4匹の仔猫
一ヶ月ほど前、ウチの近所にある空家の庭で、野良猫が出産した。
その家には去年まで、じいさんとばあさんが二人だけで暮らしていた。今年の始め、さすがにいい年になっていたじいさんが老衰で大往生。その数ヵ月後、病気もなにもしておらず、健康そのものだったはずのばあさんも、後を追うかのように元気を無くし、そのまま亡くなってしまった。
そんなわけで、その家は今、まるっきりの無人というわけである。動物というのは、人間の気配の有無をうまく嗅ぎわけるのだろう。餌を貰えるわけではないが、追い出されることもない。
産まれた4匹の猫は、すくすくと成長しているようだ。
その仔猫らのことは親から聞いて知っていたが、実際に見ることができたのは、今日が始めてだった。
昼下がりに、ふと我が家の庭先を見ると、こちゃこちゃと暴れまわる小さな影を複数確認。一瞬、ネズミかとも思ったが(ウチの近くには多い。近所で自家製コンポストを使っている家があり、そこで繁殖しているらしい)、まちがいなく猫だった。
俺は、おびえて逃げられないよう、窓からこっそりと様子をうかがうことにした。
その数、確かに4匹。小さい。ヘタをすれば、逆にネズミに食われるのではなかろうか。ネズミはともかく、カラスなどは危ない。この近くには、たまにトンビなども飛んでいる。危険である。もちろん、仔猫であるうちの話であるが。
このまま無事に成長すれば、あるいはネズミを喰ってくれる頼もしい存在になることも期待できる。しかし、ウチの車庫はしばしば、野良猫がしょんべんをしてヒドイ匂いになることがあるので、手放しでは喜べない。父が餌付けしてる小鳥も狙うかも知れないし(一度、ウチの庭で野良猫がスズメを貪っているシーンを見たことがある)、発情期や、縄張り争いの泣き声はうるさくて仕方がない。
たぶん、今こうして遊びまわっているちんまい奴等も、あっという間にそのように成長するのだろう。成長しきった猫は、その生態を眺めている分には面白いけれど、あまりかわいらしいものでもない。かわいいと思えるのは今の時期くらいだ。
しかしそれでも、奴等は早く成長しないと、カラスやトンビに喰われてしまうかも知れないのだ。
くるくるごろごろと暴れまわる奴等を眺めているうち、俺がまだ小さかったころ、そこの家のじいさんから、パチンコの景品のお菓子をもらったことなどを思い出した。ちょうど、そこの庭に勝手に入って遊んでいた時のことだ。
ふと懐かしくなった俺は、居間からお菓子の入った箱を持ってきて、奴等を脅かさないよう、窓からビスケットを軽く放り投げてみた。
奴等はものすごい勢いで逃げ出した。
……これぞ野生の反応である。奴等はきっと成長するまで生き長らえるに違いない。しかし、俺の場合は、きちんとじいさんにお礼したものだったのだが。
夕方に、ふたたび庭を見たところ、投げたビスケットはそのままだった。奴等が食べるものに困ったら食べればいい、と思った。別に、ネズミやカラスが食べたっていいけれど。