7−3−H ボーイングの危機

Ref.No.2023.02                                                                       2023.01.08

ボーイングの危機

コミュータービジネス研究所

1.はじめに

2022年12月26日付けの朝日新聞の夕刊に「Another note米ボーイング復活のカギ 現場を重んじる経営の必要」という記事を見つけた。 その内容は737Maxの連続墜落事故によりボーイングの経営は急速に追い詰められており、これは米国型資本主義の行き詰まりを象徴しているとある。 米国の新聞、シアトル・タイムズの記者が、この一連の事故の背景を探究し、そこには株価至上主義に染まった企業文化、行きすぎたコスト削減、製造現場の軽視、規制当局との癒着、そうした土壌の上に危うい航空機が産みだされていたと報告している。 主力機種であった「747」系列は2022年で製造停止となり、今後の商品は小型の「737」系列、中型の「787」系列と大型の「777」系列の3機種だか、ボーイングのCEOは、次の新機種が出てくるのは2030年代中頃になると語っているそうである。 そうなると、現在の最新機種787の型式証明取得が2011年8月だから、20年以上も間隙ができることになる。 この記事を見て、筆者は別の意味でもボーイングに危機が訪れていると感じるので、当所なりの分析を行うことにする。

2.ダグラスの没落

ボーイングの記事を見て、かつての旅客機製造の名門、ダグラスの没落を思い出した。 ブロベラ旅客機の時代には、ダグラスはDC-3、DC-4、DC-6及びDC-7系列の旅客機で航空運送業界を支配していた。 

対抗するのはロッキードのコンステレーションの系列とボーイングのストラトクルーザーであったが、コンステレーション系列は、筆者が数えた限りでは製造数は386機で、競合していたダグラスDC-6系列の販売数、700機の半分程度にしかならず、ストラトクルーザーに至っては56機しか製造されていない。 

ジェット機時代になって、ダグラスはボーイングの707、727及び737系列のジェット旅客機に対して、長距離用大型旅客機のDC-8と短距離の中小型旅客機のDC-9系列で対抗したが、それらの生産の遅れなどが重荷になって1967年にマクダネルに吸収合併され、会社はマクダネル・ダグラスとなった。 しかしマクダネル・ダグラスとなっても、DC-9系列の改良型MD80は高バイパス比エンジンに換装したBoeing 737に遅れを取り、三発エンジンの大型機DC-10/MD11も、Boeing 767や777などの双発機に負けて、1997年にボーイングに合併されてその歴史を閉じた。

3.ボーイングとマクダネル・ダグラスの戦い

1958年10月にBoeing 707ジェット旅客機が商業運航を開始し、de Havilland Cometについで西側世界で2番目のジェット旅客機となった。 マクダネル・ダグラスもそれに対抗してDC-8を開発し、ボーイングに一年遅れて1959年9月に商業運航を開始した。 第一世代のジェット旅客機は大型の長距離用であったが、エンジンの改良が進んで燃費も改善されて、中短距離用の中型ジェット旅客機も開発されて、この頃りから定期航空に使用される旅客機はジェット旅客機が主力となった。 また機体の大型化も進み、1970年1月にBoeing 747が就航し、ワイド・ボディ機の時代に入った。 その後ロッキード社は3発ワイドボディ機のTristarが、装備エンジンのRolls Royce RB211の故障多発で評判を落とし、1983年8月に民間機製造から撤退した。 この問題エンジン、RB211がその後改良され、発展して超大型エンジンの最右翼に位置しているTrentエンジンになったのだから、なかなか先は読めない。 それで中大型ジェット旅客機製造の世界はボーイング、マクダネル・ダグラスの2社になったが、1984年5月にAirbus A300が路線に就航し、航空機製造会社は3社体制となった。 次いで3社のこれまでに製造した旅客機を第1表に示す。

航空機製造大手3社の中・大型旅客機

用途

エンジン

ボーイング

マクダネル・ダグラス

エアバス

第一世代

長距離

ターボ

ジェット

707-120

DC-8-10/20

第二世代

長距離

ターボファン

707-320

DC-8-30/40/50/60

短・中距離

ターボファン

727-100/200

737-100/200

DC-9-10/20/30/40/50

短・中距離

中バイパス比ターボ
ファン

MD-81/82/83/87/88

第三世代

長距離

高バイパス比ターボ
ファン

747-100/200/300/400/SP

777-200/300

767-200/300/400

DC-10/10/20/30/40

MD-11

A330

A340系列

短・中距離

757-200/300

737-300/400/500

737-700/800/900

MD90

A300/310

A320/321ceo

第四世代

長距離

改良型

高バイパス比ターボ
ファン

747-8

787-8/9

A380

A350XWB-900/1000

短・中距離

737MAX7/8/9/10

A320/321neo

第 1 表

4.Boeing 737とMcDonnell Douglas DC-9/MD-80/MD-90の発展過程

Boeing 737系列とMcDonnell Douglas DC-9/MD-80/MD-90の発展をまとめたのが、第2表である。

当所はボーイングとマクダネル・ダグラスの明暗を分けたのは、第三世代での取組みにあったと見ている。 ボーイングは、この期間に高バイバス比ターボファン・エンジンの全面的採用に踏み切って、Boeing 737系列に高バイパス比のCFM56エンジンを採用したが、MD-80は一世代前のバイパス比が2以下のP&W JT8D-200エンジンを採用した。 この時点で、MD-80系列は737-300/400/500に対して、燃費と騒音の両方で完全にひけをとることになった。 マクダネル・ダグラスがJT8D-200エンジンを採用したのは、多分機体の改造が少なくて済むからではなかったかと推測する。 この表で明らかなように、ボーイングが高バイパス・エンジンを採用した737-300/400/500が売り出していた時に、マクダネル・ダグラスは依然として一世代前のJT8D-200エンジンを装備したMD-80系列で対抗していた。 Boeing 737-300の出現に出遅れること、およそ10年後の1995年4月になって、高バイパス比のV2500エンジンを装備したMD-90が路線に就航した。 最終的に、マクダネル・ダグラスはMD-90になって高バイパス比のV2500エンジンに換装して第三世代にまで進化させたが、時すでに遅く116機しか売れず、2000年10月に最終号機を引き渡して生産ラインを閉鎖した。 マクダネル・ダグラスは機種戦争でBoeing 737-2300/400/500に負けただけでなく、会社自体がボーイングに吸収合併されることになってしまい、結果としてはマクダネル・ダグラスは、新型機の開発費を節約して、会社自体を失ってしまった。

Boeing 737系列とMcDonnell Douglas DC-9/MD-80/MD-90の発展

年月日

Boeing 737

McDonnell Douglas DC-9.MD80/90

1965年2月

 

McDonnell Douglas DC-9-10初飛行

1965年12月

McDonnell Douglas DC-9-10路線就航

1966年8月

McDonnell DouglasDC-9-30初飛行

1967年2月

McDonnell Douglas DC-9-30路線就航

1967年4月

一 

世  
   
  

Boeing 737-100初飛行

1967年8月

Boeing 737-200初飛行

1967年11月

McDonnell Douglas DC-9-40初飛行

1968年2月

Boeing 737-100路線就航

1968年3月

McDonnell DouglasDC-9-40路線就航

1968年4月

Boeing 737-200路線就航

1968年9月

McDonnell DouglasDC-9-20初飛行

1974年12月

McDonnell DouglasDC-9-50初飛行

1975年8月

McDonnell DouglasDC-9-50路線就航

1979年10月

McDonnell Douglas DC-9-81初飛行

1980年10月

McDonnell Douglas DC-9-81路線就航

1981年1月

McDonnell Douglas MD-82初飛行

1984年2月

Boeing 737-300初飛行

1984年12月

Boeing 737-300路線就航

McDonnell Douglas MD-83初飛行

1986年12月

McDonnell Douglas MD-87初飛行

1987年8月

McDonnell Douglas MD-88初飛行

1987年11月

McDonnell Douglas MD-87路線就航

1988年1月

McDonnell Douglas MD-88路線就航

1988年6月

Boeing 737-400初飛行

二世

1988年10月

Boeing 737-400路線就航

1989年6月

Boeing 737-500初飛行

1990年3月

Boeing 737-500路線就航

1993年2月

McDonnell Douglas MD-90初飛行

1995年4月

McDonnell Douglas MD-90路線就航

1997年2月

Boeing 737-700初飛行

1997年7月

Boeing 737-800初飛行

1998年1月

Boeing 737-700路線就航

1998年1月

Boeing 737-600初飛行

1998年4月

Boeing 737-800路線就航

1998年10月

Boeing 737-500路線就航

2000年8月

Boeing 737-900初飛行

2001年5月

Boeing 737-900路線就航

2016年4月

Boeing 737 Max 8初飛行

2017年4月

Boeing 737 Max 9初飛行

2017年5月

Boeing 737 Max 8路線就航

2018年3月

Boeing 737 Max 9路線就航

2021年6月

Boeing 737 Max 10初飛行

第 2 表

5.DC-9/MD80/MD90系列の発達とその限界

それでは、McDonnell DC-9/MD-80/MD-90の開発のどこが問題であったのか分析するために、どのように改良・進化してきたのかを第3表に取りまとめた。 MD-80系列が装備したJT8D-200エンジンは、バイパス比がJT8D原型の1.03〜1.04よりも高いが1.7〜1.8程度であり、Boeing 737に装備CFM56エンジンのバイパス比4.8の半分以下なので、この表では第1.5世代と分類した。 

McDonnell DC-9/MD80/MD90系列の発展

世代

型式名

変更点

第一世代

DC-9-10

原型機

DC-9-15

燃料容量の増加及び最大離陸重量を増加

DC-9-20

主翼幅を1.22m増加、最大離陸重量を41.1tから44.5tに増加

エンジンJT8D-5から-9に強化

DC-9-30

胴体を原型機より4.55m延長、エンジンをJT-8D-15と換装、最大離陸重量を49.9tに
増加

DC-9-40

胴体を原型機より6.46m延長、エンジンをJT-8D-15と換装、最大離陸重量を51.7ttに
増加

DC-9-50

胴体を原型機より8.90m延長、エンジンをJT-8D-17と換装、最大離陸重量を54.9tに
増加

第1.5世代

MD-81

翼幅を28.47mから32.8mに増加、胴体を原型機より13.28m延長、

エンジンを低バイパス比のJT8D-209に換装、最大離陸重量を64tに増加

MD-82/88

エンジンをJT8D-217に換装、最大離陸重量を67.8tに増加

MD-83

エンジンをJT8D-219に換装、最大離陸重量を72.6tに増加

MD-87

MD-82の短胴型、胴体長を5.4m短縮、最大離陸重量はMD-81と同じ64t

第二世代

MD90-30

胴体をMD-81よりより1.42m延長、エンジンをV2525-D5に換装、最大離陸重量は70.
76t

第 3  表

DC-9/MD-80/MD-90系列のエンジン取り付け位置は、胴体後部の両側に装着するリヤ・マウント方式で、装備するエンジンの重量が重心位置に大きく影響する。 それで基本的には胴体の長さでバランスを取るようにするが、第3表に示すごとく、DC-9からMD-80に進化させた時、全長は一気に4.36mも延長している。 そのようにDC-9/MD-80ではエンジン重量の増加を胴体延長で補正してきたか、MD-90は重心補正のための胴体延長が限界に来たので、胴体の延長は1.42mに留め、電気系統の装備品を機種近くに設置し、後部のエンジン駆動交流発電機からの大電流を太いケーブルで送電するようにして、重心位置を補正した。 ところがこのケーブルから電流が流れた時に電磁波が生じて無線機器等に障害を与えることが判明し、その対策に頑丈なシールドを施した。 数字はわからないが、それは相当の重量増加になり、ペイロードを減らしたことは間違いない。 それでもMD-90は空で空輸する時や、搭乗旅客が少ない時には、前方貨物室にバラストを積み込んで重心位置の補正をしなければならなかった

McDonnell Douglas MD-90のエンジン換装の影響

全長

エンジン型式

エンジン重量

摘要

DC-9-10/20

31.81 m

JT8D-5

1,454 kg

DC-9-30

36.36 m

JT8D-9

1,543kg

DC-9-40

38.30 m

JT8D-15

1,549 kg

DC-9-50

40.70 m

JT8D-17

1,590 kg

MD-81

45.06 m

JT8D-209

2,081 kg

MD-82

45.06 m

JT8D-217

2,097 kg

MD-83

45.06 m

JT8D-219

2,125 kg

MD-87

36.75 m

JT8D-209

2,081 kg

MD-90

46.50 m

V2525-D5

2,382 kg

重心位置補正措置

第 4 表

結局、MD-90は商品としては成功したとは言えず、これもマクダネル・ダグラスがボーイングに吸収された原因の一部にはなったと見ている。結論を言えば、DC-9/MD-80の妥当な発展型の限界はMD-80系列までであり、V2500エンジンは、MD-80の機体には不適当だったと考えるのである。 そして、限界を超えた発展型は、むしろビジネスとしては不適切なものになると言う教訓として受け止めたい。

6.Boeing 737発展型の限界

McDonnell Douglas DC-9/MD-80/MD-90の歴史に鑑みてBoeing 737の歴史を辿ると、737Maxは737系列の発達限界超えてしまっているのではないかと推測するのである。 それで、次にBoeing 737系列の旅客機が、どのように改良・進化してきたのかを調査し、第5表に取りまとめた。 Boeing737系列は第四世代まで進化し、現在も生産中である。 737系列の原型機737-100の全長は28.63mであったが、最終型と見られる737Max-10は43.70mと実に1.5倍以上に引き伸ばされている。 その間に主翼面積も85.6uから第二世代機の105.4u、第三世代機の125.0u、そして第四世代機の127.3uに拡大された。 737-700からウィングレットが取り付けられるようになったが、その形状も-700と-800/900とは形状が異なっており、Maxのウィングレットはさらに改良したATウィングレットが取り付けられている。 エンジンもP&W JT8Dから、CFM56-3B、-7Bを経て CFMI LEAP-1Bと新型に代わってきている。 737は早い段階から高バイパス比エンジンを採用してきたが、そこで新たな問題が生じた。 それはエンジン下面と地表との間隙である。 737は乗客の昇降が楽になるように、元々降着装置が短く設計されていた。 それで737-300/400/500にCFM56エンジンを採用する時からこの狭い間隙が問題にされた。 それについては次章にて詳述する。

Boeing 737系列の発展

世代

型式名

変更点

胴体延長

主翼面積

エンジン

その他の変更

第一世代

737-100

28.58 m

85.6u

JT8D-7

737-200

30.53 m(+1.95 m)

91.0u(+5.44u)

JT8D-9A

第二世代

737-300

33.40 m(+4.82 m)

105.4u(+5.44u)

CFM56-3B

前脚を140 cm延長

737-400

36.40 m(+7.82 m)

同上

同上

同上

737-500

31.01 m(+2.43 m)

同上

同上

同上

第三世代

737-600

31.24 m(+2.66 m)

91.0u(+5.44u)

CFM56-7B

737-700

33.60 m(+5.02 m)

125.0u(+39.4u)

同上

ウィングレット

737-800

39.47 m(10.89 m)

同上

同上

同上

737-900

42.10 m(+13.52 m)

同上

同上

同上

第四世代

737Max7

35,56 m(+7.02m)

127.3u(+41.7u)

CFMI LEAP-1B

新型ウィングレット、前脚を
20cm延長、操縦特性補助シ
ステム(MCAS)

737Max8

39.47 m(+10.89 m)

同上

同上

同上

737Max9

42.16 m(+13.58 m)

同上

同上

同上

737Max10

43.70 m(+15.12 m)

同上

同上

同上

第 5  表

7.Boeing 737への高バイパス比エンジンの採用

Boeing 737の主翼取り付けの高バイパス比エンジンの採用には問題がなかった訳ではなく、それがエンジンと地面の間隔である。 Boeing737-100/200はP&W JT8Dエンジンを主翼下面に密着した形で装着されていたが、737-300/400/500の CFM56エンジンは、エンジン直径が大きくて適当な地表との間隙が取れなかった。 それで降着装置を延長して地上高を高くするのも改造が大変なので、短いパイロンを介して主翼前縁より前方に且つ少し上方に位置するように配置するようにした。 それでも地面との間隙が十分でないと見て、機体の改造ではなく、一般的にはエンジン下面に取り付けられている補機駆動ギヤボックスを、737へ装着するエンジンでは、ギヤボックスを7時と8時の間くらいに斜めに取り付けてエンジン下面と地表の感激を確保するようにした。 即ち、降着装置を伸ばさないで、エンジンに皺寄せして問題解決したのである。 この時にエンジンの推力発生点と重心位置がずれて来たと見るのである。

Boeing 737のエンジン換装の影響

全長

エンジン型式

ファン直径

備考

737-100/200

30.53 m

JT8D-17

1.08 m

737-300/400/500

33.40/36.40/31.01 m

CFM56-3B

1.53 m

737-600/700/800/
900

31.24/33.60/39.47/42.10 m

CFM56-7B

1.55 m

737Max7/8/9/10

35.56/ 39.47/42.16/43.79 m

CFMI LEAP-1B

1.78 m

前脚を20cm延長、MCAS装備

第  6  表

この対策で737-700/800/900まで凌いできた。 そしてMax7/8/9/10では、流石にそれだけでは収まらなくなったので、第5表に示すようにエンジンと地面の間隙を維持するために前脚を20cm延長し、エンジンの取り付け位置をさらに前方にずらし。少し上方に持ち上げた。 その結果、737Maxは機首をピッチ・アップする傾向が強くなり、それを補正するために「操縦特性補助システム」(MCAS)を装備することにした。 要約すれば、737Maxは静的安定不足してきたので、コンピューターで強制的に補正するようにしたのである。 しかし現実にはそれがうまく働かず、2件の墜落事故が発生し、運航停止処分となったと推測する。 似たような事例は過去にもあり、McDonnell Douglas MD-11は本来DC-10の改良型で、燃費改善のために少しでも抗力を減らそうと水平尾翼を30%も小型化して、操縦力の減少分をコンピユーターで昇降舵を制御して補正するようにした。 しかし不安定な飛行が度々発生して、同世代の航空機に比較して事故発生率が高く、200機で生産中止となった。 旅客機は敏捷な運動性が求められる戦闘機とは違って、静的安定性が高いことが要求されると思量する。 737Maxもその観点からは相当に無理した改造であり、エンジンを取り付には、前脚を少し伸ばして地表との間隙を維持させ、「操縦特性補助システム」(MCAS)を装備してコンピューター制御しなければ安定した飛行ができなかったと見られる。 当所は737系列の改良は、737-600/700/800/900の段階で止めた方が良かったのではないかと思う。 ここから得られる教訓は、いくらエンジンを新しくしても、原型機の一部を引きずっている限り、完全な新型機にならないことである。 

諺で言う「新しい酒は新しい皮袋にいれる」に反して、古い機体に新しいエンジンの取付けは、ある程度まではマッチングできたが、737Max系列ではその限度を超えたのではなかったかと考えるのである。

MD-80系列は、ボーイングが737-300/400/500でCFM56と言う高バイパス・エンジンを採用したにもかかわらず、第1.5世代のJT8D-200エンジンに固執したが、燃費と騒音の両方で第二世代の旅客機に勝てるものではなかった。 MD-80は多分改造をできるだけ少なくしようとしてJT8D-200エンジンを選択したものと考えられる。 それで飛行機自体は安く改造できたのかもしれないが、その旧式のイメージを引きずって737-300/400/500系列に負けたものと推測する。 それに加えて両機のエンジンの取り付け位置の違いが、改良の進展に影響したと見られる。

8.派生型の開発

今回の問題は、737の派生型の開発過程で生じたことである。 航空機の世界では派生型の開発で機種のバリエーションを増やすことは普通に行われている。 Boeing 737で言えば、737-100が原型機で737-300/400/600と737-700/800/900及び737 Max 7/8/9/10が派生型である。  その方法は基本的には原型機の胴体の延長による大型化、または胴体の短縮による小型化であり、737の場合は大型化による発達である。 その手法としては、胴体の延長/短縮により原型機全体のバランスが崩れるので、その補正措置として主翼面積の変更、エンジンの換装、降着装置の延長やその他の必要な補正措置を取ることになる。 

この手法はベースがあるのでやりやすい方法であるが、限界もあると思量する。 そして今回取り上げた737Maxの事故は、その限界に接近したからからではないかと考える。 この見極めは多分相当に難しく、それが737Max8の2件の墜落事故になったのではないかと推測するのである。 ボーイングはその問題を「操縦特性補助システム」(MCAS)の採用で解決できると考えたのだろうが、それは結果として裏目に出てしまった。 ここに、当所はボーイングの開発技術力の低下を見るのである。

9.ボーイングの危機

Bボーイングの開発技術力の低下は、737以外の機種でも明白である。 ボーイングの現在の商品は777系列、787系列と737系列である。 777系列の次世代が777-8/9は2013年9月に開発に着手したが工程に遅れが生じて、原型機の777-9の初飛行は2020年1月になった。 2022年4月の発表では、型式証明取得を2年延期して2025年からの納入とし、生産も一時停止しているとのことである。 787は2004年4月にブログラムが開始したが、開発途中で主翼の強度不足が発見されるなど、現代では信じられないような不具合もあって開発計画に遅れが生じ、初飛行は2009年12月であった。 そして2011年10月に路線に就航したが、バッテリー関係の不具合のためわずか3ヶ月後の2013年1月に飛行停止となり、対策を講じて飛行停止が解除されたのは4月であった。 そしてもう一つの主力商品である737系列については、本稿で前述した通りである。 その影響なのかMax10はまだ型式証明は取得できていない。 一連の737Maxの事故の原因は、大径のファンを持つ新型エンジンを取り付けについて、地面とのクリアランスを確保するために、737-700/800/900よりも主翼前縁より突き出して上方に持ち上げるようにしたことにある。 その結果、ナセルが迎角をとった時に揚力が発生するようになり、機首上げのモーメントが働くようになった。 その時に失速が生じないように、「操縦特性補助システム(MACS)」と言う特別な装置を装備した。このような対策が必要になったのは、737が-700/800/900ですでに改造の限界に達していたからではないかと見るのである。 737の改良を-700/800/900で止めておけば、Maxの事故はなかったと思うが、ボーイングの技術陣には、それを見極める能力が不足していたと思われる。 737Maxの飛行停止による注文取り消しは1,000機以上と言われ、その結果の収入減少や納入遅れによるペナルティの支払いなど、ボーイングは財政難にあると推察する。 ボーイングの発表した2022年1〜9月までの9ヶ月間の決算では、46,628百万$の売り上げに対して、3,194百万$の営業損失と4,390百万$の純損失をだしている。 もし737Maxの代わりに完全に新型の中型旅客機を開発していたら、どうなっていたのだろうか。 ボーイングがなんと言おうと737の型式名がついている限り、1967年4月に初飛行した737-100を引きずっている。 当所は、ボーイングもマクダネル・ダグラスと同じく、それまでの成功談に頼りすぎたと思う。

後知恵であるが、マクダネル・ダグラスもV2500エンジンをMD-80に取り付けてMD-90としないで、新型機として開発すれば後のAirbus A320に匹敵する旅客機が開発できたかもしれない。 ボーイングについて言えるのは、理由はわからないが開発技術力が相当に低下していることである。 朝日新聞の記事にあるように、2001年に本社をシアトルからシカゴに移転した時から、この会社の意識が航空機メーカーとしてよりも金融事業に移っていたのかもしれない。 これからさらに本社をワシントンに移転する計画は、その傾向に拍車をかけることになると記事は述べている。 もしかすると、そう言うことがとりあえず航空機製造事業を、在来機の改造で繋いでおこうとした原因かも知れない。 しかし、米国の大手航空会社でもBoeing 737に特化しているSouthwest Airlinesは別とすれば、United、AmericanやDelta Airlinesが皆、Airbus A320を導入しており、米国内ですらBoeing機の独壇場ではない。 しかし、新聞記事によれば、ボーイングは航空機製造の工程の改善を図るよりも、航空機販売に伴うキャッシュ・フローを利用した金融事業の方に関心があるように見えるが、ここにボーイングの危機があると当所は考えるのである。 これからボーイングの民間機部門はどこへ進むのか、どんな方向に向かうのか注目して行きたい。

以上