ANAウィングスの行方
2020.07.20
- 始めに
全日本空輸(ANA)の国内路線網は、ANA本体とANAウイングス(AKX)の2社によって運航されている。
AKXは、稚内〜利尻、礼文線と新潟〜佐渡線を運航するために、ANA、日本航空(JAL)及び東亜国内航空(TDA)の合弁で創立された日本近距離航空が始まりで、その後同社は改編されてエアーニッポンネットワークとなり、2010年にグループ内のエアーネクスト、エアーセントラルと統合してAKXとなった。 使用機種は2019年度まではDHC-8-Q400、Boeing 737-500、Boeing 737-700及びBoeing 737-800の4機種となっているが、737-700/800はANAとの共通事業機なので、AKXが独自で運航していたのはDHC-8-Q400とBoeing 737-500の2機種であったが、737-500は去る2020年6月24日もって全機が退役し、今やAKXの使用機種はDHC-8-Q400だけとになったが、近い将来にQ400は三菱スペースジェット(標準的座席数88席)と交代すると予想されている。 しかし、スペースジェットは開発作業が遅れて既に6回も引き渡し時期が延期されており、いまだにその引渡し時期は見通せない。 一方では、AKXのQ400は、2017年10月からオリエンタルエアブリッジ(ORC)との共通事業機として登録されて、それ以降ORCはANA路線にAKXと交代して参入し、2018年10月には新路線の開設も行っている。 現在の進行状況を見ると、ANAグループは、AKXとORCを合わせて再編成する途上にあるように見えるので、どのような運営形態になるのか検討して見ることにした。
2.AKXの現況
ANAグループは、Boeing 777-300(514席)を最大型機、DHC-8-Q400(74席)を最小型機として全部で11機種129機を国内線にて運用していると見られる。 AKXの使用機種は2019年度まではDHC-8-Q400、Boeing 737-500、Boeing 737-700及びBoeing 737-800の4機種であったが、737-700/800はANA本体との共通事業機なので、AKXが独自で運航していたのはDHC-8-Q400とBoeing 737-500の2機種であった。 しかし、737-500は去る2020年6月24日もって全機が退役したので、今やAKXの使用機種はDHC-8-Q400だけになった。 ANAグループは近い将来にAKXに三菱スペースジェットを導入する計画であり、既に確定注文15機+オプション10機を契約している。 これまでの報道から推察すると、本来スペースジェットはBoeing 737-500との交代を目論んでいたが、スペースジェットの開発作業が遅れて未だに導入時期が見通せないうちに、737-500は全機退役してしまった。 それで現在は、スペースジェットはQ400の後継機とみなすのが妥当であろう。 そのような経過で現在、AKXはQ400だけを運航しているが、2017年10月よりANAのQ400は、AKX/ORCの共通事業機に登録され、ORCはそれをもって福岡〜宮崎線に参入したので、実態としてはQ400はAKX/ORCが共同で運用していることになる。 ANAグループはQ400を24機保有しており、それらを第1表に示す。 本来、ANAはAKXで使用するためにDHC-8-Q400を24機購入したが、そのうちの1機は製造時のミスにより事故を起こし、それで新造機と交換したので、実際に領収したのは25機で、運航したのは24機である。 当初は全機がAKXの事業機であったが、2017年10月よりORCとの共通事業機になっており、2020年7月現在、ORCは3〜4機を運用していると見られる。
この体制がAKXにスペースジェットが導入されるまで継続されると考えるが、それ以後もORCがQ400を運航するのか否かは、現段階では不詳である。 一番機でも機齢は20年未満なので、少なくとも今後10年くらいの使用には問題なく、スペースジェットの導入までの使用は問題なしと見られる。 第1表にAKXのDHC-8-Q400フリートの全貌を示すことにする。
ANAグループの保有するDHC-8-Q400フリート
No. |
DHC-8-Q400 |
|||
|
型式 |
登録記号 |
登録年月日 |
抹消年月日 |
1 |
DHC-8-402 |
841A |
2003.07.24 |
|
2 |
DHC-8-402 |
842A |
2003.10.28 |
|
3 |
DHC-8-402 |
843A |
2004.01.13 |
|
4 |
DHC-8-402 |
844A |
2004.05.31 |
|
5 |
DHC-8-402 |
845A |
2004.11.15 |
|
6 |
DHC-8-402 |
846A |
2004.12.03 |
|
7 |
DHC-8-402 |
847A |
2005.07.01 |
|
8 |
DHC-8-402 |
848A |
2005.04.21 |
|
9 |
DHC-8-402 |
849A |
2010.03.26 |
2010.03.26 |
10 |
DHC-8-402 |
850A |
2005.09.08 |
|
11 |
DHC-8-402 |
851A |
2005.10.28 |
|
12 |
DHC-8-402 |
852A |
2006.09.16 |
|
13 |
DHC-8-402 |
853A |
2006.11.07 |
|
14 |
DHC-8-402 |
854A |
2007.03.27 |
|
15 |
DHC-8-402NG |
855A |
2010.02.08 |
|
16 |
DHC-8-402NG |
856A |
2010.11.05 |
|
17 |
DHC-8-402NG |
857A |
2011.05.20 |
|
18 |
DHC-8-402NG |
858A |
2011.10.27 |
|
19 |
DHC-8-402NG |
859A |
2012.03.15 |
|
20 |
DHC-8-402NG |
460A |
2012.08.10 |
|
21 |
DHC-8-402NG |
461A |
2013.01.24 |
|
22 |
DHC-8-402NG |
462A |
2013.07.08 |
|
23 |
DHC-8-402NG |
463A |
2017.07.05 |
|
24 |
DHC-8-402NG |
464A |
2017.10.03 |
|
25 |
DHC-8-402NG |
465A |
2017.12.12 |
|
第 1 表
3.ANAグループにおけるDHC-8-Q400の運航路線の位置付け
ANAグループは保有する24機のDHC-8-Q400を第2表に掲げる35路線に投入しているが、福岡〜小松線はAKXが運航しておらず、ORCだけが運航している。 Q400の平均稼働は、AKXが73便/日、ORCが14便/日なので、3.63便/日である。
ANAグループのDHC-8-Q400運航路線(2020年7月現在)
No. |
AKX |
ANAグループ並行便 |
|||
|
区間 |
便数 |
ANA |
IBX |
ORC |
1 |
成田〜中部 |
1 |
2 |
|
|
2 |
成田〜仙台 |
2 |
|
1 |
|
3 |
成田〜新潟 |
1 |
|
|
|
4 |
伊丹〜福岡 |
1 |
5 |
1 |
|
5 |
伊丹〜青森 |
3 |
|
|
|
6 |
伊丹〜秋田 |
3 |
|
|
|
7 |
伊丹〜仙台 |
1 |
4 |
2 |
|
8 |
伊丹〜新潟 |
1 |
2 |
3 |
|
9 |
伊丹〜松山 |
6 |
3 |
|
|
10 |
伊丹〜高知 |
5 |
1 |
|
|
11 |
伊丹〜大分 |
2 |
1 |
1 |
|
12 |
伊丹〜熊本 |
2 |
5 |
|
|
13 |
伊丹〜宮崎 |
1 |
6 |
|
|
14 |
伊丹〜鹿児島 |
3 |
4 |
|
|
15 |
中部〜秋田 |
2 |
|
|
|
16 |
中部〜仙台 |
2 |
1 |
2 |
|
17 |
中部〜新潟 |
2 |
|
|
|
18 |
中部〜松山 |
2 |
|
1 |
|
19 |
中部〜熊本 |
3 |
1 |
|
|
20 |
中部〜宮崎 |
2 |
2 |
|
|
21 |
中部〜鹿児島 |
2 |
3 |
|
|
22 |
新千歳〜稚内 |
2 |
|
|
|
23 |
新千歳〜女満別 |
3 |
|
|
|
24 |
新千歳〜中標津 |
3 |
|
|
|
25 |
新千歳〜釧路 |
2 |
1 |
|
|
26 |
新千歳〜函館 |
2 |
|
|
|
27 |
新千歳〜青森 |
2 |
|
|
|
28 |
新千歳〜秋田 |
2 |
|
|
|
29 |
新千歳〜仙台 |
2 |
3 |
2 |
|
30 |
新千歳〜新潟 |
2 |
|
|
|
31 |
新潟〜福岡 |
1 |
|
1 |
|
32 |
小松〜福岡 |
|
1 |
1 |
2 |
33 |
福岡〜対馬 |
3 |
|
|
3 |
34 |
福岡〜五島福江 |
1 |
|
|
4 |
35 |
福岡〜宮崎 |
1 |
|
|
5 |
|
合計 |
73 |
45 |
15 |
14 |
第 2 表
ANAグループがQ400を投入している路線でも他機種も並行運航している路線では、需給調整は必ずしもQ400便で行われるとは限らないので、Q400で運航されている路線だけがスペースジェット導入の影響を直接受けると考えられる。 そのような路線は20路線あり、2018年度の実績と合わせて第3表に掲げる。
DHC-8-Q400が単独使用されている路線(2018年度)
|
区間 |
区間距離(km) |
2018年度座席利用率 |
便/日 |
備考 |
1 |
成田〜仙台 |
435 |
79.0% |
2 |
|
2 |
成田〜新潟 |
358 |
61.9% |
1 |
|
3 |
伊丹〜青森 |
946 |
62.6% |
3 |
|
4 |
伊丹〜秋田 |
793 |
63.0% |
3 |
|
5 |
伊丹〜新潟 |
613 |
67.8% |
1 |
|
6 |
中部〜秋田 |
721 |
67.0% |
2 |
|
7 |
中部〜新潟 |
585 |
54.6% |
2 |
|
8 |
中部〜松山 |
544 |
65.0% |
2 |
|
9 |
中部〜熊本 |
750 |
60.2% |
3 |
|
10 |
新千歳〜稚内 |
357 |
55.2% |
2 |
|
11 |
新千歳〜女満別 |
354 |
62.1% |
3 |
|
12 |
新千歳〜中標津 |
374 |
67.2% |
3 |
|
13 |
新千歳〜函館 |
217 |
69.3% |
2 |
|
14 |
新千歳〜青森 |
307 |
47.4% |
2 |
|
15 |
新千歳〜秋田 |
443 |
54.2% |
2 |
|
16 |
新千歳〜新潟 |
755 |
61.6% |
2 |
|
17 |
新潟〜福岡 |
1,156 |
60.8% |
1 |
|
18 |
小松〜福岡 |
802 |
57.4% |
2 |
ORC運航 |
19 |
福岡〜対馬 |
190 |
61.6% |
5 |
ANA 3便/ORC 2便 |
20 |
福岡〜五島福江 |
260 |
58.3% |
5 |
ANA 1便/ORC 4便 |
|
合計 |
|
|
48 |
|
第 3 表
第3表をグラフ化して見ると、Q400路線の立ち位置が分かりやすくなる。
第 1 図
ANAの2018年度の平均搭乗区間距離は917kmであるので、前掲の20路線の区間距離でANA全社平均に達しているのは、伊丹〜青森と新潟〜福岡線の2路線しかない。 またANAグループの2018年度の座席利用率は68.6%であるが、その水準に達しているのは2路線、成田〜仙台線と新千歳〜函館線しかない。
第3表のQ400運航の20路線、48便/日のうち、小松〜福岡線はORCだけの運航であり、福岡〜対馬と福岡〜五島福江線はAKXとORCの並行運航で、全体でORCは8便/日を3機で運航していたと見られる。 第3表では、実績座席利用率が一般的な損益分岐点利用率と見られる60%を下回っている路線を赤字で示したが、それに該当する6路線、15便/日は、現行のQ400での運航でも提供座席数に対して需要が少なすぎる路線である。 それらの路線はAKXとしては廃止すべき路線と考えるが、長崎県関係路線についてはORCには県内交通網の確保と言う民生政策として考慮すべき面があり、そのような路線はORCに移管して運航するのが適当と思う。 それはORCの方がAKXより運航費が安いとも推察され、長崎県の政策とも一致するのでORC創立の趣旨にも適合すると推測する。
4.AKXとORCの関係
前述のようにANAグループのQ400はAKXとORCの共同運用で、その全容を第4表に取りまとめた。
ORCのDHC-8-Q400関係運航路線
区間 |
ORC |
AKX |
ANA |
IBX |
備考 (2018年度座席利用率) |
|
Q400 |
Q200 |
Q400 |
737-700 |
CR700 |
||
福岡〜小松 |
2 |
|
|
1 |
1 |
(57.4%) |
福岡〜宮崎 |
5 |
|
1 |
|
|
(64.6%) |
福岡〜対馬 |
3 |
|
3 |
|
|
(61.6%) |
福岡〜五島福江 |
2 |
2 |
1 |
|
|
(AKX58.5%)(ORC69.3%) |
長崎〜対馬 |
1 |
3 |
|
|
|
(62.2%) |
長崎〜壱岐 |
|
3 |
|
|
|
(62.2%) |
長崎〜五島福江 |
|
3 |
|
|
|
(49.0%) |
計 |
13 |
11 |
5 |
1 |
1 |
|
第 4 表
第4表に示すように座席利用律実績から推測すれば、殆どの路線が不採算路線に近い。 最近の新型コロナ禍による大幅な需要減退により一部路線の廃止もあるかも知れないが、現段階では当所はQ400の24機運航体制が維持されると見るが、AKXとORCの運用機数配分が変わるのかどうか分からない。 2020年7月ダイヤではORCは13便/日を3〜4機で運用しているが、第4表に見る如く、現在もORC運航路線でANAが1便/日、AKXは5便/日が並行運航しているので、この分をORC運航とすれば、19便/日に拡張することが可能でその時には5〜6機が必要となろう。 しかし、それ以上のORC運用の拡大については、ANAグループの福岡及び長崎発路線で、現行に追加してORCのQ400の導入が適当と考えられる路線は見当たらない。 また新路線開設の可能性は考えられないので、スペースジェット導入までのORCのQ400運用は最大6機程度に留まると推測される。
5.AKXへのスペースジェットの導入
ANAグループのスベースジェットの確定発注機数は15機なので、Q400と同じ3.63便/日の稼働とすれば55便/日まで運航できるが、それでは第2表に掲載するAKXの運航する73便/日を全て交代することはできない。 しかし第3表に赤字で示した低需要6路線、15便/日のAKXの運航便を廃止、あるいはORCへ移管すれば、問題は58便/日に縮小できる。 そこでさらに第3表に掲載する路線の座席60%以上の路線で、座席利用率が低い福岡〜対馬線(61.6%)のAKX運航分3便/日をORCに移管すれば、必要な3便/日を捻出できる。 しかし、Q400の現行便数のままスペースジェットと交代すると、提供座席数が増加により座席利用率が低下する。 スペースジェットと交代後も座席利用率60%以を確保するには、将来の需要増がないとすれば現在の座席利用率が71.4%以上は必要であるが、20路線のうちで座席利用率が71.4%以上であるのは青字で示した成田〜仙台線だけである。 結論として数字の上では、現在Q400だけで運航している20路線のうちで、6路線は現在でも運航を維持する価値はなく、13路線はスペースジェットと交代時に廃止あるいは減便するのが適当であり、スペースジェットと交代しても良いのは、成田〜仙台線だけである。 この需要不振が長引けば、AKXとしてはQ400をスペースジェットへの交代以前に、現Q400フリートを維持するに必要な需要を確保すら問題になってくると予想される。 物理的にはスペースジェット導入までQ400を使用するのは可能と考えられるが、前述のようにAKXのQ400路線のうち3便/日をORCに移管すれば、スペースジェットで運航可能な55便/日に整理できる。 その場合ORCの運航便は現行の14便/日から最低でも19便/日に増加させる必要があり、その場合運用に必要な機数は6機と推定する。 従ってその時点でANAグループの運用するQ400は、AKXが15機、ORCが6機と計算できるので、5機のQ400は処分しても新路線開設や増便に充当しても良く、それは需要動向とQ400の中古機市場価格とのバランスにより決められることになると推測する。 むしろ最近の市場環境の変化から推察すると、ANAがスペースジェットを導入する根拠が薄弱になっているように感じる。 当所は以前には導入理由として、A KXをANA版ジェイエアに発展させて、JALのJ-Airと対抗しようとするのではないかと考えていた。 現在の状況から推測すれば、スペースジェットは比較的小需要路線を開発する積極的な市場開拓に利用するよりも、需要減退に備えて需給調整のために小型機を導入する方が現実的と考えられる。 ともあれ、ANAがスペースジェット導入を決定した時と市場環境が全く変わってきたので、今は状況の進展を見守っているところと推測するのである。 それで多分この問題はANAウイングスの将来と言うよりもANA全体の将来構想の問題となって来ると思う。 これまでの経過から、ANAはORCをANAグループの一員として遇すると思われる。 ORCは長崎空港を主基地とする長崎県関係第三セクター会社であるので、ORCの株主が県外への路線をどこまで承認するのかと言う問題もあるが、すでに長崎県とは直接関係のない福岡〜小松線が開設されているので、この問題は解決しているのであろう。 現在進行していることから推測すると、ANAグループもANA本体、AKX及びORCの三層構造になり、JALグループのJAL-J Air-JAC、HACのそれに類似のものになってくる。 なお、現在ORCはDHC-Q200(39席)も運用しているが、これらはORCの離島路線用の別格の機材と見ることができるので、ANAグループとしても現状維持容認するものと推測する。
6.総括
以上に検討したように、当所はANAグループは将来、ANA、AKX及びORCによるBoeing Jet、スペースジェット及びQ400の三層ネットワークを構成しようとしているのではないかと推測するのである。 そうなれば、ANAの国内線ネットワーク構造は、JALグループのそれに匹敵するものとなる。 ANAは近年国際線事業の拡張に邁進してきたと見ているが、その裾野としての国内線事業の強化にも乗り出していると見るのである。
以上