6−Q JACの行方

Ref. No.2018.02                                                                      2018.02.11

日本エアコミューターの行方

1.日本航空グループの動向

近年の日本航空(JAL)グループの地域航空事業の動向を見ていると、どうもこの分野の縮小が図られているような気がしてきた。 日本エアコミューター(JAC)は昨年の1月に新鋭機ATR42-600を導入し、北海道エアシステム(HAC)は、保有するSaab340B+の客席を更新した。 しかし、JAC自体は事業規模縮小が続いているようだし、HACも現状維持しているのが精一杯のように見て取れる。 この状況については、JACとHACの創立者を自認している筆者としては無関心ではいられないので、この報告でJACの行方を占って見たいと思う。

2.JACのJALグループ内での地位

JACはJALグループの一員であるが、元々は日本エアシステム(JAS)(当時は東亜国内航空)の子会社として設立され、JASがJALに併合されたのに伴いJALの子会社になった。 現在のJALグループ各社を第1表で紹介するが、本報告の趣旨に沿って国内線事業についてのみ本報告の対象とする。

日本航空グループの構成

会社名

国内線営業範囲

国内線使用機種

日本航空(JAL)

女満別から那覇までの全国

B0eing 777-300、Boeing 777-200、Boeing 787-8、Boeing 767、Boeing737-800

ジェイエア(J-AIR)

女満別から徳之島までの全国

Embraer 170、Embraer 190、

Bombardier CRJ200

北海道エアシステム(HAC)

原則として北海道内

Saab340B+

日本トランスオーシャン航空

那覇から本土主要都市間及び沖縄県内路線

Boeing 737-800、Boeing 737-400

日本エアコミューター(JAC)

伊丹から那覇までの西日本

DHC-8-Q400、Saab340B、ATR42-600

琉球エアコミューター(RAC)

原則として沖縄県内

DHC-8-Q400CC

第 1 表

日本航空グループの輸送力構成を第1図に示すが、これで見るとJACはJALグループ内の輸送力としては2%であり、グループ5社では第3位の地位を保っている。 2%と言う数字は大きいものではないが、これを路線数で見ると違ってくる。 JALはJ-AIRも含めて国内線で73路線を運行しているが、JACはJAC単独で運行している路線だけで18路線もあり、JALの路線数の凡そ25%にもなる。 現在の西日本に於けるJALグループのきめ細かい路線網は、その大きい部分をJACが担当しているのである。 もともとJACはJALが設立した地域航空会社ではなく、JASを合併した時に付随してHACと共にJALグループ入りした。 JALがJACとHACのグループ入りを歓迎したのかどうかはわからないが、JACは無視するにはあまりにも大きな存在になっていた。 それがJACにATR42-600を導入して、事業継続の意志を明らかにした理由ではないかと思うのである。 一方、HACのSaab340B+の高家浮き問題は全く先が読めない。

第 1  図

3.JACの事業規模縮小

JALは、J-AIRを全国ネット航空会社と位置付けているので、JACを奄美諸島路線に特化した地域限定航空会社として存続させることにしたと推測する。 その具体策として、JALはJACを奄美諸島路線に集約しようとしていると見られるが、それはATR42-600を導入する前年度からの運航路線の変遷を見ると明白になる。 JACの事業内容の変化は、ATR42-600の導入時から顕在化してきたと見るので、ATR42導入前の2016年度から導入2年目になる2018年度までのダイヤで調べて見た。 なお青字で示したのは、同路線を運行するジェイエア(J-AIR)が運航するEmbraer 170の便数である。

JACの近年の運航状況の変化

路線

使用機種

2016

2017

2018

伊丹〜但馬

Saab340B

2

2

2

伊丹〜出雲

DHC-8-Q400

3

3

3

 

Saab340B

1

1

1

 

Embraer 170

 

 

1

伊丹〜隠岐

DHC8-Q400

1

1

1

伊丹〜屋久島

DHC8-Q400

1

1

1

出雲〜隠岐

Saab340B

1

1

1

福岡〜出雲

Saab340B

2

2

2

福岡〜徳島

DHC-8-Q400

1

 

 

 

Embraer 170

 

1

1

福岡〜松山

 

DHC-8-Q400

4

4

 

Embraer 170

 

 

4

福岡〜宮崎

DHC-8-Q400

4

 

 

 

Embraer 170

3

7

7

福岡〜鹿児島

Saab340B

2

1

1

福岡〜奄美大島

DHC-8-Q400

1

1

 

福岡〜屋久島

DH-8-Q400

1

1

1

鹿児島〜松山

Saab340B

1

1

1

鹿児島〜種子島

Saab340B

3

2

2

 

DHC-8-Q400

1

1

 

 

ATR42

 

 

2

鹿児島〜屋久島

DHC-8-Q400

4

4

3

 

ATR42-600

 

 

1

鹿児島〜奄美大島

Saab340B

2

1

1

 

DHC-8-Q400

5

6

3

 

Embraer 170

 

 

3

鹿児島〜喜界島

Saab340B

2

2

1

 

ATR42-600

 

 

1

鹿児島〜徳之島

DHC-8-Q400

4

4

1

 

Embraer 170

 

 

4

鹿児島〜沖永良部

Saab340B

2

 

 

 

DHC-8-Q400

1

2

1

 

ATR42-600

 

1

2

鹿児島〜与論

DH-8-Q400

1

1

2

奄美大島〜喜界島

Saab340B

3

3

2

 

ATR42-600

 

 

1

奄美大島〜徳之島

Saab340B

2

2

2

奄美大島〜沖永良部

Saab340B

1

1

1

奄美大島〜与論

Saab340B

1

1

1

沖永良部〜与論

Saab340B

1

1

1

合計便数

 

61

59

62

機種別便数

Saab340B

26

21

19

 

DHC8-Q400

32

29

16

 

ATR42-600

0

1

7

 

Embraer 170

3

8

20

第 2 表

なお基本は4月ダイヤとするが、2018年度についてはまだ4月ダイヤを入手していないので、3月ダイヤで代用した。 第2表で見ればJACの路線がJ-AIRに移管されて来ているのが明白であり、2016年度には58便/日を運航していたが、2017年度には51便/日に、2018年度には42便/日にまで縮小されている。

これを第1図にてグラフ化して図示した。

第 2 図

JAC関連の路線における総運航便数/日は横ばいであるが、その中でEmbraer 170によるJ-AIRに交代している便が増加しているので、JALグループがJACの事業をJ-AIRに移管して規模の縮小を図っているのは、間違いないと思う。 更にJACの保有航空機の動向から見ると、それは2015年3月に始まっている。

JAC保有機材の動向(2017年12月現在)

型式

登録記号

製造番号

登録年月日

抹消年月日

備考

Saab340B

JA8594

340B-349

1996.07.02

 

 

 

JA8642

340B-365

1994.12.16

 

 

 

JA8649

340B-368

1995.06.28

2017.12.25

米国へ売却

 

JA8703

340B-355

1994.01.19

 

 

 

JA8704

340B-361

1994.01.11

2017.06.12

米国へ売却

 

JA8886

340B-281

1992.02.06

 

 

 

JA8887

340B-308

1992.08.25

2015.03.18

豪州へ売却

 

JA8888

340B-331

1993.02.10

 

 

 

JA8900

340B-378

1996.01.11

 

 

 

JA001C

340B-419

1997.06.19

 

 

 

JA002C

340B-459

1999.09.13

 

 

DHC-8-402

JA841C

4072

2002.10.03

 

 

 

JA842C

4073

2002.12.03

2017.05.22

米国へ売却

 

JA843C

4076

2003.10.06

 

 

 

JA844C

4092

2004.06.25

 

 

 

JA845C

4101

2005.03.23

2016.02.29

米国へ売却

 

JA846C

4107

2005.07.29

 

 

 

JA847C

4111

2005.12.01

2016.08.29

米国へ売却

 

JA848C

4121

2006.04.28

 

 

 

JA849C

4133

2006.10.02

 

 

 

JA850C

4158

2007.05.10

 

 

 

JA851C

4177

2007.11.06

 

 

ATR42-600

JA01JC

1215

2017.01.20

 

 

 

JA02JC

1218

2017.09.22

 

 

 

JA03JC

 

 

 

 これから領収

 

JA04JC

 

 

 

 これから領収

 

JA05JC

 

 

 

 これから領収

 

JA06JC

 

 

 

 これから領収

 

JA07JC

 

 

 

 これから領収

 

JA08JC

 

 

 

 これから領収

 

JA09JC

 

 

 

 これから領収

第 3 表

JACが最も多くの航空機を運航していた時は、Saab340BとDHC-8-Q400をそれぞれ11機、計22機を運航していたが、今日までにすでに両機種とも3機ずつ売却されている。 路線のJ-AIRへの移管及び両機種の退役が進行すれば、最終的にはATR42-600、9機にまで縮小されると報道されている。 

また退役させるSaab340Bについて、当所はANAがMRJの導入に伴い北海道内路線の採算性が悪化する可能性大なので、将来的には道内路線からの撤退の可能性もあるとして、HACにJACの退役Saab340Bを移管して道内路線を増強することを提案しているが、JALにはその気はなさそうである。

4.将来のJACの有姿

それでは将来のJACはATR42-600を9機だけを運航する航空会社になることは決定済みのようである。 

実はJACは創立時に奄美諸島の地方自治体と奄美諸島関連路線の維持を約束している。 多分今の関係者は誰も知らないと思うが、だからと言って今や安易に撤退も出来ないと思う。 ましてATR42-600の購入には国の補助金も付いているので、運航は継続されると見ている。 そこで第2表に記載されている路線で2018年度にも運航されている路線の将来を予測して見よう。 まず問題になるのは、滑走路長が短くて物理的にジェット化できない空港であるが、それは5空港存在する。 第4表にジェットの導入のできない空港と路線をリストアップしている。 奄美諸島内路線についてはその需要規模大きさと短い区間距離からジェット化できない方が得策のようである。 さらに需要規模からすれば、ジェット化などは問題外である路線も存在し、そのうちの5路線はATR42-600の投入すら問題になりそうである。 現在DHC-8-Q400(74席)が使用されている路線は、それより小型のATR42-600(48席)と交代するのには問題ないが、Saab340B(36席)だけで運航している路線は、同便数とすると提供座席数が36席から48席と3割強も増加するので、座席利用率が低下して採算性が悪化すると考えられる。 ATR42-600で凡そ60%の座席利用率を確保するのに必要な旅客数は年間21,000人であるから、それ以下の路線が問題になる。 投入される航空機をJ-AIRのEmbraer 170(76席)を想定し、採算の取れる座席利用率を60%程度と見積もると、年間33,000人の需要が必要である。   

ジェット化に関して問題がある空港と路線

類別

空港(滑走路長)

ジェット化できない路線

リージョナル・ジェットが

運航できない空港

(5空港/12路線)

但馬 (1200m)

伊丹〜但馬

屋久島(1500m)

伊丹〜屋久島、伊丹〜屋久島、福岡〜屋久島、鹿児島〜屋久島

喜界島(1200m)

鹿児島〜喜界島、奄美大島〜喜界島

沖永良部(1350m)

鹿児島〜沖之永良部、奄美大島〜沖永良部、沖永良部〜与論

与論(1200m)

鹿児島〜与論、奄美大島〜与論、沖永良部〜与論

需要規模が小さ過ぎる

路線

(4空港/5路線)

隠岐(2000m)

伊丹〜隠岐(13,895人)、出雲〜隠岐(7,892人)

出雲(2000m)

福岡〜出雲(16,919人)

鹿児島(3000m)

福岡〜鹿児島(19,980人)

松山(2500m)

鹿児島〜松山(7,225人)

註:旅客数は2016年度実績

第 4 表

これまでの検討結果を要約するのが次の第5表である。

JAC路線の将来予測

類別

路線(便数/日)

J-AIRに既に移管されている路線(3路線/12便)

福岡〜徳島(1)、福岡〜松山(4)、福岡〜宮崎(7)、

今後J-AIRに移管されそうな路線(3路線/18便)

伊丹〜出雲(6)、鹿児島〜奄美大島(7)、鹿児島〜徳之島(5)

ATR42-600で運航が継続されると見られる路線

(13路線/26便)

伊丹〜但馬(1)、伊丹〜屋久島(1)、福岡〜屋久島(1)、

鹿児島〜種子島(4)、鹿児島〜屋久島(4)、鹿児島〜喜界島(2)、

奄美大島〜喜界島(3)、奄美大島〜徳之島(2)、鹿児島〜沖永良部(3)、

奄美大島〜沖永良部(1)、沖永良部〜与論(1)、鹿児島〜与論(2)、

奄美大島〜与論(1)

物理的にはジェット化が可能であるが、需要が少なくて廃止される可能性のある路線(5路線/6便)

伊丹〜隠岐(1)、出雲〜隠岐(1)、福岡〜出雲(1)、福岡〜鹿児島(1)、

鹿児島〜松山(2)

第 5  表

第5表による検討では、JACがATR42-600で運航を継続すると見られるのは鹿児島県下の離島路線と兵庫県からの運行委託路線の13路線、26便/日である。 JACの1機あたりの稼働は現在凡そ3.1便/日であるから、26便/日に必要な機数は計算上では8.4機であり、導入を決めているATR42-600、9機でちょうど充当できる便数である。 それが将来のJACの姿であると予想する。 なお、Saab340BがATR42-600に交代する路線で、器材の大型化によって減便できる路線があれば、その機材を使用して廃止される可能性のある路線の一部、例えば伊丹〜隠岐及び出雲〜隠岐線を運航することもありうると考えている。 

5.まとめ

以上の検討により、当所はJACが基本的に大隅諸島と奄美諸島に特化する地域航空会社になると予想する。 唯一伊丹〜但馬線だけが例外であるが、これは従来からの兵庫県との関係と、この路線の採算が事実上兵庫県によって保証されているので、運航が継続されると判定している。 結局、JACはYS-11を導入した頃の事業規模に戻ることになる。 多分、JALグループは国内の定期航空事業は、基本的にはJAL本体とJ-AIRの2層構造とし、これら2社で運航するには不適当だが撤退もできない地方路線への対応として、JACを残すことにしたのであろう。 なお、HACは当面は運航継続するが、Saab340B+の後継機の手当をしていないことから、適当な時期に清算するのではないかと推測している。 北海道内路線はJACほどの路線密度はなく、函館〜奥尻線以外はJ-AIRの機材で運航できるので、現在運航している新千歳〜女満別線に加えてANAと並行して運航できる路線だけを運航することになるのではないか。 奥尻島空港の滑走路長は1,500mなのでリージョナル・ジェットの通年運行は難しいと見られる。 使用できる機材がなくなれば、その路線から撤退するのは航空会社にとってはしごく当然であり、ANAがそれを理由に羽田〜三宅島線から撤退した事例もある。 この場合は新中央航空が調布〜三宅島線を開設して肩代わりしたが、北海道には肩代わりする航空会社は存在しないので、もしHACが事業廃止になると奥尻島の空の便は無くなる。 それは地元には大問題ではあるが、JALの問題ではない。 ここで派生的に生ずる問題は、今後のHACのSaab340B+の維持である。 HACはSaab340Bの運航支援業務をJACに全面的に依存しており、もしJACがSaab340Bを全機退役させてその支援体制を解散した時に、HACがSaab340B+の運航できなくなる恐れがある。 それを避けるためにはHACが自前の運航支援体制を構築する必要があるが、今までそれに着手したと言う話は聞かない。  以前にも当所は機材の大型化によって切り捨てられる地方路線が出現する可能性について警鐘を鳴らしているが、加えて現在も生産を継続している30席級地域航空機の不在により、さらにこの傾向が加速される恐れがある。 これに対する対処は航空会社ではなく、まさに地域の取り組むべき問題であると考えるのである。

以上