Ref.2017.11 2017.10.02
日本の地域航空の再編私案
- 始めに
昨年6月、国土交通省が「持続可能な地域航空のあり方に関する研究会」を発足させた。 これまで国が地域航空に能動的に関与したことはなく、現在の地域航空発展の出発点となった昭和58年の「二地点間輸送」の認可基準にしても、当時の東亜国内航空が行った同社の奄美群島路線の別会社化のための提案が下敷きになっている。 現在の地域航空の路線はもともと大手航空会社が進出して来ないので、地域の地方自治体が中心となって小型機運航会社を設立、運営しているケースが大部分であって、これらの路線の多くは基本的に低需要市場であるのに加え、殆ど成長も期待できないと言う問題がある。 これらの地域航空路線は、関係地方自治体からの財政支援などにより維持されて来たが、地方自治体の財政難などの理由により「地域航空」の維持が難しくなって来ているのが現状である。 この問題について、当所は報告Ref.No.2017.0「日本の地域航空の持続方策について」に於いて検討しているが、本報告で具体的な方策を提案することにした。
- 本報告の取扱う地域航空会社
検討するにあたり、前述の研究会での「地域航空」の定義が不詳なので、まずここで取り扱う「地域航空」の定義を明確にしたい。 「地域航空」の法的定義はないが、国土交通省には本省が取り扱う「特定本邦航空運送事業者」(以下「特定事業者と略す」と、地方航空局が取り扱う「客席数が100席又は最大離陸重量が50トン以下の航空機を使用して行う航空運送事業を経営するもの」を「特定本邦航空運送事業者以外の事業者」(以下「特定外事業者」と略す)とする区分があり、地域航空の業界団体である全国地域航空システム推進協議会は「特定外事業者」をもって「地域航空」としている。
日本の地域航空会社
航空会社 |
主たる営業地域 |
出資地方自治体 |
関係地方自治体の助成 |
新中央航空 |
東京都下伊豆諸島 |
なし |
離島補助及び着陸料減免 |
東邦航空 |
東京都下伊豆諸島 |
なし |
離島補助(東京都島嶼振興公社) |
オリエンタルエアブリッジ |
長崎県内離島 |
長崎県 |
離島補助及び着陸料減免 |
北海道エアシステム |
北海道内 |
北海道 |
着陸料減免 |
日本エアコミューター |
奄美諸島及び西日本 |
関係市町村 |
着陸料減免(鹿児島県、島根県) |
琉球エアコミューター |
琉球列島 |
沖縄県、関係市町村 |
離島補助及び着陸料減免 |
天草エアライン |
天草及び熊本起点路線 |
熊本県、関係市町村 |
|
第 1 表
しかし、「特定外事業者」の中にはアイベックスエアラインズやフジドリームエアラインズのようにリージョナル・ジェット機により全国的路線網を運営している会社は、「地域航空」のイメージにそぐわないので、当所は、プロペラ機を使用して限定された地域内を運航する会社をもって「地域航空」会社とし、第1表に掲げる。 第1表に掲げる地域航空会社7社のうち、東邦航空はヘリコプター専門運航会社で他の会社とは事業の性格が違うので、この報告では除外することにする。 第2表に検討対象とする6社の概要を示す。
地域航空会社の概要
航空会社(コード) |
基地空港 |
路線数 |
使用機材 |
新中央航空(CUK) |
調布飛行場 |
4 |
Dornier 228-212(19席)×5 |
オリエンタルエアブリッジ(ORC) |
長崎空港 |
4 |
DHC-8-Q201×2 |
日本エアコミューター(JAC) |
鹿児島空港 |
24 |
Saab340B(36席)×9、DHC-8-Q400(74席)×9 ATR42-600(48席)×1 |
琉球エアコミューター(RAC) |
那覇空港 |
12 |
DHC-8-Q100(39席)×2、DHC-8-Q300(50席)×1、 DHC-8-Q400CC(50席)×2 |
北海道エアシステム(HAC) |
丘珠空港 |
6 |
Saab340B-WT(36席)×3 |
天草エアライン(AMX) |
天草空港 |
3 |
ATR42-600(48席)×1 |
註:平成29年3月31日現在。
第 2 表
また取り上げた6社のうち、CUKを除いた5社が大手航空会社の系列化にある。 それ故にこれら地域航空の事業は、親会社、またはコードシェアの相手会社の事業戦略と大きく関わっていると見ている。
地域航空会社の系列
ANA系列 |
JAL系列 |
独立系 |
ORC(コードシェア) |
JAC(資本系列) |
CUK |
RAC(資本系列) |
||
HAC(資本系列) |
||
AMX(コードシェア) |
第 3 表
- 地域航空の現状
最初に地域航空の国内航空路線網での位置が分かるように、事業者種別ごとの参入路線を分類し第4表に纏めた。 表では新千歳空港と札幌空港(丘珠)を札幌地区空港、東京国際空港と成田国際空港及び調布飛行場は東京地区空港、中部国際空港と名古屋空港(小牧)を中京地区空港、そして関西国際空港、大阪国際空港(伊丹)及び神戸空港は関西地区空港として括っている。 第4表で「特定外事業者」欄に記載されている路線が地域航空路線とも言えるが、中にはリージョナル・ジェット機にて運航する長距離路線も含まれているので、それで青字で示した路線だけを本報告で取り扱う地域航空路線とする。 なおANAウイングスとジェイエアは、国土交通省の統計では特定事業者である親会社に包含されているが、単体では特定外事業者と同等の事業者なので、参考として第4では特定外事業者に分類し、それらの参入路線は赤字で示している。
事業者別の運航路線
|
特定事業者 |
特定事業者+特定外事業者 |
特定外事業者 |
東 京 |
東京〜新千歳、東京〜関西、東京〜伊丹、東京〜神戸、東京〜福岡、東京〜那覇、東京〜稚内、東京〜紋別、東京〜女満別、東京〜中標津、東京〜釧路、東京〜帯広、東京〜旭川、東京〜函館、東京〜大館能代、東京〜秋田、東京〜庄内、東京〜八丈島、東京〜中部、東京〜富山、東京〜能登、東京〜小松、東京〜鳥取、東京〜米子、東京〜出雲、東京〜石見、東京〜岡山、東京〜広島、東京〜岩国、東京〜山口宇部、東京〜徳島、東京〜高松、東京〜高知、東京〜松山、東京〜北九州、東京〜大分、東京〜佐賀、東京〜熊本、東京〜長崎、東京〜鹿児島、東京〜奄美大島、東京〜宮古、東京〜新石垣、成田〜新千歳、成田〜関西、成田〜伊丹、成田〜福岡、成田〜那覇、成田〜函館、成田〜仙、成田〜中部、成田〜高松、成田〜松山、成田〜大分、成田〜熊本、成田〜佐賀、成田〜鹿児島、成田〜奄美大島、中部〜新千歳、 |
東京〜青森、東京〜三沢、東京〜宮崎、成田〜広島 |
東京〜山形、東京〜南紀白浜、成田〜新潟、成田〜小松、調布〜新島、調布〜大島、調布〜神津島、調布〜三宅島 |
中 京 |
中部〜女満別、中部〜旭川、中部〜函館、中部〜熊本、中部〜長崎、中部〜那覇、中部〜新石垣 |
中部〜仙台、中部〜福岡、中部〜宮崎、中部〜鹿児島 |
中部〜秋田、中部〜新潟、中部〜松山、中部〜北九州、中部〜大分、小牧〜青森、小牧〜花巻、小牧〜山形、小牧〜新潟、小牧〜出雲、小牧〜高知、小牧〜福岡、小牧〜北九州、小牧〜熊本、 |
近畿 ・ 中国 ・ 四国 |
関西〜新千歳、関西〜福岡、関西〜那覇、伊丹〜新千歳、伊丹〜福岡、伊丹〜那覇、神戸〜新千歳、神戸〜那覇、関西〜函館、関西〜仙台、関西〜松山、関西〜長崎、関西〜宮崎、関西〜鹿児島、関西〜奄美大島、関西〜宮古、関西〜新石垣、伊丹〜奄美大島、神戸〜茨城、神戸〜長崎、神戸〜鹿児島 |
伊丹〜函館、伊丹〜仙台、伊丹〜福島、伊丹〜新潟、伊丹〜高知、伊丹〜松山、伊丹〜熊本、伊丹〜長崎、伊丹〜宮崎、伊丹〜鹿児島、 |
伊丹〜青森、伊丹〜三沢、伊丹〜秋田、伊丹〜花巻、伊丹〜山形、伊丹〜但馬、伊丹〜出雲、伊丹〜隠岐、伊丹〜大分、伊丹〜屋久島、隠岐〜出雲 |
九 州 |
福岡〜新千歳、福岡〜那覇、福岡〜茨城、福岡〜新石垣 |
福岡〜仙台、福岡〜新潟、福岡〜小松、福岡〜宮崎、福岡〜対馬、 |
福岡〜花巻、福岡〜松本、福岡〜静岡、福岡〜出雲、福岡〜徳島、 福岡〜高知、福岡〜松山、福岡〜鹿児島、福岡〜福江、福岡〜天草、福岡〜奄美大島、福岡〜屋久島、長崎〜対馬、長崎〜壱岐、長崎〜福江、熊本〜天草、鹿児島〜静岡、鹿児島〜松山、鹿児島〜種子島、鹿児島〜屋久島、鹿児島〜奄美大島、鹿児島〜喜界島、鹿児島〜徳之島、鹿児島〜沖永良部、鹿児島〜与論、奄美大島〜喜界島、奄美大島〜徳之島、奄美大島〜沖永良部、奄美大島〜与論、沖永良部〜与論 |
北 海 道 |
新千歳〜那覇、新千歳〜福島、新千歳〜茨城、新千歳〜富山、新千歳〜小松、新千歳〜静岡、新千歳〜岡山、新千歳〜広島 |
新千歳〜釧路、新千歳〜仙台、 |
新千歳〜稚内、新千歳〜女満別、新千歳〜中標津、新千歳〜函館、 新千歳〜青森、新千歳〜花巻、新千歳〜山形、新千歳〜秋田、新千歳〜新潟、新千歳〜松本、丘珠〜釧路、丘珠〜函館、丘珠〜利尻、丘珠〜三沢、丘珠〜静岡、函館〜奥尻 |
東北 |
|
|
仙台〜小松、仙台〜広島 |
沖 縄 |
那覇〜仙台、那覇〜茨城、那覇〜新潟、那覇〜小松、那覇〜静岡、那覇〜岡山、那覇〜広島、那覇〜岩国、那覇〜高知、那覇〜松山、那覇〜熊本、那覇〜長崎、那覇〜宮崎、那覇〜鹿児島、 |
那覇〜宮古、那覇〜新石垣、那覇〜久米島、 |
那覇〜与論、那覇〜奄美大島、那覇〜北大東、那覇〜南大東、那覇〜与那国、宮古〜多良間、宮古〜新石垣、新石垣〜与那国、南大東〜北大東 |
註:JTB時刻表2017年4月号による。
第 4 表
それは伊豆諸島諸島へ運航するCUK、近畿・中国・四国・九州地方と薩南諸島を接続するJAC、主として北海道内を運航するHAC、琉球諸島内を運航するRAC、主に長崎県内路線を運航するORC、及び熊本県を起点とする路線を運航するAMXの6社であり、今回の地域航空再編の対象となるのはこの6社と考えられる。 2017年5月24日の朝日新聞朝刊が伝える「持続可能な地域航空のあり方に関する研究会」の記事の中で対象となる地域航空会社の例示として挙げられているのはRACを除いた5社であるので、多分本報告の狙いも的はずれではなさそうである。
- 地域航空を持続させる方策
地域航空をスケール・メリットにより持続させる方策としては、次の2案が考えられる。
- 対象6社を統合して一つの事業体として統一機種を採用して運営する。
- 対象6社は現在の事業形態のままアライアンスを結成する。 使用航空機については統一機種とはせず各社の保有機を使用することとし、アライアンスの内容は「サービス」のソフト面を主とする。
昨年6月に国土交通省が発足させた研究会の公表されている審議の過程からは、研究会が目指しているのは地域航空会社を統合した運営体制によるスケール・メリットの創出と推量されるが、それは即ち(1)案であって統一機種を採用するので、スケール・メリット効果が実現しやすい姿である。 しかし対象6社が第三セクター会社或いはそれに準ずる会社であり、過去において複数の関係地方自治体による第三セクター事業は寡聞なので、短中期的には実現が難しいと考える。 従って航空機と言うハード面ではなく運用のソフト面の統一に重点をおく (2)案のアライアンス結成を選択することが適切だと、当所は考えるのである。
第 1 図
第1図にこれら6社の近年に於ける輸送実績を示すが、これから読み取れることは、RACが漸増傾向、JACが減少中であるが、その他の4社の市場は殆ど成長していない。 RACの漸増は、50席のDHC-8-Q400CCの投入によるものと見ており、JACは路線の一部がジェイエアの運航に変わったことが原因と推測する。
5.統合事業体を選択しない理由
前章で統合事業体とすることを選択しなかったのは、単一機種を採用することが無理と考えたからである。 検討の対象となる地域航空6社の現有機材は前掲の第2表に示しているが、それらの航空機は次のように三つのカテゴリーに分類できると考える。
対象地域航空会社保有機の分類
19席級 |
30席級 |
50席級 |
Dornier 228-200(19席) |
Saab340B(36席) |
ATR42-60(48席) |
DHC-8-100/200(39席) |
DHC-8-Q400CC(50席) |
第 5 表
研究会は統一機種候補として50席級のATR42-600をあげているようであるが、検討対象会社での採用を考えると、二つの問題がある。
- CUKが現在運航している800m滑走路で運用できるか。
- 現在19席級機或いは30席級機で運航している路線に、50席機を投入して採算が取れるのか。
統合した地域航空体制を構築するには機材の統一は重要であるが、統一機材とすればその維持にスケール・メリットをもたらすとしても、運用上の問題はないのか、市場の需要規模に対して適切な大きさであるのかと言う問題が生ずる。 800m滑走路で運用できないATR42を、CUKに導入することは論外であり、また機材の大きさが路線の需要に対して小さければ乗客の積み残しが生じるし、逆に大きすぎれば採算が取れない場合が考えられる。 従って総合的に判断すると、条件に合わせた複数機種を使用した方が合理的である場合もあると思う。 黒土交通省の設置した研究会の検討の中で統一機材の採用が検討されていると報道されているが、標準座席数48席のATR42-600を画一的に採用することには問題はないのだろうか。 そこで近年の各社の平均旅客数/便を調べたが、結果は第6表の通りである。
地域航空各社の平均旅客数/便とATR42投入時の座席利用率
航空会社 |
2014年度 |
2015年度 |
2016年度 |
平均旅客数/便 |
ATR42での座席利用率 |
HAC |
21.9 |
22.4 |
21.1 |
21.8 |
45.4% |
CUK |
10.7 |
10.9 |
11.1 |
10.9 |
22.7% |
ORC |
23.1 |
22.4 |
22.3 |
22.6 |
47.1% |
AMX |
23.5 |
25.3 |
26.2 |
25.0 |
52.1% |
JAC |
33.2 |
35.1 |
37.5 |
35.3 |
73.5% |
RAC |
29.9 |
31.2 |
33.8 |
31.6 |
65.8% |
註:平均座席数は2016年度現在
第 6 表
地域航空6社の近年の輸送実績を前掲の第1図に示したが、この期間中の需要傾向としては概ね横ばいであるので、近い将来に限れば第6表に掲げる平均旅客数/便の数字を引用して予測しても良いと考える。
この平均旅客数/便の数字を有効とすれば、第6表に示すように48席のATR42-600の投入が適当と見られるのは、JACとRACだけである。 既にJACはATR42-600の導入を開始しているし、RACはDHC-8-Q400CCを導入しているが、いずれの選択も適切であったと思う。 AMXも既にATR42-600を導入しているが、これは30席級の新造機が入手できないためのやむを得ない選択であったと推測している。 フリートの規模が大きくなれば、スケール・メリットによる運航費用の節減が期待できるが、一方、路線に不適当な機材の投入による収支バランスの悪化も考えなければならない。 なお、現在のATR42-600では800m滑走路での実用商業運航は困難であるが、最近のニュースによるとATR社は800m滑走路で運用できる性能を付与したATR42-600の開発に着手しているので、この問題は解決しそうな見込みがある。
また第7表に示すように、HACとORCには30席級機が適当であり、それで現在HACが保有するSaab340Bの延命策を講じているのも頷けるが、ORCが保有するDHC-8-200の今後の去就が注目される。 CUKにはやはり19席機が最も適合する機種である。
ATR42-600に交代した時の座席利用率試算
航空会社 |
平均旅客数/便 |
座席利用率60%とする場合の座席数 |
左欄の条件に適合する航空機 |
HAC |
21.8 |
36 |
Saab360B |
CUK |
10.9 |
18 |
Dornier 228-200 |
ORC |
22.6 |
38 |
DHC-8-100/200 |
AMX |
25.0 |
42 |
DHC-8-100/200 |
JAC |
35.3 |
59 |
ATR42-600 |
RAC |
31.6 |
53 |
ATR42-600 |
註:平均旅客数/便は第6表で算出したものを引用。
第 7 表
第7表から見れば、ATR42-600を地域航空6社の統一航空機として採用するのは、無理があるように思う。 そこでこれから考えられる使用航空機の運用体制は2案が考えられる。
第一案:航空機保有機構のようなものを新設してATR42-600を統一機種として採用し、各地域航空会社に
会社体力に合わせたリース料でリースする。 購入費とリース料の差額、及び大きすぎる機材使用
による損失は国及び関係地方自治体が補填する。
第二案:各社はその路線特性に合わせた航空機、即ち現在の保有機の使用を原則とする。 HACは既に
延命策を講じたSaab340Bを継続使用し、ORCはDHC-8-200をJACから入手しやすいSaab340B
と交代させ、HAC、JACとの共通機種の使用による運用上のスケール・メリットを得ることにする。
国は機材交代に伴う問題については必要な支援を手配する。 CUKは、現有のDornier228-200を、
AMXとJACはATR42-600を、RACは路線の特殊性に鑑み、既定のDHC-8-Q400CCを継続使用
する。 結果としてこのアライアンスは、Dornier228-200、Saab340B、ATR42-600及び
DHC-8-Q400CCの四機種を運用することになる。
当所は各社の路線特性の違いにより、ATR42-600に機種統一するのは無理があると考えるので、多額の新規投資が発生するのを避けるためにも、基本的に現有機材を利用する第二案の選択が適当と考える。
6.路線網の接続
研究会に於ける具体的な統合運営体制とはどんな姿なのかはまだ不詳であるが、本報告では前述の理由により統一機種は採用せず、代案として事業運営について連携するアライアンスを提案するが、その中心課題は「路線網のあり方」と「サービスのあり方」になると考え、それ故に本報告の検討はその2点に集中させる。
(1)路線網のあり方
「路線網のあり方」を第一に取り上げるのは、連携を強化しようとしても各社の路線網が隔離されていれば、現実論として協力体制を構築することは難しく、実施したとしても中途半端なものになる。 例えば機材を共用しようとしても機材の移動は空輸によるが、路線網が接続していれば営業ダイヤの中で機材の交代ができる。 現在の第2表にかかげた地域航空会社の路線網の接続状態を第3表に示すことにする。
地域航空6社の使用空港
空港 |
HAC |
CUK |
ORC |
AMX |
JAC |
RAC |
釧路 |
● |
|
|
|
|
|
利尻 |
● |
|
|
|
|
|
丘珠 |
● |
|
|
|
|
|
函館 |
● |
|
|
|
|
|
三沢 |
● |
|
|
|
|
|
調布 |
|
● |
|
|
|
|
新島 |
|
● |
|
|
|
|
大島 |
|
● |
|
|
|
|
神津島 |
|
● |
|
|
|
|
三宅島 |
|
● |
|
|
|
|
伊丹 |
|
|
|
● |
● |
|
但馬 |
|
|
|
|
● |
|
出雲 |
|
|
|
|
● |
|
隠岐 |
|
|
|
|
● |
|
福岡 |
|
|
● |
● |
● |
|
対馬 |
|
|
● |
|
|
|
壱岐 |
|
|
● |
|
|
|
長崎 |
|
|
● |
|
|
|
福江 |
|
|
● |
|
|
|
熊本 |
|
|
|
● |
|
|
天草 |
|
|
|
● |
|
|
松山 |
|
|
|
|
● |
|
鹿児島 |
|
|
|
|
● |
|
種子島 |
|
|
|
|
● |
|
屋久島 |
|
|
|
|
● |
|
喜界島 |
|
|
|
|
● |
|
奄美大島 |
|
|
|
|
● |
● |
徳之島 |
|
|
|
|
● |
|
沖永良部 |
|
|
|
|
● |
|
与論 |
|
|
|
|
● |
● |
北大東 |
|
|
|
|
|
● |
南大東 |
|
|
|
|
|
● |
那覇 |
|
|
|
|
|
● |
宮古 |
|
|
|
|
|
● |
石垣 |
|
|
|
|
|
● |
久米島 |
|
|
|
|
|
● |
与那国 |
|
|
|
|
|
● |
多良間 |
|
|
|
|
|
● |
註:2017年4月現在。赤字は複数の地域航空会社使用している空港を示す。
第 8 表
第8表の38空港のうち、複数の地域航空会社が使用しているのは4空港しかなく、それではアライアンスの効用を最大限に利用できないので、これら38空港を全て連結した路線網にする必要がある。 そうすれば、営業ダイヤを利用しての機材交代が可能になり、接続空港に於ける空港業務の共用化も可能になって、アライアンスの効用を最大限発揮出来るようになる。 HAC-CUK-JACの路線網を接続するために開設する路線候補として可能な限り既に他社が運航していない区間とすればHACとJACの連結のためには札幌〜庄内〜伊丹、HACとCUKの連結のためには函館〜仙台〜新潟、新潟〜佐渡〜調布を考える。 運航は札幌〜庄内〜伊丹はJAC、函館〜仙台〜新潟はHAC、新潟〜佐渡〜調布をCUKが担当するのが適当であろう。 以上の措置により伊丹に於いてHAC-JAC、新潟でHAC-CUKの路線が接続できるようになる。 調布空港や伊丹空港には現在乗り入れ制限があるが、それは解決できるとして進めることにする。
(2)アライアンスのサービスのあり方
地域航空6社のアライアンス結成により、サービスのあり方の統一のために設定すべき基本的条件は、次のようなことと考える。
- 路線相互乗り入れの要領の策定と統一運賃体系の制定、乗り継ぎ料金の設定
- 予約システムの構築とダイヤ調整会議の設置
- 統一サービス基準及び各社のオリジナル・サービスのあり方
- 及び営業・運送についての統一業務処理要の設定と共用施設設置の促進
- 共通の要員養成プログラム
- 全保有機を各社の共通事業機として活用出来る仕組みの設定
共通の業務-例えば要員の教育・訓練施設、複数の会社が使用する空港に於けるグラウンド・ハンドリング体制など-については各社で重複して体制整備しないように、分担を予め決めておく必要もある。
7.ANAウイングス路線の継承
将来に発生する可能性が考えられる事態として、ANAウイングスの一部路線からの撤退がある。
ANAウイングスの撤退が予想される路線
路線 |
便数/日 |
旅客数(人) |
座席利用率 |
MRJ利用率 |
1便減利用率 |
備考 |
中部〜秋田 |
3 |
68.006 |
61.6% |
50.6% |
75.9% |
|
中部〜新潟 |
2 |
57,264 |
53.0% |
43.6% |
|
|
中部〜松山 |
4 |
124,650 |
57.7% |
47.4% |
63.2% |
|
伊丹〜青森 |
3 |
94,610 |
58.6% |
48.2% |
72.3% |
JAL4便運航 |
伊丹〜秋田 |
3 |
106,192 |
65.7% |
54.0% |
81.0% |
JAL3便運航 |
伊丹〜大分 |
3 |
109,017 |
67.3% |
55.3% |
83.0% |
JAL3便、IBX1便運航 |
福岡〜福江 |
2 |
49,701 |
46.5% |
38.2% |
|
ORC2便運航 |
新千歳〜稚内 |
2 |
52,900 |
49.0% |
40.3% |
|
|
新千歳〜女満別 |
3 |
92,116 |
57.0% |
46.9% |
70.4% |
JAL3便運航 |
新千歳〜中標津 |
3 |
105,747 |
65.3% |
53.7% |
80.6% |
|
新千歳〜釧路 |
2 |
65,329 |
60.6% |
49.8% |
|
|
新千歳〜函館 |
2 |
65,855 |
61.0% |
50.2% |
|
|
新千歳〜秋田 |
2 |
54,169 |
50.2% |
41.3% |
|
JAL2便運航 |
新千歳〜新潟 |
2 |
63,510 |
58.8% |
48.3% |
|
JAL3便運航 |
註:全国地域航空システム推進協議会 平成29年度通常総会資料から引用、実績は2016年度。
第 9 表
ANAウイングスはBoeing 737-500とDHC-8-Q400を運航しているが、2020年ごろに三菱MRJが導入されてDHC-8-Q400と交代すると見られる。 そうなるとDHC-8-Q400は74席であるがMRJは90席なので、現在でも大部分の路線で座席供給が過多なのに、さらに悪化すると予想される。 その時はそれらの路線から撤退することも考えられるので、そのような路線を本報告で提案しているアライアンスが継承できる可能性もあると思う。 それでANAウイングスがDHC-8-Q400で運航している路線の現況とMRJと交代した時の影響を第9表に纏めたが、取り上げた14路線は全般的に見て機材交代後は採算が維持できるとは考えられず、最終的にANAウイングスはこれら14路線から撤退する可能性が大きいと思う。 また現在3便/日以上を運航している路線では、1便減として座席利用率を維持しようとすることも考えられるが、それは他社との競合路線にあっては、競争維持の観点から採用できないと思う。 さらに希望的観測としてはANAが現在唯一の伊豆諸島路線である東京〜八丈島線をA320で3便/日運航しているが、座席利用率が50%強でしかないので、いつ迄路線を維持するのか疑問がある。 もしANAが撤退するならば、その時はCUKが800m滑走路運航のできるATR42を導入して受け皿となれれば良いと思う。 まだ先のことであるので断定的なことは言えないが、これは地域航空会社が事業拡大できる機会になるので、それもあらかじめ念頭におくべきと考える。
8.地域航空空白地域への対処
今までの研究会に関する報道に於いて全く不明なのは、地域航空を含めた航空サービスのない地域への対処である。 それは現状をそのまま容認して良いことだろうか。 空港がないために航空サービスが提供できないところに新たに空港を建設してまで航空サービスを提供しようとするのには、コスト・パーフォマンスの観点から異論があろうが、すでに飛行場があるところには妥当な条件で航空サービスを提供でるかどうか、少なくとアライアンスの検討対象にすべきではないかと考えるのである。 そのような候補地を紹介する。
航空サービス空白地域の飛行場
飛行場名 |
管理者 |
所在地 |
滑走路長 |
推定後背地人口 |
宇都宮飛行場 |
陸上自衛隊 |
栃木県宇都宮市 |
1,700m |
200万人(栃木県) |
入間飛行場 |
航空自衛隊 |
埼玉県狭山市 |
2,000m |
240万人(埼玉県の1/3) |
厚木飛行場 |
海上自衛隊 |
神奈川県綾瀬市 |
2,439m |
360万人(神奈川県の4割) |
岐阜飛行場 |
航空自衛隊 |
岐阜県各務原市 |
2,700m |
207万人(岐阜県) |
第 10 表
但し、第10表に掲げる飛行場は全て防衛省管轄であるので、防衛庁から使用許可を取り付ける必要があるが、 防衛省管轄の飛行場への民間機乗り入れには、小松や徳島など6空港で前例があり、三沢と岩国のように米軍管轄の飛行場への乗り入れの例もある。
9.総括
本報告に於いて、地域航空の持続のために統一機材の採用よりも、地域航空6社のアライアンス結成によるサービスの向上と運用のスケール・メリットの創出を提案しているが、実現のために問題となることは、このような課題を関係者が協議する場がないことである。 それ故に地域航空の持続的発展と言っても、現在は業界として検討し、実行するための仕組みがない。 定期航空には「定期航空協会」と言う業界団体があるが、地域航空には「地域航空協会」はない。 現在は「全国地域航空システム推進協議会」が事実上業界団体を代行しているような形になっているが、既存の地域航空に関係していない地方自治体の参加も多く、実態的には地域航空業界の推進団体と言うよりも、地域航空を待望する地方自治体の陳情団体との色合いの方が濃いように見ている。 それで地域航空業界全体の将来発展を期すために、地域航空会社により結成される「地域航空協会」の設立を提案したい。 協会に加入する関係者としては、地域航空会社のみではなく、関係地域の地方自治体、国の助成を受ける場合もあるので国にも参加してもらわなければならない。 なお、JACはすでに「定期航空協会」に加入しているが、「地域航空協会」にも是非とも加入してもらわなければならないと思う。 この地域航空協会に於いて、地域航空の将来的発展のために本報告で提案するアライアンスの是非や別のアイデアについて討議することを期待したい。以上