6−3−L 日本の国内航空業界の動向

2023.02.22

日本の国内航空業界の動向

1.日本の国内航空

2020年に始まった新型コロナによる日本の航空運送業界に対する影響は極めて大きいようである。 2021年度から回復の兆候は見られるものの、テレワークやオンライン会議などの生活様式の変化が、航空需要にどのように影響してくるのかまだ見通せない。 日本の航空国内線の業界構造は、全日本空輸(ANA)と日本航空(JAL)の2大巨人を中心に、中小航空会社が追従するような形となっている。 2000年の航空自由化以前は、ANA/JALと沖縄を中心とした南西航空(現日本トランスオーシャン航空[JTA])に、不定期航空事業免許の2地点間航空輸送から発展した地域航空会社が細々と運航していた。 しかし2000年の航空自由化によりスカイマーク(SKY)をはじめとして4社が参入し、さらに2011年度から低コスト航空会社(LCC)も参入してきた。 当所は、これらの航空会社を五つのカテゴリーに分類して新型コロナの影響を調査する。

航空会社の種別一覧表(2022年4月現在)

種別

定義

現存航空会社

在来型航空会社

戦後の航空再開により設立された航空会社(3社)

日本航空(JAL)*1、全日本空輸(ANA)

日本トランスオーシャン航空(JTA)

新規参入航空会社

2000年の航空自由化で参入してきた航空会社

(4社)

スカイマーク(SKY)、AIR DO (ADO)、

ソラシドエア (SNA)、

スターフライヤー(SFJ)

低コスト航空会社

(LCC)

2011年度から参入してきた低コスト航空会社

(3社)

Peach(APJ)、ジェットスター(JJP)、

春秋航空(SJO)

Regional Jet

航空会社(RJ)

Regional Jet機を使用して比較的低需要長距離

路線を運航する航空会社(3社)

ジェイエア(J-Air)

フジドリームエアラインズ(FDA)、

IBEXエアラインズ(IBX)

地域航空会社

限定された地域内を比較的小型機で運航する航空会社(7社)

ANAウイングス(AKX)*2、

新中央航空(NCA)、

北海道エアシステム(HAC)*3、

オリエンタルエアブリッジ(ORC)、

天草エアライン(AMX)、

日本エアコミューター(JAC)、

琉球エアコミューター(RAC)

註:*1国土交通省の統計ではリージョナル・ジェット機を運航しているジェイエア(J-Air)の輸送分も含まれている。

  *2統計上はANAの統計に包含されている。

  *3 2017年度からJALの統計の中に包含されているが、この報告ではHACは地域航空として計上した。

第 1 表

2.航空運送業界全体への新型コロナの影響

航空運送業界は、第1表に示したように業種としては5種、航空会社数としては20社で成立している。

但しコード(便名)としては、ANAグループではANAとAKXはANAコード、JALグループではJAL、J-Air、HAC及びJACの4社は、JALコードが付けられていて、外見上はそれぞれが1社となる。 

LCCは、最盛期にはAPJ、JJP、バニラエア(VNL)とWAJと春秋航空(SJO)の5社が営業していたが、VNLはAPJと経営統合し、WAJは経営不振のため2020年12月に廃業して、現在は3社が残っている。 第1表に掲載した五つのカテゴリーの航空業界で、会社数が減少したのはLCC業界だけである。 その理由の一つは、大需要発生地である関東地区の発着空港が成田空港で、空港までの交通費や時間を勘案するとそれほどメリットが感じられなかったからと推察する。  第1図にわが国の国内線の輸送旅客数の変遷を示した。 

                 

第 1図

国内線の輸送旅客数は新型コロナ直前には1億人に達したが、新型コロナの発生した2020年度には概ね3千4百万人と、ピーク時の凡そ1/3にまで減少した。 2021年度には需要回復の兆しがあるが、航空運送業界の合計輸送旅客数は、2022年度上期合計は 41,188,353人で2019年度上期合計の54,694,371人の75.3%にしか回復しておらず、新型コロナ以前の水準への回復は2023年度以降になると予測される。 

但し、テレワークの促進など生活様式の変化が、どの程度航空需要に影響して来るかは未だ不透明である。 


第 2  図

第2図は新型コロナの影響も含め、個々の航空会社種別の輸送旅客数の変化が分かりやすくするようにグラフの形を変えてみたものである。 在来型航空会社の輸送量が極めて大きいので、その分新型コロナの影響も大きく見える。 それでこの影響が五つの種別による違いがあったのか検証するために、五つの種別の市場占有率の変化を調べ、第3図に図示した。 第3図に見られるように、在来型航空会社の市場占有率は新型コロナ禍発生前から減少傾向にある。 第3図に見られるよう2021年度まではLCCが成長して市場占有率が大きく伸びて、在来型航空会社の輸送分を侵食しているのがわかる。 但し、新型コロナ禍から回復した時にも、この傾向が続くのかどうかはまだ分からない。 リージョナル・ジェット航空会社は、その市場占有率は小さいが、これは国土交通省統計に問題があり、リージョナル・ジェット機を32機も運用しているJ-Airの実績はJAL実績に包含されて、リージョナル・ジェット会社分に計上されていない。


第 3  図

 なお、この報告ではHACについてはJAL分から抽出して2021年度までHAC分だけを計上している。


第 4  図

リージョナル・ジェットと地域航空の部分だけを拡大したのが第4図である。 2012年度から地域航空の輸送量が減少した主たる理由は、JAL本体とJ-Airで全国ネットを形成するために、JACの内陸路線がJ-Airに移管されたためと見ている。 しかし、ANAにはQ400路線を再編成する動きはまだ見えない。

3.在来型航空会社の動向

在来型航空会社三社、ANSA、JAL及びJTAである。 ANAの国内線使用機の主力は、Boeing 777-200/300である。 一時P&Wエンジン装備の777は、エンジンの不具合により運航停止となった時期もあったが、現在は平常運航に復帰している。  ANAは本年2月15日にANAグループの2023-2025年度中期経営戦略を発表したが、そのなかでBoeing 787を100機超えのフリートとする計画が明らかになった。 それから推測すると、ANAはフリートの主軸を777シリーズから787シリーズに変える方向と推測される。

JALも従来の主力機は、Boeing 777シリーズであったが、JALの歴史上異例なことに欧州製のAirbus A350-900を導入することになり、2020年9月より国内線に就航し、順次Boeing 777-200と交代して行くと見られる。 その結果、ANA/JAL共に国内線の主力は360-400席級機となると予測する。 過去の500席級機の導入は、主として羽田の発着枠制限に起因することだったので、その制限が緩和された現在は多便化に向かっていると推測する。 また現在の地方路線の主力機種はANA/JALにJTAも含めBoeing 737-800である。

JTAは自社で購入した12機に加えて、13号機、14号機をJALからリースすることになっているが、これはBoeing 737-800が生産中止となったので、グループ内で使用機種のやりくりをしているものと見られる。なお、ANAは同級機としてAirbus A320/321も導入しており、Boeing機と2機種の使い分けをどう考えたのか興味がある。 ANAとJALの経営戦略の大きな相違点は、客席数100席以下の小型機の利用にある。 

JALグループにはリージョナル・ジェット機を運用するJ-Airが存在するが、JAL便とJ-Air便が同一路線を

並行運航することはなく、市場規模でJALとJ-Airが棲み分けている。 さらにJ-Airの路線網はFDAとの

コードシェアにより補強されている。 加えてJALグループではJALと、J-Air/FDAによる全国ネットワークの下に、限定された地域内だけで運営する地域航空会社が3社-子会社のHACとJACに加えて、コードシェアによりAMX-存在する。 一方、ANAグループの路線では、ターボプロップ機のDHC-8-Q400をジェット機と並行運行しているケースが多々ある。 ANAグループは九州北部と一部の本土路線でORCとのコードシェア運航しているだけであり、小型地方路線の分野では他社との提携は重んじてはいないようである。 ANAの他社との提携路線は主要地方路線であり、そこではADO、SNA及びSFJの全便が、ANAとのコードシェアになっている。 ANAの他社との提携の特殊な事例としてIBXがある。 IBXは全便がANAとのコードシェアになっており、Q400フリートを補強する運用と推測する。 なお、ANAは2月15日にANAグループの2023-2025年度中期経営戦略を発表した。 そのなかでBoeing 787を100機超えのフリートとし、三菱スペースジェットの開発中止については、「ローンチ・カストマーとして非常に残念」と述べているが、Q400の将来については2022年度で24機と記載されているが、2025年度には何も記載されていない。 それから推測すると少なくとも2025年度までQ400は現状維持すると推測するが、それ以降はまだ意思決定ができていないようにも見える。 JALもスペースジェットを32機発注していたが、その開発が遅れたので早々に見切りを付けたのか、Embraer 190を14機、Embraer 170を18機と計32機を導入して、J-Airが運用している。

4.新規参入航空会社の動向

新規参入航空会社の動向としてはSKYだけに動きが見られる。 SKYは2025年第一四半期から現用のBoeing 737-800に追加して、Boeing 737 Max 8をリースする計画を発表した。 それとは別にBoeing737 Max-8/10を6機(確定4+オプション2)発注した。 しかし、その他の3社、ADO、SNA及びSFJは、SFJの

羽田〜北九州線の一部を除いて、全便がANAとコードシェア便となっているので、増機についてはANAの指示待ちと見ている。

5.低コスト(LCC)航空会社の動向

低コスト(LCC)航空会社について目立った動きは見られない。 それは新型コロナにより座席利用率が50%台にまで落ち込んだ。 LCCのビジネス・モデルは、高密度座席配置と高座席利用率で収益を確保する仕組みなので、最近のような低座席利用率では、このモデルが通用しなくなっていると見られる。 それで需要が回復するのをじっと待っていると言うところであろう。

6.リージョナル・ジェット航空会社の動向

リージョナル・ジェット航空会社は前掲第4図によれば、急速に需要は回復していると見られる。 FDAとIBXの使用機材は、いずれも2009年度導入開始なので、まだ高齢化の問題はない。 その交代の時が来た時、FDAはEmbraer 170/175E2に進むと予想されるが、IBXについてはBombardierがCRJ NGシリーズの生産を既に中止しているので、Embraer機を導入するより方策がないと見られるが、元々IBXの創立は投資目的のようなので、航空運送事業からの撤退もあるのではないかと思うのである。

7.地域航空会社の動向

地域航空会社の輸送旅客数の変遷を第5図にしめす。 これで見るとHAC、NCA、AMX及びRACは新型コロナの影響も比較的少なく、回復も早いようである。


第 5  図

2019年度にORCの輸送旅客数が急増した原因は不詳である。 JACの輸送旅客数が急落したのは、JALグループ内で路線分担が再編成され、JACの内陸路線の大部分がJ-Airに移管されたことによる。 それでJACを基本的に鹿児島県下の離島路線を運航する会社に再編成された。 その結果、国内線全体を基本的にはJAL本体とJ-Airで運営し、それに子会社のHAC及びJACと、FDAとAMXとのコードシェアにより補強する、いわば二重構造の形となった。 JALの小型機路線の再編成の状況を第2表に取りまとめたが、JACの28路線のうち8路線はJ-Airに移管され、JACは基本的に鹿児島県下の離島路線専業会社となった。

JAC路線のJ-Airへの移管

 

区間

2015

2016

2017

2018

2019

2020

2021

1

伊丹〜但馬

SF3

SF3

SF3

SF3

ATR

ATR

ATR

2

伊丹〜出雲

SF3/DH4

SF3/DH4

SF3/DH4

SF3/DH4

E70

E70

E70/E90

3

伊丹〜隠岐

DH4

DH4

DH4

DH4

E70

E70

E70/E90

4

伊丹〜鹿児島

 

 

 

 

 

 

E70/E90

5

伊丹〜屋久島

DH4

DH4

 

 

 

 

ATR

6

福岡〜出雲

SF3

SF3

SF3

SF3

SF3

ATR

ATR

7

福岡〜徳島

SF3

DH4

E70

E70

E70

E70

E70

8

福岡〜松山

SF3/DH4

DH4

DH4

E70

E70

E70

E70

9

福岡〜高知

SF3

 

 

 

 

E70

E70

10

福岡〜宮崎

DH4

DH4

E70

E70

E70

E70

E70

11

福岡〜鹿児島

SF3

SF3

SF3

SF3

SF3

ATR

ATR

12

福岡〜奄美大島

DH4

DH4

DH4

E70

E70

E70

E70

13

福岡〜屋久島

DH4

DH4

DH4

DH4

ATR

ATR

ATR

14

隠岐〜出雲

SF3

SF3

SF3

SF3

SF3

ATR

ATR

15

鹿児島〜松山

SF3

SF3

SF3

SF3

SF3

ATR

ATR

16

鹿児島〜種子島

SF3

SF3/DH4

SF3/DH4

ATR/DH4

SF3/ATR/DH4

ATR

ATR

17

鹿児島〜屋久島

SF3/DH4

DH4

DH4/ATR

SF3/ATR/DH4

ATR

ATR

ATR

18

鹿児島〜奄美大島

SF3/DH4

SF3/DH4

SF3/DH4

SF3/ATR/DH4

ATR/E70

ATR

ATR

19

鹿児島〜喜界島

SF3

SF3

SF3

SF3/ATR

ATR

ATR

ATR

20

鹿児島〜徳之島

SF3/DH4

DH4

DH4

E70

E70

ATR/E70

ATR/E70

21

鹿児島〜沖永良部

SF3/DH4

SF3/DH4

DH4/ATR

SF3/ATR/DH4

SF3/ATR

ATR

ATR

22

鹿児島〜与論

DH4

DH4

DH4

DH4

ATR

ATR

ATR

23

奄美大島〜喜界島

SF3

SF3

SF3

SF3/ATR

ATR

ATR

ATR

24

奄美大島〜徳之島

SF3

SF3

SF3

SF3

ATR

ATR

ATR

25

奄美大島〜沖永良部

SF3

SF3

SF3

SF3

ATR

ATR

ATR

26

奄美大島〜与論

SF3

SF3

SF3

SF3

ATR

ATR

ATR

27

沖永良部〜与論

SF3

SF3

SF3

SF3

 

 

ATR

28

徳之島〜沖永良部

 

 

 

 

ATR

ATR

ATR

 

 JAC/J-Air路線数

 25/0

 24/0

 19/2

16/5

16/8

 17/8

 19/9

第 2  表

註:1.機種表示は、SF3=Saab340B、DH4=DHC-8-Q400、E70=E170、E90=E190、ATR=ATR42/72。 なおSF3は青字、E70/90

は赤字で表示している。

  2.ATR/E70の2機種混用路線は便数の多いE70路線として計上している。

なお伊丹〜但馬線は、事実上兵庫県所有のATR42、1機を委託運航して運用することを兵庫県と契約しており、ただそれだけでは採算の取れる稼働率にはならないので、伊丹〜但馬線を運航した残りの稼働時間分をJACがリースする契約となっている。

一方ANAは、ANA本体と AKXで全国ネットを形成し、ORCとのコードシェアで部分的に補完している。 

そして前報告Ref.No.2023/04「ANA/ORCの事業戦略とQ400の行方」にて、ORC路線を秋田空港まで、その路線を延伸する計画であることを報告したが、その先がどのように進展するのかはまだ見通せない。 

前述のような状況から、JALグループのJAL/J-Airによる全国ネット運営とは違って、ANAグループは当分、Q400を下限の小型機種とするが、長期的にはBoeing 737シリーズ機を最小機種とするように底上げしたフリート編成するようにも見える。 その鍵となるのは、ORCへのQ400の移管がどこまで拡張されるかにかかっていると推測するのである。

8.新型コロナの影響からの脱却

新型コロナの影響からの脱却がいつになるのか、現在のところは見通せない。 報道によると、我が国のGDPは2020年第二四半期には成長率がマイナス30%に落ち込んだが、第三四半期には成長率はプラス25%程度にまで反発し、以後2021年第一四半期から2022年第三四半期までは0%前後での横這い状態が続いた。 

2月15日の報道では、2022年第四四半期では2期ぶりにプラス成長となり年率換算で0.6%となったとあるが、航空需要にどのくらい影響するのか、注目して行きたい。 前述したように、2022年上期の輸送実績では、平年度の3/4程度に落ち込んだままなので、2022年第四四半期の年率換算で0.6%程度の経済成長では、今年度中の航空需要の完全回復は望めそうにない。 どの筆者の記憶では、このような航空不況は1966年以来である。 1966年の航空不況は、全日空Boeing 727の羽田沖墜落事故、カナダ太平洋航空の羽田空港での着陸失敗事故、それに英国海外航空の富士山麓墜落事故と事故が連続し、それで一気に需要が冷え込んだ。 ともあれ今は我慢の時である。 ANAは客室乗務員を地方に配置して、その地域の振興に関する仕事を兼業させるなど、航空業界でも働き方が変わって来ている。 航空運送業界は事業経営のやり方も見直す時期が来ているようにも思える。 その焦点は大型機の分野ではなく、小型機の分野になると予想する。 日本航空グループは、地域航空も含めてネットワークの再編成が完了したと見られるが、ANAはまだ、現在Q400で運航している路線の将来構想を確立していない。 ANAもATR42/72を導入するようになるのか、過去において欧州機には見向きもしなかったJALが、Airbus A350を導入するご時勢である。

我が国におけるBoeing社の天下に翳りが出てきたようにも見えるのである。 東亜国内航空(TDA)がA300を導入した時の当事者であった筆者としては感慨無量である。 当所としても、将来にあるべき航空運送業界の姿を模索して行くことにする。

以上