EUオブザーバー 2017年10月9日
EDC 基準案は議会により否決されたので
新たな立法は数年遅れるであろう

アレクサンドラ・エリクソン
情報源:EUobserver, 9 October 2017
Endocrine legislation could be delayed years after veto
By ALEKSANDRA ERIKSSON
https://euobserver.com/health/139334

訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2017年11月1日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/edc/EU/171009_EUobserver_
Endocrine_legislation_could_be_delayed_years_after_veto.html


 内分泌かく乱物質に関するEU立法は、有害な内分泌かく乱物質を定義するEU基準案が化学産業界の影響で手加減を加えられたという疑惑の中、欧州議会が同案を先週(2017年10月4日)に否決した(訳注1)ので、それが再び浮上するまでに今後数年を要するであろう。

 10月4日(水)のストラスブール(EU議会)での採決で、389 人の議員が、人間のホルモン系をある用量でかく乱することができる内分泌かく乱化学物質(EDC)を定義するための欧州委員会の提案に反対した。

 欧州議会議員ら(MEPs)は、欧州委員会が農薬中のある化学物質を内分泌かく乱物質として同定することを免除するという法の抜け穴を含めることにより、その権限範囲を逸脱したと述べた。そのような措置は、EU植物保護製品法の本質的要素を変えるものでなので、それは共同決定手続き(co-decision)(訳注2)によるべきものであり、 それがなされていない今回の措置は違法であると議員らは主張した。

”内分泌かく乱物質”が意思決定プロセスをかく乱する

 今回の場合、EDC基準案は、欧州委員会による提案を修正及び承認する権利を欧州議会と欧州連合理事会に平等に与える通常の立法手続きである共同決定手続きではなく、欧州委員会とEU加盟国の専門家代表をメンバーとする技術委員会(訳注3)というコミトロジー(訳注4)により設定された。

 社会主義グループ、グリーン・グループ、及び左翼の欧州議会議員らは化学産業のロビーイングのために、基準案が損なわれたと主張した(訳注5)。

 ”欧州議会は本日、人々の健康と環境のために立ち上がった”と、スウェーデン社会民主党の欧州議会議員ジュッテ・ギューテランドは、採決の後に述べた。

 彼女は、欧州議会議員らと欧州理事会は全ての内分泌かく乱物質を禁止することをすでに決めていたと述べた。欧州委員会は内分泌かく乱物質を同定するための科学的基準を設定することだけを義務付けられていたにすぎない。それにもかかわらず欧州委員会は、ある物質のために例外を含めることを決め、それにより大きな抜け穴を作り出した。

 彼女は、オランダのグリーン・グループの国会議員バス・アイクハウトと共に、欧州委員会の提案への反対を指導した。

 彼女は欧州委員会に対して、特例のない他の提案を遅滞なく提出するよう要求したとEUオザーバー に述べた。

化学産業界によるロビーイング

 実際に、ギューテランドの母国スウェーデンは数年前に、欧州委員会は内分泌かく乱物質を定義するための提案をしなかったとして欧州委員会を提訴して勝訴したが(訳注6)、フランスの調査報道記者ステファン・ホーレル(訳注7)は欧州委員会の遅れは化学産業からの激しいロビーインのせいであると指摘していた。

 その提案は、昨年の夏に最終的に発表されたが、その後の1年間、密度の高い協議が行われ、今年の7月に21加盟国の代表により採択された。

 議会での採択の少し前に、EU健康委員ビテニス・アンドリュカイテスは、EU加盟国の中でその基準に対する支持を得ることが難しいことを理解した。

 ”提案された基準は、慎重な妥協である・・・”と、彼は議会の討論で述べた。

 ”これは、議会で示された反対の中心である特定条項を含めなけれ同意が得られないであろう。この特定の条項は、いくつかの加盟国の要求で農薬の持続可能な使用に関する彼らの政策を改善するために協議の期間中に加えられたものであり、それは必要な支持を得るために必要であった。そして、ここで我々は必要な支持を議論している”と彼は述べた。

 明白にドイツはその支持の条件として、その”適用除外”を主張し、軟弱な理事会の大半は最大のEU加盟国の支持なしには立ち行かないであろう。

 したがって欧州委員会は、少なくとも現在の委任条件の下では議会と理事会の両方が受け入れられる様な合意に至ることは不可能であるという結論を導きだすであろう。欧州委員会はまた数年かかるであろう共同決定手続きによって採択されなくてはならないひとつの提案を提示することになるであろう。

うやむやにする

 欧州委員会の報道担当官は、欧州委員会はまだとるべき次の措置について考え中であると当ウェブサイトに述べた。

 欧州委員会が何もしない場合には、内分泌かく乱物質は暫定基準−すなわちEUの両当局、健康と環境NGOs、及び化学産業界が科学的に時代遅れで機能しないとみなす既存の基準によって規制されることになるであろう。

 ”欧州委員会の提案は、完全になり得る(perfectible)ものであったが、それは現実的な(pragmatic)ものになった”とフランス欧州人民党(EPP)の国会議員アンジェリク・ドライエは述べた。”我々は、現在の規制が適用され続けるという状況にあり、我々はそれがもはや適応していないことを知っている”。

 ”そこに達するのに8年間を要したが、我々が新しい基準を得るのにさらに数年かかるであろう”と、彼女は付け加えた。


訳注1:欧州議会 DEC 基準案を否決
訳注2:共同決定手続き(co-decision)
訳注3:技術委員会
訳注4:コミトロジー
訳注5:EU議会党派
訳注6:スウェーデン勝訴
訳注7:ステファン・ホーレルの記事



化学物質問題市民研究会
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