欧州議会 2019年4月15日(採択4月18日)
内分泌かく乱物質に関する包括的な欧州連合の
枠組みに向けてに関する欧州議会の決議


情報源:European Parliament, 15 April, 2019
European Parliament resolution on Towards a comprehensive
European Union framework on endocrine disruptors
http://www.europarl.europa.eu/doceo/document/B-8-2019-0241_EN.html

訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2019年5月25日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/edc/EU/190415_European_Parliament_resolution_
on_Towards_a_comprehensive_European_Union_framework_on_endocrine_disruptors.html


 欧州議会は、
  • −『内分泌かく乱物質に関する包括的な欧州連合の枠組みに向けて』と名付けられた2018年11月7日付けの欧州委員会コミュニケーション(COM(2018)0734)(以後、コミュニケーションと呼ぶ)(訳注1)を考慮して;

  • − EU 機能条約(TFEU)及び特にその第191条2項を考慮して;

  • −植物保護製品の上市、並びに理事会指令 79/117/EEC 及び 91/414/EECの廃止に関する 2009年10月21日付け欧州議会及び理事会規則 (EC) No 1107/2009 を考慮して[1];

  • −内分泌かく乱特性の決定のための科学的基準を示すことにより規則 (EC) No 1107/2009 の付属書 II を修正する 2018年4月19日付け欧州委員会規則 (EU) 2018/605 (訳注2)を考慮して[2];

  • −殺生物性製品の上市および使用に関する 2012年5月22日付け欧州議会及び理事会規則 (EU) No 528/2012 を考慮して[3];

  • −欧州議会及び理事会規則 (EU) No 528/2012 に従って、内分泌かく乱特性決定のための科学的基準を示す 2017年9月4日付け欧州委員会委任規則 (EU) 2017/2100 (訳注3)を考慮して[4];

  • −食品との接触が意図される材料と製品、並びに指令80/590/EEC 及び 89/109/EEC の廃止に関する 2004年10月27日付け欧州議及び理事会規則を考慮して[5];

  • −化粧品に関する 2009年11月30日付け欧州議会及び」理事会規則 (EC) No 1223/2009 を考慮して[6];

  • −玩具の安全性に関する 2009年6月18日付け欧州議会並びに理事会指令 2009/48/EC を考慮して[7];

  • −物質及び混合物の分類、ラベル及び包装、並びに指令 67/548/EEC 及び 1999/45/ECの改正及び廃止、並びに規則 (EC) No 1907/2006 を改正する欧州議会及び欧州理事会規則 (EC) No 1272/2008 (以後 CLP 規則と呼ぶ)を考慮して[8];

  • − General Union Environment Action Programme to 2020 'Living well, within the limits of our planet' に関する 2013年11月20日付け欧州議会及び理事会決議 No 1386/2013/EU (以後、第7次環境行動計画(7th EAP)と呼ぶ)、及び特にその Point 54 (iv) (訳注4)を考慮して[9];

  • −持続可能な開発目標、特に目標 3.9 を考慮して[10];
    (訳注:目標 3.9: 2030年までに、有害化学物質、ならびに大気、水質および土壌の汚染による死亡および病気の件数を大幅に減少させる)

  • −国連環境計画(UNEP)及び世界保健機関(WTO)による報告書 ’内分泌かく乱化学物質の科学の現状 2012年版 意思決定者向け要約(訳注5)考慮して[11];

  • −公衆の健康の内分泌かく乱物質からの保護に関する 2013年3月14日付け決議を考慮して[12];

  • −2019年1月15日付け 欧州議会 PETI 委員会委託研究 内分泌かく乱物質:科学的証拠から人間健康の保護まで(出版:市民の権利と憲法問題総局/政策部門)(訳注6)を考慮して[13];

  • −手続き規則の規則 123(2) を考慮して[14];


  1. 2012年 UNEP/WHO 報告書は、内分泌かく乱物質(EDCs)を世界の脅威と呼んでおり、内分泌関連影響は野生生物個体群中に観察されていることに注目するとともに、特に人間においても多くの内分泌関連疾病の高い発症率と増加傾向に言及しており;

  2. 同報告書によれば、 EDCs への暴露による有害生殖影響(不妊、がん、形成異常)の新たに出現している証拠があり、またこれらの化学物質の甲状腺機能、脳機能、肥満と代謝、及びインスリンとグルコース恒常性(ホメオスタシス)などの山のような証拠があり;

  3. このクラスの化学物質はホルモン系を干渉することにより人間の健康と野生生物に有害影響をもたらすという事実は、もはや議論の余地がなく、したがって効果的な規制を引き延ばす正当な理由はなく;

  4. ’内分泌かく乱化学物質に関連するかもしれない健康コスト’というタイトルのリスク評価科学研究所(IRAS)による最新の研究は、5つの潜在的に EDC に関連する健康影響を評価した結果、’現在利用可能な文献によれば、 EU の EDC に関連する健康影響の社会経済的負荷は莫大であり’、その見積金額は年間 460億ユーロ(約5兆6,600億円)から2,880億ユーロ(約35兆4,000億円)の範囲になり[14];

  5. UNEP/WHO 報告書は、800近くの化学物質が、ホルモン受容体、ホルモン合成、又はホルモン変換の干渉を可能にすることが知られている又は疑われていると述べている。しかしこれらの化学物質のほんの少数だけしか、無傷の生物において明白な内分泌影響を特定できる調査が行われておらず;

  6. コミュニケーションは、提案された欧州連合の枠組みの文脈で、’1999年以来、内分泌かく乱物質への暴露に関連する人間の疾病又は野生生物への有害影響の科学的証拠はますます強くなっており;

  7. 第7次環境行動計画(7th EAP)によれば、欧州連合の市民を環境関連の健康と幸福への圧力とリスクから守るために、第7次環境行動計画は、2020年までに・・・内分泌かく乱物質に関連する安全の懸念は全ての関連する欧州連合の法律の中で効果的に対応されることを確実にしなくてはならず;

  8. 第7次環境行動計画(7th EAP)によれば、内分泌かく乱物質への暴露を最小にすることを確実にするために、 2018年までに開発し・・・、2015までにとられるべき水平的措置の上に構築することを求めており;

  9. 現在まで、欧州委員会は有害物質のない環境のための欧州連合の戦略を採択しておらず、あるいは EDCs への暴露を最小にすることを確実にするために 2015までに水平的措置をとっておらず;

  10. 内分泌かく乱物質のための 1999年コミュニティ戦略の改定は大幅に遅れており;

  11. EDCs のための欧州連合の戦略の改定がない中、フランス、スウェーデン、デンマーク、及びベルギーの様な加盟国は、国の様々な措置を通じて彼らの市民のための保護のレベルを高めるために国家レベルで対策を講じており;

  12. 人間の健康と環境の高いレベルの保護を保証するために効果的で包括的な欧州のアプローチを導入することは、全ての人々の利益であり;

  13. EDCs に関する確固とした欧州連合の枠組みとその効果的な実施は、 EU が持続可能開発な目標のターゲット 3.9、すなわち、’有害な化学物質、並びに大気、水、及び土壌の汚染から死亡と病気の数を大幅に減らすこと’に対する責任を満たすことに寄与するために極めて重要であり;

  14. EDCs に関する確固とした欧州連合の枠組みはまた、より安全な代替物質を通じて産業の革新を鼓舞しつつ、有害物質のない循環経済のための基礎を築くことを求めており;

  15. コミュニケーションが、複合影響を含んで EDCs の人間の健康と環境への有害影響を認め、全体暴露の最小化という目標を強調し、内分泌かく乱物質の特定のためには水平アプローチが必要であることを認めるということは歓迎すべきことであり;

  16. しかし、コミュニケーションは EDCs への暴露を最小にするための具体的行動計画と、前進するための工程表の両方が欠如しており;

  17. 慎重を要する分野の主要な欧州連合の法律はまだ、 EDCs に関する具体的な条項が欠如しており(例えば化粧品、玩具、又は食品接触材);

  18. 欧州委員会は、内分泌かく乱物質に関連する EU の法律が、これらの物質への暴露を最小にすることにより人間の健康と環境を保護するという全体目標を生み出すかどうか評価するためのフィットネス・チェック(訳注7)を報道しており;
    脆弱なグル−プの保護に特別の注意が払われるであろうとする欧州委員会の公約はもちろん、フィットネス・チェックの分野横断的な特性は歓迎されるべきものであり;
    しかし、この評価は数年前に実施されているべきであったことであり、欧州委員会が今初めてそのようなフィットネス・チェックに着手すると決定したことは遺憾であり;
    したがって、フィットネス・チェックは、具体的な法的及びその他の行動の遅れを正当化するものであってはならず;

  19. 関連する欧州連合の法律には EDCs を特定するための適切なテストとデータ要求が欠如しており;

  20. 欧州委員会は、 EDCs の複合影響(すなわち、 EDCs への複合暴露は、個々の暴露では影響が観察されないような濃度において、有害影響を生成するかもしれない可能性)に関する増大する証拠を指摘しているが、この問題に対応するためのどのような提案もしておらず;

  21. ホライズン2020 の下におけるプロジェクト ”EDC-MixRisk”(訳注8)は、’合成化学物質の現在の規制は EDCs 又は潜在的 EDCs への複合暴露に関連する健康リスクを体系的に過小評価している[15]。


  1. コミュニケーションの中で欧州委員会によって提案された EDCs のための欧州連合の枠組みは、 EDCs への暴露のために、人間の健康と環境への脅威に対応するために適切ではなく、第7次環境行動計画(7th EAP)によって求められることを生みだしていないことを考慮して;

  2. EDCs は発がん性物質、変異原性物質、又は生殖毒性物質(CMR 物質)として分類される物質と同等の懸念があるものであり、したがって欧州連合の法律の中で同じように扱われるべきであることを考慮して;

  3. 欧州委員会に対し、EDCs への人間と環境の全体暴露を効果的に最小化することにより、 EDCs に対する人間の健康と環境の高いレベルの保護を確実にするために必要な全ての行動を速やかにとることを要求し;

  4. 欧州委員会に対し、2020年6月までに WHO の定義に基づく EDCs のための水平的定義(horizontal definition)を開発することを要求し;

  5. 欧州委員会に対し、水平的定義には適切なガイダンス文書が伴うことを確実にすることを要求し;

  6. 欧州委員会に対し、化粧品規則に CMR 物質と同様に EDCs に関する特定の条項を挿入するための法案を 2020年までに作成することを要求し;

  7. 欧州委員会に対し、玩具安全指令に CMR 物質と同様に EDCs に関する特定の条項を挿入するための法案を 2020年までに作成すること、しかし EDCs には閾値は適用不可能なので、分類の閾値に対してどのような参照も持たないことを要求し;

  8. 欧州委員会に対し、有害な物質の含有を効果的に低減するために、 EDCs の使用を代替するための具体的な条項により食品接触材料に関する規則を改定することを要求し;

  9. 新たなアプローチ方法論を含んで、 EDCs を適切に特定するために、テスト開発と検証を加速する緊急の必要性があることを考慮し;

  10. 欧州委員会に対し、EDCs を適切に特定できるよう最新の技術的及び科学的進捗を考慮するために、全ての関連する法律でデータ要求は継続して更新されることを確実にすることを要求し;

  11. 欧州委員会に対し、EU の関連する全て法律の中で複合影響と複合暴露を考慮することを要求し;

  12. 欧州委員会に対し、飲料水中を含んで環境中の EDCs の監視はもちろん、人間と動の物集団に於ける EDCs の適切な生物監視を確実にすることを要求し;

  13. 欧州委員会に対し、EDCs に関する欧州連合の枠組みが、可能な限り迅速に採択されるべき有害物質のない環境のための欧州連合の戦略に効果的に寄与することを確実にすることを要求し;

  14. 欧州委員会に対し、より安全な代替物質はもちろん、特に後成的で継代的な影響、微生物叢(マイクロバイオーム)への影響、新奇の EDC 様態、及び用量反応関数の特性化についての EDCs 研究を推進することを要求し;

  15. 欧州委員会委員長に対して、この決議を理事会及び欧州委員会、そして加盟国の政府と議会に伝達するよう指示する。

訳注1 訳注2 訳注3 訳注4:第7次環境行動計画(7th EAP)
訳注5 訳注6 訳注7
  • What is a "fitness check" - European Commission - Europa EU
     ”フィットネス・チェック”は、ある政策分野のための規制の枠組みが目的に合っているかどうかを審査する包括的な政策評価である。それらの目的は、過大な規制的義務、重複、ギャップ、矛盾、及び/又は時間とともに陳腐化した措置を特定し、法律への累積的な影響を特定するのに役立てることである。
訳注8


化学物質問題市民研究会
トップページに戻る