The Guardian 2015年1月7日
報告:大西洋横断貿易協定は
有害農薬の使用を増やす

エリザベス・グロスマン

情報源:The Guardian, 7 January 2015
Report: transatlantic trade agreement could increase toxic pesticide use
Elizabeth Grossman
http://www.theguardian.com/sustainable-business/2015/jan/07/
ttip-trade-agreement-pesticides-toxics-health-environment


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2015年1月9日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kaigai/kaigai_15/150107_transatlantic_trade_increase_pesticide.html


 水曜日(2015年1月7日)に CIEL (国際環境法センター)から発表される予定の新たな報告書 Lowest Common Denominator: EU-US trade deal threatens to lower standards of protection from toxic pesticides(pdf)によれば、国際貿易協定提案は米国とEUにおける有害農薬からの保護を後退させるおそれがある。

 閉ざされたドアの向こうで協議されている大西洋横断貿易協定の一部として、業界団体は貿易障壁を下げるという旗印の下に、米国と欧州連合の両方の農薬規制に影響を及ぼすであろう政策を勧告した。クロップライフアメリカ(Crop Life America)及び欧州作物保護協会(EPCA)により提唱されたその提案は、既にEU及び米国の個別の州で実施されているもっと厳格な農薬基準に比べて保護を弱めるであろうと、国際環境法センター(Ciel)は述べた。

 ”もし採用されれば、これらの勧告は労働者、消費者そして地域を保護するために極めて重要な農薬規制を妨げることになるであろう”と、同報告書の主著者エリカ・スミスは述べた。

 アメリカの有機食品ビジネスの推進者らは、そのような政策は彼らの製品の価値を危うくするであろうと信じている。2013年におけるアメリカの有機食品の販売額は、2012年より11%以上増加して351億ドル(約4兆2,000億円)であり、アメリカのEUへの農産物輸出の3倍近い価値である。

 個別のEU加盟国やアメリカの州はもちろんEUでも、この産業側の勧告は健康と環境を守る規制と基準を緩和するであろうとスミスは述べた。”規制の統合(regulatory convergence)”とか”規制の連携(regulatory convergence)”という口実は、最小の共通要素素を採用するための産業側のわけのわからない言葉であるとスミスは述べた。

 BASF, BayerCrop Science, Dow AgroSciences, DuPont Crop Protection, Monsanto and Syngenta Crop Protection を含む主要な農薬製造会社を代表する業界団体であるクロップライフアメリカ(Crop Life America)及び欧州作物保護協会(EPCA)は、この政策は貿易障壁を撤廃するか低減し、環大西洋貿易投資協定(TTIP)の目標を支える規制の連携を促進するのに役立つであろうと主張している。

 これらの業界団体は、 Ciel の分析によれば、現在EUで禁止されている82種の農薬の使用を許すことになるアメリカ式のリスク評価を採用するよう勧告している。それらの中には、発がん性物質、発達系有毒物質、そして内分泌かく乱性を疑われる物質がある。

 食品安全センターの国際ディレクターであるデビー・バーカーは、勧告されている政策のリスク評価ベース・アプローチは、”EU の農薬認可に向けての予防原則アプローチと正反対である”と述べた。リスクベース・アプローチの採用は、”現在EUで行われている農薬の安全防護に縮小均衡をもたらすであろう”と述べた。

 しかし、クロップライフアメリカ(Crop Life America)は、提案している政策は、”国際的貿易を促進し、雇用を創出し、社会と経済の活力を強化しつつ、消費者と環境の保護を最高のレベルで確保するであろう”と述べた。クロップライフアメリは、EU が提案する内分泌かく乱物質を制限するという政策は40億ドル(約4,8000億円)以上、又はアメリカのEUへの農業輸出の40%を妨げることになると言及した。

 さらに、産業側の提案は、食物中の許容残留農薬の最大レベルはアメリカで許されているレベルに合わせることを勧告している。Ciel 報告書によれば、ある場合には、それらのレベルは現在ヨーロッパで許されているレベルの数百倍になる。

 Ciel によれば、産業側の提案は、世界中のミツバチの個体数減少に関係していると考えられているネオニコチノイド農薬の使用に関するいくつかの加盟国政府とEUによる現在のモラトリアム (訳注1:2年間の暫定的使用禁止)を妨げることになる。

 不幸な花粉媒介者(ミツバチ)の健康はすでに世界中の農民に悪影響を及ぼしていると、農業貿易政策研究所の気候エネルギー・インシャイティブのディレクター、ジム・クラインシュミットは述べた。

 クロップライフアメリカ(Crop Life America)と欧州作物保護協会(EPCA)はまた、Ciel の言によれば、人々の健康保護とより安全な化学物質の開発を妨げることになる国際的な企業情報機密政策を求めている。そのような政策はまた、農薬を使用しない製品の確保を困難にすると、有機貿易協会の上席貿易顧問ロバート・アンダーソンは述べた。”もしそれが何かわからないなら、どのようにしてそれをテストするのか?”。

 そのように多くの既存の規制を変更する国際的な貿易協定は、”前代未聞”であると、報告書の共同著者であり、Cielの上席弁護士であるバシクット・トゥンジャクは述べた。

 ”この協定は、ある人々にとってもっと多くの製品をEUに売る機会であると主張する人々がいる”と米国議会下院議員チェリー・ピングリーは産業側の提案について述べた。しかし、彼女は言った。”それは農業ビジネスの巨人であり、有機製品、抗生物質を使用しない肉、非GMOラベル表示製品を売っている家族農家ではない”。

 米国議会歳出委員会及び農業歳出小委員会のメンバーであるピングリーは、この提案は”アメリカの消費者が望むものを購入する方法で示していることと正反対”であると、付け加えた。

   交渉は非公開なので、この提案が TTIP 交渉担当者らによって考慮されているのかどうか明らかではない。米国通商代表部も欧州委員会もそれが討議されたのかどうかとの問いに答えなかった。

 次回の TTIP 協議は、ブリュッセルで2月初旬に行なわれることが予定されている。

 エリザベス・グロスマンはフリーランスのジャーナリストであり、環境、科学、労働衛生およびその関連政策問題をカバーしている。


訳注1
EU、ネオニコチノイド系農薬 3 物質の暫定使用禁止措置を正式決定! 今年 12 月 1 日に発効――ハチの健康に配慮 (2013 年 5 月 24 日付 EU プレスリリースより抄訳)/アクト・ビヨンド・トラスト
 欧州委員会は 2013年5月23 日、ネオニコチノイド系農薬のうち 3 種の殺虫剤の暫定使用禁止措置の実施を決定した。3 つの農薬はクロチアニジン、イミダクロプリド、チアメトキサムで、ヨーロッパのハチの個体数に害を与えていることが特定されている。この法案は 2013年2月1日に発効し、遅くとも2年以内に見直される予定。ハチや花粉媒介者を引きつける植物や穀物の処理に使われている殺虫剤をターゲットにしたものである。



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