HEAL 2015年11月18日/最新更新 2015年11月26日
EU における公判が
欧州委員会のホルモンかく乱化学物質に関する
遅れに光を当てる


情報源:Health and Environment Alliance (HEAL), 18 November 201
Last updated on 26 November 2015
EU court hearing puts spotlight on Commission delay over hormone disrupting chemicals
http://env-health.org/resources/press-releases/article/eu-court-hearing-puts-spotlight-on

訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2015年12月12日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/edc/EU/151118_EU_court_hearing_over_EDCs.html


【ブリュッセル、ルクセンブルグ】2015年11月18日−欧州委員会に対する重要な公判が昨日行われた[1]。ルクセンブルグにある欧州司法裁判所は、欧州委員会が内分泌かく乱化学物質(EDCs)とも呼ばれるホルモンかく乱化学物質に関する法的義務を果たしていないとするスウェーデンの申し立てについての公判を開いた[1]。スウェーデンの怒りは、欧州委員会が2013年末までにEDCsを特定するための基準を提示するという法的期限を守らなかったことにより、爆発した。この訴訟は、欧州連合における最上位の政治機関であるとみなされる各国政府からなる欧州理事会によって支持されている。欧州議会と3か国の政府が個別にスウェーデンを支援している。デンマーク、フランス、及びオランダである。

 公判を傍聴した健康環境連合( Health and Environment Alliance (HEAL))の上席政策顧問リゼッタ・バンブリエットは次のように述べた。

 ”EU の全ての政府と欧州議会が共同で欧州委員会を起訴すれば、欧州委員会が間違っているということが明確になる。これらの遅れは、ヨーロッパの人々を乳がんや前立腺がん、糖尿病と肥満、不妊、及び学習障害をもたらす化学物質に暴露させ続ける。我々は、欧州司法裁判所が欧州の人々の健康を保護するために欧州委員会に対してヨーロッパの法律に設定されている期限を順守することを求めるかどうか見守っている”。

 EDCs は、体内の極めて感受性の高いホルモン系を妨げる。研究が、EDCsは肥満、糖尿病及びがんを引き起こすことを示している[2]。たとえ微量のEDCsであっても胎児や幼児に特別のリスクをもたらす。人の暴露を低減するための政策が緊急に求められている[3]。(有害影響が最も高い可能性のある)選択された内分泌かく乱化学物質への暴露に起因するコストは欧州連合内で年間1,570億ユーロ(約20兆円)に達すると最近、見積もられた[4]。

   欧州委員会は現在、ひとつには化学産業界及び農薬産業界による集中的なロビーイング活動により圧力を受けて、影響評価を実施している[5]。これは、EDCsの定義のためのEU基準を早くても2017年まで遅らせると推定される。

ジャーナリストのための注記
  1. Case T-521/14, 4 July 2014 - Sweden v Commission
    http://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=uriserv:OJ.C_.2014.431.01.0028.02.ENG

    背景:欧州委員会は、殺生物剤規則の下にホルモンかく乱化学物質の特定のための科学的基準を2013年12月13日までに採択しなかった。2012年に採択された同法(殺生物剤規則)は、殺生物剤が内分泌かく乱特性を有するかどうか検証され、もしその特性が発見されたなら、ある場合を除いて、EU の市場から撤去されるべきことを求めている。同様に、農薬についてもっと厳格な法律が存在する。欧州委員会環境総局の基準案作業は、2013年春までによく進捗していたが、化学会社と農薬会社による強大なロビーイング活動の後、欧州委員会事務総局は基準に関する影響評価を実施すること、及びさらなる規制的調整を行うことが必要であると決定し、また新たな欧州委員会委員長ユンケルの下に、殺生物剤基準に関する作業を環境総局から取り上げて、健康総局に移した。

  2. 分泌学会は、2015年9月に内分泌化学物質に関する第二次科学的声明を発表したが、その中で、食物と消費者製品中に見いだされる内分泌かく乱化学物質(EDCs)への暴露は、肥満、糖尿病、及びがんを含む、ある慢性内分泌関連疾病に寄与していることは最早疑いないと述べている。内分泌学会は、内分泌に関する研究と内分泌学の臨床診療に専念する世界で最も古く、最も大きく、最も活発な組織である。その第二次科学的声明は下記からアクセスできる。
    http://press.endocrine.org/doi/10.1210/er.2015-1010
     内分泌学会の声明は、EDCs に関する1,300の研究のレビューを含んでおり、それらは、EDCs と肥満と糖尿病、女性の生殖、男性の生殖、女性のホルモン過敏ながん、前立腺がん、甲状腺、及び神経発達と神経内分泌系を含む健康問題との関連について、かつてない多くの証拠を示している。
    http://press.endocrine.org/doi/10.1210/er.2015-1093

  3. 界の125か国の団体を代表する 国際産婦人科連合(FIGO)は、2015年10月に開催された世界会議において、有害化学物質への暴露を防止するために さらなる努力をするよう求めた。”胎児期の環境化学物質への暴露と有害健康影響は生涯にわたり、生殖、妊娠、神経発達及びがんへの影響を含む。有害環境化学物質に関連する健康と経済への負荷は、毎年数百万人の死亡と数十億ドル(数千億円)のコストを超えている。・・・”
    http://www.ijgo.org/article/S0020-7292(15)00590-1/fulltext 及び
    http://www.figo.org/news/congress-news-global-ob-gyn-group-urges-
    greater-efforts-prevent-toxic-chemical-exposure-0015052


  4. Trasande L, Zoeller RT, Hass U, Kortenkamp A, Grandjean P, Myers JP, et al. Estimating burden and disease costs of exposure to endocrine-disrupting chemicals in the European Union. J Clin Endocrinol Metab 2015;100(4):1245-55.

  5. Corporate Europe, A Toxic Affair, How the chemical lobby blocked action on hormone disrupting chemicals
    http://corporateeurope.org/sites/default/files/toxic_lobby_edc.pdf

About the EU court of justice
http://europa.eu/about-eu/institutions-bodies/court-justice/index_en.htm#goto_7

連絡先:
Lisette van Vliet, Senior Policy Adviser, Health and Environment Alliance (HEAL), Email: lisette@env-health.org, Mob: +32 484 614 528
Genon K. Jensen, Executive Director, HEAL, Email: genon@env-health.org, Tel: +33 5 61 01 67 6
Diana Smith, Communications and Media Adviser, HEAL, Email diana@env-health.org, Mob: +33 6 33 04 2943

 HEAL は、環境がどのように欧州連合(EU)における健康に影響を及ぼすかに目を向けている主導的な非営利団体である。70以上の参加団体の支援の下に、HEAL は独立した専門性と証拠を様々な意思決定プロセスにもたらしている。我々の広範な協力関係は健康関連専門家、非営利保険組織、医師、看護師、がんとぜんそく関連団体、市民、女性団体、若者団体、環境NGOs、科学者及び公衆健康研究団体に及ぶ。参加団体は、各国及び地域の団体はもちろん、国際的な及びヨーロッパ全土の団体を含む。
ウェブサイト:www.env-health.org
Facebook and Twitter @HealthandEnv @EDCFree and @CHM_HEAL

 EDC-Free Europe 連合は、ヨーロッパおよびそれを超える地域の50以上の公益団体を代表する。その目的は、内分泌かく乱化学物質(EDCs)についての公衆の意識向上を図ることである。我々のキャンペーン連携相手は、労働組合、消費者、公衆健康及び健康管理専門家、がん防止唱道者、環境活動家、及び女性団体を含む。
ウェブサイト:www.edc-free-europe.org/
Twitter @EDCFree


訳注:近年のEUにおけるEDCsに関する動き

  1. 世界のEDC政策の動向

  2. HEAL 2015年11月18日/最新更新 2015年11月26日 EU における公判が欧州委員会のホルモンかく乱化学物質に関する遅れに光を当てる

  3. Food Packaging Forum 2015年11月9日 欧州連合の内分泌かく乱物質スクリーニングのための方法論

  4. ChemSec News 2015年6月1日 ケムセック REACH の下での ホルモンかく乱物質への行動を求める

  5. 2015年5月 ステファン・ホーレルと COE 有害な出来事:化学物質ロビーはどのようにホルモンかく乱化学物質への取組みを妨害したか
  6. norden news 2015年3月26日 北欧理事会 有害物質のない日々の環境を求める

  7. 内分泌学会 プレスリリース 2015年3月5日 内分泌かく乱化学物質の推定費用 EU で年間 1,500億ユーロを越える

  8. The Guardian 2015年2月2日 握りつぶされた EU 報告書: 数十億ポンドに値する農薬を禁止していたことになったであろう

  9. ChemSec News 2015年1月28日 加盟国及び欧州議会 EDC基準に関するスウェーデンの訴訟に参加

  10. EFSA Press Release 2015年1月21日 ビスフェノールA 暴露による消費者の健康リスクはない

  11. EDC Free Europe 2014年12月3日 ホルモンかく乱化学物質にノーと言おう!

  12. フランスのテレビで放映された新たな調査フィルム:Endocrination

  13. EurActiv 2014年7月2日 デンマーク政府 計画していたフタル酸エステル類の禁止を中止

  14. PAN-Europe 2014年6月18日 プレスリリース 内分泌かく乱基準 更新:どこにもたどり着かないロードマップ

  15. EurActiv 2014年6月11日 フランスが内分泌かく乱物質への迅速な行動を主張する

  16. Independent Science News 2014年5月26日 EU 安全機関は産業界のために迫りくる農薬禁止の逃げ道を企んでいることを見つかる

  17. Chemical Watch, 28 May 2014 Sweden sues EU Commission over EDC criteria delay - Environment minister seeks support from more governments

  18. EurActiv 2014年3月3日 内分泌かく乱物質に関する基準を発表するよう欧州委員会への圧力が高まる

  19. EurActiv 26 February 2014 Sweden to sue the Commission for delaying hormone-affecting criteria
    (EurActiv 2014年2月26日 スウェーデン ホルモン影響基準の遅延について欧州委員会を提訴するかもしれない)

  20. January 23rd, 2014 S&Ds strongly criticise the Commission for delaying action on endocrine disruptors
    (2014年1月23日 社会民主進歩同盟(S&Ds)内分泌かく乱物質に関する行動を遅らせる欧州委員会を強く批判)

  21. HEAL 2013年11月13日 プレスリリース 内分泌かく乱物質の規制の遅れは慢性疾患の防止と医療のための機会を無駄にする

  22. 2013年10月24日 欧州委員会  内分泌かく乱物質に関する専門家会議 議事録

  23. EHN 2013年10月15日 産業界とのつながりが深い科学者がEUの諮問委員会を辞任

  24. 2013年10月7日 スウェーデン及びデンマークの環境大臣から欧州委員会環境委員及び産業委員への内分泌かく乱化学物質に関する書簡

  25. 2012年10月2日 NGOs から欧州委員会ダリ委員及びポトチュニック委員への書簡

  26. EHN 2013年9月23日  特別報告:EUの化学物質政策を批判する科学者らは産業界とつながりがある

  27. Environmental Health 2013年8月27日 論評 内分泌かく乱物質に関して科学と政治を混ぜ合せてはならない: 毒性学誌編集者らによる”常識的介入”への回答

  28. 欧州労働組合研究所(ETUI) News 2013年6月26日  内分泌かく乱物質:パラダイムシフトを求める

  29. ラマツィーニ協会 プレスリリース 2013年6月13日 ラマツィーニ協会  内分泌かく乱化学物質(EDCs)と欧州連合における化学物質安全政策に関する公式見解を発表

  30. EurActiv 2013年5月24日 89人の科学者がホルモンかく乱化学物質に行動を起こすようEUに求めベルレモン宣言に署名

  31. 2013年3月27日 行動を求めるNGOs キャンペーン EDC フリー ホルモンかく乱化学物質をやめろ

  32. HEALプレスリリース 2013年3月13日  欧州議会の内分泌かく乱物質(EDCs)に関する採択は、健康を守ることの緊急性を伝えるものである



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