Independent Science News 2014年5月26日
EU 安全機関は産業界のために
迫りくる農薬禁止の逃げ道を
企んでいることを見つかる


情報源:Independent Science News May 26, 2014
EU Safety Institutions Caught Plotting an Industry "escape route" Around Looming Pesticide Ban
By Jonathan Latham, PhD
http://www.independentsciencenews.org/news/eu-safety-institutions-caught
-plotting-an-industry-escape-route-around-looming-pesticide-ban/


訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2014年5月31日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/edc/EU/140526_procedural_escape_route_
for_EU-wide_ban_on_endocrine_disrupting_pesticides.html


 最近、欧州農薬行動ネットワーク(PAN Europe)により新たに入手されたEU文書は、差し迫った全EUでの内分泌かく乱農薬の禁止から逃れるために、公衆の健康保護に責任がある欧州委員会(EC)健康消費者保護総局(DG SANCO)が手続き上の”抜け道”を作り出そうと試みていることを明らかにした。内分泌かく乱化学物質(EDCs)は、非常に低用量でホルモン制御に変更をもたらし、がんや出生障害はもとより、行動、生殖、性(gender)に影響を及ぼす化学物質である。

 2009年、欧州連合の当時の新たな化学物質REACH規則の下に、ヨーロッパ全土での内分泌かく乱農薬の禁止が合意された。欧州委員会(EC)は、公衆の安全を守るために様々な措置をとる責任があった。それらには、内分泌かく乱影響とは何かを公式に定義すること、及び容認できる化学物質検出手法を選定することが含まれていた。
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欧州委員会委員長
ジーン・マヌエル・バローソ

 しかし、必要な安全ガイダンスを提供する代わりに、EUの健康当局(DG SANCO)は、内分泌かく乱物質禁止からの手続き的”逃げ道”の草案作りをしているらしい。この合法的策略は、いくつかのEU加盟国と欧州食品安全委員会(EFSA:欧州委員会のために食品リスクを評価するために創設された独立EU機関)の協力の下に密室で策定されている。

 欧州農薬行動ネットワーク(PAN Europe)により最初に暴露された通り、これはもともとの民主的な任務を放棄するものであるとみなすスウェーデンだけがこの逃げ道に反対している。エージェンス・フランス・プレス(AFP)の報告書によれば、スウェーデンは現在、内分泌かく乱はすでに有害影響を受けているとする多くの証拠のために、EUを提訴しようとしている(訳注1)。AFPは、スウェーデン環境大臣レナ・エクの言葉を次のように引用している。

 ”スウェーデンのある場所では、両性を備えた魚が見出されている。このことがどのように若い少年や少女の生殖力に影響を及ぼすかについての、そしてその他の深刻な影響についての科学的報告書がある”。

   欧州農薬行動ネットワークが入手した文書は、禁止に抵抗するロビーイング活動は欧州食品安全委員会(EFSA)により主導された。このことは、公衆の健康を守るという EFSA と DG SANCO の使命に真っ向から矛盾する。

 この危機は、合成化学物質のあるものは、従来とは異なる(すなわちホルモン的)毒性学的経路を通じて、人と野生生物にすでに発達障害とがんを引き起こしていることを示す多くの独立的な学問研究の対象となっているために、生じている。禁止させようとしているのはこの証拠のためである。証拠の強さと低用量の関与のために(Vandenberg et al 2012)(訳注2)、公衆を守るために厳格で効果的な規則を実施するには、一般的に使用されている産業用、農業用、及び家庭用化学物質の広な禁止と制限ということになる。このことが、化学産業界からの圧力に欧州委員会は屈しているとスェーデン環境大臣が述べているとAFPが報告したひとつの理由である。

 ブリュッセルに拠点を置くNGOsへの独立系コンサルタントであるトニー・ツウィーデールは、産業界の圧力にはもうひとつの理由があると Independent Science News に説明した。

   ”ホルモンがしばしば非常に低用量でかく乱されるということは、例えば非感受性テスト(insensitive tests)に基づく産業界の数十年間にわたるリスク評価の総合的管理を覆す恐れがある”。

 昨年12月の期限に安全基準を示さなかったDG SANCO と EFSA はその代り、潜在的な規制の経済的影響評価を実施することを選んだ。現在この経済影響評価はそれ自身9か月遅れている。スウェーデンとその他の国は、これらの遅延は集団的に合意された行動を遅らせるものであると解釈している。

 スウェーデンの提訴が発表される前に、スウェーデンはすでにその懸念をDG SANCO宛の書簡の中で欧州委員会に表明していた(PAN Europe のウェブサイトに発表されている)。これらの書簡は、スウェーデンが信じるには、DG SANCO が規則に従って着手しないのは意図的であり、その代り、非合法的な逃げ道条項の草案に焦点を合わせていることを明らかにしている。このことは、スウェーデンが信じるには、内分泌かく乱物質かもしれない農薬の一般的な特例/法の部分的又は暫定的停止(a general derogation)という形をとるらしい(脚注1)。それは、禁止されるはずであった農薬を禁止から免除することを事実上許すという法律用語である(脚注2)。

 欧州委員会を提訴するというスウェーデンの発表と時を同じくして、欧州農薬行動ネットワークは EFSA 科学委員会(新たな科学的基準の作成を支援している)のひとりの代表からの書簡を明らかにした。ジーン・マヌエル・バローソ欧州委員の諮問委員会に宛てたこの手紙の中で、EFSA 担当官は、EFSA の常勤科学顧問らは 禁止に反対しており、それを骨抜きにするために従来のリスク評価を用いることを目指していると述べている。従来のリスク評価手法は農薬産業界により支持されているアプローチである。

 またその書簡の中で、EFSA 科学顧問は、農薬立法には内分泌かく乱農薬を禁止から救うための”管理ルート”又は”社会経済的ルート”がないと不平を述べた。その匿名の著者は、既存の”無視できる暴露”オプション((EC 1107/2009, Annex II, 3.6.5)が、そのような農薬を市場に残すために利用できることを示唆している。スウェーデンにより反対されているこの”無視できる暴露”オプションの使用は、”無視できる暴露”はよく定義されていないので、内分泌かく乱化学物質の使用のための一般的な特例(すなわち法の部分的又は暫定的停止)となる危険性があるとスウェーデンは信じている。

PAN ヨーロッパの見解

 ”一方的にルールを変えることでDG SANCO はEU議会を排除し、人々と環境を保護するという彼ら自身の使命に反して経済的利益を選ぼうとしている”。

 生物科学資源往路ジェクトの科学ディレクターであるアリソン・ウイルソンは次のように結論付けた。

 ”公衆は、彼らを守ることが任務である機関が秘密裏にその任務に反することをしているの知って、驚かされ、ぞっとするであろう。EFSA は信用できないということを示しており、解散させられるべきである。安全に有害物質を規制することができる機関を設立することに失敗したのはEUだけではないのだから、深い再考が必要であるように見える。おそらく我々は、合成化学物質及び高いリスクのある製品に依存することを問い直すことが賢いであろう(脚注3)”。

脚注
脚注1 A derogation is a partial or temporal suspension of a law.
脚注2 The list of pesticides Sweden thinks likely to be banned can be found here.
脚注3 See: Robinson C., Holland N., Leloup D., Muilerman H. (2013) Conflicts of interest at the European Food Safety Authority erode public confidence. J Epidemiol Community Health 2013;67:717-720
http://jech.bmj.com/content/early/2013/03/07/jech-2012-202185
参照
Vandenberg LN, Colborn T, Hayes TB, Heindel JJ, Jacobs DR Jr et al. (2012) Hormones and endocrine-disrupting chemicals: Low-dose effects and nonmonotonic dose responses. Endocr Rev 33: 378-455.


訳注1
AFP May 22, 2014 Sweden to sue EU for delay on hormone disrupting chemicals by AGENCE FRANCE PRESSE

訳注2
Nature News 2012年10月24日 毒性学:用量反応曲線



化学物質問題市民研究会
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