Ref.No.2022.11 2022.12.24
オリエンタルエアブリッジのATR42導入
コミュータービジネス研究所
1.はじめに
長崎県のオリエンタルエアブリッジ(ORC)が導入決定したATR42-600(48席)の1号機が、12月5日に長崎空港に到着した。 我が国の地域航空会社6社の中で、実に4社-北海道エアシステム(HAC)、天草エアライン(AMX)、日本エアコミューター(JAC)と今回加わったORC-がATR42/72を導入したことになる。
ORCは2022年4月ダイヤでは、DHC-8-200(39席)(以下Q200と略す)3機と全日本空輸(ANA)からDHC-8-Q400(74席)(以下Q400と略す)をリースして18便/日を運航している。 一般的には地方路線は一定の固定需要はあるものの、需要の成長は殆どないと言う特色を持っており、ORCについてもこれまで使用してきたQ200の後継機も30席級機で十分ではないかと見るのだが、現在生産中の30席級機はない。
それで今回のATR42-600の導入は、DHC-8-Q200の後継機としてであり、それで購入機数が2機となったものと解釈する。 現在保有しているQ200は3機であるが、6便/日しか運航していないので、ATR42は2機で十分運用できると考えたのであろう。 現在のところ、ORCはANAよりQ400をリースし、自社路線の一部とANAから移管された九州内Q400路線にも投入して凌いでいると見るが、Q400の運航についてはANAの全面的技術支援の下で行われていると推察する。 これは事業規模を拡大して事業運営にスケール・メリットを得たいORCとQ400に投入しているリソース-主として乗務員をより効率的に利用したいANAの利害が一致したからと見ている。 しかし、いずれANAのQ400が全機退役してANAの技術支援が期待できなくなり、ORCのQ400も維持不能になるので、今後導入できる唯一の候補機種であるATR42を少数機導入して、将来の機種交代に備えたことと推測する。 それで本報告でその意図が妥当性を検証することにした。
2.ORCの現況
ORCは旧名を長崎航空と言い、主として長崎県下の離島路線を運航する実質的に県営航空会社である。
現在の運航路線は次のとおりである。
ORCの運航路線(2022年4月)
区間 |
区間距離 |
使用機材 |
便数/日 |
備考 |
長崎〜対 |
217km |
DHC-8-Q200/Q400 |
3/1 |
ANAとコードシェア |
長崎〜壱 |
126km |
DHC-8-Q200 |
2 |
ANAとコードシェア |
長崎〜福 |
149km |
DHC-8-Q200/Q400 |
1/1 |
ANAとコードシェア |
福岡〜宮 |
307km |
DHC-8-Q400 |
5 |
ANAとコードシェア、ANAも1便/日を運航 |
福岡〜対 |
190km |
DHC-8-Q400 |
2 |
ANAとコードシェア、ANAも3便/日を運航 |
福岡〜福 |
260km |
DHC-8-Q400 |
3 |
ANAとコードシェア |
福岡〜小 |
802km |
DHC-8-Q400 |
2 |
ANAとコードシェア、ANAも2便/日を運航 |
計 |
Q200-6/Q400-14 |
第 1 表
第1表からORCはQ200、3機で6便/日しか運航していない。 またQ400は5機程度をANAから時間リースして運用していると見ている。 これらの路線のORCの使用機種と運航便数の変遷を第2表に示すが、いずれも年度始めの4月現在のもので、運航便数は基準的な運航便数/日であって、季節増便は含んでいない。 第2表に見るように、2018年度からQ400が導入されて、Q200の運航便数は変わらないがQ400路線(赤字で示す)の拡張により事業規模を拡大しているのがわかる。
ORC運航路線の使用機種と運航便数/日(2022年4月)
区間 |
2014 |
2015 |
2016 |
2017 |
2018 |
2019 |
2020 |
2021 |
長崎〜 |
Q200/3 |
Q200/3 |
Q200/3 |
Q200/3 |
Q200/3 |
Q200/3 |
Q200/2 Q400/1 |
Q200/2 Q400/1 |
長崎〜 |
Q200/2 |
Q200/2 |
Q200/2 |
Q200/2 |
Q200/2 |
Q200/2 |
Q200/2 |
Q200/2 |
長崎〜 |
Q200/3 |
Q200/3 |
Q200/3 |
Q200/3 |
Q200/3 |
Q200/3 |
Q200/3 |
Q200/3 |
福岡〜 |
Q400/4 |
Q400/5 |
Q400/5 |
Q400/5 |
||||
福岡〜 |
Q400/2 |
Q400/2 |
||||||
福岡〜 |
Q200/2 |
Q200/2 |
Q200/2 |
Q200/2 |
Q200/2 Q400/1 |
Q200/2 Q400/1 |
Q400/3 |
Q400/3 |
福岡〜 |
Q400/2 |
Q400/2 |
Q400/2 |
|||||
Q200便数 |
10 |
10 |
10 |
10 |
10 |
10 |
7 |
7 |
Q400便数 |
5 |
8 |
13 |
13 |
第 2 表
2.ORCへのQ400導入による変化
第2表に掲げたようにQ400の導入により、ORCは2018年度より急速に事業規模を拡大した。 その輸送旅客数の変化を第1図に図示する。
第 1 図
第1図でわかるように、長崎起点の離島3路線はここ7年間には殆ど成長は見られず、事業規模拡大にはANAから移管されたQ400で運航している福岡〜宮崎線、福岡〜対馬線及び福岡〜小松線が貢献している。
新たにORCが運航することになったQ400路線は、どれも座席利用率が高かったので、総合的座席利用率は2014年度の52.1%が2019年度では61.9%にまで増加した。 しかし2020年度は新型コロナ禍の影響で大幅に低下しているが、これは航空運送業界共通の現象である。 その変化は第2図に示しているが、2019年度までは採算分岐点座席利用率は達成できていたと推測する。
第 2 図
しかし、2020年度は新型コロナにより座席利用率は損益分岐点座席利用率以下となり、2021年度でもまだ回復していないと見られる。
3.ORCの今後の展開
前述のようにORCはQ400を4機程度運用するようになったが、ANAにはまだ20機くらいが残っている。
第3表にANAが現在Q400だけで運航している路線を示すが、掲げた24路線55便/日のうち、今後どこまでORCに移管するのかが問題になる。 ORCは実質的に長崎県営航空とも言えるので、原則として県外路線でも進出範囲には制約があり、特に赤字が予想される路線に進出することはないと推測する。
それでORCがQ400で運航する路線は、現在全てORC/ANAのダブル・トラックで運航している福岡起点路線で、現在ANAが運航している7便は全てORCの運航が優先されると予想する。 これでANAはQ400を2機は、ORCに移管できる。 伊丹起点路線では、西日本地区内の路線、伊丹〜高知/6便と伊丹〜大分/3便の2路線9便、Q400、2機分もORCに移管する可能性もありそうである。 前述のようにORCは無制限に路線網を拡大できるとは考えられず、それでANAは中部と新千歳起点の15路線/31便は、ORCに移管されずに最終的には廃止されると予想する。 もし31便/日が廃止されると、それでQ400を7機は退役することができると算定する。 要約すると、現在ANAが運航している福岡起点路線の4路線7便と前述の伊丹起点路線の西日本内の2路線9便/日の合計16便/日をORCに移管すると、ANAの運用機数を4機程度減らすことができる。 この場合、伊丹への機材の回航が必要になるので、回航路線として伊丹〜宮崎線のQ400便の3便/日のうち、1〜2便/日をORC便とする必要が生じると見ており、その1機を稼働させる必要がありそうなので、この措置で退役Q400は3機と予測する。 それで福岡起点と伊丹起点間のQ400路線の一部をORCに移管することで3機、そして中部及び新千歳起点路線の15路線/31便/日を廃止することで7機と、ANAは合計で10機は退役させられることになる。 なお第3表ではANAがORCに移管できる路線は青字、廃止できる路線を赤字で示している。
ANAが自社運航しているQ400単独運航路線/運航便数/日(2022年4月)
区分 |
福岡起点路線 |
伊丹起点路線 |
中部起点路線 |
新千歳起点路線 |
現行路線/運航便数 |
福岡〜小松/2 |
伊丹〜青森/3 |
中部〜秋田/2 |
新千歳〜稚内/2 |
福岡〜宮崎/1 |
伊丹〜秋田/3 |
中部〜仙台/3 |
新千歳〜女満別/ |
|
福岡〜対馬/3 |
伊丹〜福島/2 |
中部〜新潟/1 |
新千歳〜中標津/ |
|
福岡〜福江/1 |
伊丹〜高知/6 |
中部〜松山/1 |
新千歳〜釧路/3 |
|
伊丹〜大分/3 |
中部〜熊本/3 |
新千歳〜函館/2 |
||
中部〜宮崎/2 |
新千歳〜青森/2 |
|||
新千歳〜秋田/2 |
||||
新千歳〜福島/1 |
||||
新千歳〜新潟/2 |
||||
合計路線数/運航便数 |
4路線/7便 |
5路線/17便 |
6路線/12便 |
9路線/19便 |
移管/廃止路線数/運航便数 |
4路線/7便 |
2路線/9便 |
6路線/12便 |
9路線/19便 |
第 3 表
結論として現在ANAが運航している福岡と伊丹起点路線の16便/日の運航をORCに移管し、そして中部起点と新千歳起点の15路線/31便を廃止すれば、ORCへの移管分として4機、中部起点と新千歳起点路線の廃止で7機は不要になると推測されるので、ANAとしてはQ400を11機は退役できると予想する。 ANA路線でジェット機とQ400を並行運航している路線もあるが、これらはダイヤの調整でQ400を退役できると考えるが、ANA/ORCがQ400を運用している間は、ANAのQ400運航支援体制を維持しなければならないと言うジレンマを抱えている。
4.ORCのATR42導入
前述のように現在までANA Q400のORC移管が進められてきたが、いずれはQ400が退役する時が来る。
その時にはATR42/72を導入するしか選択肢がないので、それを見込んで当面はQ200の交代としてATR42を2機導入しているものと推察する。 Q200は長崎県下の離島路線を3機で運航しているが、6便/日しか稼働していないので、ATR42は2機でも十分運用できると見ているようである。 こうして見るとORCは当面は、Q400を主力機として本土内路線を、ATR42で離島路線を運航することを意図していると推測される。
問題は当面のQ400の運航が提供座席過多の恐れがあることにある。 新型コロナ禍前の2019年度でも全線総合の座席利用率が61.9%で、推測するに採算ぎりぎりであり、新型コロナ禍後の2021年度の実績座席利用率は48.8%なので損益分岐点座席利用率を下回っているのは確実で、今後の需要回復の度合いでは収支が赤字に転ずる可能性は十分にある。 しかし、今年の8月22日にANA/JAL/ORC/AMX/JACで結成された「地域航空サービスアライアンス有限責任事業組合(LLP)が結成され、ORCはANAに加えてJALともコードシェアするようになったので、その機能が発揮されて販路が広がることに期待することになる。 またそのようなANA/JAL盧グループ越えの会社間のつながりが拡大して、ATR42/72を運航する4社-HAC/ORC/AMX/JACで、相互の技術支援が拡大することも期待される。 このようにORCの最近の動向を追跡していて分かったことは、ANAはまだQ400の後継機問題に結論をだしていないと見られることである。 それ故に、ORCは苦しくとも現体制を維持するしか方法はなさそうであるが、Q200、3機をATR42、2機と交代することによるコスト削減で、どのくらい現体制の不利を相殺できるのか注目して行きたい。
以上