世界のEDC政策の動向
EDCsの低用量曝露と非単調用量反応


化学物質問題市民研究会
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更新日:2021年 2月2日
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国際的な動き欧州連合(EU)の動きアメリカの動き日本の動きEDCsの低用量曝露当研究会が紹介した世界のEDC 政策関連情報

■EDCsの低用量曝露と非単調用量反応

(内容)
 ▼新たな科学的研究が、ビスフェノールAの非単調用量反応曲線と低用量影響を強調する(Health and Environment Alliance (HEAL) 2020年5月20日) (21/02/02)
 米国 CLARITY-BPA プロジェクトの一部として実施された新たな科学的研究がビスフェノールA(BPA)暴露のラットの乳腺発達への影響の定量的評価を展開し、90以上の測定値のセットについて非単調用量反応関係の一貫したパターンを発見した。これは、BPA への暴露と観察された健康影響との間のある因果関係を示すものである。(HEAL 2020年5月20日)
 ▼パラケルススの法則"毒は用量次第"
 ▼毒性学:用量反応曲線を学ぶ
 ▼エンドクリン・レビュー掲載論文(2012年3月)
 ▼NIEHSディレクターのEHPでの論説(2012年4月)
 ▼EHN ピート・マイヤーズの低用量暴露と非単調性についての解説(2020年1月)(20/01/10)


▼パラケルススの法則"毒は用量次第"

 環境ジャーナリスト、ピーター・モンターギュは、多くのファンに親しまれていたウェブサイト『レイチェルニュース』で、2009年9月の最終号(#1000号)までの長い間、EDCsを含む様々な環境問題を警告し続け、当研究会も大いに影響を受け、その一部を日本語訳して紹介しました。
 ピーター・モンターギュは、#754号(2002年10月17日)#755号(2002年10月31日)で『パラケルススの法則に立ち戻る』というタイトルの下に、15世紀のスイスの医学者パラケルススの"毒は用量次第"という言葉が20世紀までの450年間、毒物学の常識であったとして次のように述べています。

 "パラケルススの言葉の意味は、'用量が多ければどのようなものも有毒である'ということであり、逆にいえば、'毒性が高いものでも低用量なら無害である'ということである。しかし先進的な内分泌学者らは、多くのEDCsは高用量よりもむしろ低用量の方が作用が大きく、例えばビスフェノールA (BPA)は逆U字型の非単調用量反応曲線を持つことを示している。'毒は用量次第'という従来の毒性学における常識は覆された"。

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植物エストロゲン、ゲステインの
単調用量反応曲線
Nature News Feature, 24 October 2012


non_monotonic_curve_1.jpg(12827 byte)
BPAの非単調用量反応曲線
Nature News Feature, 24 October 2012

▼毒性学:用量反応曲線を学ぶ(Nature News 2012年10月24日)

 Nature News 2012年10月24日発表のオンライン版に掲載されたニューヨーク大学教授で科学ジャーナリストのダン・ファギンの記事『Nature News Feature, 24 October 2012 Toxicology: The learning curve (毒性学:用量反応曲線を学ぶ)』は、ミズーリ大学の神経生物学者フレデリック・ボンサールらが主張している内分泌かく乱物質(EDCs)の非単調用量反応について詳しく解説するとともに、ボンサールらの主張に納得しない多くの毒性学者ら、特に従来のリスク評価に深く関与してきた産業界や政府側の人々との論争について紹介しています。

 ファギンは次のように述べています。

 "パラケルススがしばしば毒性学の父と呼ばれることとなった有名な彼の宣言の現代の解釈は、用量と影響はリニアな関係にあり、したがって有害物質への曝露用量が低ければリスクも低いということである。この概念は、20世紀中頃に起きた化学物質安全テストの体系を支える中核的な前提である。リスク評価者は高用量範囲における化合物の有害影響を調べ、そこから、パラケルススのように、現実世界では高用量での化学物質の毒性は用量が低くなればリスクも小さくなるということを常に前提として、健康標準を確立するために低い方向に外挿する"。

 "しかし、もしパラケルススの前提が間違っていたらどうするか? もし化学物質のひとつの大きな強力なクラスが低用量で高いリスクをもたらすとしたらどうするか? 細胞ホルモン受容体と相互作用することができる合成化学物質の大きなグループである内分泌かく乱物質について、そのような主張をする学界の研究者が増大している"。

 "除草剤アトラジンやプラスチック可塑剤BPA、抗菌剤トリクロサン、殺菌剤ビンクロゾリンなどは、通常の毒性学の規則通りには振舞わない。規制当局は従来の高用量テストに基づいて、そのレベル以下なら全ての用量は安全であるという前提の下に、それぞれに最大許容レベルを設定している。しかし、日常の環境中で見つかるような非常に低用量レベルを調査してきた科学界の研究者らは、彼等の経験は整然とした見慣れた'スキー場のスロープ'のような古典的毒性学の用量反応曲線を生成しないと述べている。その代わり、ほとんどの内分泌かく乱物質は、その勾配は少なくとも1回、負から正へ又はその逆にU字形'を示す'非単調'用量反応曲線や、その他の複雑な形状を持っている"。

 "しかし、特に従来のリスク評価に深く関与してきた産業界や政府側の人々は内分泌かく乱物質が通常ではない毒性学的挙動を持つことは認めるが、ボンサールやその同調者等の研究は、まだ十分に再現されておらず、有効性が確認されていない分析手法に頼りすぎていると述べている"。

 しかし、ボンサール等は、内分泌かく乱物質研究のブームのおかげで、彼等が現在提供できる系統的な証拠がここにあると反論して、本年3月にエンドクリン・レビューに掲載されたローラ・バンデンバーグらの論文を挙げたことをファギンは紹介し、さらに彼はEHP2012年4月号に掲載されたNIEHSディレクターのリンダ・バーンバウムの論説に言及しました。

▼エンドクリン・レビュー掲載論文(2012年3月)

 2012年3月に内分泌学会のジャーナルEndocrine Reviewsのオンライン版に発表された米タフツ大学ポストドクトル研究員ローラ・バンデンバーグらの論文『Hormones and Endocrine-Disrupting Chemicals: Low-Dose Effects and Nonmonotonic Dose Responses (ホルモンと内分泌かく乱化学物質:低用量影響と非単調用量反応)』は、EDCs 分野における最も包括的なレビューであり、ほとんどその半分は過去5年以内に発表された600以上の研究を含み、BPA、アトラジン、ビンクロゾリンを含む18種のEDCsに低用量の健康影響を持つ非単調反応の信頼性のある証拠を見出したと上述 Nature News の記事は激賞しています。

NIEHSディレクターのEHPでの論説(2012年4月)

 米・国立環境健康科学研究所(NIEHS)のディレクターであり、国家毒性計画(NTP)のディレクターでもあるリンダ・バーンバウムは同研究所のジャーナルEHP(2012年4月号)に『環境化学物質:低用量影響の評価』と題する論説を発表し、EDCsとして分類されている何百もの物質を含む化学物質の一般集団における濃度と有害影響評価項目との間の関係を示す疫学的研究が増大しており、低用量でも"脆弱"な集団に対して、安全ではない可能性を示唆していると述べています。

 彼女は、前述のバンデンバーグらの論文を何度も引用しており、例えば、"著者等はまた、多くのクラスを代表する環境化学物質の非単調な用量反応曲線の数百の事例を集めた。最も重要なことは、いまや問題なのは、非単調用量反応が真実であるかどうかということや、懸念に値する程に頻繁に起きるのかどうかということではない。これらはメカニズムがよく理解された共通の現象である事は明らかである。問題は、どの用量反応曲線がどのような特定の環境条件下で特定の環境化学物質に予測されるのかということであり、今こそ、環境健康科学者、毒性学者、及びリスク評価者の間の会話を開始すべき時である"と結んでいます。

EHN ピート・マイヤーズの低用量暴露と非単調性についての解説(2020年1月)(20/01/10)

 環境健康科学(Environmental Health Sciences)の運営会議議長であり、首席科学者であり、環境健康科学ネットワーク(EHN)の創設者であるピート・マイヤーズは 「Environmental Health News (EHN) 2020年1月2日 将来を見越す:ホルモンかく乱化学物質は、我々の健康、財政状態、及び将来を脅かす」 の中で、低用量暴露と非単調性応答について次のように説明しています。

 もし化学産業に差し迫った存在に関わる脅威があるとするなら、そのことの説得力のある証拠は、何が安全で何が安全でないかを決定するために規制当局が使用する二つの最も基本的な仮定は全く間違っているということである。ひとつ目の仮定は、一時に化学物質ひとつを検証すれば十分というものである。ふたつ目の基本的な仮定は、高用量テストは低用量影響を検出するために使用できるというものである。これらの仮定は字句通り、世界中のどこでも行われてきたひとつの化学物質の単一リスク評価の全てを支持してきた。

 非単調性をもたらす分子メカニズムは複数あるが、それを考えるために最もわかりやすい(しかし不完全ではある)方法は次のようなものである。ホルモンと内分泌かく乱化学物質はある用量において遺伝子一式をオンにし、もっと高いレベルの用量で別の遺伝子一式をオンにする。時には、より高い用量は、すでに低い用量で刺激された遺伝子をシャットダウンする遺伝子をオンにする。この場合、低用量の影響は高用量を用いた時には見ることができない。それはサーモスタットの機能の仕方と似ている。もし部屋が寒ければ、暖房機はオンになる。しかし温度が望ましい温度に達すれば、サーモスタットは暖房機をオフにする。

 今日の化学物質安全性テストがなぜ無効なのかを理解するためには、規制のためのテストがどのように行われているかを理解するという非常に重要な情報が必要である。実験室で行われる安全テストはまず高用量から始めて、次により低い用量、さらにもっと低い用量のテストがそれぞれ異なるテストグループに対して行われる。ある用量が暴露された動物とコントロール動物との間に最早相違を引き起こさないことを発見したなら、テストはそこで終わる。彼らは一連の安全要素(係数)を用いて、通常は無影響用量を 1,000 で割って、安全用量とする。

 しかし多くの発表された科学論文は現在、”無作用量”以下の用量でも深刻な有害影響を引き起こすことができることを示している。それは高用量の方が安全であるということではない。高用量もまた問題を引き起こす。それは影響が異なるということである。低用量影響もまた、病的肥満や生殖力の低下のように深刻である。

 非単調性は正しく、今日の化学関連企業にとって存続に関わる脅威である。企業が持続可能になるためには、企業はこの基本的な内分泌学の現実を受け入れなくてはならない。



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