スコット・ジョプリン
Scott Joplin(1868〜1917)作曲家

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ラグタイムの復活
1973年のある映画に使われた音楽は、レトロな香りのするラグタイムだった。「ジ・エンタテイナー」というその曲は映画とともにヒットし、世界中に広がっていく。それは、忘れられていた黒人作曲家・スコット・ジョプリンが復活した瞬間だった。
ラグタイムは売春宿のサロンから出てきた音楽だ。ジョプリンはもっと音楽性の高い曲をと考え、晩年には自作のオペラ上演に心血を注ぐ。しかし、残ったのはラグタイムだった。芸術的に低い音楽とされていたラグタイムは、いまやジャズやブルースと並んで、アメリカを代表する音楽となっている。
掲載:NHKラジオ英会話2009年4月号表4/2010年50月号表4
参考資料

『スコット・ジョプリン:真実のラグタイム』
伴野準一著(春秋社、2007)
アメリカで取材の旅を歩きながら、スコット・ジョプリンの生涯をたどっていくという構成になっています。単に伝記的な事実を書き写すのではなく、現在のアメリカでの評価や受け取られ方なども、ライブ感をもって書かれているところが特徴でしょう。それだけに、音楽に対する見方、アメリカの歴史へ向き合う姿勢、ジョプリンへの関心の持ち方などに、著者の「わたし」の部分が強くでている本です。

"King of Ragtime: Scott Joplin and His Era"
Edward A. Berlin (Oxford University Press, 1994)
ジョプリンの生きた時代は、音楽産業的に見れば、楽譜の出版が盛んになった時期です。それは、彼がポピュラー音楽の作曲家として生きていく基盤となりました。副題にもあるように、ここではジョプリンの生涯をたどるとともに、ラグタイムをめぐる音楽業界の動きについても触れられています。この本の一番の特徴は、ジョプリンの音楽そのものに対する言及が多いこと。音楽の特徴や、同時期のライバルたちに与えた影響が、たくさんの譜例とともに分析されています。巻末には詳細な作品リストも付いています。
CD

"Scott Joplin : The Entertainer : Classic Ragtime From Rare Piano Rolls"
ジョプリン自身の演奏は、ピアノ・ロール以外はないようです。このCDの最初の3曲は、ジョプリンが吹き込んだピアノ・ロールを使った録音。ピアノ・ロールがどれほど本物の演奏を再現できているのかわかりませんが、こんな風に弾いていたのかなというロマンは感じます。

"Scott Joplin Piano Rags"
ジョシュア・リフキンの弾いたこのアルバムは、ラグタイム再評価のきっかけとなったようです(『スコット・ジョプリン:真実のラグタイム』参照)。楽譜をそのまま正直に、端正に弾いたという感じの演奏です。リフキンはクラシック畑の研究者・指導者ですが、いわゆるコンサート・ピアニストではありません。ジョプリンの作品は、クラシックの有名ピアニストが弾いた演奏はほとんどないのです。ジャズとの関係もよくあげられますが、ジャズ・ピアニストも演奏しません。彼の作品の微妙な位置を示しているように思えます。

"The Easy Winners"
イツァーク・パールマン(バイオリン)とアンドレ・プレビン(ピアノ)のデュオ。ジョプリンの作品はピアノ以外でも多くの楽器で演奏されています。そのなかでも、この演奏は素晴らしいもののひとつ。クラシック奏者によるラグタイムは、リズムの面で不満が残る場合が少なくありません。でも、これはリズムが生き生きしているのです。プレヴィンはジャズ・ピアニストでもありますから当然としても、パールマンのリズム感も素晴らしい。艶やかで歯切れのいい音色で、ラグタイムに新しい魅力をつけ加えています。