Ref.No.2016.04 201505.12
離島航空路の将来
1.離島航空の危機
日本は島国であり、北海道、本州、四国及び九州と言う四つの大きな島と、多数の島嶼から成り立っている。 これらの島嶼から最寄りの都市への連絡手段として、船舶又は航空機による航路が開設されている。
当所の取り扱うテーマは航空であるから、今回は航空機による離島航路問題を取り上げることにした。
その理由は、我が国の航空会社の使用航空機の大型化が着々と進んでおり、需要の少ない離島路線への影響が懸念されるからである。 例えば現在ANAの使用する最小航空機はDHC-8-Q400(74席)であるが、近い将来に90席のMRJ90に交代する見込みであり、JALグループの最小型航空機のSaab340B(36席)は退役が始まったと見られ、近い将来には76席のEmbraer 170が最小機材に成りそうであり、その結果使用機材に対して需要不足となり結果として廃止と成る路線がいくつ出てくるのだろうか。 この他に離島航路は地域航空会社に大きく依存しているが、その保有機で交代時期が近づいているものもあり、その対処方法によりその後の路線存続に影響する場合も予想され、特に離島路線の取り扱いがどうなるのか懸念されるのである。
2.我が国の離島空港
我が国の民間航空の利用出来る離島空港の現状は次の通りである。 但し天草空港や下地島空港のように架橋により連絡路が確保されている島は除外し、また那覇空港は幹線空港としての性格が強いので除外した。
日本の離島航空路線(2016年4月現在)
所在都道府県 |
空港 |
滑走路長(m) |
開設路線 |
使用航空機 |
航空会社 |
摘要 |
北海道 |
礼文 |
800 |
なし |
利尻まで船舶0:45 |
||
利尻 |
1,800 |
丘珠〜利尻 |
Saab340B |
HAC |
||
奥尻 |
1,500 |
函館〜奥尻 |
Saab340B |
HAC |
||
新潟県 |
佐渡 |
890 |
なし |
新潟までJetfoil 1:05 |
||
東京都 |
大島 |
1,800 |
調布〜大島 |
Dornier 228 |
N.C.A |
|
新島 |
800 |
調布〜新島 |
Dornier 228 |
N.C.A |
||
神津島 |
800 |
調布〜神津島 |
Dornier 228 |
N.C.A |
||
三宅島 |
1,200 |
調布〜三宅島 |
Dornier 228 |
N.C.A |
||
八丈島 |
2,000 |
羽田〜八丈島 |
B738/A320 |
ANA |
||
島根県 |
隠岐 |
2,000 |
伊丹〜隠岐 出雲〜隠岐 |
DHC-8-Q400 Saab340B |
JAC JAC |
|
長崎県 長崎県(続き) |
対馬 |
1,800 |
福岡〜対馬 長崎〜対馬 長崎〜福江 |
B737-500 DHC-8-Q400 DHC-8-200 DHC-8-200 |
ANA ANA ORC ORC |
|
壱岐 |
1,200 |
長崎〜壱岐 |
DHC-8-200 |
ORC |
||
小値賀 |
800 |
なし |
佐世保まで船舶最短1:30 |
|||
上五島 |
800 |
なし |
長崎までJetfoil 1:15 |
|||
福江 |
2,000 |
福岡〜福江 |
DHC-8-Q400 DHC-8-200 |
ANA ORC |
||
鹿児島県 |
種子島 |
2,000 |
鹿児島〜種子島 |
Saab340B DHC-8-Q400 |
JAC |
|
屋久島 |
1,500 |
伊丹〜屋久島 福岡〜屋久島 鹿児島〜屋久島 |
DHC-8-Q400 |
JAC |
||
喜界島 |
1,200 |
鹿児島〜喜界島 奄美大島〜喜界 |
Saab340B |
JAC |
||
奄美大島 |
2,000 |
羽田〜奄美大島 伊丹〜奄美大島 福岡〜奄美大島 鹿児島〜奄美大 那覇〜奄美大島 |
B737-800 B737-800 DHC-8-Q400 DHC-8-Q400 Saab340B DHC-8-Q400 |
JAL JAL JAC JAC JAC RAC |
||
徳之島 |
2,000 |
鹿児島〜徳之島 奄美大島〜徳之 |
DHC-8-Q400 Saab340B |
JAC JAC |
||
沖永良部 |
1,350 |
鹿児島〜沖永良 奄美大島〜沖永 沖永良部〜与論 |
DHC-8-Q400 Saab340B Saab340B |
JAC JAC JAC |
||
与論 |
1,200 |
鹿児島〜与論 奄美大島〜与論 沖永良部〜与論 那覇〜与論 |
DHC-8-Q400 Saab340B Saab340B DHC-8-300 |
JAC JAC JAC RAC |
||
沖縄県 沖縄県(続き) |
伊江島 |
1,500 |
なし |
本部港まで船舶0:30 |
||
粟国 |
800 |
なし |
那覇まで船舶1:15 |
|||
久米島 |
2,000 |
那覇〜久米島 |
DHC-8-300/400 B737-400 |
RAC JTA |
||
宮古 |
2,000 |
羽田〜宮古 関西〜宮古 那覇〜宮古 宮古〜新石垣 |
B737-400 B737-800 B737-800 B737-400 DHC-8-Q400 B737-500/800 B737-800 DHC-8-100 |
JTA ANA ANA JTA RAC ANA ANA RAC |
||
慶良間 |
800 |
なし |
那覇まで船舶0:50 |
|||
南大東 |
1,500 |
那覇〜南大東 南大東〜北大東 |
DHC-8-100/300 |
RAC |
||
北大東 |
1,500 |
那覇〜北大東 南大東〜北大東 |
DHC-8-100/300 |
RAC |
||
多良間 |
800 |
宮古〜多良間 |
DHC-8-100 |
RAC |
||
新石垣 |
2,000 |
羽田〜新石垣 中部〜新石垣 関西〜新石垣 福岡〜新石垣 那覇〜新石垣 宮古〜新石垣 新石垣〜与那国 |
B737-700/800 B734-400 B737-800 A320 B737-800 B734-400 B737-500 B737-400 DHC-8-100 737-500 B737-800 DHC-8-100 DHC-8-100/Q400 |
ANA JTA JTA APJ ANA JTA ANA JTA RAC ANA ANA RAC RAC |
||
波照間 |
800 |
なし |
石垣まで船舶1:00 |
|||
与那国 |
2,000 |
那覇〜与那国 新石垣〜与那国 |
DHC-8-100 DHC-8-100/Q400 |
RAC RAC |
註:滑走路長を赤字でしめしているのはジェット空港を示す。
第 1 表
第1表に掲げる離島空港で現在定期便が就航していない空港が8空港あるが、それらの離島でも殆どが船舶交通の所要時間が2時間以内なので、航空の必要性は低いと見られる。
2.現使用航空機の現状と問題点
離島路線の維持に関わるもう問題の一つは、使用航空機の問題は高齢化である。 現在離島路線に使用されている航空機の現状は次のとおりである。
離島航空に投入されている航空機の現状と将来
機種 |
運航会社 |
運航機数 |
最高齢機登録年月日 |
後継機計画 |
Airbus A320-200 |
ANA |
12 |
2008.05.20(JA51CA) |
A320 neoを発注済み |
Boeing737-400 |
JTA |
12 |
1995.09.19(JA8525) |
Boeing 737-800に決定 |
Boeing737-500 |
ANA |
18 |
1996.09.17(JA8195) |
MRJに交代の予定 |
Boeing737-700 |
ANA |
12 |
2006.01.26(JA02AN) |
737-800に統一の方針 |
Boeing737-800 |
ANA |
31 |
2008.05.20(JA51AN) |
フリート拡大中 |
JAL |
50 |
2006.11.15(JA301J) |
当分の間JAL中型機の主力 |
|
DHC-8-100 |
RAC |
4 |
2003.02.06(JA8935) |
DHC-8-Q400CCに交代する予定 |
DHC-8-200 |
ORC |
2 |
2001.03.22(JA801B) |
未定 |
DHC-8-Q300 |
RAC |
1 |
2007.02.23(JA8936) |
DHC-8-Q400CCと交代する予定 |
DHC-8-Q400 |
JAC |
10 |
2002.10.03(JA841C) |
当分継続使用すると予想 |
ANA |
21 |
2003.07.24(JA841A) |
MRJと交代と見る |
|
DHC-8-Q400CC |
RAC |
1 |
2016.03.16(JA82RC) |
今後フリートを増強すると予想 |
Dornier 228-200 |
NCA |
5 |
1999.10.20(JA31CA) |
フリート拡大中 |
Saab340B |
JAC |
10 |
1992.02.06(JA8886) |
ATR42-600が事実上の後継機 |
HAC |
3 |
1998.02.04(JA01HC) |
未定 |
註:赤字は導入以来15年以上経過しているものを示す。
第 2 表
第2表に掲げている航空機のうちでそろそろ交代を考慮すべき機齢15年超過の機種は、Boeing737-400/500、DHC-8-200、Dornier228-200及びSaab340Bの5機種ある。 但し中型ジェット機以上の航空機については、その後継機が既に導入されつつあるので将来に不安はなく、問題として取り上げないことにする。
それで問題になるのは、後継機計画が見えていないORCのDHC-8-200とHACのSaab340Bであり、どちらも30席級である。 離島路線の需要は手堅く変動は少なく成長もないのが特徴であり、後継機には今迄と同級機が望ましいが現在生産中の30席級旅客機は存在せず、それが後継機問題の解決を難しくしている。 30席機に最も近い現在生産中の航空機はATR42-600(48席)であるが、それでも大きすぎる場合もある。 ORCの場合も50席級機の必要性は低いが、ORCは長崎県関係団体との第三セクター会社であるので路線廃止は考えられず、現在も協力関係にある天草エアラインの採用したATR42-600に追従するのではないかと推測するが、結局は長崎県の財政措置の問題と考える。
HACについては、同じJALグループのJACがATR42-600の採用を昨年に決めたが、HACのSaab340Bの後継機については全く触れておらず、当所はJALがHACを存続させるのかどうか疑問を持っている。
北海道内路線について、JALは既に札幌〜女満別線はJ-AIRが小型ジェットで運航しており、HACの運航している路線も函館〜奥尻線を除きJ-AIRに運航させることは物理的には可能なので、HACを残す必要性は低いと思う。 それでJ-AIRの就航する路線範囲を拡大すればHACの問題は解決し、ANAに対抗する競争力を強化出来る可能性がある。 その際問題になるのは、離島路線の札幌〜利尻線及び函館〜奥尻線である。 利尻線は札幌川空港を丘珠空港から新千歳空港に代えることによりEmbraer 170でも運航可能になるが、奥尻空港は滑走路長が1,500mなので、Embraer 170と交代出来ない。 JALはHACの完全子会社化を発表しているが、わざわざそれをした本意はなになのか不明である。 当所はJALがHACの処分についてのフリーハンドを持っていることの宣言であると見ており、そして近い将来にはHACを清算する意図があると推測する。 そしてその時に利尻線の通年運航は取りやめて、ANAと同じ季節運航に振り替え、函館〜奥尻線については撤退を表明すると予想する。 そのように現段階に於いて機材問題で存続に問題が生じそうなのは、HACの函館〜奥尻線と予想し、今後どう事態が進展するのか注目して行きたい。
3.定期便のない離島空港の現状
現在航空による定期便が開設されていない離島空港についての状況を取りまとめる。
現在定期便の就航していない空港の現状
空港 |
定期航空のない理由 |
将来の見通し |
礼文 |
地元の地域航空会社、HACの保有するSaab340Bでは、800m滑走 |
最寄りの利尻空港までは船舶で45分なので、航空の必要度は低 |
佐渡 |
佐渡空港の890m滑走路に就航出来る航空機を運航する航空会 |
航空による佐渡〜新潟線の開設は必然性がなく、新潟 |
小値賀 |
地元の地域航空会社、ORCの保有するDHC-8-200では、800m滑 |
最寄りの港、佐世保迄の船舶は最短1時間30分で航空は必ずし |
上五島 |
地元の地域航空会社、ORCの保有するDHC-8-200では、800m滑 |
最寄りの港、佐世保迄の船舶は1時間25分で事情は小値賀に同 |
伊江島 |
沖縄本島迄は船舶で解決済みと見る。(所要時間30分) |
問題なし |
粟国 |
地元の地域航空会社琉球エアコミューター(RAC)に800m滑走路で なお第一航空が不定期便開設をもくろんだが事故を起こし頓挫。 |
第一航空が一時路線開設していたが、事故により現在は休止中 |
慶良間 |
沖縄本島迄は船舶で解決済みと見る。(所要時間50分) |
問題なし |
波照間 |
石垣島迄は船舶で解決済みと見る。(所要時間1時間) |
問題なし |
第 3 表
こうして見ると日本の離島航空路線は、必要とされる処では航空路線は開設されており、現在路線が開設されていない島でも、必ずしも航空サービスが必要とは言えないようである。
3.離島航空の地域経済への貢献度の向上
しかし、今迄の離島航空は離島住民の日常生活の利便だけを目標として来ており、それについては目標を達成しているが、これから取り組むべきは今迄の目標に加えて、離島の地域経済の将来発展に寄与することも目標とすべきと考える。 即ち現路線に加えて、最も離島に経済効果をもたらしそうな路線開拓が必要と思う。 実例を挙げれば、島根県隠岐島には地域の日常拠点としての松江市への出雲線と観光客誘致路線と見られる伊丹線がある。 2014年度野輸送実績は出雲線が15,335人、伊丹線が27,558人であり、伊丹線が地域経済に貢献していることは容易に想像できるのである。 全ての離島に同じ機会があるとは思わないが、例えば礼文〜札幌線や小値賀、上五島〜福岡線等は、新たな需要を喚起出来る機会となる可能性がありそうな気がする。 それに関しての離島の現状を一表に纏めて見る。
離島路線の種別分類表
離島名 |
日常拠点性地点路線(運航会社) |
外部需要取り込み路線(運航会社) |
利尻 |
(稚内線はない) |
丘珠〜利尻(HAC) |
奥尻 |
函館〜奥尻(HAC) |
(奥尻〜札幌線開設が考えられる) |
大島 |
調布〜大島(NCA) |
(既に実質的に行われていると考えられる) |
新島 |
調布〜新島(NCA) |
(既に実質的に行われていると考えられる) |
神津島 |
調布〜新島(NCA) |
(既に実質的に行われていると考えられる) |
三宅島 |
調布〜新島(NCA) |
(既に実質的に行われていると考えられる) |
八丈島 |
調布〜新島(NCA) |
(既に実質的に行われていると考えられる) |
隠岐 |
出雲〜隠岐(JAC) |
伊丹〜隠岐(JAC) |
対馬 |
長崎〜対馬(ORC) |
福岡〜対馬(ANA) |
壱岐 |
長崎〜壱岐(ORC) |
(以前に福岡線が運航されていたが現在は廃止) |
福江 |
長崎〜福江(ORC) |
福岡〜福江(ANA,ORC) |
種子島 |
鹿児島〜種子島(JAC) |
(以前に伊丹線が運航されていたが現在は廃止) |
屋久島 |
鹿児島〜屋久島 (JAC) |
福岡〜屋久島、伊丹〜屋久島(JAC) |
喜界島 |
奄美大島〜喜界島(JAC) |
鹿児島〜喜界島(JAC) |
奄美大島 |
鹿児島〜奄美大島(JAC) |
羽田(JAL)、伊丹(JAL)、福岡(JAC)〜奄美大島 |
徳之島 |
奄美大島〜徳之島(JAC) |
鹿児島〜徳之島 (JAC) |
沖永良部 |
奄美大島〜沖永良部(JAC) |
鹿児島〜沖永良部(JAC) |
与論 |
奄美大島〜与論JAC) |
鹿児島〜与論 (JAC) |
久米島 |
那覇〜久米島(JTA,RAC) |
(既に実質的に行われていると考えられる) |
宮古島 |
那覇〜宮古(ANA,JTA,RAC) |
羽田〜宮古(ANA,JTA)、関西〜宮古(ANA) |
南大東 |
那覇〜南大東(RAC) |
(既に実質的に行われていると考えられる) |
北大東 |
那覇〜北大東(RAC) |
(既に実質的に行われていると考えられる) |
多良間 |
宮古〜多良間(RAC) |
(左記路線と同じと考えられる) |
新石垣 |
新石垣〜那覇(ANA,JTA,RAC) |
羽田〜新石垣(ANA,JTA)、関西〜新石垣 |
与那国 |
新石垣〜与那国(RAC) |
那覇〜与那国(RAC) |
第 4 表
第4表を見ると、多くの離島空港では、「日常拠点性のある地点」の空港への路線と「外部需要を取り込む」路線の二本立ての活用が進んでいることが判る。 現在定期路線が廃止されている離島空港で廃止以前に運航されていた路線は、みな「日常拠点性のある地点」の空港への路線だけであって、それらの路線は短距離区間で需要の成長も期待出来ず、使用機材の大型化で更に採算の悪化が予想された時点で路線は廃止されてしまったと見るのである。 それで今後離島空港の活用策としては、「日常拠点性のある地点」の空港への路線だけでなく、外部需要の取り込める路線開発と併せて取り組むべきと考える。 こう成っていたのは多分、現在の離島航空事業への助成制度に原因があると思う。 現在の國の助成制度は「日常拠点性のある地点」の空港への路線にだけ適用されるので、航空会社も関係地元も採算性を危惧するあまり國の補助金が貰えることだけが念頭にあったようにも見えるのである。 そして「外部需要の取り込み」と言えば聞こえは良いが、補助金なしで採算が取れるか不安なので路線開設をためらったと推量する。 しかし、実際の推移を見ると、むしろ二本立て路線にした空港は生き残っているのである。 その観点からすれば第4表に赤字で示した福岡〜壱岐線と伊丹〜種子島線は再開を検討すべきではないかと思う。
4.離島航空路線問題の総括
今後取り組むべき離島航空路線問題は次の三つと考えている。
1. 現在HACが運航している函館〜奥尻線の存続
2. 現在航空サービスの提供されていない離島空港—礼文、佐渡、小値賀、上五島、及び粟国の5空港への対策
3. 離島の発展に寄与する大需要地への路線開拓
(1) HACの離島路線の維持
函館〜奥尻線については、当所はSaab340Bを運航しているうちは維持されるが、その退役とともに廃止される公算が大きいと見ている。 その理由としてJALグループは将来には全ての道内路線をジェイエアのEmbraer 170(76席)で運航すると予想しているが、それは奥尻空港の1500m滑走路では運用出来ず、この区間の需要は年間一万人程度なので、廃止した方が採算は良くなる。 またこの機種は利尻線にも大きすぎる機材なので、通年運航はやめてANAの要に季節運航だけにすると予測する。 それ故に道内離島路線の維持にはJALグループに依存することなく、新会社を設立するしか方策が無さそうである。 もし新会社が設立出来れば、以前にHACが運航していた札幌以外の道内都市間路線の再開も可能性が出てくる。
(2)定期便のない離島空港への対策
現在航空サービスが提供されていない空港は伊江島空港の1,500も滑走路を除き全て800m級滑走路である。それ故に運航出来る機種に制約があり、現在入手出来る航空機では19席のRUAG Dornier228-200又はViking Air DHC-6-400の2機種である。 前者は新中央航空が導入しており、後者は第一航空が運用している。 それらの航空機を使用すれば、これら8空港のうち航空サービスが不要と見られる伊江島、慶良間及び波照間を除く5空港への路線再開は技術的には可能である。 今これらの空港に定期路線が開設されていないのは、運航する航空会社が名乗り上げてこないからである。 今迄考えられていた離島路線とは、当該離島と離島航空事業助成制度の「当該離島路線によって結ばれる地点が、当該離島にとって最も日常拠点性を有している」地点の空港への路線であり、即ち離島住民の利用がまず念頭にあったと見るのである。
ところが現実の問題として、現在航空サービスのない離島の住民が生活するのに困っているのかと言えば、それほど問題にしていないのではないかと思う。 それ故に、既存航空会社の誘致を熱心に運動したとか、新航空会社を設立しようと言う動きにはなっていない。 ここで想定される路線は短距離低需要区間であり、民間会社が進出するにはまことに魅力の乏しい市場である。 これらの離島からの路線開設は、結局地元の取り組み次第ということであろう。
(3)離島の発展に寄与する大需要地への路線開拓
日常拠点への路線開設も重要であるが、今後離島路線の改善に取り組もうとするならば、外部需要の取り込み、判りやすく言えば島への観光客誘致の手段としての取り組みが必要ではないかと考えるのである。
このような期待は実は今でも地元にも強いのだが、離島航空事業への取り組みが離島住民の足の確保に目的が置かれていたために、外部需要の取り込みと言う航空のあり方には考えが及ばなかったと推測する。
そこでこれからは発想を転換して、外部需要の取り入れ、具体的には島への観光客誘致のために地域航空の育成に投資するという視点も持つ必要があると思う。 外部需要の取り入れが成功すれば、その路線は商業的採算が取れるかも知れず、前述の隠岐の場合、伊丹線の旅客数は出雲線の1.8倍に及んでいるのである。
5.地域航空の有用性向上の取り組み
(1) 19席機導入の奨め
当所は地域航空の発展にとって使用機材の大型化は必ずしも追い風とは成らないと考えている。 特に需要の成長の見込めない離島路線は、機材の大型化イコール採算の悪化と読まれる場合の方が多い。 現に今迄廃止された路線は基本的に9席のBN-2アイランダーの退役に伴って廃止されている。 30席級機の後継機が50席級機と言うのでは需要が追いつかない可能性があるが、逆に19席機に小型化すれば、別の展望が開けるのではないかと思料するのである。 一般的には大型機を投入して少ない運航頻度で運航するよりも、小型機で多便数化した方が事業として成立する可能性が大きいと思う。 現在30席級機で運航されている路線も、30席級機での更新が出来ないので50席級機の投入が予測されるが、その場合座席利用率の低下が大きいと見込まれる路線は廃止される可能性がある。 それでそのような路線は50席級機を投入するよりも、19席機で運航することを検討したらどうかと思うのである。 そしてそれは現在定期便のない空港の路線開設についても、ハードルを少しは低くするであろう。
(2)佐渡空港に関するケース・スタディ
現在定期便のない離島空港の活用には前章で述べた二本立て路線開設が有効と考えるが、そのケース・スタディとしてとして佐渡空港を紹介する。
佐渡島の人口は6万人超えで、この報告で取り上げた離島のうちの最大市場である。 航空路線については過去に新潟〜佐渡線を新中央航空、旭伸航空や新日本航空がBN-2アイランダー(9席)で断続的に運航していたが、現在は運航されていない。 新潟〜佐渡間にはジェットフォイルが運航されており、所要時間は1時間5分で発着場所が市内に近いことなどから航空は競争力が低い。 新潟〜佐渡間は認可距離が67kmで、以前には国内最短区間と言われた奄美大島〜喜界島の81kmより短く、何も航空機を利用することはない。 佐渡空港を活用するには新潟線ではなく、関東、中京または近畿圏への路線の方が有効と考えるが、今まで誘致した航空会社がBN-2アイランダーしか運用できず、最も航空の効用を発揮しにくい新潟線しか開設できなかった。 それは地元の要求なのか、それとも9席機運航会社だけが名乗り上げて来たのからなのか経緯は知らないが、佐渡空港から想定出来る区間で最も航空の必要性の低い区間に路線を開設しても、それは地域住民の航空サービスに対する関心を増すことにはならなかったと推測する。
佐渡空港の歴史をたどれば、もともと1100m滑走路で建設されたが、その後進入表面から突出する障害物のあることが判明し、当該障害物を回避するために進入表面を移動しようと滑走路端の位置をずらして、滑走路長を890mとして運用することになった。 ところがそれは問題解決どころか就航出来る機種に制約を課すことになり、それが現在まで新潟線しか運航されなかった原因となっていると推測する。 当所は現状のままでも問題の障害物を回避する飛行経路を設定できれば1100m滑走路での運用は可能と見ているが、新潟線だけの運航となれば、現在の890m滑走路で十分と言う考えが出てくることも自然であろう。
しかし現状でも19席機の運用も可能であり、そうなれば関東、中京または近畿圏への路線開設が考えられるが、現実としては19席機運航会社が手を上げては来なかった。 しかし9席機運航会社を誘致して新潟〜佐渡線が開設されたので、空港の利用度が高まったと言う形は調えられた。 そして多分空港関係者は佐渡空港活用問題は解決した気分になったのではないかと憶測するのである。 少なくとも新潟以遠の空港への路線開設に努力したと言う形跡はない。 ところが新潟〜佐渡線だけでは問題解決にならず、それは別の問題を生んだと見るのである。 それは地域住民の航空サービスへの期待度の低下であるが、要するに佐渡島民は誰も佐渡空港から定期航空便を利用することに関心が薄くなったのである。 佐渡空港の活用に本気で取り組むならば、航空の有用性をもっと発揮出来る19席機による新潟以遠の路線開設を視野に入れて、その実現の方策を探るべきであった。 ただ19席機でも利用者に受けいれられるのか言う懸念はあろう。
日本に於ける19席機の運用で最も区間距離の長かったのは、JACの奄美大島〜与論線の256kmであった。 しかし佐渡空港から関東、中京または近畿圏への路線は、いずれももっと長距離になるので19級機が受け入れられるのかと言う懸念が生じても不思議ではない。 ただカタログデータから見るとDornier 228-200の巡航速度は413km/hrと小型機にしては早く、小型機での実用的な旅客輸送区間は経験的に1時間〜1時間半くらいまでと考えられるので、路線開設は可能と思う。 しかしその実現については、既存の航空会社が進出して来る可能性は皆無に近く、とは言え地元で新地域航空会社を設立する程の必要性も感じられないと言うのが地元の本音ではないかと推量する。 そのように離島路線の開設には、ただ手をこまねいてどこかの航空会社が手を上げて来るのを待つのではなく、関係地域が主体的に期待する路線開設促進に動かなければ実現しないと思う。 それには例えば、航空会社の創立も含め、航空会社に対する損失補填の保証や座席利用率保証などの手段を研究する必要があろう。
5.まとめ
日本には民間航空が使用出来る離島空港は33空港存在し、そのうち25空港に定期航空路線が開設されているので、総論としてみれば地域の日常生活の維持には十分な役割を果たしていると思う。 但し今後は使用機材の経年化が進むことも考慮する必要があり、現状維持も無制限に保証されてはいないことを認識すべきである。 また現在航空サービスのない島も困っているとも見えず、早急に取り組む問題では無さそうである。 しかし、航空路線の効能として、日常生活に利することの他に外部の大都市等からの観光客の誘致等、島の経済活性化にも有効である。 しかし地元によってはどのように取り組めば良いのか、十分周知されて居ない可能性もある。 それでも関係地方自治体の中にも既にその認識で動いているところもある。
離島路線ではないが、熊本県等関係地方自治体の支援により天草エアラインは既に高齢化したDHC-8-100に代わるATR42-600を導入し、兵庫県はJACに伊丹〜但馬線の委託運航に使用していたSaab340Bに代わるATR42-600の購入の為の予算措置に動き始めている。 離島空港の活用策として、当所はこの報告で述べた「日常拠点性のある地点」の空港への路線と、外部需要の取り込める路線の二本立てで推進するのが良いと考えている。 離島路線一般的には商業的採算性が良くないと見られているが、どちらかと言えば路線運営は航空会社のリスクであり、地元はその成果が棚ぼた式に落ちてくるのを待っているだけのようにも見受けられる。 地域航空、特に離島路線は市場規模も小さく商業的採算の取りやすい路線ではないが、その利用法によっては地域に大きな経済的波及効果をもたらす可能性は大きい。 そしてその開設と維持には地元関係者の一層の熱意と協力にかかっていることは全国共通課題であることを強調して置きたい。以上