The Guardian 2015年2月2日
握りつぶされた EU 報告書:
数十億ポンドに値する農薬を
禁止していたことになったであろう


情報源:The Guardian, 2 February 2015
'Suppressed' EU report could have banned pesticides worth billions
By Arthur Neslen
http://www.theguardian.com/environment/2015/feb/02/
suppressed-eu-report-could-have-banned-pesticides-worth-billions


訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2015年2月6日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/edc/EU/150202_gurdian_Suppressed_EU_report.html


 もし、ホルモンかく乱化学物質に関するEUの報告書が妨害されずに立法化されていれば、数十億ポンドに値する31種類の農薬が、その潜在的な健康リスクのために禁止されたはずであるということを当ガーディアン紙は知った。

 ガーディアン紙が見たその科学報告書は、科学者らが胎児の異常、生殖器の形成異常、不妊、及びがんから知能低下までの広範な有害健康影響の増大と関係づけている内分泌かく乱化学物質(EDCs)を特定し分類する方法を勧告している。

 欧州委員会の消息筋によれば、この報告書は、同書の見積りによれば年間数億ユーロの健康コストに該当するにもかかわらず、身体手入れ用品、プラスチック、化粧品等の中で EDCs を使用している大化学会社からの圧力の下に、EU 担当官により葬り去られた。

 公開されなかった EU の報告書は、例え低い効力の EDCs への暴露であってもそれに関連するリスクは非常に大きいので、効力だけを化学物質使用認可のベースとすべきではないと述べている。実施のための戦略とともに、EDCs の分類のために提案された基準は、EU による有害な物質の禁止を昨年実施することを可能にしたはずであった。

 しかし、欧州委員会の担当官は、バイエルやBASFのような主要な化学産業からの圧力の下に、その基準は阻止されたと述べている。その代りに、2016年までは完了することは期待できない影響評価計画とともに、もっと緩い意見が出現している。

 ”我々は、その基準と戦略で行く用意ができていたが、事務総長室からそれについては忘れろと言われた”と、欧州委員会消息筋はガーディアン紙に告げた。”効果的に基準案は抑圧された。我々は殺生物剤と農薬の立法が横転するするのを許した”。

 先月、11人の議会議員が、EU がその任務を敬うこと及び EDC 基準を採択することを怠ったとする超党派の手紙を健康食料安全委員ビテニス・アンドリュカイティスに送った(訳注1)。

 このことは2013年末までに起きていなくてはならないことであったが、今ではスウェーデン、欧州議会、そして理事会により裁判にかけられている(訳注2)。

 しかし、EU の強力な事務総長であるキャサリン・デイは、取りまとめ責任を共有するする欧州委員会の健康(Sanco)と環境(Envi)部門にその遅延を押し付けた。

 ”彼らは異なる方向に向かって作業をしている。それは理にかなわないことなので、事務総長は欧州委員会が拠り所とすることのできるひとつの分析を出すことを目指して共同影響評価を行うよう両者に強く働きかけた”と彼女はガーディアン紙に述べた。

 ”欧州委員会は内部の作業用文書を発表する義務はない”ともう一人の報道官は述べた。”ご存知のように、欧州委員会は完全に独立して、一般的ヨーロッパ人の利益の中で行動する”。

 逆説的で一般大衆にわかりやすく放映されたフィルム『Endocrination』で、Sanco は産業権益の代理として政策プロセスの中に登場した(訳注3)。

 ”我々は、Sanco と多くの議論をした”と欧州委員会のある消息筋は述べた。”ある時に事務総長はプロセスを停止するために介在し、それから基本的にはそれは停止した。我々と Sanco は互いに知恵を出し合わなければならないと言われた。二つの総局は最終的には、気が進まないながらにひとつの合意に達したが、それすらも事務総長に阻止された”。

 欧州農薬行動ネットワーク(PAN)の環境毒性学者アンジェリッキ・リシマチョウは次のように述べた。”もし、欧州委員会による’カットオフ’基準案が正しく適用されていれば、低レベル慢性内分泌かく乱農薬曝露から人と環境を守るために農薬規則の命令を満たしつつ、31種の農薬が現在までに禁止されていたはずである”。

 提案されたホルモンかく乱物質の特定の代わりに、EU の現在のロードマップは産業側が提案する効力ベースの EDCs 測定のためのオプションを支持している。これらは閾値を設定し、それ以下での低効力 EDCs への暴露は、人への長期的な影響のための包括的なテストは何もなされていないにもかかわらず、安全であるとみなされるであろう。

 産業と農業ロビーはイギリスとあるドイツの省庁に支援されてこのアプローチを支持している。彼らは、農薬と殺生物剤の禁止による社会経済的影響は農業社会の破たんであると主張している。

 昨年、ある全国農民組合の研究は、作物保護製品の取り下げは、イギリス農業に40,000の雇用と17.3億ポンドの利益の落ち込みをもたらし、これは現状レベルの36%の損出に相当すると見積もった。対照的に、PAN の研究は、現在検討されているロードマップのオプションの下では、7種類以下でゼロに近い農薬しか取り下げられないと見積もっている。

 欧州穀物保護協会(ECPA)のディレクターであるジーンチャールス・ブーケは、”最悪のシナリオ”では、彼の農薬取引グループは市場にある最高60製品まで内分泌かく乱のラベル表示に脅かされることになり、市場から取り下げざるを得なくなるであろうと信じていると述べた。

 多くがトリアゾール続由来のこれらの製品は、欧州市場で40%以上を占め、80〜90億ユーロ(60〜68ポンド)に値すると、 ECPA は述べている。

 ”我々は、量が少なく低い効力の影響しか持たない内分泌かく乱物質については、それらのリスクと潜在的な便益とのバランスで考慮しなくてはならない”と、ブーケはガーディアン紙に告げた。”それは、非常に強力な車を持っているが、注意深く安全に運転すれば、人々を傷つけることはない−ということだ”と、彼は付け加えた。

 しかし、欧州委員会の基準案は、EDCs のリスクを定量化するために世代間の研究に数十年かかるので、もっと予防的なアプローチが賢明であると述べている。

 効力は、”ハザードの特定とは関係がない”と同基準案は述べている。その用量の効力は懸念の高い低いを伝えるものではない。効力は、暴露情報と不確実性に関する情報が結合されたときにのみ、意味がある”。

 効力の低い化学物質の高容量でのリスクは、効力の高い化学物質の低用量でのリスクより大きいことがあり得ると−同基準案は続ける。”カットオフ基準を定義する科学的な方法はない。それは常に影響に基づく決定である”と同基準案は述べている。

 人間の内分泌系は、循環系により他の組織に伝達される前にひとつの組織の中で化学伝達物質−ホルモン−を合成するが、そのプロセスが機能する方法については非常にわずかしかわかっていない。

 しかし科学的証拠は、精子数の低下、生殖器形成異常、停留厚顔、ペニス尿道口の位置異常のような内分泌かく乱影響を示唆している。

 ワシントン大学医学校による最近のある研究は、プラスチック、身体手入れ用品、及び家庭用品の中で見いだされる 15 種の EDCs が、早期の閉経に関連することを示した。

 健康環境連合(Health and Environment Alliance (HEAL))の上席政策顧問リゼッタ・ファン・ブリエは、イギリスとドイツの省庁、及び産業からの圧力が慢性的疾患と環境的ダメージからの公衆保護を遅らせているとして非難した。

 ”このことはまさに、EU では EDCs を特定するために最良の科学を正当にそしてオープンに利用するかどうか、又は、ある産業の権益と二つの国の省庁が公衆の健康と環境の保護に損害を与えかねない結果を左右するということなのかが問われている”と、彼女は述べた。

 キャサリン・デイは、内分泌科学は、NGOsが主張するように必ずしも明確ではない複雑な分野であると反論した。

 ”もちろん、我々の立場が産業界や他の誰かから影響を受けているという主張は絶対に真実ではない”と彼女は述べた。”我々の懸念は、欧州委員会の作業の品質と一貫性だけであり、誰もがそれを待つのを望まない”。


訳注1
MEPs letter to Commissioner Andriukaitis

訳注2
ChemSec News 2015年1月28日 加盟国及び欧州議会 EDC基準に関するスウェーデンの訴訟に参加

訳注3
フランスのテレビで放映された新たな調査フィルム『Endocrination』



化学物質問題市民研究会
トップページに戻る