2016年7月6日 欧・米・豪の15人の科学者から
欧州委員会保健衛生食品安全総局委員宛 公開書簡 植物防護製品(PPP)及び 殺生物性製品(BP)の下における 内分泌かく乱化学物質の特定と規制のための 提案された基準について 情報源:July 7, 2016 Open letter in response to the proposed criteria for identification and regulation of endocrine disrupting chemicals, under the PPP and Biocides Regulationss http://policyfromscience.com/wp-content/uploads/2016/07/ Open-Letter-to-Andriukaitis-about-EDC-Criteria.pdf 訳:安間 武(化学物質問題市民研究会) http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/ 掲載日:2016年7月28日 このページへのリンク: http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/edc/Int/ 160706_Open_letter_in_response_to_the_proposed_criteria.html 欧州委員会保健衛生食品安全総局委員 ビテニス・アンドリューカイティス御中 B - 1049、ブリュッセル、ベルギー アンドリューカイティス委員 殿 私たちは、植物防護製品(PPP)及び 殺生物性製品(BP)の下における内分泌かく乱化学物質(EDCs)の特定と規制のための提案された基準(訳注1)について私たちの懸念の声を表明するために、そして EDCs を特定するプロセスにおける科学的証拠を収集する取り組みに私たちの考え方を提供するために、内分泌かく乱化学物質(EDCs)と化学物質リスクのための体系的なレビュー手法の研究(参照: Vandenberg et al. 2016 *)(訳注2)を実施している科学者として、この書簡を書いています。 私たちは、体系的なレビュー(SR)手法が EDCs を同定することに演じるであろう役割を貴提案が認めたことに励まされ、また EDC の規制のための定義のためのベースとして WHO/IPCS の定義を使用することに満足していますが、私たちは提案された基準について、二つの重要な懸念を抱いています。
提案は、化合物は、それが”有害影響を引き起こすことが知られている”場合にのみ、 EDC として分類されることができると述べていますが、この結論に至る証拠要求はあいまいなままです。従って、”知られている”の定義は、内分泌かく乱の証拠を解釈する時に、異なる化学物質にどのように適用されるのか明確ではありません。その結果、規制の実施は一貫性がなく、潜在的な EDCs は全てが等しい基準に従って分類されることはないでしょう。 私たちは、もし、提案の中にあるあいまいさが既存の CLP 規則に従うことにより、すなわち、”有害影響を引き起こすことが知られている”としてある EDC を分類するために、人への危害の”十分な”証拠を求めることにより解決しようとするなら、非常に数少ない EDCs しかそのように同定されないでしょう。ほとんどの健康影響の場合と同様に、疫学研究から内分泌かく乱の強固な証拠を得ることは極めて困難です。それはまた、もし物質が人間における強い証拠が蓄積するまで、EDCsとして分類されることができないなら、人の健康を守るために動物実験を実施する目的を挫くことになるでしょう。 化学物質の有害健康影響の最も強い証拠は、しばしば動物実験から得られるのだから、動物実験は利用可能な唯一の強固な証拠を提供するかもしれないのだから、そして動物実験での健康影響の証拠は、他に何もなければ人間の健康影響を予測するものとして扱われるのだから、基準は下記のいずれかであるべきです。 (a) 動物実験における危害の証拠は、例え、疫学調査による危害の証拠の”十分な”レベルより低くても、 EDC を”有害影響を引き起こすことが知られている”として記述するために十分であるということを認める。又は、 (b) 化学物質は、それが人に有害影響を引き起こすと”推定される(presumed)”ということに基づいて、 EDC として分類されることを認める。 私たちは、発がん性物質、変異原性物質、及び生殖毒性物質(CMRs)の分類のためにすでに用いられており、よく知られている妥当なアプローチとして、 (b) を推奨します。 懸念#2:混乱したプロセス 提案では、例えば”肯定的及び否定的結果は共に考慮されなくてはならない”ということを求めるような、科学的証拠の強さを評価するときに考慮されるべき要素のリストは、内分泌かく乱に関連する科学的証拠を同定し、評価し、統合するときに従うことが求められる完全な手続き一式を部分的にだけしか捉えません。また、ある化合物が EDC としてどのように分類されるべきかに関して、WHO/IPCS の EDC 定義の各要素 (すなわち、有害影響の証拠、内分泌作用機序、及び暴露結果としての影響) は最終結論にどのように統合されるべきか記述している首尾一貫したプロセスがありません。 さらに、”全ての利用可能な妥当な科学的証拠”を評価することを歓迎する声がありますが、その基準は、EDCとしての規制のための同定が主に基くべき証拠として、”国際的に合意された研究手続きに従って実施された”研究に特権を与えてはなりません。これは、不必要であるか(なぜなら体系的なレビューが、最良の結果を生成する、実験による証拠に基づき実施された最良の研究に特権を与えるから)、又はそれは (レビュー者に、それらが弱いかもしれない時には、ガイドライン研究を他の研究より強いとしてとみなすことを強制することにより) 偏りをもたらします。 私たちは、これらの欠点は、証拠レビューのプロセスにおいて適切な体系的レビューと証拠統合手法を用いることにより対応できることを示唆します。(体系的なレビューは提案書本文の中で述べられていますが、その用途は、明らかに本評価手法に関連する又はそれに役立つプロセスの中で、”他の関連する科学的情報”を分析することだけに限定されます。) 全体的な懸念 全体として私たちは、提案された規制の本文が化合物を EDC として分類するために前例なく一貫性がない立証責任を作り出していることを懸念しています。不必要にあるタイプの証拠に特権を与えることにより、そして EDC として”知られている”化合物を同定するために潜在的に非常に高い立証レベルを求める不透明ではっきりしない標準を実施することにより、私たちは、化合物を EDC として分類するためのプロセスが、規制的配慮を求める化学物質とそうでない化学物質を区別することができることをどの様にして信頼し、又はそれが利害関係者により信頼されることを、どのようにして確かにするのかについて、重大な疑問があると信じています。 私たちは、EDCs の同定と分類のための科学的ガイダンスを開発する私たちの経験に基づき、もっと詳細に私たちの懸念を明確にすることができるよう、そしてどのようにしてそれらがこの規制的提案の再処方を通じて解決できるかを討議するために、会合を持つことを求めたいと思います。 私たちは、あなたの回答をお待ちしています。 敬具 Dr Marlene Agerstrand. Department of Environmental Science and Analytical Chemistry, Stockholm University, Stockholm, Sweden. Professor Lisa Bero. Charles Perkins Centre, University of Sydney, Sydney, Australia. Dr Anna Beronius. Institute of Environmental Medicine, Karolinska Institutet, Stockholm, Sweden. Professor Carl-Gustaf Bornehag. Department of Health Sciences, Karlstad University, Karlstad, Sweden. Icahn School of Medicine at Mount Sinai, New York City, USA. Professor Ian Cotgreave. Swedish Toxicology Sciences Research Center (Swetox), Karolinska Institutet, Sodertalje, Sweden. Dr David Gee. Institute of Environment, Health and Societies, Brunel University London, Uxbridge, United Kingdom. Dr Crispin Halsall. Lancaster Environment Centre, Lancaster University, Lancaster, UK. Professor Malcolm Macleod. Centre for Clinical Brain Sciences, University of Edinburgh, Scotland, UK. Dr Olwenn Martin. Institute of Environment, Health and Societies, Brunel University London, Uxbridge, United Kingdom. Professor Christina Ruden. Department of Environmental Science and Analytical Chemistry, Stockholm University, Stockholm, Sweden. Professor Martin Scheringer. RECETOX, Masaryk University Brno, Czech Republic. Institute for Chemical and Bioengineering, ETH Zurich, Zurich, Switzerland. Dr Kristian Syberg. Department of Science and Environment, Roskilde University, Denmark. Dr Laura Vandenberg. Department of Environmental Health Sciences, University of Massachusetts Amherst School of Public Health & Health Sciences, Amherst, MA, USA Mr Paul Whaley. Lancaster Environment Centre, Lancaster University, Lancaster, UK. Professor Tracey Woodruff. School of Medicine, Program on Reproductive Health and the Environment, University of California, San Francisco, Oakland, CA, USA. (added 7 July) Address for correspondence: Mr Paul Whaley, 45 Trafalgar Road, Lancaster, LA1 4DB, UK. * A proposed framework for the systematic review and integrated assessment (SYRINA) of endocrine disrupting chemicals (2016, accepted) 内分泌かく乱化学物質に関する”系統的なレビューと統合された評価”のための枠組み(2016年 承認) Laura N Vandenberg; Marlene Agerstrand; Anna Beronius; Claire Beausoleil; Ake Bergman; Lisa A Bero; Carl-Gustaf Bornehag; C Scott Boyer; Glinda S Cooper; Ian Cotgreave; David Gee; Philippe Grandjean; Kathryn Z Guyton; Ulla Hass; Jerry J Heindel; Susan Jobling; Karen A Kidd; Andreas Kortenkamp; Malcolm R Macleod; Olwenn V Martin; Ulf Norinder; Martin Scheringer; Kristina A Thayer; Jorma Toppari; Paul Whaley; Tracey J Woodruff; Christina Ruden. Environmental Health 訳注1 EUROPEAN COMMISSION Brussels, 15.6.2016 COM(2016) 350 final COMMUNICATION FROM THE COMMISSION TO THE EUROPEAN PARLIAMENT AND THE COUNCIL on endocrine disruptors and the draft Commission acts setting out scientific criteria for their determination in the context of the EU legislation on plant protection products and biocidal products 当研究会紹介の関連情報
・EHN 2016年7月14日 論評:”有害化学物質”を同定する内分泌かく乱化学物質の評価のための新たな取り組み 訳注3:EDC の定義 (IPCS, 2002) ・内分泌攪乱化学物質の科学の現状 2012年版 意思決定者向け要約 (NIHS 訳) 13ページ 「内分泌攪乱物質とは、内分泌系の機能を改変し、それによって健全な生物体またはその子孫 または(下位)個体の健康に悪影響を及ぼす外因性物質またはその混合物である」 「潜在的内分泌攪乱物質とは、健全な生物体またはその子孫または(下位)個体において内分 泌攪乱を惹き起こすと予想される性質を持つ外因性物質またはその混合物である」 |