャープは、コルテンカンプとは違い、彼は EDC 安全閾値なし論者ではないと述べた。2月に、英国農民組合(NFU)(COPA-COGECAのメンバー)はイギリス農薬産業界とともに、ブリュッセルに乗り込んで”健康な収穫キャンペーン”を行った[103]。このキャンペーンの中心である農薬の”健全で科学に基づく規制のために”は、イギリスのコンサルタント会社アンダーソンズに委託した報告書に由来するものであり、もし内分泌かく乱物質の過度に予防的な定義の結果として農薬が市場から撤去されることになれば、イギリスの農業への影響は”はかり知れない”と、その報告書は結論付けている。ブリュッセルでは、ECPA と COPA-COGECA が欧州議会内で共同のイベントを開催した。二人の ECPA ロビーイストが NFU 及び COPA-COGECA のポーランドのメンバーから動員された。


アネックス1: 2013年3月〜7月 産業側ロビーの EDC に関する欧州委員会への書信の事例
ほとんどすべてが影響評価を求めている


月日 手段 発信 宛先
3月8日 ECPA 自身の影響評価を含むメール ECPA 環境、SANCO、企業、通商、共同研究センター
3月11日 ECPA 自身の影響評価を含むメール ECPA ヤネス・ポトチュニック環境総局長
3月14日 ECPA 自身の影響評価を含むメール BASF 企業総局
3月23日 ECPA 自身の影響評価を含むメール ECPA 事務総局
4月16日 ECPA 自身の影響評価を含むメール 企業総局
5月21日 書簡 COPA-COGECA 環境総局
5月29日 会議要求 AmCham、EPPA アン・グルーバー
6月6日 書簡 CEFIC ビョルン・ハンセン 環境総局
6月7日 ECPA 自身の影響評価を含むメール Bayer マリアン・クリングベイル 事務総局
6月7日 メール AmCham 企業総局
6月13日 会議 Bayer SANCO
6月19日 会議及びその後のメール ECPA 農業総局
6月20日 会議 ECPA ダンカン・ジョンストンン、ステファン・フューリング 事務総局
6月21日 ECPA 自身の影響評価を含むメール(産業側委託の3つの影響評価添付) ECPA 企業総局
6月21日 会議 ECPA と BASF アントニオ・タヤーニ企業総局長内閣メンバーのファブリジア・ベニニ
6月24日 書簡 ヒューバート・マンデェリ CEFIC会長 ヤネス・ポトチュニック環境総局長
6月25日 フォローアップ メール ECPA アントニオ・タヤーニ企業総局長内閣メンバーのファブリジア・ベニニ
6月26日 TTIP に関する会議 AmCham EU 企業総局、通商総局
ECPA 自身の影響評価を含むメール 通商総局
6月27日 ECPA 自身の影響評価を含むメール ECPA ダンカン・ジョンストンン、ステファン・フューリング 事務総局
7月11日 ECPA 自身の影響評価を含むメール Bayer SANCO


訳注

1. フランスのテレビで放映された新たな調査フィルム 『Endocrination』

2. 内分泌学会 プレスリリース 2015年3月5日 内分泌かく乱化学物質の推定費用 EU で年間 1,500億ユーロを越える

3. The Guardian 2015年1月7日 報告:大西洋横断貿易協定は有害農薬の使用を増やす/エリザベス・グロスマン

4. 2011年12月23日 欧州委員会 内分泌かく乱物質の最先端の評価

5. UNEP ニュースセンター 2013年2月19日 ヒトと野生生物のホルモンかく乱物質への曝露影響を画期的な国連報告書が検証

6. 米化学会 C&EN 2008年11月17日 不確実性を作り出だす:科学を操作し、規制政策に影響を与えるために産業側によって用いられる戦術を垣間見せる本

7. ChemSec News 2012年10月31日 欧州議会報告書(ドラフト):内分泌かく乱物質はSVHCsとして規制される必要がある

8. 米通商代表部 2014年 技術的貿易障壁に関する報告書からの抜粋  欧州委員会の内分泌かく乱物質の分類提案

9. 2005年8月18日 レイチェル・ニュース #824 産業界のやり方−疑念を作り出すことで政府の規制をやめさせる (その1)

10. Environmental Health 2013年8月27日 論評 内分泌かく乱物質に関して科学と政治を混ぜ合せてはならない: 毒性学誌編集者らによる”常識的介入”への回答

11. EHN 2013年9月23  特別報告:EUの化学物質政策を批判する科学者らは産業界とつながりがある/解説:ステファン・ホーレル及びブライアン・ビエンコスキー 環境健康ニュース(EHN)

12. スウェーデンの訴訟関連情報

原注

1 Endocrine Society. Estimated Costs of Endocrine-Disrupting Chemical Exposure Exceed Euro 150 Billion Annually in EU. 5 March 2015.
http://www.endocrine.org/news-room/current-press-releases/estimated-costs-of-endocrine-disrupting-chemical-exposure-exceed-150-billion-annually-in-eu

2 Kortenkamp A. Endocrine disrupters . Identification and criteria for regulation. EU conference on Endocrine Disrupters: Current challenges in science and policy. 11-12 June 2012.

3 Kortenkamp, op. cit.

4 Communication and Information Resource Centre for Administrations, Businesses and Citizens (CIRCABC) website. For documents on both groups, choose Category Environment / Endocrine Disruptors - Open session / Library . https://circabc.europa.eu/

5 International Programme on Chemical Safety - World Health Organization. Global Assessment of the State-of-the-Science of Endocrine Disrupters. 2002.

6 Regulation (EC) No 1107/2009 of the European Parliament and of the Council of 21 October 2009 concerning the placing of plant protection products on the market and repealing Council Directives 79/117/EEC and 91/414/EEC. http://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=celex%3A32009R1107

7 Regulation (EC) No 1907/2006 of the European Parliament and of the Council of 18 December 2006 concerning the Registration, Evaluation, Authorisation and Restriction of Chemicals (REACH). http://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX%3A32006R1907

8 CEFIC. Position paper on endocrine disruptors. 3 July 2012. http://www.cefic.org/Documents/PolicyCentre/Endocrine_disruptors_CeficPosition_July%202012.pdf

9 WHO/UNEP. State of the Science of Endocrine Disrupting Chemicals. 2012. http://www.who.int/ceh/publications/endocrine/en/

10 TEDX. List of Potential Endocrine disruptors. May 2015 http://endocrinedisruption.org/endocrine-disruption/tedx-list-of-potential-endocrine-disruptors/chemicalsearch?action=search&sall=1

11 Vinggaard A.M. et al. Screening of 397 chemicals and development of a quantitative structure-activity relationship model for androgen receptor antagonism. Chemical Research in Toxicology, Vol. 21, n°4, April 2008, p. 813-23, (DOI: 10.1021/tx7002382).

12 WHO/UNEP, op. cit.

13 Kortenkamp A, Martin, O, Faust M, Evans R, McKinlay R, Orton F, Rosivatz E. State of the art assessment of endocrine disrupters. 2012. DG Environment project contract number 070307/2009/550687/SER/D3.
http://ec.europa.eu/environment/endocrine/documents/
4_SOTA%20EDC%20Final%20Report%20V3%206%20Feb%2012.pdf


14 Kortenkamp, op. cit.

15 Joint DE . UK position paper. Regulatory definition of an endocrine disrupter in relation to potential threat to human health. Proposal applicable in the regulatory context of Plant Protection Products, Biocidial Products, and Chemicals targeted within REACH. 16 May 2011.
http://www.bfr.bund.de/cm/343/regulatory_definition_of_an_endocrine_disrupter
_in_relation_to_potential_threat_to_human_health.pdf


16 Horel S. Endoc(t)rinement (English title: Endocrination). What’s Up Films / France 5. 2014.

17 Bars et al. Risk assessment of endocrine active chemicals: Identifying chemicals of regulatory concern. Regulatory Toxicology and Pharmacology, 2012 Oct;64(1):143-54. http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0273230012001237

18 ECETOC website. Accessed May 2015. http://www.ecetoc.org/members-2

19 Dieter Plehwe. Measuring European relations of lobby power. AK Wien. February 2012. http://media.arbeiterkammer.at/wien/MWUG_Ausgabe_113_englisch.pdf

20 ECETOC website. Accessed March 2015. http://www.ecetoc.org/

21 ECETOC website. Accessed May 2015. http://www.ecetoc.org/members-2

22 CEFIC registration EU Transparency Register. As modified on 8 December 2014. http://ec.europa.eu/transparencyregister/public/consultation/displaylobbyist.do?id=64879142323-90

23 ECPA registration EU Transparency Register. As modified on 12 February 2015. http://ec.europa.eu/transparencyregister/public/consultation/displaylobbyist.do?id=0711626572-26&locale=en#en

24 ECPA website. Accessed 14 May 2015. http://www.ecpa.eu/page/staff

25 Website European Parliament. Version December 2013 accessed 14 May 2015 via Wayback Machine.
http://web.archive.org/web/20131211073443/http://www.europarl.europa.eu/meps/nl/
96956/JULIE_GIRLING_home.html

26 LinkedIn profile Lena Perenius. Accessed 14 May 2015. https://www.linkedin.com/pub/lena-perenius/11/188/193

27 Powerbase profile Ralf Burgstahler. Accessed 14 May 2015. http://powerbase.info/index.php/Ralf_Burgstahler

28 Speaker profiles on Plasticisers Conference website. Accessed 14 May 2015. http://www.plasticisers-conference.com/plasticisers2013/speakers

29 Centre for Responsive Politics . opensecrets.org. Profile of Croplife America for 2014 election cycle. https://www.opensecrets.org/orgs/summary.php?id=D000025187

30 European Environment Agency. Late lessons from early warnings II, chapter 10. 2013. http://www.eea.europa.eu/publications/late-lessons-2

31 European Commission, DG Health and Consumers. Health and Consumer Voice. March 2011 edition. http://ec.europa.eu/dgs/health_consumer/dyna/consumervoice/create_cv.cfm?cv_id=71620 A TOXIC AFFAIR

32 The ANSES 2011 reports on BPA, as well as later ones, can be found here: https://www.anses.fr/fr/content/bisph%C3%A9nol

33 AFP in Liberation Politique. Bisphenol A: Segolene Royal s’interroge sur le “poids des lobbys”. 21 January 2015. http://www.liberation.fr/politiques/2015/01/21/
bisphenol-a-segolene-royal-s-interroge-sur-le-poids-des-lobbies_1185726

34 Lorenz R. Rhomberg et al. A critique of the European Commission document, “State of the Art Assessment of Endocrine Disrupters”. 2012 Jul;42(6):465-73. doi: 10.3109/10408444.2012.690367.

35 Gradient Corp website. Product Safety. Endocrine Disrupting Chemicals. http://www.gradientcorp.com/endocrine-disrupting-chems.html

36 Chris Smith. Good Enough To Eat: Copper-based preservative also has risks. Seattle Post-Intelligencer. 14 April 2004.
http://www.seattlepi.com/lifestyle/homegarden/article/Good-Enough-To-Eat-Copper-based-
preservative-1142205.php

37 David Michaels. Doubt Is Their Product: How Industry’s Assault on Science Threatens Your Health, p. 48-49. Oxford University Press. 2008.

38 Exponent. Final Review and Comments on the Draft Report: State of the Art Assessment of Endocrine Disruptors Part 1 . Summary of the State of the Science. 18 May 2012 (published 8 October 2012).

39 Hazardous Substances Advisory Committee. Comments on Kortenkamp et al. (2012) “State Of The Art Assessment Of Endocrine Disrupters”. July 2012.

40 EFSA press release. Endocrine disrupters: EFSA to deliver scientific opinion in March 2013. 1 October 2012. http://www.efsa.europa.eu/en/press/news/121001a.htm

41 DG SANCO letter to EFSA. 1 August 2012.
http://www.chemsec.org/images/stories/2012/news/EC_Request_SC_EndocrineDisruptors_
Aug2012_60410.pdf

42 Horel S. Endoc(t)rinement (English title: Endocrination). What’s Up Films / France 5. 2014.

43 Ibid.

44 Foucart S. Nouvelle Bataille scientifique sur le Bisphenol A. Le Monde. 1 December 2011.
http://www.lemonde.fr/planete/article/2011/12/01/nouvelle-bataille-scientifique-
sur-le-bisphenol-a_1611875_3244.html

45 Horel S. Conflits d’interets a l’EFSA . saison 10. 11 December 2012. http://www.stephanehorel.fr/efsa/, covered in Le Monde: Benkimoun P. Foucart S. Le dernier groupe d’experts constitue par l’EFSA mis en cause pour des conflits d’interets. 13 December 2012.
http://www.lemonde.fr/planete/article/2012/12/13/le-dernier-groupe-d-experts-
constitue-par-l-efsa-mis-en-cause-pour-des-conflits-d-interets_1806161_3244.html

46 Michaels, op. cit.

47 David Case. Interview with David Michaels, author of the book ‘Doubt is their product’. February 2009.

48 All ids in the correspondence were redacted by EFSA, except for the EFSA staff. It is therefore difficult, if not impossible to trace back who wrote what. Email from member EFSA EDC working group to working group. 20 February 2013. Obtained by Stephane Horel through freedom of information request.
http://corporateeurope.org/sites/default/files/attachments/life_is_complicated_email.pdf

49 Email from Bernard Bottex to redacted recipients. 21 February 2013. Obtained by Stephane Horel through freedom of information request.
http://corporateeurope.org/sites/default/files/attachments/bernard_bottex_email.pdf

50 EFSA Press office. Reply to Stephane Horel. 13 February 2015.

51 EFSA Scientific Committee. Scientific Opinion on the hazard assessment of endocrine disrupters: Scientific criteria for identification of endocrine disrupters and appropriateness of existing test methods for assessing effects mediated by these substances on human health and the environment. 20 March 2013.
http://www.efsa.europa.eu/fr/efsajournal/pub/3132.htm

52 Personal communication with Asa Westlund. 23 September 2014.

53 Euractiv. MEP calls for parliamentary risk panel to tame green ‘scaremongering’. 12 June 2013.
http://www.euractiv.com/specialreport-risk-hazard-policy/mep-calls-parliamentary
-risk-pan-news-528494
54 Euractiv. MEPs, NGOs at odds over effect of Europe’s GMO stance on developing world. 27 February 2015.
http://www.euractiv.com/video/meps-ngos-odds-over-effect-europes-gmo-stance-
developing-world-312495

55 Julie Girling MEP. Girling to lead new drive for a more realistic approach to risk in EU regulation. 5 September 2012.
http://www.juliegirling.com/index.php/news/420-girling-to-lead-new-drive-
for-a-more-realistic-approach-to-risk-in-eu-regulation

56 Email from Julie Girling MEP to Chief Scientific Adviser to Barroso, Anne Glover. 27 November 2012. Obtained by Stephane Horel through freedom of information request.
http://www.asktheeu.org/en/request/662/response/2566/attach/7/
Annex%204%20to%20reply%20Horel%2030%20Aug2013.pdf

57 Personal communication with Asa Westlund. 23 September 2014.

58 European Parliament. Amendments to draft report Asa Westlund (PE496.297v03-00) Protection of public health from endocrine disrupters (2012/2066(INI)). 27 November 2012.
http://www.europarl.europa.eu/sides/getDoc.do?pubRef=-
%2F%2FEP%2F%2FNONSGML%2BCOMPARL%2BPE-500.605%2B01%2BDOC%2BPDF%2BV0%2F%2FEN

59 JRC Scientific and policy reports. Key scientific issues relevant to the identification and characterisation of endocrine disrupting substances. Report of the Endocrine disruptors Expert Advisory Group, p. 28. 2013.
https://ec.europa.eu/jrc/sites/default/files/lbna25919enn.pdf
How the chemical lobby blocked action on hormone disrupting chemicals

60 Chemsec. Cry Wolf - Predicted costs by industry in the face of new environmental legislations. January 2015.
http://www.chemsec.org/images/stories/publications/2015_Cry_Wolf.pdf

61 ECPA. Potential impact of current draft proposal for endocrine disruption criteria. March 2013.

62 Email exchange between Anne Glover’s office and AmchamEU/EPPA. 24-29 May. Obtained through freedom of information requests by Pesticide Action Network and CEO.
http://corporateeurope.org/sites/default/files/attachments/amcham_eppa_to_glover.pdf

63 European Commission. Impact Assessment. http://ec.europa.eu/smart-regulation/impact/index_en.htm

64 Horel S. Endoc(t)rinement (English title: Endocrination). What’s Up Films / France 5. 2014.

65 (The leaked draft was published by Environmental Health News). European Commission. Commission recommendation. Defining criteria for endocrine disrupters. 2013.
http://www.environmentalhealthnews.org/ehs/news/2013/pdf-links/2013.06.11%20EDC_
Recommendation%20Commission%20Draft.pdf

66 Email from Bayer to Marianne Klingbeil and Stefan Moser. 7 June 2013. In: Horel S. Petits arrangements bruxellois entre amis du bisphenol A. Terra Eco. 25 September 2014.
http://www.terraeco.net/Petits-arrangements-bruxellois,56628.html

67 American Chemistry Council (ACC) and CropLife America (CLA). Letter to the US Office of Chemical Safety and Pollution Prevention (OCSPP). 3 December 2012.
http://www.americanchemistry.com/Policy/Chemical-Safety/Endocrine-Disruption/
ACC-CropLife-America-Letter.pdf

68 Email exchange between consultant for Croplife America and American Chemistry Council, and Secretariat General officials. 12-16 March 2013. Obtained by Stephane Horel through freedom of information request.
http://www.asktheeu.org/en/request/660/response/2563/attach/9/A%206%20US%20INDUSTRY.pdf

69 CropLife America. Letter to Douglas Bell. Request for Comments Concerning Proposed Transatlantic Trade and Investment Agreement. 78FR 19566. April 1, 2013. Docket No. USTR-2013-0019. 10 May 2013.

70 European Commission, DG Enterprise. Minutes of meeting of DG Enterprise and DG Trade with AmChamEU on EDCs and TTIP. 2 July 2013. Obtained by Stephane Horel through freedom of information request.
http://www.asktheeu.org/en/request/646/response/2513/attach/4/AmCham.zip

71 Email from DG Trade to ECPA. 26 October 2012. Obtained by CEO through freedom of information request.
http://www.corporateeurope.org/sites/default/files/email-to-ecpa.pdf

72 American Chemical Council and CEFIC position paper sent to the Office of the US Trade Representative. 31 October 2012.
http://www.americanchemistry.com/Policy/Trade/ACC-Cefic-Joint-Letter-to-USTR-Re-Promoting-US-EU-Regulatory-Compatibility.pdf.
Croplife America and ECPA joint position paper on regulatory cooperation. 13 November 2012.
http://www.croplifeamerica.org/sites/default/files/node_documents/ECPA-
CLA%20comments%2020121114%20USTR-2012-0028.pdf

73 Meeting report between CEFIC and DG Trade with position paper by CEFIC and ACC. 11 December 2013. Obtained by CEO through freedom of information request.
http://corporateeurope.org/sites/default/files/attachments/cefic_and_
acc_meeting_with_dg_trade.pdf

74 Statement by President Barroso on the EU-US trade agreement with U.S. President Barack Obama, the President of the European Council Herman Van Rompuy and UK Prime Minister David Cameron. European Commission - SPEECH/13/544. 17 June 2013.
http://europa.eu/rapid/press-release_SPEECH-13-544_en.htm

75 Email DG Trade. 4 February 2014. Obtained by CEO through freedom of information request.
http://corporateeurope.org/sites/default/files/attachments/dg_trade_message_to_cefic.pdf

76 The Office of the United States Trade Representative (USTR). 2014 Report on Technical Barriers to Trade. April 2014.
http://www.ustr.gov/sites/default/files/2014%20TBT%20Report.pdf

77 Dekant, W. et al. Letter to Chief Scientific Adviser to Barroso. 17 June 2013. Obtained through freedom of information request by Stephane Horel
http://www.asktheeu.org/en/request/662/response/2566/attach/5
/Annex%202%20to%20reply%20Horel%2030%20Aug2013.pdf

78 Michaels, op. cit.

79 Croplife America and ECPA. Proposal on US-EU Regulatory Cooperation. 7 March 2014.
http://www.croplifeamerica.org/sites/default/files/ECPA-CLA%20TTIP%20Position%20-
%20Paper%2010-03-14.pdf

80 Julie Girling MEP. Opinion piece in the Wall Street Journal. 23 January 2014.
http://www.wsj.com/articles/SB10001424052702303947904579336611208924306

81 Dietrich et al. Scientifically unfounded precaution drives European Commission’s recommendations on EDC regulation, while defying common sense, well-established science and risk assessment principles. ALTEX 2013;30(3):381-5.
http://www.altex.ch/resources/open_letter.pdf

82 Bergman et al. Commentary in Environmental Health. Science and policy on endocrine disrupters must not be mixed: a reply to a “common sense” intervention by toxicology journal editors. 27 August 2013.
http://www.ehjournal.net/content/12/1/69

83 Gore AC et al. Policy Decisions on Endocrine Disrupters Should Be Based on Science Across Disciplines: A Response to Dietrich et al.Endocrinology. 154(11):3957-60. November 2013.
http://press.endocrine.org/doi/full/10.1210/en.2013-1854

84 Horel S. Bienkowski B. Special report: Scientists critical of EU chemical policy have industry ties. Environmental Health News. 23 September 2013.
http://www.environmentalhealthnews.org/ehs/news/2013/eu-conflict

85 Horel S. Endoc(t)rinement (English title: Endocrination). What’s Up Films / France 5. 2014.

86 See also: Stephane Horel. Conflicts of Interests at EFSA, Season 10. 11 December 2012.
http://www.stephanehorel.fr/wp-content/uploads/2012/12/Conflicts-of-interests-
at-EFSA.-Season-10%E2%80%9314.12.2012.pdf

87 Note from Anne Glover to DG Environment. 20 June 2013. In: Horel S. Petits arrangements bruxellois entre amis du bisphenol A. Terra Eco. 25 September 2014.
http://www.terraeco.net/Petits-arrangements-bruxellois,56628.html

88 Note from Secretary General to DG Environment and DG SANCO. 2 July 2013. In: Horel S. Petits arrangements bruxellois entre amis du bisphenol A. Terra Eco. 25 September 2014.
http://www.terraeco.net/Petits-arrangements-bruxellois,56628.html

89 The Parliament Magazine. DG Environment explains delegated acts on biocides. 14 October 2014.
https://www.theparliamentmagazine.eu/articles/eu-monitoring/dg-environment-
explains-delegated-acts-biocides

90 Letter by eight MEPs to the President of the European Commission Barroso on endocrine disruptors. 16 October 2013.
http://www.michele-rivasi.eu/au-parlement/lettre-au-president-de-la-commission-
europeenne-barroso-sur-les-perturbateurs-endocriniens/

91 Assistant to the Chief Scientific Adviser, European Commission. Minutes of the expert meeting on endocrine disruptors. 24 October 2013.
http://ec.europa.eu/commission_2010-2014/president/chief-scientific-adviser/
documents/minutes_endocrine_disruptors_meeting_241013_final.pdf

92 Note by DG Environment and DG SANCO. Invitation to first Impact Assessment Steering Group meeting to other DGs. 17 January 2014. Obtained by CEO through freedom of information request.

93 Letter from Karl Falkenberg and Paola Testori Coggi to MEPs. 25 March 2014. In: Horel S. Petits arrangements bruxellois entre amis du bisphenol A. Terra Eco. 25 September 2014.
http://www.terraeco.net/Petits-arrangements-bruxellois,56628.html

94 Note by DG Environment and DG SANCO. Invitation to first Impact Assessment Steering Group meeting to other DGs. No date visible. Obtained by CEO through freedom of information request.
http://corporateeurope.org/sites/default/files/attachments/dg_sanco_envi_
invitation_impact_assessment_steering_group_redacted.pdf

95 ECPA. ECPA paper on Commission impact assessment on criteria for endocrine disruptors. 10 January 2014. www.ecpa.eu/files/attachments/23112.docx

96 CEFIC. Paper on Commission impact assessment on criteria for endocrine disruptors. 16 January 2014. Obtained by CEO through freedom of information requests.
http://corporateeurope.org/sites/default/files/attachments/cefic_paper_
on_commission_ia_on_criteria_for_ed_redacted.pdf

97 DG Environment and DG SANCO. Roadmap “defining criteria for identifying Endocrine Disruptors in the context of the implementation of the Plant Protection Product Regulation and Biocidal Products Regulation”. June 2014.
http://ec.europa.eu/smart-regulation/impact/planned_ia/docs/2014_env_009_
endocrine_disruptors_en.pdf

98 JRC Scientific and policy reports, op. cit.

99 European Commission. Consultation on defining criteria for identifying Endocrine Disruptors in the context of the implementation of the Plant Protection Product Regulation and Biocidal Products Regulation
http://ec.europa.eu/dgs/health_consumer/dgs_consultations/food/consultation_
20150116_endocrine-disruptors_en.htm

100 US government submission to the Public Consultation on Defining Criteria for Identifying Endocrine Disruptors. 16 January 2015.
http://www.usda-eu.org/wp-content/uploads/2015/01/United-States-Submission-
Endocrine-Disrupters-2015-01-20.pdf

101 European Commission. The Juncker Commission: A strong and experienced team standing for change. IP/14/984. 10 September 2014.
http://europa.eu/rapid/press-release_IP-14-984_en.htm

102 Email invitation from office Jan Huitema MEP (ALDE). 17 December 2014.

103 NFU website. Organisations lobby Brussels for a Healthy Harvest. 5 February 2015.
http://www.nfuonline.com/sectors/crops/organisations-lobby-brussels-for-
a-healthy-harvest/

104 Paun C. EU Council joins EDCs legal action against Commission; Impact assessment on criteria options now expected ‘in 2016’. Chemical Watch. 29 January 2015.
https://chemicalwatch.com/22729/eu-council-joins-edcs-legal-action-
against-commission



化学物質問題市民研究会
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