環境健康ニュース(EHN) 2014年4月21日
意見:内分泌かく乱物質にもっと多くの光を、もっと冷静に
投稿:By Kevin C. Elliott(ケビン C. エリオット)及び
David B. Resnik(デービッド B. レスニク)

情報源:Environmental Health News, April 21, 2014
Opinion: More light, less heat over endocrine disruptors
By Kevin C. Elliott(リンク切れ) and David B. Resnik
For Environmental Health News
http://www.environmentalhealthnews.org/ehs/news/2014/apr/opinion-scientist-transparency

訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2014年4月25日
このページへのリンク
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/edc/EU/ehn_140421_Opinion_on_endocrine_disruptors.html


 過去数年間、科学者らは内分泌かく乱化学物質のためのヨーロッパの潜在的な規制についての活発な論争に関与している。その論争は昨年夏、18人の科学者らがリークされた欧州連合(EU)の計画を厳しく批判した論評を書いた時に始まった。一方、他の科学者らは、その計画は正当であると反論し(訳注1)、科学的証拠により支持した(訳注2)。

 広範な消費者製品で使用されているこれらの化学物質についてのこの論争は、重要なテーマである”科学者は客観性を犠牲にせずに、いかにして政策を伝えることができるか”を熟考する貴重な機会を与えるものである。

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ダニエル・ディエトリッヒはEU提案を批判する論評の主著者である。
 ふたつのステップが重要である。科学者は、利益相反(conflicts of interest)を明らかにすべきであり、科学の多様な解釈の強い点と弱い点を明確にすることによって、”信頼できる仲介者(honest brokers)”(訳注3)として務めるべきである。

 歴史的に、多くの科学者は、客観性を促進するための最良の方法は彼らの研究から全ての利益と価値を排除することであると考えた。しかし、大きな社会的影響を伴う激しい論争のある科学分野に対しては、このアプローチは役に立たないように見える二つの理由がある。

 第一に、研究者らが政策関連のことがらについて結論を引き出す場合には、使用する証拠の適切な基準について価値判断をしなくてはならない。例えば、人に使用するための薬の認可には動物実験と3段階の臨床試験による証拠が通常は必要であるが、一方、ある工業化学物質が人の健康に潜在的な脅威を及ぼすこと及び規制されるべきことを示すためには動物実験による証拠で十分であろう。政策を策定する時にどのくらい多くの証拠が用いられるべきかの決定は、その証拠を生成するために必要な研究の倫理的及び実際的な面とともに、公衆の健康、社会及び環境への影響の度合に依存する。例えば、人の健康への影響についての確実性がなくても、もしそれらの潜在的な健康影響が深刻であり、代替物質が利用可能なら、赤ちゃん用品中のビスフェノールAやおもちゃの中のフタル酸エステル類は、なくすことが賢明であろう。

 また、科学的な論法から全ての利益と価値を除くことは非現実的な目標である。心理学的な調査によれば、科学者らは様々な個人的、政治的、文化的及び財政的な利益によって影響を受けることは避けがたいとしている。例えば、職業的な毒性学者の中にあっても、女性の学者は男性の学者よりも化学物質のリスクが高いと認識し、大学の学者は産業雇用の学者よりも化学物質のリスクが高いと認識するように見える。 いくつかの気候変動の調査結果に疑問を呈している環境研究の教授ロジャー・ピルキー Jr.(Roger Pielke Jr)は、利益と価値を抑制する又は無視するための努力は、科学者を”秘密の政策提唱者(stealth issue advocacy)”にするかもしれないと主張している(訳注4)。

 もし科学的客観性が価値を除くことによっても達成することができないなら、どのような代わりの選択肢が利用できるのであろうか? 我々はもっと現実的で有望なアプローチは透明性を追求することを提案する。

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アンドレア・ゴアはEU提案を支持する論評の主著者である。

   科学者らは、自身の判断に影響を与えるかもしれない職業的又は政治的な忠実さとともに、金銭的利益相反があればそれを認めるべきである。内分泌かく乱物質政策についてのこ論争に関して、環境健康ニュース(EHN)は EU 政策を批判した最初の編集者18人中17人が規制される側の産業界と結びついていたことを報告した訳注5)。ここで提案される客観性のモデルに基づき、この情報は開示することが重要である。

 他の戦略には、政策関連の科学を支持するために用いられるデータを公的に入手できるようにすること、妥当な解釈の範囲を示すこと、重要な仮定と不一致の理由を明確にすること、そして自身の結論が誤解又は誤用されるかもしれないような潜在的な方法を事前に先読みすることなどが含まれる。科学者らがひとつの論評の中で潜在的な解釈の広い範囲を論じることを期待するのは、明らかに非現実的かもしれない。しかし、論評は政治家、政策策定者及び公衆にによりしばしば利用されるのであるから、少なくともその科学コミュニティに展望の範囲に対する簡単な意思表示をすることにより得られるものはたくさんある。

 科学者らは彼らの価値を認めるために他の比較的単純な方法をとることができる。例えば、BPAのような内分泌かく乱化学物質に閾値がない(安全な用量はない)という仮説は”科学により支持されている”ということを論評の中でストレートに主張するのではない方法である。アンドレア・ゴアと彼女の同僚らは、公衆の健康を促進することが目標なのだから、それは既存の科学に基づく合理的な結論であると主張することができたであろう。同様に、ダニエル・ディエトリッヒと彼の同僚らは、EU 提案から派生する経済的な影響があるのだから、その提案を支持するためにはもっと多くの証拠が要求されるべきであると、もっと明確に述べることができたであろう。これは、EU 提案は”全てのよく確立され、教えとなっている薬理学及び毒性学の原則を事実上完全に無視することに基づいている”と主張することより、彼らの立場の価値の面を表明することの方が、もっと透明性のある方法であったであろう。

 科学者らは客観性を求めて努力すべきであるが、科学と価値の間のはっきりした区別を維持しようとする企ては逆効果である。一方、利益と価値を明るみに出すことはより良い科学を、そして最終的にはより良い政策を促進するかもしれない。

 この話題に関するエリオットとレスニクからのもっと多くの情報については、環境健康展望(Environmental Health Perspectives)の彼らの報告(訳注:Science, Policy, and the Transparency of Values)を見ていただきたい。エリオットは、ミシガン州立大学のライマン ブリッグス カレッジ及び漁業や野生物学部の準教授(associate professor)であり、哲学部の助教授(adjunct professor)である。彼は書籍 Is a Little Pollution Good for You? Incorporating Societal Values in Environmental Research (小さな汚染はあなたにとってよいことか? 社会の価値を環境研究に組み入れる)の著者である。レスニクは倫理学者であり、米・国立環境健康科学研究所(NIEHS)の研究倫理審査委員会(IRB)議長である。彼は、科学、医学及び技術における倫理的、法的、社会的及び哲学的問題に関する8冊の本を出版しており、journal Accountability in Research の共同編集長である。


訳注1
Environmental Health 2013年8月27日 論評 内分泌かく乱物質に関して科学と政治を混ぜ合せてはならない: 毒性学誌編集者らによる”常識的介入”への回答

訳注2
Policy Decisions on Endocrine Disruptors Should Be Based on Science Across Disciplines: A Response to Dietrich et al.(Endocrinology 154: 3957-3960, 2013)(内分泌かく乱物質に関する政策決定は)分野を横断する科学に基づくべきである:ディエトリッヒらへの応答)

 署名者には、主著者Andrea C. Goreを含む20人のジャーナル編集主幹;Ake Bergman、Jun Kanno、J. P. Myers、Ana M. Soto、Shanna Swan、Frederick vom Saal, PhD らを含む28人のジャーナル共同編集者;Koji Arizono、Taisen Iguchiを含む56人の追加的署名者が名を連ねている。

訳注3 信頼できる仲介者(honest brokers):Roger A. Pielke Jr の本の題名
http://www.amazon.com/dp/0521694817/ref=rdr_ext_tmb

訳注4
Roger Pielke, Jr.'s Blog: Stealth Issue Advocacy

訳注5
EHN 2013年9月23日  特別報告:EUの化学物質政策を批判す学者らは産業界とつながりがある 解説:ステファン・ホーレ及びブライアン・ビエンコスキー



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