6−R ANAウィングの将来

Ref. No.2018.03                                                                      2018.03.02

MRJ導入後のANAウィングスの将来

1.ANAウィングス

全日本空輸(ANA)の時刻表の「時刻表の見方」ページを見ると、「AKX」のコードでBoeing 737-800/700/500とBombardier DHC-8-Q400の4機種が掲載されている。 事業の一部を別会社化することは経費水準を下げるためにしばしば採用される手法であるが、ANAウィングス(AKX)は特別な経過を辿っている。 AKXは1974年(昭和49年)3月13日に「日本近距離航空」として創立された。 「AKX」と言うコードは、多分この社名に由来していると思う。 しかしANAの子会社としてではなく、中古のde Havilland DHC-6-300、2機で稚内〜礼文及び利尻線並びに新潟〜佐渡線を運航する国策会社としてJAL、ANA、JAS(当時は東亜国内航空)の三社の合弁事業として発足した。 その後1987年(昭和62年)4月にANA単独の経営になり、社名も「エアーニッポン」となったが、2010年(平成22年)10月1日にエアーネクスト及びエアーセントラルと合併しANAウィングスとして発足している。 現在ANAの時刻表で明らかに「AKX」として運航している航空機は、DHC-8-Q400及びBoeing 737-500の2機種である。 なお、AKXはBoeing 737-700と-800も運航していることになっているが、ANA本体との共同事業機になっているので、AKXが何機運行しているかはわからない。 一方ANAは三菱MRJ90を確定15機+オプション10機発注しており、これはBoeing 737-500の後継機引き当てと見られる。 それでこの報告では、ANAグループの最小型のジェット旅客機であるBoeing 737-500がMRJと交代する時に、どのようにネットワークが再編成されるのか、即ち今後のANAグループの地方路線への取り組みがどうなるのか、研究して見ることにした。

2.ANAウィングスのDHC-8-Q400とBoeing 737-500

本報告でAKXを取り上げるのは、その動向がANAグループの地方路線への取り組み姿勢を端的に象徴していると見るからである。 そこから、JALグループとは対照的なANAグループの小型機戦略が読み取れるような気がするのである。 そこで次表に両グループのフリート構成の対照表を掲げる。 なおLCCは別のビジネス・モデルなのでこの報告では取り上げていない。 

ANA/JALグループのフリート構成(2017年12月現在)

類別

事業種別

航空機用途

ANA

JAL

本体

特定本邦航空運送

事業者

長距離国際線用

(236-264席)

Boeing 777-300ER

Boeing 777-200ER

Boeing 777-300ER

国内線用

(375-514席)

Boeing 777-200

Boeing 777-200ER

Boeing 777-300

Boeing 777-200

Boeing 777-300

国際線用

(169-246席)

Boeing 787-8

Boeing 787-9

Boeing 767-300ER

Boeing 787-8

Boeing 787-9

Boeing 767-300ER

国内線用

(227-395席)

Boeing 787-8

Boeing 787-9

Boeing 767-300

Boeing 767-300

Boeing 767-300ER

国際線用

(144-146席)

Airbus A321ceo

Boeing 737-800

国内線用

(120-194席)

Airbus A320ceo

Airbus A320neo

Boeing 737-700

Boeing 737-800

Boeing 737-800

子会社

国内線用

(126-165席)

AKX

Boeing 737-500

JTA

Boeing 737-800

Boeing 737-400

特定本邦航空運送

事業者以外の事業者

ジェット機

(76-95席)

AKX

MRJ90(2020年に導入予定)

J-AIR

Embraer170

Embraer 190

プロペラ機

(36-74席)

AKX

DHC-8-Q400

JAC

DHC-8-Q400

ATR42-600

Saab340B

RAC

DHC-8-Q400CC

DHC-8-Q300

DHC-8-100

HAC

Saab340B-WT

コード

シェア

特定本邦航空運送

事業者

国内線用

(286-289席)

ADO

Boeing 767-300

Boeing 767-300ER

国内線用

(144-174席)

ADO

Boeing 737-700

SNA

Boeing 737-800

SFJ

A320

特定本邦航空運送

事業者以外の事業者

ジェット機

(50- 84席)

IBX

CRJ700NG

CRJ200

FDA

Embraer 170

Embraer 175

プロペラ機

(39-74席)

ORC

DHC-8-200

DHC-8-Q400

AMX

ATR42-600

註:統計上は赤字で記したAKXはANAに、またJ-AIRはJALに包含されて別会社にはなっていない。

第 1 表

第1表で見るように、本体事業については両グループのフリート構成は略同一であるが、特定本邦航空運送事業者以外の事業者(客席数100席以下の航空機を使用する航空会社)の分野では、ANAグループはAKX、1社でDHC-8-Q400、24機しか運航しておらず、コードシェアによりIBEXエアラインズ(IBX)とオリエンタルエアブリッジ(ORC)に依存して一部路線で運航しているのに対し、JALグループではJ-AIR、JAC、RAC、HACの子会社4社で7機種55機を運航しており、さらにコードシェアでフジドリームエアラインズ(FDA)と天草エアライン(AMX)で運航しているので、小型機事業に力を入れているのが分かる。 またJ-AIRとFDA以外はターボプロップ機しか運航していないので、地域航空にANAグループより重点を置いていると見られる。 一方ANAグループの運航しているターボプロップ機は、AKXのDHC-8-Q400とORCのDHC-8-Q200の2機種しかない。 なおORCは昨年8月からANAからQ400を1機リースして、福岡〜宮崎線と福岡〜福江線の運航している。 この機体はANAとの共同事業機になっており、外部塗装もANAのままとのことなので、ANAはORCを実質的に子会社化してターボプロップ機の運航委託する方向と見られる。 AKXは2003年7月から2017年12月までにわたって25機のDHC-8-Q400を導入したが、JA849Aは製造時のミスにより首脚が出ない事故を起こし、メーカーがこの機体を引き取っているので、24機の保有になっている。 そしてDHC-8-Q400、24機のうち、最後の3機、JA463A、464A及び465Aは、MRJの受領遅れによる機材不足を一時的に補うと言う理由で導入されているから、MRJはQ400の交代とは位置付けられていなかったと思う。 ANAがどう言う意図でAKXにBoeing 737-500を運航させたのかは不詳であるが、AKXは日本で唯一「特定本邦航空運送事業者」と「特定本邦航空運送事業者以外の事業者」の両分野にまたがる事業を運営している航空会社である。 但し、AKXは統計上は全部がANAに包含されているので、表には現れてこない。 Boeing 737-500は合計で21機導入されているが、2011〜2017年度に6機が退役しているから、今は16機の保有である。 第2表にAKXが現在保有するDHC-8-Q400とBoeing 737-500のリストを掲載した。

ANAウィングスの保有するDHC-8-Q400/Boeing 737-500

型式

登録記号

製造番号

登録年月日

抹消年月日

備考

DHC-8-402

JA841A

4080

2003.07.24

 

 

 

JA842A

4082

2003.10.28

 

 

 

JA843A

4084

2004.01.13

 

 

 

JA844A

4091

2004.05.31

 

 

 

JA845A

4096

2004.11.15

 

 

 

JA846A

4097

2004.12.03

 

 

 

JA847A

4099

2005.02.01

 

 

 

JA848A

4102

2005.05.21

 

 

 

JA849A

4106

2005.07.19

2010.03.26

カナダへ売却

 

JA850A

4108

2005.09.08

 

 

 

JA851A

4109

2005.10.28

 

 

 

JA852A

4131

2006.09.19

 

 

 

JA853A

4135

2006.11.07

 

 

 

JA854A

4151

2007.03.27

 

 

 

JA855A

4292

2010.02.08

 

 

DHC-8-402NG 

JA856A

4335

2010.11.05

 

 


JA857A

4362

2011.05.20

 

 


JA858A

4385

2011.11.27

 

 


JA859A

4401

2012.03.15

 

 


JA460A

4416

2012.08.10

 

 


JA461A

4430

2013.01.24

 

 


JA462A

4445

2013.07.08

 

 


JA463A

4558

2017.07.05

 

 


JA464A

4565

2017.10.03

 

 


JA465A

4571

2017.12.12

 

 

Boeing737-54K/

JA8196

27966

1996.10.24

-54K/5YO/5L

JA8504

27432

1996.05.20

JA8595

28461

1997.02.20

JA8596

28462

1997.02.25

JA300K

27434

1997.05.20

JA301K

27435

1997.05.21

JA302K

28990

1998.03.10

JA303K

28991

1998.04.14

JA304K

28992

1998.04.14

JA305K

28993

1998.10.16

JA306K

29794

1999.05.18

JA307K

29795

1999.02.22

JA351K

25189

2000.06.13

2011.03.29

Scrap

JA352K

26097

2000.08.29

2012,09.12

Scrap

JA353K

26104

2001.03.09

2014.01.27

Scrap

JA354K

26105

2001.02.13

2013.07.18

Scrap

JA355K

28129

2001.06.08

2012.02.15

売却

JA356K

28083

2001.10.15

2017.10.20

Scrap

JA357K

28131

2002.02.15

JA358K

28130

2002.04.16

JA359K

28128

2002.05.15

第 2表

3.DHC-8-Q400とBoeing 737-500の運航路線

次いで、DHC-8-Q400とBoeing 737-500投入路線の近年の変化を 、第3表と第4表にリストアップする。 

各年度の路線と便数は年度始めの4月ダイヤから取っているが、2018年度については4月ダイヤを入手していないので、3月ダイヤで代用した。 第3表ではコードシェアでANA便としても運行しているIBXのCRJ700NG(70席)、ORCのDHC-8-Q200(39席)/-Q400(74席)、スターフライヤー(SFJ)のA320(150席)、及びエア・ドゥ(ADO)のBoeing 737-700(144席)を青字で記載している。

ANAウィングスのDHC-8-Q400/Boeing 737-500並行使用路線

路線

使用機種

2016

2017

2018

成田〜仙台

DHC-8-Q400

 

 

2

 

Boeing 737-500

2

2

 

成田〜新潟

DHC-8-Q400

1

1

1

中部〜秋田

DHC-8-Q400

2

2

2

中部〜仙台

DHC8-Q400

3

3

3

 

Boeing 737-500

1

1

1

 

CRJ700

2

2

2

中部〜新潟

DHC-8-Q400

2

2

2

中部〜松山

DHC-8-Q400

4

4

4

中部〜福岡

DHC-8-Q400

1



 

Boeing 737-500

3

2

 

 

Boeing 737-800

1

3

5

 

A320

3

3

3

 

CRJ700

1

2

2

中部〜熊本

DHC-8-Q400

1

1

3

 

Boeing 737-500

1

1

 

 

Boeing 737-700

1

2

 

中部〜宮崎

DHC-8-Q400

1

2

2

 

Boeing 737-800

1

1

1

 

CRJ700

1

 

 

中部〜鹿児島

DHC-8-Q400

2

2

2

 

Boeing 737-500

1

 

1

 

Boeing 737-700

 

 

1

 

Boeing 737-800

1

2

 

伊丹〜青森

DHC-8-Q400

3

3

2

伊丹〜秋田

DHC-8-Q400

3

3

2

伊丹〜仙台

DHC-8-Q400

1

1

1

 

Boeing 737-800

1

2

2

 

Boeing 767-300

2

2

2

 

CRJ700

2

2

2

伊丹〜新潟

DHC-8-Q400

1

1

1

 

Boeing 737-500

1

2

1

 

Boeing 737-800

1

 

1

 

CRJ700

2

2

2

伊丹〜高知

DHC-8-Q400

5

5

5

 

Boeing 737-500

1

1

 

 

Boeing 737-800

 

 

1

伊丹〜松山

DHC-8-Q400

6

6

6

 

Boeing 737-500

1

1

1

 

Boeing 737-800

2

2

1

伊丹〜大分

DHC-8-Q400

3

3

3

 

CRJ700

1

1

1

伊丹〜熊本

DHC-8-Q400

3

3

4

 

Boeing 737-500

2

2

 

 

Boeing 737-800

1

1

2

伊丹〜宮崎

DHC-8-Q400

2

2

2

 

Boeing 737-500

3

2

2

 

Boeing 737-800

 

2

2

伊丹〜鹿児島

DHC-8-Q400

1

1

2

 

Boeing 737-500

3

1

1

 

Boeing 737-800

1

3

3

福岡〜新潟

DHC-8-Q400

2

2

1

 

Boeing 737-800

 

 

1

福岡〜宮崎

DHC-8-Q400

 

5

2

 

Boeing 737-500

 

1

 

 

DHC-8-Q400

 

 

4

福岡〜対馬

DHC-8-Q400

2

2

2

 

Boeing 737-500

2

2

2

福岡〜福江

DHC-8-Q400

2

2

1

 

DHC-8-Q200

2

2

3

 

DHC-8-Q400

 

 

1

新千歳〜稚内

DHC-8-Q400

2

2

2

新千歳〜女満別

DHC-8-Q400

3

3

3

新千歳〜中標津

DHC-8-Q400

3

3

3

新千歳〜釧路

DHC-8-Q400

2

2

2

 

Boeing 737-800

1

1

1

新千歳〜函館

DHC-8-Q400

2

2

2

新千歳〜青森

DHC-8-Q400

2

2

2

新千歳〜秋田

DHC-8-Q400

2

2

2

新千歳〜仙台

DHC-8-Q400

1

1

2

 

Boeing 737-500

1

2

1

 

Boeing 737-800

1

1

 

 

Boeing 737-700

5

5

4

新千歳〜新潟

DHC-8-Q400

2

2

2

合計便数

 

125

136

132

第 3  表

ANAウィングスBoeing 737-500が投入されているジェット路線

路線

使用機種

2016

2017

2018

成田〜中部

Boeing 737-500

1

 

1

 

Boeing 737-700

2

1

 

 

Boeing 737-800

1

1

 

 

Boeing 767-300

1

 

1

成田〜福岡

Boeing 737-500

1

2

2

 

Boeing 737-800

1

 

 

中部〜女満別

Boeing 737-500

1

1

 

 

Boeing 737-800

 

 

1

中部〜旭川

 

Boeing 737-500

1

 

 

Boeing 737-700

 

1

1

中部〜札幌

Boeing 737-500

1

 

1

 

Boeing 737-800

3

4

3

 

Boeing 737-700

2

2

2

中部〜長崎

Boeing 737-500

 

 

1

 

Boeing 737-800

2

2

1

伊丹〜函館

Boeing 737-500

 

 

1

 

Boeing 737-800

1

1

 

伊丹〜福島

 

 

Boeing 737-500

1

1

 

Boeing 737-800

1

1

2

CRJ700

2

2

2

伊丹〜長崎

 

Boeing 737-500

2

2

2

Boeing 737-800

1

1

2

関西〜沖縄

Boeing 737-500

1

 

1

 

Boeing 737-700

1

1

1

 

Boeing 737-800

2

3

2

福岡〜仙台

Boeing 737-500

3

2

2

 

CRJ700

1

3

3

福岡〜小松

Boeing 737-500

1

1

1

 

CRJ700

3

3

3

福岡〜沖縄

Boeing 737-500

5

3

4

 

Boeing 737-700

 

 

2

 

Boeing 737-800

 

4

3

 

Boeing 767-300

4

2

 

沖縄〜新潟

Boeing 737-500

1

1

1

沖縄〜松山

Boeing 737-500

 

 

1

 

Boeing 737-800

1

1

 

沖縄〜宮古

Boeing 737-500

5

5

3

 

Boeing 737-800

2

1

3

沖縄〜新石垣

Boeing 737-500

5

7

6

 

Boeing 737-700

 

 

1

 

Boeing 737-800

2

 

2

 

合計便数

62

59

62

第 4 表

第3表と第4表の機種別合計運航便数を合計して、そのうちANA保有機種の運航便数をグラフ化すると、ANAの運用上のフリート構成がより明確に見て取れ、AKXは事業規模、運航便数は維持しながらBoeing 737-500路線をBoeing 737-700/800に軸足を移しつつあるのは明白である。

第 1 図

第1図にAKXの機種別運航便数/日をグラフ化して掲載したが、Boeing 737-500の運航便数の減少傾向が既に進んで-800と交代しているのが明白である。 グラフを一表にするとつぎの第5表になるが、 DHC-8-Q400の便数が少し増加しているのは、MRJの引き渡し遅れにより、つなぎとしてQ400を増機した結果と見られる。

機種別合計運航便数

 機種

2016

2017

2018

DHC-8-Q400

70

74

75

Boeing 737-500

50

46

37

Boeing 737-700

4

5

6

Boeing 737-800

29

37

39

Boeing 767-300

7

4

3

ANA計

160

166

160

DHC-8-Q200

2

2

3

DHC-8-Q400

0

0

5

CRJ700

15

17

17

Boeing 737-700

7

7

5

A320

3

3

3

コードシェア計

27

29

33

総計

187

194

193

第 5 表

 

4.Boeing 737-500の退役

2014年4月7日付けの日本経済新聞によれば、MRJ受領遅れに対する追加対策として、Boeing 737-800を発注して2018年度にJA87A、88AN、89AN及びJA90ANの4機を領収する予定になっている。 そうならばその時にはBoeing 737-500も4機は退役できて、残る-500は12機になるものと予想する。 そして更に2019年以降737-700、3機と-800、12機と合計15機を領収する予定になっている。 その領収時期と国内、国際の用途はまだ明らかになっていないが、MRJが導入される2020年までに、さらに国内線にもこれらのうちの数機が投入されるのであろう。 それで2018年3月ダイヤに於いて同一路線で737-700/-800または737-600と並行使用されている路線は、相当量の需要があると見なせるので、これらの路線に於いて-500を-700/-800と交代させたとすると、凡そ11機の-500を退役させることが可能である。 そこまで行くとMRJとの交代対象となる737-500は僅か1機になる。 そう見ると、ここまでで事実上Boeing 737-500の退役は終わってしまうのである。 そうなったとしたら、Boeing 737-500の代替機として手配したMRJは、引き渡しが7年近くも遅れたために、所期の目的に叶わなくなる。 もしかすると今やAKXにはMRJは不要なのかもしれない。 それでも確定注文分の15機は領収するとしたら、それはDHC-8-Q400の後継機とせざるを得なくなると考えられるので、後章でその場合のケーススタディを行うとことにする。

5.MRJ90の位置付けの変更

MRJは納期が遅れているうちに、Boeing 737-500の退役は終わってしまいそうなので、そうなればMRJ導入の目的を、737-500後継機からDHC-8-Q400後継機に変更しなければならなくなる。 Q400のANAでの1号機は2003年7月に導入したJA841Aであるから退役したBoeing 737-500の機齢より大分少ないが、MRJの1号機が導入される2020年にもなれば、機齢は17年位になっているから、退役させても惜しくはないと考えているのかも知れない。 それでMRJは事実上DHC-8-Q400後継として位置付けられるようになると見るが、その時にはQ400、24機体制がMRJ、15機体制に縮小されることになる。 以上のような経過から、ANAグループはフリートの大型化、底辺航空機の底上げを図っており、使用機材の大型化による合理化を進めようとしていると推測する。 そして将来的には90席級のMRJがグループの運航する最小航空機になり、それより小型航空機の運航が必要な路線はコードシェアに依存することになると見られる。

6.MRJのDHC-8-Q400との交代

前述のように、MRJは所期のBoeing 737-500との交代としてではなく、DHC-8-Q400の後継機に位置付けざるを得なくなったと思う。 それではどのような交代になるのか検討すると、MRJと機種交代する可能性の高い路線は、現在DHC-8-Q400及び/またはBoeing 737-500だけで運航している路線が該当すると考える。 

DHC-8-Q400/Boeing 737-500運航路線

類  別

路  線

DHC-8-Q400運航路線

(18路線38便/日)

成田〜仙台(2)、成田〜新潟(1)、中部〜秋田(2)、中部〜新潟(2)、中部〜松山(4)、

中部〜熊本(2)、伊丹〜青森(2)、伊丹〜秋田(2)、伊丹〜大分(3)、福岡〜宮崎(2)、

福岡〜福江 (1)、新千歳〜稚内(2)、新千歳〜女満別(3)、新千歳〜中標津(2)、

新千歳〜函館(2)、新千歳〜青森(2)、新千歳〜秋田(2)、新千歳〜新潟(2)

Boeing 737-500運航路線

(5路線7便/日)

成田〜福岡(2)、伊丹〜函館(1)、福岡〜仙台(2)、福岡〜小松(1)、沖縄〜新潟(1)

両機種並行運航路線

(3路線11便/日)

中部〜仙台(4)、福岡〜対馬(4)、新千歳〜仙台(3)、

註:路線名に付随するカッコ内数字はANA自身が運航する運航便数/日で、コードシェア便は記載していない。

第 6 表

それをピックアップして見たのが、第6表であるが、全部で26路線56便/日である。 まず第6表の路線の使用機材をMRJと交代する場合のMRJの必要機数を算定して見る。 

DHC-8-Q400/Boeing 737-500とMRJ90の交代(2018年3月)

DHC-8-Q400

Boeing 737-500

交代機合計諸元

MRJ90

保有機数

24機

15機

39機

25機

運航路線

29路線

22路線

51路線

運航便数/日

73便/日

37便/日

110便/日

76便/日

稼働便数/日/機

3.04便/日/機

2.47便/日/機

2.82便/日/機

2.82便/機

第 7 表

シミュレーションに利用するMRJの稼働は、第7表のDHC-8-Q400とBoeing 737-500の総合的稼動である2.82便/日をとることにし、それでQ400路線を運航する場合の必要機数を算出する。

MRJの必要機数

運航路線数

運航便数/日

必要機数

DHC-8-Q400運航路線

18

38便数/日

13.5機

Boeing 737-500運航路線

5

7便数/日

2.5機

両機種並行運航路線

3

11便数/日

3.9機

26

56便数/日

19.9機

第 8 表

計算の結果は、第8表に示したごとく20機が必要になるので、MRJは確定注文15機に加えてオブション10機のうち5機だけを確定注文に転換すれば良いことになる。 しかしこのシミュレーションにも問題があり、それは採算性を度外視していることで、即ちMRJが適切な大きさの航空機なのかを検討していない。 路線需要に対して74席のDHC-8-Q400でも大きすぎる路線があるが、そのような路線でも自動的にQ400をMRJと自動的に交代して良いのかと言うことがある。 その一例は北海道内路線であるが、現在AKXは道内で季節運航の新千歳〜利尻線を含めて6区間14便を運航しており、必要機材量はQ400の主運航基地の伊丹空港からの回航分も含めると約6機である。 ところが北海道内路線は座席利用率が採算性ギリギリと見られる60%前後であり、赤字路線である可能性すらある。 参考までに第2図に近年のAKX道内路線の座席利用率を掲載する。

第 2 図

第2図に示すように、AKXの北海道内路線の座席利用率は60%そこそこであり、ましてMRJが導入されて座席数が88席と約2割も大型化されると、更に座席利用率が低下し赤字路線になることは確実と見られる。 

従ってAKXはMRJ導入を機に、このような採算性の低い路線は整理すると予想するのである。 そして北海道内路線から撤退すると凡そ5機分の機材量が不要になるので、第8表で算出した必要機材量20機が15機で済むことになり、確定注文分の15機で間に合うことになる。 更に新千歳から東北地方の空港、青森、秋田などへの路線も同時に検討する必要があるかも知れない。

7.コードシェアの拡張

近年においてはDHC-8-Q400の運航便数は横ばいであるので、傾向としては当面現状フリート規模を維持するものと見られる。 前掲の第5表でコードシェア便が増加しているのが見て取れるが、これを第2図でAKX自身が運航している便とコードシェアで他社機により運航している便数をグラフ化して見ると、明らかに全便数は横ばいなのに、コードシェア便は増加していることが分かる。 コードシェア便を運航しているのはIBXがCRJ700NG(70席)とCRJ200(50席)によって、そしてORCがDHC-8-Q400(74席)とDHC-8-Q200(39席)である。 それでANAグループは70席級以下の航空機の運航は、コードシェアに依存することにしたと推測できる。

第 2 図

8.総括

以上の検討から、AKXは現在DHC-8-Q400及び/またはBoeing 737-500で運航している路線の全てをMRJにて引き継がず、MRJとの機種交代を機に採算性の悪い低需要路線を整理する可能性が大きいと推測するのである。 そのような路線の一部はすでにコードシェアにより他社便も運航しているので、コードシェアを拡大して対処することも考えられる。 但し、ORCとのコードシェアはDHC-8-Q400をリースして拡大する可能性あるが、ORCの会社能力から見てそれほど大規模にはならず、福岡および長崎を起点とする九州内路線にとどまると予想している。 その他の地域内路線で、例えば北海道内路線のコードシェア導入は、引き受けてくれる運航会社が存在しないので考えられない。 またIBXはCRJ700NGの増機計画はないようなので、IBXとのコードシェアは現状維持に留まりそうである。 それでもある程度まではコードシェアの拡大で路線が維持される可能性はあるが、それができない路線は廃止される可能性が大である。 その中でもBoeing 737-500路線の処理が先行すると考えるが、DHC-8-Q400路線の将来は737-500との混合路線も含めて、Q400が何時まで使用されるのかにかかっている。 DHC-8-Q400の将来計画の進め方として、MRJの導入に合わせてある時期に一斉に退役させるのか、機齢に合わせて順次退役させるのかで、その後の進展は大きく変わってくる。 機齢に合わせて順次退役させる場合は、最も古い2003年導入のJA841Aを機齢20年で退役させるとなれば2023年から始まり、最終号機である2017年の領収のJA465Aが退役するのは2037年になる。 しかし、今後20年近くも先細りのフリートを維持するのは不経済なので、ある時点で一斉に退役させる公算が大きいと予想する。 AKXの機材計画から予測すると、MRJ導入を機に地方路線の整理が始まるのは確実と考えられ、AKXの路線ネットワークが縮小されるのは間違いないと思う。 そして、路線廃止と言う事態が発生するのは、北海道内関係路線が対象になる可能性が大きいと予測する。 北海道内路線はJALが新千歳〜女満別線、HACが丘珠〜利尻線、〜釧路線、〜函館線及び函館〜奥尻線を運航しているので、仮にAKXが全面撤退したとしても、航空サービスがなくなるのは札幌〜中標津と札幌〜稚内の2区間だけである。 但し区間としては航空サービスが維持できるとしても、HACの使用機材は36席のSaab340Bなので、提供座席数が大幅に減少することになる。 HACは現在の3機体制の増強計画はなさそうなので、札幌〜釧路線と札幌〜函館線では提供座席数が需要に追いつかない場合が生ずる可能性がある。 むしろAKXの動向とは関係なく、JALはJACのSaab340B退役時には、HACのSaab340Bの運航支援が継続できなくなったとして、HACの運航を停止する可能性の方が大きいと思う。 J-AIRのEmbraer 170(76席)による運航を拡大するにしても、この機材に対して需要が少ない路線があるので、J-AIRで補完される路線も限定されるであろう。 そしてその時には函館〜奥尻線は、Embraer 170による1,500m滑走路の奥尻空港での冬季運航が難しいので、通年運航が行われなくなることは確実と思う。 前述したようにAKXへのMRJ導入に伴って、ANAグループの地方路線で廃止される区間が出てくると予想している。 その候補として北海道内の航空ネットワークの縮小を予想するが、もし北海道内全域の航空ネットワークが将来も必要としても、90席級機しか運航していないANAグループに依存することは無理がある。 JALの子会社としてのHACにも、会社を拡充してまで道内路線ネットワークを維持するモチベーションはないので、そこにも期待できないと思う。 AKXのMRJ導入に伴う路線ネットワークの再編成は、航空会社としてはしごく当然のことで、それを阻止すべき理由はない。 一方ではその悪い影響を受ける地域が出てくることも事実であるが、その対策を講じるのは航空会社ではなく、不本意であるとは思うがそれは関係地域であることを認識しなければならない。 もし、AKXが北海道内路線から撤退するとしたら、加えてJR北海道の線区整理が現実になったとしたら、将来の北海道の交通ネットワークがどうあるべきか、取り組まなければならないのはAKXでもJR北海道でもなく、影響を受ける地域である。 今や地域がAKXの撤退にも対処する方策を検討する時期に来ていると思うのである。 最も確実な北海道内航空ネットワークの維持策は、多分HACの道策会社への復帰なのかも知れない。 

以上