Ref.No.2016.06 2016.10.30
地域航空の路線維持の取り組み
- 報告の目的
2016年6月6日に、国土交通省が地域航空の路線維持に向けた有識者会議を発足させることが報道された。 その結果と思うが、2016年10月15日の新聞に、国土交通省がANAホールディングス(ANA)と日本航空(JAL)に対し、それぞれ系列化している地方の航空会社に対し「協業」することを提案したとの記事があった。
察するに国土交通省が、航空市場自由化により衰退の方向にある地方路線の存続に危機感を抱いての動きと推測する。 日本経済新聞の記事によれば、日本航空(JAL)が出資している日本エアコミューター(JAC)と北海道エアシステム(HAC)、JALと共同運航している天草エアライン(AMX)、並びにANAホールディングス(ANAHD)が出資しているANAウイングスとオリエンタルエアブリッジ(ORC)などが対象で、これらの会社の運航路線は凡そ70路線にも及び、この内の離島路線等が統合する地域航空会社の運航路線の対象となる。
方法としてはこれらの会社を束ねる持ち株会社の設立や比較的規模の大きい会社が他社を吸収合併することが考えられるが、再編による機材や燃料の共同調達、整備の共同化を通じて地域航空会社の経営の効率化を図るとしている。 その上で新会社はANAHDとJALの両方と共同運航することで採算性を改善し、もって地域の交通体系を維持することを狙いとしており、具体的な姿は今後の検討に待つことになるが、当所としてもどのような形が有効なのか勉強して見ることにする。
2.日本の地域航空
まず問題になるのは地域航空の定義であるが、現在の航空法には「地域航空」と言う用語はどこにもないが、航空法施行規則第240条(職権の委任)により、客席数が100席以下、最大離陸重量50,000kg以下の航空機を使用する運送事業は「特定本邦航空運送事業以外の事業」として地方航空局扱いとされており、現在は慣例的にこれをもって地域航空と定義している。 輸送統計の区分では「特定本邦航空運送事業者以外の定期運送事業者」として、9社が分類されている。 なおジェイエア(J-AIR)とANAウイングスも100席以下の機材を使用しているが、これらの輸送実績はANAHD又はJALの統計に包含されていて個別の輸送実績はつまびらかではないが、実質的にはこれら2社も含めてこのカテゴリーに属する航空会社は11社である。
日本の地域航空会社(2016.3.31現在)
会社名(コード) |
基地 |
資本金 |
使用機材 |
備考 |
新中央航空(CUK) |
調布 |
1.8億円 |
Dornier228-200×3 Dornier228-200NG×2 |
独立系民間企業 |
オリエンタルエアブリッジ(ORC) |
長崎 |
10.72億円 |
DHC-8-200×2 |
長崎県関係第三セクター、ANAと提携関係あり |
日本エアコミューター(JAC) |
鹿児島 |
3.0億円 |
Saab340B×10 DHC-8-Q400×10 |
|
琉球エアコミューター(RAC) |
那覇 |
3.96億円 |
DHC-8-Q400CC×2 DHC-8-Q300×1 DHC-8-100×4 |
沖縄県関係第三セクター、 JAL/JTAグループ所属 |
東邦航空(TAL) |
八丈島 |
1.8億円 |
S76C×2 |
ヘリコプター運航会社 |
北海道エアシステム(HAC) |
丘珠 |
4.9億円 |
Saab340B-WT×3 |
JALグループ所属 |
天草エアライン(AMX) |
天草 |
4,99億円 |
ATR42-600× 1 |
熊本県関係第三セクター、 JALとコードシェア |
アイベックスエアラインズ(IBX) |
仙台 伊丹 |
42.0億円 |
CRJ100/200×2 CRJ700NG×7 |
独立系、但しANAと広範囲のコードシェアあり |
フジドリームエアラインズ(FDA) |
名古屋 |
4.93億円 |
ERJ170×3 ERJ175×7 |
独立系、但しJALとのコードシェアあり |
ANAウイングス |
伊丹 |
0.5億円 |
DHC-8-Q400×21 737-500×18 737-700(ANAと共用) 737-800(ANAと共用) |
ANAグループ所属 販売上はANA codeに統一 |
ジェイエア(J-AIR) |
伊丹 |
2億円 |
CRJ200×9 Embraer170×17 Embraer190×1機 |
JALグループ所属 販売上はJAL codeに統一 |
第 1 表
ここで「特定本邦航空運送事業以外の事業」の11社の使用機材を一覧表にする。
地域航空使用航空機一覧
型式 |
客席数 |
動力装置 |
使用航空会社 |
所属グループ |
Dornier 228-200 |
19 |
ターボプロップ |
CUK |
独立系 |
Dornier 228-200NG |
19 |
ターボプロップ |
CUK |
独立系 |
Saab340B |
36 |
ターボプロップ |
JAC |
JALグループ |
Saab340B-WT |
36 |
ターボプロップ |
HAC |
JALグループ |
DHC-8-100 |
39 |
ターボプロップ |
RAC |
JALグループ |
DHC-8-200 |
39 |
ターボプロップ |
ORC |
ANAと提携 |
ATR42-600 |
48 |
ターボプロップ |
AMX |
JALと提携 |
DHC-8-Q300 |
50 |
ターボプロップ |
RAC |
JALグループ |
DHC-8-Q400CC |
50 |
ターボプロップ |
RAC |
JALグループ |
CRJ100/200 |
50 |
ジェット |
IBX |
ANAと提携 |
CRJ700NG |
70 |
ジェット |
IBX |
ANAと提携 |
DHC-8-Q400 |
74 |
ターボプロップ |
ANAウイングス,JAC |
ANA/JALグループ |
E170 |
76 |
ジェット |
J-AIR,FDA |
JALグループ/独立系 |
E175 |
84 |
ジェット |
FDA |
独立系 |
E190 |
95 |
ジェット |
J-AIR |
JALグループ |
Boeing737-500 |
126 |
ジェット |
ANAウイングス |
ANAグループ |
Boeing737-700 |
120 |
ジェット |
ANAウイングス |
ANAグループと共用 |
Boeing737-800 |
167/168 |
ジェット |
ANAウイングス |
ANAグループと共用 |
註:赤字は報道による協業対象会社を示す。
第 2 表
第2表を見ると提案されている統合対象となる地域航空会社とは、いったいどんな会社を想定しているのだろうかと思ってしまう。 ターポプロップ機を運航する航空会社のことかとも思ったが、ANAウイングスはDHC-8-Q400のように地域航空機と言える機材も運航しているが、Boeing737-500/700/800はそうは呼べないであろう。 そう見ると、ANAウイングスを「地域航空」の範疇に含めるのはむりがあると思うが、それともANAウイングスを分割してDHC-8-Q400の部分だけを地域航空統合の対象とするのかも知れないが、報道記事ではANAウイングスが中型ジェット旅客機を運航していることには一切ふれていない。
3.協業体制の対象
今回の地域航空会社統合構想は新聞報道によれば、JAC、HAC、AMX、0RCに加えてANAウイングスが挙げられている。 RACが協業対象からは除外されているのは、路線網が他の会社のものと離れて協業しにくい為と推測する。 グルーブ別に見ると、ANAグループは4機種を運航しているが、DHC-8-Q400だけがターボプロップ機であり、他の3機種は地域航空機とは言えず、中型ジェット旅客機のカテゴリーである。
ANAウイングスの運航する路線を第3表に掲載する。
ANA Wings就航路線(2016年夏ダイヤ) |
||||||
No. |
区間 |
ANA Wings運航航空機 |
ANA・提携他社便 |
備考 |
||
|
|
DHC-8-Q400 |
737-500 |
737-800 |
|
|
1 |
羽田〜秋田 |
|
|
2 |
3 |
|
2 |
羽田〜富山 |
|
|
1 |
3 |
|
3 |
羽田〜中部 |
|
|
1 |
1 |
|
4 |
成田〜新千歳 |
|
|
1 |
1 |
|
5 |
成田〜仙台 |
|
2 |
|
|
|
6 |
成田〜新潟 |
|
|
1 |
|
|
7 |
成田〜中部 |
|
0.5 |
0.5 |
1 |
往路、復路が別機種 |
8 |
成田〜福岡 |
|
1 |
|
1 |
|
9 |
新千歳〜稚内 |
1 |
|
|
|
|
10 |
新千歳〜利尻 |
|
1 |
|
|
夏期のみ運航 |
11 |
新千歳〜女満別 |
3 |
|
|
|
|
12 |
新千歳〜根室中標津 |
3 |
|
|
|
|
13 |
新千歳〜釧路 |
2 |
|
|
|
|
14 |
新千歳〜函館 |
2 |
|
|
|
|
15 |
新千歳〜青森 |
2 |
|
|
|
|
16 |
新千歳〜秋田 |
2 |
|
|
|
|
17 |
新千歳〜仙台 |
1 |
1 |
|
7 |
Q400の回航路線 |
18 |
新千歳〜福島 |
|
|
1 |
|
|
19 |
新千歳〜新潟 |
2 |
1 |
|
|
Q400の回航路線 |
20 |
新千歳〜静岡 |
|
|
1 |
|
|
21 |
新千歳〜中部 |
|
|
5 |
3 |
|
22 |
新千歳〜伊丹 |
|
|
3 |
5 |
|
23 |
新千歳〜福岡 |
|
|
1 |
1 |
|
24 |
中部〜女満別 |
|
1 |
|
1 |
|
25 |
中部〜旭川 |
|
2 |
|
|
|
26 |
中部〜函館 |
|
1 |
|
1 |
|
27 |
中部〜秋田 |
3 |
|
|
|
|
28 |
中部〜仙台 |
3 |
1 |
|
2 |
|
29 |
中部〜新潟 |
2 |
|
|
|
|
30 |
中部〜松山 |
4 |
|
|
|
|
31 |
中部〜福岡 |
1 |
3 |
|
6 |
|
32 |
中部〜長崎 |
|
1 |
2 |
|
|
33 |
中部〜熊本 |
1 |
|
1 |
1 |
|
34 |
中部〜宮崎 |
1 |
|
|
4 |
|
35 |
中部〜鹿児島 |
4 |
1 |
|
1 |
|
36 |
中部〜那覇 |
|
|
2 |
3 |
|
37 |
伊丹〜福岡 |
1 |
1 |
|
4 |
|
38 |
伊丹〜青森 |
3 |
|
|
|
|
39 |
伊丹〜秋田 |
3 |
|
|
|
|
40 |
伊丹〜仙台 |
1 |
|
|
6 |
Q400回航路線 |
41 |
伊丹〜福島 |
|
1 |
|
3 |
|
42 |
伊丹〜新潟 |
1 |
1 |
|
4 |
Q400回航路線 |
43 |
伊丹〜萩・石見 |
1 |
|
|
|
|
44 |
伊丹〜松山 |
5 |
1 |
1 |
2 |
|
45 |
伊丹〜高知 |
5 |
1 |
|
|
|
46 |
伊丹〜大分 |
3 |
|
|
1 |
|
47 |
伊丹〜熊本 |
3 |
1 |
|
2 |
|
48 |
伊丹〜長崎 |
|
2 |
|
2 |
|
49 |
伊丹〜宮崎 |
2 |
2 |
|
4 |
|
50 |
伊丹〜鹿児島 |
1 |
5 |
|
2 |
|
51 |
関西〜旭川 |
|
1 |
|
|
|
52 |
関西〜那覇 |
|
2 |
|
3 |
|
53 |
福岡〜仙台 |
|
3 |
|
1 |
|
54 |
福岡〜小松 |
|
1 |
|
3 |
|
55 |
福岡〜対馬 |
2 |
3 |
|
|
|
56 |
福岡〜五島福江 |
2 |
1 |
|
3 |
|
57 |
福岡〜宮崎 |
3 |
|
|
3 |
|
58 |
福岡〜那覇 |
|
4 |
|
5 |
|
59 |
那覇〜静岡 |
|
|
1 |
|
|
60 |
那覇〜熊本 |
|
1 |
|
|
|
61 |
那覇〜宮古 |
|
5 |
|
2 |
|
62 |
那覇〜石垣 |
|
5 |
1 |
4 |
|
|
合計 |
73 |
57.5 |
25.5 |
99 |
|
註:青字は離島路線を示す。
第 3 表
ANAウイングスが運航している路線は第3表に示すように62路線あるが、そのうちの離島路線と言えそうなのはわずかに5路線でしかない。 それも全ての路線にジェット機が投入されており、とても普通にイメージされる地域航空による離島路線ではなく、少なくとも新聞記事で読み取れるような離島路線ではない。 機材的に見ればDHC-8-Q400だけが地域航空機のカテゴリーに属するが、Q400は離島路線には投入されていない。 ANAグループは、第3表に示すごとくANAウイングスが74席のDHC-8-Q400をANA路線の中で比較的低需要の地方幹線路線を中心に運用しているが、今回の新聞記事にある「地域航空会社」のイメージに合うような路線を運航していない。 JALグループは傘下の地域航空会社が4機種を運用しているが、いずれも地域航空機と言える機材である。 第4表にJALグループの地域航空路線をリストアップするが、JALグループでは、地域航空機で38路線を運航しているが、そのうち29路線が離島路線である。
JALグループの地域航空路線(2016年夏ダイヤ)
No |
運航会社 |
区間 |
運航航空機 |
備考 |
|||
|
|
|
Saab340B |
DHC-8-100 |
DHC-8-Q300 |
DHC-8-Q400 |
|
1 |
HAC |
丘珠〜利尻 |
1 |
4 |
5 |
2 |
|
2 |
|
丘珠〜釧路 |
4 |
|
|
|
|
3 |
|
丘珠〜函館 |
5 |
|
|
|
|
4 |
|
丘珠〜三沢 |
2 |
|
|
|
|
5 |
JAC |
伊丹〜但馬 |
2 |
|
|
|
|
6 |
伊丹〜出雲 |
1 |
|
|
4 |
|
|
7 |
伊丹〜隠岐 |
|
|
|
1 |
|
|
8 |
伊丹〜屋久島 |
|
|
|
1 |
|
|
9 |
福岡〜出雲 |
2 |
|
|
|
|
|
10 |
福岡〜松山 |
4 |
|
|
|
|
|
11 |
福岡〜鹿児島 |
1 |
|
|
|
|
|
12 |
福岡〜屋久島 |
|
|
|
1 |
|
|
13 |
福岡〜奄美大島 |
|
|
|
1 |
|
|
14 |
鹿児島〜松山 |
1 |
|
|
|
|
|
15 |
鹿児島〜種子島 |
3 |
|
|
1 |
|
|
16 |
鹿児島〜屋久島 |
|
|
|
6 |
|
|
17 |
鹿児島〜喜界島 |
3 |
|
|
|
|
|
18 |
鹿児島〜奄美大島 |
2 |
|
|
6 |
|
|
19 |
鹿児島〜徳之島 |
|
|
|
4 |
|
|
20 |
鹿児島〜沖永良部 |
1 |
|
|
2 |
|
|
21 |
鹿児島〜与論 |
|
|
|
1 |
|
|
22 |
奄美大島〜喜界島 |
3 |
|
|
|
|
|
23 |
奄美大島〜徳之島 |
2 |
|
|
|
|
|
24 |
奄美大島〜沖永良部 |
1 |
|
|
|
|
|
25 |
奄美大島〜与論 |
1 |
|
|
|
|
|
26 |
|
沖永良部〜与論 |
1 |
|
|
|
|
27 |
RAC |
那覇〜奄美大島 |
|
|
|
1 |
|
28 |
那覇〜与論 |
|
|
1 |
|
|
|
29 |
那覇〜北大東 |
|
1 |
|
|
|
|
30 |
那覇〜南大東 |
|
1 |
1 |
|
|
|
31 |
那覇〜久米島 |
|
1 |
3 |
1 |
他にJet1便 |
|
32 |
那覇〜宮古 |
|
1 |
|
|
他にJet8便 |
|
33 |
那覇〜石垣 |
|
|
|
1 |
他にJet7便 |
|
34 |
那覇〜与那国 |
|
|
|
1 |
|
|
35 |
北大東〜南大東 |
|
1 |
|
|
|
|
36 |
宮古〜多良間 |
|
2 |
|
|
|
|
37 |
宮古〜石垣 |
|
2 |
|
|
|
|
38 |
|
石垣〜与那国 |
|
2 |
|
1 |
|
|
|
合計 |
29 |
15 |
10 |
35 |
註:青字は離島路線を示す。
第 4 表
次に第5表に独立系地域航空会社のORCとAMXの運航路線を示すが、表から読み取れるように地域航空会社でもAMXのように離島路線を運航していない会社も存在するのである。 以上のように今回協業対象として取り上げられた航空会社もそれぞれ異なった性格の会社であり、何を核として統合するのか判断に苦しむのである。 新聞記事では離島路線の救済のように読めたが、協業対象航空会社でもHACは1路線しか離島路線を運航していないし、AMXに至っては全く離島路線を運航していない。
ORC DHC-8-200とAMX ATR42-600の就航路線 |
|||
航空会社 |
区間 |
就航便数 |
備考 |
ORC |
長崎〜対馬 |
5 |
ANAとコードシェア |
長崎〜壱岐 |
2 |
ANAとコードシェア |
|
長崎〜福江 |
3 |
ANAとコードシェア |
|
福岡〜福江 |
2 |
ANAとコードシェア、ANA 2便と平行運航 |
|
AMX |
福岡〜天草 |
3 |
JALとコードシェア |
熊本〜天草 |
1 |
JALとコードシェア |
|
伊丹〜熊本 |
1 |
JALとコードシェア |
註:青字は離島路線を示す。
第 5 表
また、報道されている今回の構想では離島路線運航は採算が取りにくいので、統合により採算性を改善するとしているが、離島路線を運航していない会社もあり、対象航空会社で最も多くの離島路線を運航しているJACは、黒字決算である。 そこから見えるのは今回の提案は離島路線の維持ではなく、本当の目的は別のことではないかとも思ってしまう。 そう見る理由を次ぎに述べる。
- これは航空会社が採算をとるのが難しい地方路線を、公共性があるとして運航する義務があるのかどうかと言う問題に繋がる。 歴史的に見れば、以前は羽田空港の発着回数に制限が有ったので、航空会社の最大課題は羽田空港発着枠の獲得にあったが、当時は路線の開設、廃止及び運航便数の変更も航空局の認可事項であったので、実態的には羽田の発着枠配分と地方路線開設・維持と抱き合わせで行われた。
その結果多くの地方路線が開設されたが、2000年の航空市場の自由化により路線の開設・廃止を認可事項から届け出事項に変わり、現在は監督官庁が航空会社に運航形態を指示して迄路線開設或は維持を要請するのは、法律的根拠がない。 それで近い将来には比較的需要の少ない地域航空路線が廃止に追い込まれることを危惧したため、今回の構想が出て来たように推測する。
- 比較的需要が大きく、且つ安定している主要地方路線だけを運航しているANAウイングスは採算が取れている可能性は大きいと見るが、少なくともANAグループとしてはずっと黒字決算であり、仮にANAウイングスは赤字であってもグループ全体としては採算がとれている。 事業採算がとれていると推測され、加えて離島路線を運航していないANAウイングスが、離島路線の維持を目的とする構想に参加する理由は見当たらない。
- JALグループでも、地域航空会社最大手のJACは離島路線も多数運航しているが、2015年度には31億6700万円の純利益を上げているので、少なくとも当面は問題にはならないと思う。 故に、離島路線の存続の為というのは、単なる口実ではないのだろうか。
従って今回の提案の本当の目的は、将来は零細地域航空会社をJALグループに吸収させて存続を図ろうとすることではないだろうかと考えるのである。 JALが傘下の地域航空会社、HACとJACにORCとAMXを統合して大地域航空会社を結成すると言うのが本音では無いのか。 JACとAMXはATR42-600と言う同一機種を導入することになっており、HACとORCは現有機材の交代時期に来ているので、その後継機としてATR42-600を選択する可能性はある。 また現実問題として、現在生産中のターボプロップ地域航空機はATR42/72-600の2機種しか存在しないのである。 それでそれら4社を統合して、例えば伊丹〜松本〜新千歳のような路線を開設すれば、4社の路線は接続されるのでATR42-600を一元的管理の下に全国展開出来る可能性が生ずる。 この案ではJALグループとAMX及びORCが同意すれば成立出来る。
ANAウイングスの運航機種と運用実態を見れば、ANAにも統合地域航空会社に参加して貰うというのは、物理的にも情緒的にも無理が有るように思う。 それでもANAウイングスの名前が挙がっているのは、ANAにも応分の負担をしてもらうと言うよりも、JALグループの名前だけしか挙げないと、あまりにもこの提案が恣意的なことに見られるのを恐れたからではないかと憶測するのである。 こうして見ると、今回の国土交通省の提案は、今発生している問題と言うよりも近い将来に発生しそうな事態に対して備えるのが本当の目的ではないかと思う。 前述のように路線の開設・廃止を自由化したので、長期的には航空会社が採算を取るのが難しい地域航空路線、特に離島路線から撤退するのは目に見えている。 そしてその対象になるのはANAウイングスではなく、JALグループなのである。 その中心理由はDHC-8-100/200とSaab340Bの30席級機の高齢化問題であろう。 これらの航空機の最も古いものの機齢は既に20年にも達しており、サービスの面からも交代時期に来ていると思われるが、現在生産中の30席級機は存在しない。 またこれらの辺地・離島路線は需要の伸びは殆ど見られないので、48席のATR42-600と交代するのも難しい路線が多い。 それはHAC、JAC及びORCにとっては大きな問題であり、HACとORCには会社自体の存続が、JACには奄美諸島の離島路線の存続がかかっている。 そこで、国土交通省は航空サービスの公共性をどう見るのか、市場原理だけにゆだねていて良いのかと言う課題を突き付けられたと見るのである。
しかし、国土交通省も昔のように認可と抱き合わせで地方路線の開設・維持を強要することは出来ないので、航空サービスの公共性の維持の為に今回の協業提案になったものと推測するのである。 しかし、ANAグループにはそのような問題は無いので、協業と言って何故JALグループの不採算路線の救済に協力しなければならないのかと言いたくもなると思う。 理屈だけを言えば、航空法第107条の2(運航計画等)で六ヶ月前に届ければ路線の廃止が出来るので、JALグループも不採算路線は廃止すれば会社としての問題は解決する。例えばANAは羽田〜大島及び三宅島線を廃止してしまった。 しかし、それでは地方路線の衰退を止めることは出来ないので、今回の提案が浮かび上がって来たと推測するのである。
4.協業体制構築の可能性
新聞報道によれば、ANA、JALとも国土交通省の提案を検討すると言っており、同じ報道(朝日新聞2016.10.1朝刊)によれば「離島など採算の取りにくい空路の維持に向けて協力の可能性を探る」とある。
しかし、離島路線を運航していないANAにとっては、何故関係のない離島路線の救済に参加しなければならないのかと言う疑問が生じてもそれは当然である。 離島路線の存続問題は関係地元にとっては死活問題であり、航空運送業界にしても公共的サービスを提供していると言う建前から、全く知らん顔する訳にも行かない。 現にJAL倒産に係る一連の救済措置は、航空サービスの公共性を社会が認めたからであろう。
今回、協業体制構築を提案された地域航空会社の使用機材は、30席級のSaab340B/340BWTとDHC-8-200、及び50席級のATR42-600並びに70席級のDHC-8-Q400の4機種に中型ジェットであるBoeing737-500/800の2機種である。
協業体制構想の航空会社の使用航空機
級別 |
航空機型式 |
運航会社 |
備考 |
30席級 |
Saab340B/340B WT |
HAC、JAC |
運用上は単一機種とみなせる |
DHC-8-200 |
ORC |
|
|
50席級 |
ATR42-600 |
AMX |
|
70席級 |
DHC-8-Q400 |
ANAウイングス、JAC |
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120席級 |
Boeing737-500 |
ANAウイングス |
|
160席級 |
Boeing737-800 |
ANAウイングス |
ANAとの共用機材 |
第 6 表
第6表に示すごとく、協業体制に参加を予定する航空会社は全部で6機種運用しているが、Boeing737-500/800はいくらなんでも地域航空機と呼ぶのは無理が有るので、この計画からは除外すべきであろう。
また現在はJACと共通機材であるDHC-8-Q400を運航しているが、近い将来に全てMitsubishi MRJ90と交代することが発表されている。 そうなればANAウイングスは他の地域航空会社とは違った機種を単独運用することになるので、この地域航空統合にANAウイングスを参加させるのは無理と思う。
それで基本的にJALグループを核としてAMXとORCを参加させるというのが最も合理的、且つ現実的な構想になると確信する。 その場合、今後導入の拡大が予想されるATR42-600の使用を前提とすれば、現在30席級機で運航している路線に、ATR42-600の導入の是非を問うことになる。 要は今回の提案の狙いは、高齢化している30席級機運航会社に将来も路線を維持させる為ではないのか。 協業により事業体制を大きくすれば、スケールメリットにより現在の30席級機路線も50席級機で運航できるようになる可能性がある。事例としてRACはDHC-8-Q300とDHC-8-100を運航しているが、その後継機をより大型のDHC-8-Q400を導入しつつあるが、それも74席で運用するのではなく、50席+床上貨物室として運航する。 これは沖縄関係路線の特殊性も手伝っていると思うが、これも今回の提案からRACが除外されている理由の一つかも知れない。
また国土交通省の提案にはもう一つの脱落が有るが、それはCUKについてである。 CUKはまさに離島路線だけを運航しているが、使用機種は19席のDornier 228-200で他に協業する相手が居ないので除外したものと推測する。 次に国土交通省が提案している地域航空会社の協業体制構築の可否を探って見る。
- DHC-8-Q400はANAウイングスとJACが運用しているが、ANAウイングスは離島路線を運航して居らず、その機材計画からしてもJACとの離島路線共同運航には無理があると思う。 それにANAとJALはお互いに最大の競争相手であるのに、子会社レベルでは協業せよと言われても簡単に、割り切れるものではないであろう。 それに現在は両グループの共通機材であるDHC-8-Q400について、現在は協業が必要な事情はないと見られる。 また近い将来にはANA/JALともMRJ90を導入するが、それによってANAはDHC-8-Q400をMRJと交代させる計画であるが、JALはMRJをJ-Airに運航させると発表しており、そうなればANAウイングスとJACは共通機材使用ではなくなってしまい、協業出来る環境では無くなる。
- 30席級使用路線では、30席級機の高齢化からそれらの機材を対象とする協業は長期的に維持することは難しい。 また30席級機を運用しているHACとORCは、前者は北海道、後者は九州を営業区域としており、現在のままでは物理的にもとっても機材の共同運航等できない。
- JACは一部路線でATR42-600への交代は可能性があるが、奄美大島発の離島路線などはATR42-600の導入はかえって採算を悪化させる可能性がある。 HACも現在運航している路線の需要規模から、離島路線ATR42-600の導入は採算悪化の材料にしかならないと見られる。 ORCは路線の最低便数が30席級機で3便であるので、ATR42-600を2便だけ投入すれば理論的には現在の座席利用率は維持出来ることになるが、便数減による利便性低下による旅客数減も予想しなければならないかも知れない。
- AMXは離島路線を運航していないので、建前上は今回の協業対象にはならないように思う。 それでも候補に入っているのは、ATR42-600、1機運用という零細企業なので、今回の提案の一つの狙いがこれら零細会社の救済にあることを示していると思う。
- もう一つの疑問は、現行離島航空事業への助成との整合性をどうとるのか、少なくとも報道では全くこの点に触れていない。 現行の離島航空事業の助成には航空機購入費補助、運航費補助及び衛星航法補強システム(MSAS)受信機購入費補助があるが、協業体制が構築された後もこの補助制度は継続されるのだろうか。 協業により経営体質が改善された後もこれらの補助金があるとすれば、より採算性維持は用意になると思われる。
地域航空会社は実態として今はANA、JALに系列化されているが、当所は将来的には地域航空会社業界の存続にJALが主導するのが現実的と思う。 ひとつのアイデアとして、現在JALが運航している新千歳〜女満別線をHACに移管すれば、ATR42-600を導入しても北海道内路線全体での採算性が改善出来る可能性がある。 また新千歳〜青森、秋田等の比較的区間距離の短い北海道〜東北地方路線をHACにATR42-600で運航させるのも一考に値するのではないか。 現在の地域航空会社の系列化の実態を示す。
地域航空会社の系列化
グループ |
担当航空会社 |
対象航空会社 |
系列の方式 |
ANA |
ANAウイングス |
ORC |
コードシェア |
JAL |
JAL |
HAC |
子会社 |
JAC |
子会社 |
||
AMX |
コードシェア |
||
JTA |
RAC |
子会社 |
第 7 表
第7表に掲げるように、ANAウイングスを今回の統合から除外し、ORCをJALの系列下にいれれば、それで地域航空会社の統合は設立する。 しかし一方では、JACの奄美諸島内路線やORCの路線に50席級機を導入した場合、それによって生じる座席供給過剰の弊害を相殺出来る方策は考えつかない。 それで国土交通省は事業母体を大きくすることによって、内部補助でこれらの路線の維持を図ろうとしていると推測するのである。 前述したように、今回の協業提案は地域航空会社及び関係する地方自治体が、地域の発言力の低下を恐れて歓迎するとは思えない。 そこで当所は一つの方策として、現状を基盤として地域航空を支援する為の独立行政法人としてのファンドを設立し、その収益から地域航空会社の財政支援を行うことを提案したい。 ファンドの原資は、「特定本邦航空運送事業者」である航空会社の売り上げから一定比率で拠出させるのである。
5.総括
以上に検討したように、今回の国土交通省の提案する地域航空会社の協業化による離島路線等の維持案は、協業体制確立後はいかなる離島路線も存続出来るようになるのか、もし協業会社が不振となった場合離島路線の存続はどう保証されるのか不透明である。 また検討して来たように統合も問題が大きい。
それに現行の離島航空事業助成で離島路線が維持出来るとしたら、何も協業する必要はない。 それでも少しは助成額を減らせるかも知れず、それが本来の狙いとも伺える。 今回の提案の是非を判断するには、もっと構想を詰めてからでないと難しいと考えるが、前述のように統合の目的は離島路線の存続というよりも、零細地域航空会社の救済の方に重みがあるのではないかと思うのである。
本当の問題は、この報告の中でも触れたように、離島路線は即ち生活直結路線であり、市場原理だけに依存して良いのだろうかと言うことにあると思う。 今求められているのは市場原理と公共性維持の妥協点を見いだすことであると考える。 当所は本報告で大手航空会社の責任制と離島路線維持のファンドの設立の2案を提案しているが、当所の意見を求められるならばファンドの設立の方が関係各社の現状維持が可能なので、より現実的と思う。 「特定本邦航空運送事業者」である国内航空会社9社の売り上げから0.1%を拠出して貰うだけで30億円強のファンドが成立でき、その運用益で離島路線を財政支援するのである。 この策を採用する場合は、CUKについても同等の取り扱うべきと考える。 CUKには東京都が手厚い助成をしているので財政問題は表面化していないが、それだからと言って除外するのは可笑しい。 やはり離島路線として他の離島路線と同じ取り扱いをすべきであろう。 結論として当所は官主導で無理な協業をするよりも、適切な財政支援の下に地域航空各社と関係地域の工夫と努力に期待することにしたい。以上