ChemSec News 2017年7月5日
分析:今回の EU 加盟国の EDC 基準の賛成投票は
実際には何を意味するのか?

アンナ・レンクイスト博士、 ChemSec上席毒性学者

情報源:ChemSec News July 5, 2017
Analysis: What will this week's EDC criteria vote mean in practice?
By Dr. Anna Lennquist, Senior Toxicologist, ChemSec
http://chemsec.org/%C2%ADanalysis-what-will-
this-weeks-edc-criteria-vote-mean-in-practice/


訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2017年7月21日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/edc/EU/170705_ChemSec_
Analysis_What_will_this_weeks_EDC_criteria_vote_mean_in_practice.html


 昨日(2017年7月4日)、内分泌かく乱化学物質((EDCs)のための欧州委員会の基準案について1年間の議論の後、加盟国代表らは基準策定プロセスをさらに進めることに賛成する投票を行った(訳注1)。投票は本来、植物保護製品のためであったが、欧州委員会の意図は、これらの基準は EU の化学物質諸規則を横断的に水平展開して使用されるべきというものである。昨日は多くの利害関係者から、欧州委員会が自己PRとして選んだ ”Endocrine disruptors: major step towards protecting citizens and environment (内分泌かく乱物質:市民と環境を守るための大きな一歩)” という見出しを付けたプレスリリースの嵐が吹きまくった。

 私の立場としての反応は、入り混じったものである。一方で我々は、これらの長く待ちわびた基準をきちんと発効させるためのプロセスを、これ以上遅らせることは容認できない。どのような遅れも現在の EDCs への暴露を長引かせるだけである。他方、今回投票にかけられた基準案には、いくつかの重大な欠陥と抜け穴があり、EDC として同定されようとする、ほとんど全ての物質に対して異議を唱えることが可能となる。

 実際にこのことは、我々は結局、非常に困難な物質毎の議論をすることになるであろうということを意味する。農薬について今後展開されるであろう適用除外と共に、ガイドラインを策定する欧州食品安全委員会(EFSA)が非常に重要になる(訳注1)。基準自体は比較的透明性がある中で議論されてきたが、ガイドラインを確立するプロセスは透明性が低く、厳しい非難の的となっている適用除外を最終的なものにするためのプロセスは不明確である。それは我々が細部に宿る悪魔を見つけるかもしれないこれらの文書の中にあり、SIN List の EDCs (訳注: 32 の SIN List EDCs)の様に、よく知られた EDCs でさえ、そのプロセスでは容易には適用されないであろうことを我々の多くが恐れている。

 プロセスを通じて、特に 3か国 (訳注:スウェーデン、デンマーク、フランス)がこれら委員会によって提案された基準は十分に保護的とは言えないと主張して反対した。そしてスウェーデンとデンマークはこの立場を堅持したが、フランスは態度を変えて提案を受け入れ(訳注2)、特定多数決方式(訳注3)で基準は可決された。興味深いことは、このことはフランス側からの協議なしにはなされなかったということである。

 フランス環境大臣はプレスリリース(仏文) の中で、賛成投票の見返りとしてフランスは EDC に対する多くの行動の約束を欧州委員会から得たと述べた。それらは、おもちゃ、化粧品、食品容器のためのEU全体の戦略、現在再評価が行われている物質への新たな基準の速やかな実施、及び EDC 研究のための5,000万ユーロ(約70億円)を含んでいる。さらにフランスは国内レベルでもっと多くの活動を約束した。

 しかし産業界の一部NGOs、及びグリーンズからの即座の反応は、異なる土俵ではあるが、議会は拒否権を使ってその提案を拒否すべきであるというものであった。産業側の一部が現在の基準案に失望している理由は、私が信ずるところでは、基準案の主要な利点にある。それはポテンシー(効力)は EDCs の同定基準の一部ではなくなったということであり、そのことはまた科学者らによって推奨されたアプローチでもあった。

 グリーンズと NGOs は、例えポテンシーが除外されても、重要な EDCs を同定するためには高すぎる立証責任が求められていることを指摘し、したがって人の健康又は環境を守るために機能することができないという立場を維持している。

 議会と理事会は現在、採択の前に提案を検証するために3か月の期間を持っているが、理事会が、本日加盟国が採択したのと異なる投票をすることはありそうにないので、これらの議論のための次の場は議会ということになる。

 本日、現状の物語の中に、もうひとつの章が書かれた(訳注:加盟国が賛成したという意味)。次に我々は、議会がこの基準を拒否すべきかどうかに関する難しい議論が予想され、秋にはガイドラインに関する新たなパブリック・コンサルテーションが行われるであろう。また、欧州委員会によるその新たな約束が実際に 実現するのかどうか見ることは非常に興味深いことである。

 この基準策定プロセスは決して終わらないように見えるかもしれないが、私は ChemSec の SIN List の利用は絶えず増えており、少なくとも 32 の重要な SIN List EDCs は、多くの会社による調達、エコラベリング及びその他の自主的なプロセスを通じてはもちろん、代替の目標物質となっていることを見つけて、勇気づけられている。これらを廃止するよう求める消費者やサプライチェーンからの圧力がしばらくの間存在する一方で、それらはまた、REACH プロセスよりひとつづつ取り組まれており、従ってとるべき唯一の方法は、それらを放置したまま(leave them behind)進むことである。


訳注1:ガイドラインの策定
訳注2:EDC 基準案 加盟国投票
訳注3:特定多数決方式
  • 特定多数決方式/ウィキペディア
     特定多数決方式(Qualified Majority Voting/QMV)とは、一部の決議に対して欧州連合理事会が採用する投票の手続きである。この手続きでは、各構成国はあらかじめ決められた数の票を保持する。各国割り当ての票数は、おおよそその国の人口に従い定められているが、より小さな国が不利とならないよう漸進的に重みづけられている。



化学物質問題市民研究会
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