ECHA ゲスト・コーナー 2020年3月12日
内分泌かく乱物質に対する欧州委員会の
約束を実行に移すべき時である

ナターシャ・シンゴッティ、HEAL 健康と環境上席政策担当
情報源:ECHA Guest Corner, 12 March 2020
Time to action European promises on endocrine disruptors
By Natacha Cingotti
Senior Policy Officer for health and chemicals at HEAL
https://chemicalsinourlife.echa.europa.eu/guest-corner/-/
asset_publisher/vcrOSpI91ebF/blog/
time-to-action-european-promises-on-endocrine-disruptors


訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2020年3月24日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/edc/EU/200312_ECHA_Guest_Corner_
Time_to_action_European_promises_on_endocrine_disruptors.html


 ゲスト・コーナーで述べられている見解は、必ずしも ECHA の見解を表すものではなく、このサイトのために第三者により投稿されたどのような内容をも支持又は是認するものではない。
ナターシャ・シンゴッティ
 ナターシャ・シンゴッティは、健康環境連合(Health and Environmental Alliance / HEAL)の健康と化学物質に関する上席担当である。彼女は、HEAL会員組織と密接に連携しながら、HEAL の EU 及び国内における、内分泌かく乱化学物質、REACH、農薬、及び殺生物剤を含む、広範な政策に関する活動を行なっている。
 彼女は、欧州委員会、議会、及び加盟国フォーラムにおいて HEAL を代表し、欧州化学物質庁(ECHA)の作業に参加している。彼女は、ラジオ、テレビ、及び紙媒体に頻繁に出演/寄稿し、より野心的で首尾一貫した EU 化学物質政策を通じて、病気を防ぐための活動を行なっている。

 欧州委員会委員長ウルズラ・フォン・デア・ライエンは、”ゼロ汚染目標(a zero-pollution ambition)(訳注1)を達成するために”、”環境の劣化と汚染から市民の健康を保護するという横断的戦略”の一部として、内分泌かく乱物質に対応することを約束している。

 我々は、いたる所でこれらの化学物質に暴露しており、それらが深刻な健康状態とコストに関連していることを考えれば、高いレベルで野心的なそれらの約束は歓迎される。しかし、今はそれらの約束を実行すべき時である。

 我々のホルモン系の機能を阻害し、我々の健康と将来の世代の健康に影響を及ぼす可能性を持つ内分泌かく乱化学物質(EDCs)は、過去数年にわたり、いつも政策の議論の中心にあった。

 これらは、ビスフェノールAや DEHP などフタル酸エステル類のようにプラスチック製品の処理や製造に使用される化学物質類、又は農作物に散布される農薬類を含む。 EDCs は、ホルモン関連のがん、生殖機能障害、糖尿病、及び神経系障害の様な重大な疾病及び健康状態に関係している。

 科学分野の学会や公衆健康関連の団体は、人々を潜在的な健康影響から守るために、化学物質が市場に出される前に、もっと予防的なアプローチをとるよう、EU の意思決定機関及び規制機関に定期的に要求しつつ、これらの化学物質を特定し規制するための既存の法の抜け穴と一貫性の欠如についての懸念を提起してきた。

 ヨーロッパの内分泌かく乱物質に対する1999年の最初の戦略(訳注2)以来、科学的声明、ピアレビューされた論文及び報告書の発表の増大によって示されるように、 EDCs に関する知識は著しく増大した。

 もちろん、化学物質がどの様にホルモン系を妨げるのかということ、又は全ての関連する健康影響を完全に調査するのに十分に感知できるテスト手法の欠如を含んで、不確実な領域がある。しかし今日、我々は多くのことを知っている。 もし、EDCs からの健康保護のための行動を意図的に遅らせるのでなければ、実際に我々は、それを遅らせない知識のレベルに到達している。

 内分泌かく乱物質に対応するために EU の法令の更新を求める多くの重要な学習がある。

低用量暴露及びタイミング

 EDCs は、従来のリスク評価手法の下では’安全’であると考えられる低用量暴露で影響を及ぼすことができる。毒性学の格言である ’毒は用量次第(dose makes the poison)’ は EDCs の全ての場合に当てはまるわけではない。

 暴露のタイミングは潜在的な健康影響にとって極めて重要である。子宮中での胎児の暴露の様な、発達の重要な瞬間における低用量の EDCs 暴露は、ホルモン系のがん又は代謝系疾患のリスク増大など、後の人生に深刻で不可逆的な健康状態をもたらす可能性がある。

 かつて、流産を回避するために女性に投与された DES が、彼女らの子どもたちや孫たちにまで健康影響をもたらした DES 薬害(訳注3)で示されるように、実際の暴露と健康影響との間には、時には世代をまたがるような大きな時間的ギャップがあるので、タイミングはまた重要な事柄である。

EDCs の遍在は、あらゆる規制に反映されなくてはならない

 既知のそして疑われる EDCs は我々が日常的に使用している膨大な数の消費者製品−食品容器、化粧品、家具など−の中に存在する。長年にわたり独立系の情報提供者により編集された数多くの EDCs リストの中で、TEDX リスト(訳注4)は 1,000 種以上の潜在的な EDCs を収集している。

 しかし、現在までの所、農薬及び殺生物剤の規則 REACH により、既存の化学物質の中のわずか 18種が EDCs として特定されただけである。(訳注5)(However, only 18 EDCs have been identified through existing provisions under the REACH, pesticides and biocides regulations until now.) EDC 暴露を最小にするという約束に真剣に取り組むなら、 EDCs を特定するための規定を産業界及び規制当局に対して横断的に拡大することから始めるべきである。科学的知識のレベルは物質に毎に異なるので、我々が現在発がん性物質、変異原性物質、及び生殖毒性物質に持っているのと同様に、’疑いのある(suspected)’、’推定される(presumed)’及び’既知の(known)’ EDCs という分類を開発する必要がある。

 低用量影響を考慮して、既知の及び疑われる EDCs もまた、消費者製品中で許されるべきではない。そしてひとつの規則の下における EDC の特定は、その化学物質を対象とする全ての規則の中で同じ規制的結果をもたらすべきである。例えば、ビスフェノールAは、食品容器を含んで全ての消費者製品で禁止されるべきである。

 もしヨーロッパが真剣にこの約束を果たし、科学に基づいて規制するなら、現在の EDC の評価の枠組は、健康、環境、及び我々の経済にとって絶好の機会となる。

 しかし、規則を徹底的に見直し、化学物質を市場に出すことを許すには、二つの重要な要素が求められる。第一に、真に安全な革新に投資する産業人に報いと動機をあたえること;第二に、組織的に健康保護を促進し、何かを決定する時に他の利害を超えて全体としての社会のための付加価値を問うことである。


訳注1:EU の汚染ゼロ目標
訳注2:EU 戦略(Community Strategy COM 1999 706)
訳注3:DES 薬害
訳注4:TEDX リスト
訳注5:REACHにおけるEDCs
 ”既存の化学物質の中の18種が EDCs として特定された”とあるが、これについては確認できていない。2019年10月1日に ECHA により提案された 18の高懸念物質中で BPA と RP-HP が内分泌かく乱特性を有するとしている。


化学物質問題市民研究会
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