実ベクトル空間から実ベクトル空間への一次写像の行列表示と標準化

・定理:一次写像の行列表示/一次写像の行列表示の標準形/一次写像の合成写像の行列表示/同型写像の逆写像の行列表示
・定理:
一次変換の行列表示/一次変換の行列表示の標準形は得られない/ 

関連ページ:
実ベクトル空間のあいだの一次写像と行列の関係について:実ベクトル空間のあいだの一次写像/基底の変換と一次写像と行列/一次写像の階数と行列の階数の関係 
一次写像「f:RnRm」と行列の関係について:n次元数ベクトル空間から実m次元数ベクトル空間への一次写像/一次写像f:RnRmの行列表示と標準化/基底変換と一次写像の行列表示/  
線形代数目次総目次

定理:一次写像・線形写像の行列表示・行列表現


設定


この定理は、以下の舞台設定上で成り立つ。
R実数体(実数をすべて集めた集合)  
V 実ベクトル空間実数体R上の線形空間・ベクトル空間」)であって、
   
n次元。つまり、dimVn 
{ v1, v2, , vn }V基底をなす、Vに属すベクトルの集合   
W 実ベクトル空間実数体R上の線形空間・ベクトル空間」)であって、
   
m次元。つまり、dimWm  
{ w1, w2, , wm }W基底をなす、Wに属すベクトルの集合

[文献]
・永田『
理系のための線形代数の基礎』定理1.4.1(p.28);
・斎藤『線形代数入門4章§5(pp.113-4) 本論4で定義して、本論1を定理として導出;
・志賀『線形代数3017(p.109);
・ホフマン・クンツェ『線形代数学I3.4行列による一次変換の表現(p.89);
・藤原『線形代数4.3(p.102);
・神谷浦井『経済学のための数学入門』§5.2.1線形写像の行列表現(p.165);
・松坂『解析入門415.1-F(p.12);
・砂田『行列と行列式』§5.5(a) (p.187):
     体上のベクトル空間のあいだの一次写像全般について。
・酒井『
環と体の理論1.6(p.23)

本論1

V基底{ v1, v2, , vn }W基底{ w1, w2, , wm }と、
一次写像f:VW」にたいして、 
  
f (v1)=a11w1+a21w2++am1wm   
  
f (v2)=a12w1+a22w2++am2wm   
   :     : 
  
f (vn)=a1nw1+a2nw2++amnwm   
を満たす
(m,n)型実行列 

 

    
が一意的に存在する。 
 
      
  |
f (v1)=a11w1+a21w2++am1wm
   f (v2)=a12w1+a22w2++am2wm   
  
 :     : 
  
f (vn)=a1nw1+a2nw2++amnwm   
 を、
行列の乗法風に、
   
 と書く、簡便法が、頻繁に用いられる。 
 この簡便法を用いると、上記の命題は、次のように、簡潔に表せる。
  
 V基底{ v1, v2, , vn },W基底{ w1, w2, , wm }と、一次写像f:VWにたいして、
  
      f (v1, v2, , vn)=(w1, w2, , wm )A  
  
 を満たす(m,n)型実行列Aが一意的に存在する 
   

※ポイント
 
一次写像f : VW」の行列表示は、
 「
一次写像f:RnRm」の行列表示の場合とちがって、
 
V,Wに、標準基底と呼ばれる基底がないので、
 自分で自由に
基底V,Wに定めて、
 「
一次写像f : VW」を行列表示するほかない。

※ポイント
 
一次写像f : VW」の行列表示は、
  
V基底のとりかた,W基底のとりかたの二点から、定まる。
 これに対して、
 
一次変換の行列表示は、V基底のとりかたのみから、定まる。
 この違いは、
 
基底を取り替えが、行列表示に及ぼす影響を、
 考察する際に、重要になる。

証明

なぜ?→証明

 

本論2

V基底{ v1, v2, , vn },W基底{ w1, w2, , wm }と、
(m,n)型実行列
  
にたいして、 
  
f (v1)=a11w1+a21w2++am1wm   
  
f (v2)=a12w1+a22w2++am2wm   
   :     : 
  
f (vn)=a1nw1+a2nw2++amnwm   
を満たす
一次写像f:VWがきまる。   
      
  |
f (v1)=a11w1+a21w2++am1wm
   f (v2)=a12w1+a22w2++am2wm   
  
 :     : 
  
f (vn)=a1nw1+a2nw2++amnwm   
 を、
行列の乗法風に、
   
 と書く、簡便法が、頻繁に用いられる。
        (数ベクトル空間のケースだと、便利さが引き立つらしい) 
 この簡便法を用いると、上記の命題は、次のように、簡潔に表せる。   
      
 V基底{ v1, v2, , vn },W基底{ w1, w2, , wm }と、
      
 (m,n)型実行列Aにたいして、 
      
      f (v1, v2, , vn)=(w1, w2, , wm )A  
      
 を満たす一次写像f:VWがきまる。 

証明

なぜ?→証明

本論3

・上記の(m,n)型実行列Aを、
 
基底{ v1, v2, , vn }, { w1, w2, , wm }に関する1次写像fの行列表示、  
 
基底{ v1, v2, , vn }, { w1, w2, , wm }に関する1次写像fの表現行列、  
 
基底{ v1, v2, , vn }, { w1, w2, , wm }を定めたとき1次写像fに対応する行列 
 と呼ぶ。
(m,n)型実行列Aが、
 「『
V基底』α={ v1, v2, , vn }, W基底』β={ w1, w2, , wm }に関する
     
1次写像fの表現行列
 であることを、  
  
 という記号で表すことがある。

特殊例:
  ・
一次写像f:RnRmの標準基底に関する一次写像の行列表示  
  ・
一次写像f:RnRmの任意基底に関する行列表示・行列表現  
  ・
一次変換f:VVの行列表示 
発展事項:一次写像の行列表示の標準形/基底変換の行列  

このように「一次写像f : VW」の行列表示は、V基底のとりかた,W基底のとりかたの二点から、定まる。
これに対して、
一次変換の行列表示は、V基底のとりかたのみから、定まる。
この違いは、
基底を取り替えが、行列表示に及ぼす影響を、
考察する際に、重要になる。

本論4

[一次写像y=f (x)の行列表現]
実ベクトル空間Vに属す任意ベクトルxは、
  
V基底α={ v1, v2, , vn }一次結合として一意的に表せる(∵基底の定義)。
 つまり、
  
任意xVに対して、ある実数x1 , x2 ,, xnが一意に存在して
    
x=x1v1+ x2v2++ xnvn 
  を満たす。
 この
実数の組(x1 , x2 ,, xn) 縦ベクトルを、
  
xの《V基底α={ v1, v2, , vn }に関する座標ベクトルと呼び、
   
[x]α 
  と表す。
実ベクトル空間Wに属す任意ベクトル yは、
  
W基底β={ w1, w2, , wm }一次結合として一意的に表せる(∵基底の定義)。
 つまり、
  
任意yWに対して、ある実数y1 , y2 ,, ymが一意に存在して
    
y=y1w1+ y2w2++ ymwm 
  を満たす。
 この
実数の組(y1 , y2 ,, ym)縦ベクトルを、
  
yの《W基底β={ w1, w2, , wm }に関する座標ベクトルと呼び、
   
[y]β 
  と表す。
・すると、
一次写像y=f (x)は、
  
xの《V基底α={ v1, v2, , vn }に関する座標ベクトル [x]α 
  
yの《W基底β={ w1, w2, , wm }に関する座標ベクトル [y]β 
  
V基底α={ v1, v2, , vn },W基底β={ w1, w2, , wm }に関する1次写像fの表現行列A
 を用いて、
  
[y]βA [x]α 
 と表せる。

[文献]
・松坂『解析入門415.1-F(p.12);

・斎藤『線形代数入門4章§5(p.114);

 

つまり、    
V基底α={ v1, v2, , vn },W基底β={ w1, w2, , wm }に関する一次写像f:VW』表現行列」Aとは、
  ・
V基底 { v1, v2, , vn }で決まる同型写像「ψ:V Rn」の逆写像「ψ-1RnV」、
  ・
一次写像f:VW』、 
  ・
W基底 { w1, w2, , wm }で決まる同型写像「ψ'VRm
 の
合成写像
   ψ
'fψ-1RnVRm 
 で表される
一次写像の行列に他ならない。   

 

※なぜ?
y=f (x)= f (x1v1+ x2v2++ xnvn )   基底の定義 
  
= x1 f (v1)+ x2 f (v2)++ xn f (vn )  ∵一次写像の定義 
  
= x1 (a11w1+a21w2++am1wm)+ x2 (a12w1+a22w2++am2wm)++ xn (a1nw1+a2nw2++amnwm)  ∵一次写像の行列表現[本論1] 
  
= (a11 x1w1+a21 x1w2++am1 x1wm)+ (a12 x2w1+a22 x2w2++am2 x2wm)++ (a1n xn w1+a2n xn w2++amn xn wm)  
  
= (a11 x1w1+ a12 x2w1++ a1n xn w1) + (a21 x1w2+ a22 x2w2++ a2n xn w2)++ (am1 x1wm+am2 x2wm+amn xn wm) 
  
= (a11 x1+ a12 x2++ a1n xn) w1 + (a21 x1+a22 x2++ a2n xn) w2++ (am1 x1+am2 x2++amn xn) wm 
 他方
y=y1w1+ y2w2++ ymwm   ∵基底の定義 
・上記二点から、
 
y1w1+ y2w2++ ymwm(a11 x1+ a12 x2++ a1n xn) w1 + (a21 x1+ a22 x2++ a2n xn) w2++ (am1 x1+am2 x2++amn xn) wm 
 つまり、
 
y1a11 x1+ a12 x2++ a1n xn 
 
y2a21 x1 +a22 x2++a2n xn 
 :
 
ymam1 x1+am2 x2++amn xn 
 
(y1 , y2 ,, ym)の縦ベクトルを[y]βで表し、(x1 , x2 ,, xn) の縦ベクトルを[x]βで表し、
  
 と置くと、
 これは、
  
[y]βA [x]α 
 に他ならない。
 

 

[トピック一覧:実ベクトル空間のあいだの一次写像の行列表示]
線形代数目次総目次

 

定理:一次写像の行列表示の標準形


設定


この定理は、以下の舞台設定上で成り立つ。
R実数体(実数をすべて集めた集合)  
V 実ベクトル空間実数体R上の線形空間・ベクトル空間」)であって、有限次元
W 実ベクトル空間実数体R上の線形空間・ベクトル空間」)であって、有限次元
f VW」:一次写像
rank f 一次写像f 階数

[文献−線型代数]
・志賀『
線形代数3020(pp.127-8);
・永田『理系のための線形代数の基礎』定理1.6.4(p.37);
・斎藤『線形代数入門』4章§5[5.1](p.116);
・砂田『行列と行列式』§5.5-d(p.194);
・佐武『線形代数学』V§72(p.122)] 

本論1

一次写像f VW には、
   
f (v1)=w1, f (v2)=w2, , f (vrankf )=wrankf , f (vrankf+1)= , f (vrankf+2)= ,, f (vdimV)=  
を満たす 
V基底{v1,v2,,vdimV }W基底{w1,w2,,wdimW }(これはImagefの基底を拡大して得たWの基底)
が存在する。 

証明

なぜ?→証明 

本論2

したがって、
[本論1]で存在が示された、V基底{v1,v2,,vdimV }W基底{w1, w2, , wdimW}をとると、
これらの
基底に関する一次写像fの行列表示は、 
     
となる。
ただし、
この行列
D (dimW,dimV, rank f )は、 (dimW, dimV)型実行列であって、
   
(1,1)成分, (2,2)成分, , (rank f,rank f)成分という(rank f )個の成分1  
   それ以外の
成分はすべて0 
となる行列を表すものとする。 

特殊例へのリンク: 一次写像f:RnRmの行列表示の標準化の問題 
Cf.一次変換の行列表示のケースでは、うまく標準化できない。
  →
一次変換の行列表示の標準化の問題 
ここで利用されている事項:基底に関する一次写像fの行列表示  

 

なぜ?
 ・一般に、
  
V基底{ v1, v2, , vdimV }W基底{ w1, w2, , wdimW }に関する一次写像f:VWの行列表示とは、
    
f (v1)=a11w1+a21w2++a dimW 1w dimW   
    
f (v2)=a12w1+a22w2++a dimW 2w dimW   
     :     : 
    
f (vdimV )=a1dimVw1+a2nw2++a dimW dimVw dimW   
  を満たす
(dimW, dimV)型実行列     
    
  と定義された(→
一次写像の行列表示)。
 ・「
f (v1)=w1, f (v2)=w2, , f (vrankf )=wrankf , f (vrankf+1)= , f (vrankf+2)= ,, f (vdimV)=
  を満たす
V基底{v1,v2,,vdimV }W基底{w1,w2,,wdimW }とは、
    
f (v1)=a11w1+a21w2++a dimW 1w dimW   
    
f (v2)=a12w1+a22w2++a dimW 2w dimW   
     :     : 
    
f (vdimV )=a1dimVw1+a2nw2++a dimW dimVw dimW   
    
a11a22=…=arankfrankf=1
    
a11,a22,,arankfrankfを除く係数は全て零
  を満たす
V基底{v1,v2,,vdimV }W基底{w1,w2,,wdimW }である。
 ・したがって、  

  V基底{ v1, v2, , vdimV }W基底{ w1, w2, , wdimW }に関する一次写像f:VWの行列表示
    
  は、
     
(1,1)成分, (2,2)成分, , (rank f,rank f)成分という(rank f )個の成分1  
   それ以外の
成分はすべて0 
  となる行列
D (dimW,dimV, rank f )になる。 
   

[階数との関連]
少なくとも上記の基底を定めたとき一次写像fに対応する行列D(dimW, dimV,rank f)階数は、
一次写像f階数(rank f )と等しいことが確認できる。 
では、他の
基底を定めたときに一次写像fに対応する行列階数も、  
一次写像f階数に等しいといえるのだろうか。
一次写像の階数と行列の階数の関係 

 

本論3

Vの「任意基底{ v'1, v'2, , v'dimV }
Wの「任意基底{ w'1, w'2, , w'dimW }
に関する一次写像fの行列表示Aにたいして、
ある
実行列P,Qが存在し、
   
を満たす。
ただし、
この行列
D (dimW,dimV, rank f )は、 (dimW, dimV)型実行列であって、
   
(1,1)成分, (2,2)成分, , (rank f,rank f)成分という(rank f )個の成分1  
   それ以外の
成分はすべて0 
となる行列を表すものとする。 

一次変換の行列表示のケースとの違い: 
ここで利用されている事項:
   
基底に関する一次写像fの行列表示/基底変換の行列/基底変換公式 
 

証明

なぜ?
 
Vに「任意基底{ v'1, v'2, , v'dimV }を、Wに「任意基底{ w'1, w'2, , w'dimW }を定めたとき一次写像fに対応する行列Aとおく。
 
{ v'1, v'2, , v'dimV }から、[本論1]で存在が示された{v1,v2,,vdimV }へ変える基底変換行列が一意的に存在し()、これを、Pとおく。P正則行列である()。
 
{ w'1, w'2, , w'dimW } から、1.で存在が示された{w1, w2, , wdimW}へ変える基底変換行列が一意的に存在し()、これを、Qとおく。Q正則行列である()。
 
基底変換公式より、V基底{v1,v2,,vdimV }W基底{w1, w2, , wdimW}に関する一次写像fの行列表示は、Q−1AP
 また、
[本論2]より、V基底{v1,v2,,vdimV }W基底{w1, w2, , wdimW}に関する一次写像fの行列表示は、
    
 したがって、
   
Q−1AP= D (dimW,dimV, rank f ) 
 が成り立つ。

 

[トピック一覧:実ベクトル空間のあいだの一次写像の行列表示]
線形代数目次総目次

 

定理:一次変換の行列表示・行列表現


設定


この定理は、以下の舞台設定上で成り立つ。
R実数体(実数をすべて集めた集合)  
V 実ベクトル空間実数体R上の線形空間・ベクトル空間」)であって、
  
n次元。(つまり、dimVn) 
{ v1, v2, , vn }V基底をなす、Vに属すベクトルの集合  

[文献−線型代数]
・永田『
理系のための線形代数の基礎』定理1.4.1(pp.28-9); 
・ホフマン・クンツェ『
線形代数学I3.4行列による一次変換の表現(pp.90-91);
・神谷浦井『経済学のための数学入門』§5.2.1線形写像の行列表現(p.165)
・松坂『
解析入門415.1-G (p.15);
・砂田『行列と行列式』§5.5(b) (p.189):
     体上のベクトル空間のあいだの一次写像全般について。
・斎藤『
線形代数入門4章§5(p.117) 本論4で定義して、本論1を定理として導出;
・岡田『経済学・経営学のための数学2.6(pp.95-6):本論4で定義して、本論1を定理として導出

一次写像の行列表示との違い:
 
一次写像f:VW」の行列表示では、
  
V基底W基底を、それぞれきめて、
  この二つの
基底に関する一次写像fの行列表示を定めた。
  つまり、
  
一次写像f:VW」の行列表示は、
    ・
V基底のとりかた
    ・
W基底のとりかた
  という二点の変更によって、いじれるということになる。
 全く同様に考えるのならば、 
 「
一次変換f:VV」の行列表示でも、
  「
fで写される前のV基底」「fで写された後のV基底」をそれぞれ決めて、
          (たとえば、「
fで写される前のV基底」を{ v1, v2, , vn }
                「
fで写された後のV基底」を{ v'1, v'2, , v'n }
           といった具合に決めて)
 この二つの
基底に関する一次写像fの行列表示を定めてもよさそうなものである。
 こうすると、
 「
一次変換f:VV」の行列表示も、
    ・
fで写される前のV基底のとりかた
    ・
fで写された後のV基底のとりかた
  の二点でいじれるはずである。
 しかし、
 「
一次変換f:VV」の行列表示を、このようにおこなうのは、一般的でない。
 左欄に述べたように、
 「
fで写される前のV基底」「fで写された後のV基底」を一つの共通な基底で定めて、
 これに応じた行列表示を得るのが一般的である。
 この場合、「
一次変換f:VV」の行列表示をいじれる点は、
 「
fで写される前のV基底」「fで写された後のV基底」の二点ではなく、
 「
fで写される前のV基底」「fで写された後のV基底」をともに定める基底の一点のみ
 に制限されることになる。 

本論1

V基底{ v1, v2, , vn }と、一次変換f:VVにたいして、 
  
f (v1)=a11v1+a21v2++an1vn   
  
f (v2)=a12v1+a22v2++an2vn   
   :     : 
  
f (vn)=a1nv1+a2nv2++annvn   
を満たす
n次正方行列
     
が一意的に存在する。 
 

  |
f (v1)=a11v1+a21v2++an1vn   
  
f (v2)=a12v1+a22v2++an2vn   
  
 :     : 
  
f (vn)=a1nv1+a2nv2++annvn   
 を、
行列の乗法風に、
   
 と書く、簡便法が、頻繁に用いられる。
      (数ベクトル空間のケースだと、便利さが引き立つらしい) 
 この簡便法を用いると、上記の命題は、次のように、簡潔に表せる。   
      
 V基底{ v1, v2, , vn }と、一次変換f:VVにたいして、 
      
      f (v1, v2, , vn)=(v1, v2, , vn)A  
      
 を満たすn次正方行列Aが一意的に存在する 

証明

なぜ?→証明  

本論2

V基底{ v1, v2, , vn }と、
n次正方行列
    
にたいして、 
  
f (v1)=a11v1+a21v2++an1vn   
  
f (v2)=a12v1+a22v2++an2vn   
   :     : 
  
f (vn)=a1nv1+a2nv2++annvn   
を満たす
一次変換f : VVがきまる。   
      
  |
f (v1)=a11v1+a21v2++an1vn   
  
f (v2)=a12v1+a22v2++an2vn   
  
 :     : 
  
f (vn)=a1nv1+a2nv2++annvn   
 を、
行列の乗法風に、
   
 と書く、簡便法が、頻繁に用いられる。
  (数ベクトル空間のケースだと、便利さが引き立つらしい) 
 この簡便法を用いると、上記の命題は、次のように、簡潔に表せる。   
      
 V基底{ v1, v2, , vn }と、n次正方行列Aにたいして、 
      
      f (v1, v2, , vn)=(v1, v2, , vn)A   
      
 を満たす一次変換f : VVがきまる。 
   

証明

なぜ?→証明

本論3

・上記のn次正方行列Aを、 
  
基底{ v1, v2, , vn }に関する一次変換fの行列表示、  
  
基底{ v1, v2, , vn }に関する一次変換fの表現行列、  
  
基底{ v1, v2, , vn }を定めたとき一次変換fに対応する行列  
 などと呼ぶ。

 
特殊例:
  ・一次変換f:RnRnの標準基底に関する行列表示 
  ・
一次変換f:RnRnの任意基底に関する行列表示 
発展事項:一次変換の行列表示の標準化の問題/基底変換の行列 
具体例:高校で習う1次変換
    →神谷浦井『
経済学のための数学入門』§5.2.15.2.1(p.165)   

要するに、
「『
実ベクトル空間V基底』α={ v1, v2, , vn }, 実ベクトル空間W基底』β={ w1, w2, , wm }に関する一次写像f: VWの表現行列
   
のうち、
  
[条件1] 実ベクトル空間W実ベクトル空間Vであること、
  
[条件2]実ベクトル空間W基底』β={ w1, w2, , wm }が、α={ v1, v2, , vn }であること
を満たす特殊例
  すなわち、

   「『実ベクトル空間V基底』α={ v1, v2, , vn }, 実ベクトル空間V基底』α={ v1, v2, , vn }に関する一次写像f: VVの表現行列
    
が、
基底{ v1, v2, , vn }に関する『一次変換f : VV』の表現行列
に他ならない。  

本論4

[一次変換y=f (x)の行列表現]
実ベクトル空間Vに属す任意のベクトルxは、
  
V基底α={ v1, v2, , vn }一次結合として一意的に表せる(∵基底の定義)。
 したがって、
  
任意xVに対して、ある実数x1 , x2 ,, xnが一意に存在して
    
x=x1v1+ x2v2++ xnvn 
  を満たす。
 この
実数の組(x1 , x2 ,, xn) 縦ベクトルを、
  
xの《V基底α={ v1, v2, , vn }に関する座標ベクトルと呼び、
   
[x]α 
  と表す。
  また、
  
任意yVに対しても、ある実数y1 , y2 ,, ynが一意に存在して
    
y=y1 v1+ y2 v 2++ yn v n 
  を満たす。
 この
実数の組(y1 , y2 ,, yn)縦ベクトルを、
  
yの《V基底α={ v1, v2, , vn }に関する座標ベクトルと呼び、
   
[y]α 
  と表す。
・すると、
一次変換y=f (x)は、
   
xの《V基底α={ v1, v2, , vn }に関する座標ベクトル [x]α 
   
yの《V基底α={ v1, v2, , vn }に関する座標ベクトル [y]α 
   
V基底α={ v1, v2, , vn }に関する1次変換fの表現行列A 
 を用いて、
  
[y]αA [x]α 
 と表せる。

[文献]
・斎藤『線形代数入門4章§5(p.117);

   

[トピック一覧:実ベクトル空間のあいだの一次写像の行列表示]
線形代数目次総目次

 

 

定理:一次変換の行列表示の標準形は得られない


設定


この定理は、以下の舞台設定上で成り立つ。
R実数体(実数をすべて集めた集合)  
V 実ベクトル空間実数体R上の線形空間・ベクトル空間」)であって、有限次元
f : VV」:一次変換

[文献−線型代数]
・志賀『
線形代数3020Teatime(p.131);26(pp.164-167);
・斎藤『線形代数入門』4章§5 (p.117);

本論1

一次変換 f : VV」には、
   「
f (v1)= v1, f (v2)= v2, , f (vrankf )=vrankf , f (vrankf+1)= , f (vrankf+2)= ,, f (vdimV)= 」を満たす「V基底」{v1,v2,,vdimV }が存在する
とはいえない。 

 

本論2

したがって、
ある「
V基底」{v1,v2,,vdimV }をとると、
これらの
基底に関する一次変換fの行列表示は、 
     
となる
とはいえない
なお、
この行列
D (dimV,dimV, rank f )は、 (dimV, dimV)型実行列であって、
   
(1,1)成分, (2,2)成分, , (rank f,rank f)成分という(rank f )個の成分1  
   それ以外の
成分はすべて0 
となる行列を表すものとする。 

特殊例へのリンク:
  ・一次変換f:RnRnの行列表示の標準化の問題 
ここで利用されている事項: 
   
基底に関する一次変換fの行列表示/基底変換の行列/基底変換公式 
一次写像一般では、一次写像の行列表示の標準形が得られるのに、
 なぜ、ここで、一次変換の行列表示の標準形が得られなくなるのか?
・「
一次写像f:VW」に対して、行列表示の標準形が得られたのは、
    ・
V基底のとりかた

    ・W基底のとりかた

 の二点を操作したからだった。 
・これと全く同様に、
 「
一次変換 f : VV」に対して、

    ・fで写される前のV基底のとりかた

    ・fで写された後のV基底のとりかた

 の二点を操作すれば、
 「『
fで写される前のV基底,fで写された後のV基底』に関する
   
一次写像f: VVの表現行列
 の
標準形は、得られる[→志賀『線形代数3026(pp.164-5)]
・ところが、「
一次変換 f : VVの行列表示は、
    ・
fで写される前のV基底のとりかた

    ・fで写された後のV基底のとりかた

 という二点に応じてではなく、
    ・
fで写される前後共通のV基底のとりかた 
 という一点に応じて定義されたのだった。
 「
一次変換 f : VV」について基底変換を施す場合も、
    ・
fで写される前のV基底
    ・
fで写された後のV基底 
 を別々に取り替えていくのではなく、
 
fで写される前後共通のV基底のとりかたを、
 取り替えていくのが普通であった。
・こうした経緯で、
    ・
fで写される前のV基底
    ・
fで写された後のV基底 
 を別々に取り替えていくのではなく、
 
fで写される前後共通のV基底のとりかたを、
 取り替えていった場合に、
 「
一次変換 f : VV」の標準形が得られるといえるのか
 を問うたのが、左欄になる。
 その結果は、
    ・
fで写される前のV基底
    ・
fで写された後のV基底
 をまとめて一つの「
V基底」として操作したがために、
 
一次写像の表現行列とは違って、標準形が得られるとはいえない
 というものである。
 

本論3

Vの「任意基底{ v'1, v'2, , v'dimV }に関する一次変換fの行列表示Aにたいして、
ある
実行列Pが存在し、
  
を満たす
とはいえない


※志賀『
線形代数3026(pp.164-167)に反例が示されている。

本論4

ところが、
ある種の
一次変換 f : VV」には、
   
f (v1)=λ1 v1, f (v2)=λ2 v2, , f (vdimV)=λdimVvdimV (λ1,λ2,,λnfの固有値)
を満たす 
V基底{v1,v2,, vdimV }
が存在する。

したがって、
ある種の
一次変換 f : VV」に対して、
ある「
V基底」{v1,v2,,vdimV }をとると、
これらの
基底に関する一次変換fの行列表示は、
  
となる。
だから、
ある種の
一次変換 f : VV」については、
Vの「任意基底{ v1,v2,,vdimV }に関する一次変換fの行列表示Aにたいして、
ある
実行列Pが存在し、
 
P−1AP= diag(λ1,λ2,,λn)
を満たす。
そこで、一次変換では、
標準化にかわって、このようなかたちに変形することが課題として浮上する。
一次変換の行列表示を、このようなかたちに変形することを対角化といい、
一次変換の行列表示が対角化可能となる条件を求める問題は、固有値問題と呼ばれる。

   

[トピック一覧:実ベクトル空間のあいだの一次写像の行列表示]
線形代数目次総目次

 

 

定理:1次写像の合成写像の行列表示・行列表現
 
[永田『理系のための線形代数の基礎』定理1.4.2(p.29);神谷浦井『経済学のための数学入門』§5.2.2(p.169) ]
(舞台設定)
R実数体(実数をすべて集めた集合)  
U 実ベクトル空間実数体R上の線形空間・ベクトル空間」)であって、 n次元。  
{ u1, u2, , un }U基底をなす、Uに属すベクトルの集合   
V 実ベクトル空間実数体R上の線形空間・ベクトル空間」)であって、 m次元。 
{ v1, v2, , vm }V基底をなす、Vに属すベクトルの集合   
W 実ベクトル空間実数体R上の線形空間・ベクトル空間」)であって、 l次元。 
{ w1, w2, , wl }W基底をなす、Wに属すベクトルの集合  
f : UV」:UからVへの一次写像
g : VW」:VからWへの一次写像
gf一次写像fgとの合成写像  
(本題)
U基底{ u1, u2, , un }, V基底{ v1, v2, , vm }を定めたとき1次写像fUVに対応する(m,n)型実行列を、Afとおく。  
V基底{ v1, v2, , vm }, W基底{ w1, w2, , wl }を定めたとき1次写像gVWに対応する(l,m)型実行列を、Agとおく。 
すると、
U基底{ u1, u2, , un }, V基底{ v1, v2, , vm }, W基底{ w1, w2, , wl }を定めたとき合成写像gfに対応する行列は、行列積(AgAf)で表される。 
つまり、
Agf(AgAf)  

[トピック一覧:実ベクトル空間から実ベクトル空間への1次写像の行列表示]
線形代数目次総目次

定理:1次写像の合成写像の結合律の行列表示・行列表現
 
[神谷浦井『経済学のための数学入門』§5.2.2(p.170) ]
(舞台設定)
R実数体(実数をすべて集めた集合)  
U 実ベクトル空間実数体R上の線形空間・ベクトル空間」)であって、 n次元。  
{ u1, u2, , un }U基底をなす、Uに属すベクトルの集合   
V 実ベクトル空間実数体R上の線形空間・ベクトル空間」)であって、 m次元。 
{ v1, v2, , vm }V基底をなす、Vに属すベクトルの集合   
W 実ベクトル空間実数体R上の線形空間・ベクトル空間」)であって、 l次元。 
{ w1, w2, , wl }W基底をなす、Wに属すベクトルの集合  
f : UV」:UからVへの一次写像
g : VW」:VからWへの一次写像
gf一次写像fgとの合成写像  
(本題)

 

[トピック一覧:実ベクトル空間のあいだの一次写像の行列表示]
線形代数目次総目次

 

 

定理:同型写像の逆写像の行列表示・行列表現
 
[永田『理系のための線形代数の基礎』系1.4.3(pp.29-30); ]
(舞台設定)
R実数体(実数をすべて集めた集合)  
V 実ベクトル空間実数体R上の線形空間・ベクトル空間」)であって、 n次元。 
{ v1, v2, , vn }V基底をなす、Vに属すベクトルの集合   
W 実ベクトル空間実数体R上の線形空間・ベクトル空間」)であって、 m次元。 
{ w1, w2, , wm }W基底をなす、Wに属すベクトルの集合  
f : VW」:VからWへの一次写像 
Af V基底{ v1, v2, , vn }, W基底{ w1, w2, , wm }を定めたとき1次写像fに対応する行列  
(本題)
一次写像f : VW同型写像であるならば
V基底{ v1, v2, , vn }, W基底{ w1, w2, , wm }を定めたとき1次写像fに対応する行列Af正則行列であり、
V基底{ v1, v2, , vn }, W基底{ w1, w2, , wm }を定めたとき、fの逆写像f-1:WVに対応する行列は、
Af逆行列Af−1 で表される。  

 

[トピック一覧:実ベクトル空間のあいだの一次写像の行列表示]
線形代数目次総目次

 

(reference)
日本数学会編集『
岩波数学辞典(第三版)』 岩波書店、1985年、項目83行列L線形写像(p.222)
線形代数のテキスト

志賀浩二『数学
30講シリーズ:線形代数30講』朝倉書店、1988年、17講線形写像(pp.107-112)
ホフマン・クンツェ『
線形代数学I』培風館、1976年、3.4行列による一次変換の表現(p.89)
永田雅宜『
理系のための線形代数の基礎』紀伊国屋書店、1986年、1.4行列と一次写像(pp.23-31)
藤原毅夫『理工系の基礎数学
2線形代数』岩波書店、1996年、4.3線形写像の階数と行列の階数(p.102)
斎藤正彦『
線形代数入門』東京大学出版会、1966年、第2章§3行列と線形写像(p.44):実線形空間・複素線形空間のみ;
数理経済学のテキスト
神谷和也・浦井憲『
経済学のための数学入門』東京大学出版会、1996年、§5.2.1線形写像の行列表現(p.165)

 

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