体上の行列についての、逆行列・正則行列・特異行列の定義・性質 : トピック一覧 

【定義】
 ・逆行列・正則行列・特異行列 
【性質】
 ・逆行列の一意性
 ・左逆行列と右逆行列の一致 
 ・逆行列の逆行列 
 ・積の逆行列 
 ・転置行列と逆行列 
 ・正則行列の階数 
 ・正則行列と基本行列
【体上の行列関連ページ】
 ・正方行列に関する様々な定義 
 ・行列の和・スカラー倍の定義 
 ・行列積の定義/行列の積の性質 
 ・逆行列・正則行列・特異行列の定義 
 ・転置行列の性質/行列の代数系  
 ・行列の階数 
【体として実数体を指定した具体例】
 実行列の逆行列・正則行列・特異行列の定義 

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定義:逆行列・正則行列・特異行列 inverse matrix, regular matrix, singular matrix  

任意のn次正方行列Aに対して、  
  AX=XA=In 
 を満たす行列Xが存在するとは限らない。
 「AX=XA=Inを満たすX 」を有すn次正方行列Aもあれば、
 「AX=XA=Inを満たすX 」を有さないn次正方行列Aもある。  

・「AX=XA=Inを満たすX 」を有すn次正方行列Aのことを、
  n次正則行列regular matrix可逆行列invertible matrix非特異行列non-singular matrixと呼び、 
  この「AX=XA=Inを満たすX 」のことを、A逆行列inverse matrixと呼び、A−1で表す。

・「AX=XA=Inを満たすX 」を有さないn次正方行列Aのことを、特異行列singular matrixと呼ぶ。

【体として実数体を指定した具体例】
 実行列の逆行列・正則行列・特異行列

【文献】
 ・『岩波数学辞典』項目83B(p.220)
 ・永田『理系のための線形代数の基礎』1.4(p.26)
 ・藤原『線形代数』2.2(p.30);
 ・斎藤『線形代数入門』2章§2(p.41);
 ・佐武『線形代数学』I§3(pp.13-14)
 ・ホフマン・クンツェ『線形代数学I』1.6(p.22)
 ・岩田『経済分析のための統計的方法』12.4.2逆行列(pp.294-5)。


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定理:逆行列の一意性 

 n次正方行列A正則行列ならばA逆行列はただ一つ。
 つまり、n次正方行列A正則行列であって、X,YA逆行列ならばX=Y.  

【体として実数体を指定した具体例】
  実行列の逆行列の一意性

【文献】
 ・『岩波数学辞典』項目83B(p.220)
 ・藤原『線形代数』2.2(pp.31-2):証明付
 ・斎藤『線形代数入門』2章§2(p.41)
 ・岩田『経済分析のための統計的方法』12.4.2逆行列(p.295)。 

 定理:左逆行列と右逆行列の一致 

任意のn次正方行列Aに対して、AX=Inを満たす行列Xが存在するとは限らない。
 「AX=Inを満たすX 」を有すn次正方行列Aもあれば、
 「AX=Inを満たすX 」を有さないn次正方行列Aもある。  
 n次正方行列Aが「AX=Inを満たすX 」を有すとき、
  この「AX=Inを満たすX 」のことを、A右逆行列と呼ぶ。
任意のn次正方行列Aに対して、XA=Inを満たす行列Xが存在するとは限らない。
 「XA=Inを満たすX 」を有すn次正方行列Aもあれば、
 「XA=Inを満たすX 」を有さないn次正方行列Aもある。  
 n次正方行列Aが「XA=Inを満たすX 」を有すとき、
  この「XA=Inを満たすX 」のことを、A左逆行列と呼ぶ。
任意のn次正方行列Aに対して、右逆行列左逆行列がともに存在するならば、右逆行列=左逆行列。
 つまり、任意のn次正方行列Aに対して、AX=YA=Inが成り立つならばX=Y。 
任意のn次正方行列Aに対して、右逆行列左逆行列のいずれか一方の存在を仮定するだけで、
 A正則行列であるといえる。
 つまり、任意のn次正方行列Aに対してAX=InもしくはYA=Inが成り立つならばA正則行列。 

【体として実数体を指定した具体例】
 実行列の左逆行列と右逆行列の一致
【文献】
 ・永田『理系のための線形代数の基礎』1.4問4(p.26)その証明(p.208)
 ・藤原『線形代数』2.2(p.31):証明付
 ・斎藤『線形代数入門』2章§2(p.41)
 ・佐武『線形代数学』I§3(pp.13-14)
 ・ホフマン・クンツェ『線形代数学I』1.6(p.22;24):証明付
 ・岩田『経済分析のための統計的方法』12.4.2逆行列(p.295)。] 
 


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定理:逆行列の逆行列 

 n次正方行列Aが正則行列ならば、Aの逆行列A−1正則行列であって、(A−1)−1= A 

【体として実数体を指定した具体例】
 実行列の逆行列の逆行列 

【文献】
 ・藤原『線形代数』2.2(p.37)
 ・斎藤『線形代数入門』2章§2[2.1](p.41)
 ・ホフマン・クンツェ『線形代数学I』1.6(p.22)
 ・岩田『経済分析のための統計的方法』12.4.2定理12.12(p.296)

定理:行列積の逆行列 

 n次正方行列A,Bが正則行列ならば積AB正則行列であって、 (AB)−1=B−1 A−1 
 ※活用例:基本行列の積   

【体として実数体を指定した具体例】
  実行列の積の逆行列

【文献】
 ・ホフマン・クンツェ『線形代数学I』1.6(p.22):証明付
 ・藤原『線形代数』2.2(p.36)
 ・斎藤『線形代数入門』2章§2[2.1](p.41)
 ・佐武『線形代数学』I§3-(19)(p.14)
 ・岩田『経済分析のための統計的方法』12.4.2定理12.14(p.297)

定理:転置行列と逆行列 

  n次正方行列Aが正則行列ならば、 ( tA )−1= t( A−1)  

【体として実数体を指定した具体例】
  実行列の転置行列と逆行列
 
【文献】
 ・『岩波数学辞典』項目83B(p.220)
 ・藤原『線形代数』2.2(p.30)
 ・岩田『経済分析のための統計的方法』12.4.2定理12.13(p.296)

定理:正則行列であるための必要十分条件と階数

 次の2つの命題は同値。
  ・命題1: n次正方行列Aは正則行列である。  
  ・命題2: n次正方行列Aの階数nである。  

【体として実数体を指定した具体例】
  実行列が正則行列であるための必要十分条件―階数の観点
【文献】
 ・斎藤『線形代数入門』2章§4[4.3](p.52)

定理:正則行列と基本行列 

 任意の正則行列は、基本行列として、表される。
※逆も成り立つ→詳細 

【体として実数体を指定した具体例】
  実行列における正則行列と基本行列

【文献】
 ・斎藤『線形代数入門』2章§4[4.3](p.52)
 ・永田『理系のための線形代数の基礎』1.7定理1.7.5(p.41)
 

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(reference)

日本数学会編集『岩波数学辞典(第三版)』 岩波書店、1985年、項目83行列B行列の算法(p.220)
【線形代数のテキスト】
永田雅宜『理系のための線形代数の基礎』紀伊国屋書店、1986年、1.4行列と一次写像(pp.23-6)。
佐武一郎『線形代数学(第44版)』裳華房、1987年、I.ベクトルと行列の演算§3行列の演算(pp.13-14)。
砂田利一『現代数学への入門:行列と行列式』2003年、§2.2一般の行列(pp.54-60)、§2.3行列の演算(pp.60-65)、§2.4行列の操作(pp.66-70).
藤原毅夫『理工系の基礎数学2:線形代数』岩波書店、1996年、2.2(p.30)。
斎藤正彦『線形代数入門』東京大学出版会、1966年、第2章行列§2(p.41)。
ホフマン・クンツェ『線形代数学I』培風館、1976年、1.6可逆な行列(pp.21-27)。

志賀浩二『数学30講シリーズ:線形代数30講』朝倉書店、1988年、17講線形写像と行列(pp.107-112)。


【数理経済学のテキスト】
西村和雄『経済数学早わかり』日本評論社、1982年、2章線形代数§2行列と行列式(pp.46-72)。
神谷和也・浦井憲『経済学のための数学入門』東京大学出版会、1996年、5章行列(pp.161-199):一次写像の行列表現を中心にしている。
William H. Greene(斯波・中妻・浅井訳) 『経済学体系シリーズ:グリーン計量経済分析I:改訂4版』エコノミスト社、2000年、第2章行列代数2.2行列の用語(pp.10-12);2.3行列の算法(pp.12-21)。
岩田暁一『経済分析のための統計的方法(第2版)』東洋経済新報社、1983年、12.4.2逆行列(pp.294-5)。