実行列の積の定義 ― トピック一覧

・定義:行ベクトルと列ベクトルの積 / 行列の積 [ 例:(n,1)型と(1,n)/(m,n)型と(n,1)/(n,n)型と(n,1)]
・定義:行列のべき乗

実行列関連ページ:実行列の定義/正方行列に関する様々な定義/行列の和・スカラー倍の定義/行列積の性質/逆行列・正則行列・特異行列の定義/転置行列の性質/行列の代数系
上位概念:体上の行列の積の定義  
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定義:実行列の積−もっとも単純なケース−行ベクトルと列ベクトル


設定


R実数をすべて集めた集合実数体) 

[文献]
・永田『理系のための線形代数の基礎1.4(p.24);
・藤原『線形代数2.1(p.24);
・『高等学校代数幾何』(p.86);
・戸田山田『計量経済学の基礎統計的手法の理論とプログラミング2.2.2(p.58)
・グリーン『計量経済分析2.3.4(p.14) ;松坂『解析入門415.1-C (p. 4)

まえがき

n次元横ベクトルと、n次元縦ベクトルも、実行列の一例であった()。
そこで、
行列の積の定義の、もっとも単純な例として、
n次元横ベクトルn次元縦ベクトルの積の定義を示し、
行列の積の定義の導入とする。

本題

横ベクトルA縦ベクトルBとの間にABが定義されるのは、
 両者が、
n次元横ベクトルn次元縦ベクトルである場合だけ。
 両者の次数が一致しない場合は、積を定義不能とする。 
n次元横ベクトルA=(a1,a2,,an)と 
 
n次元縦ベクトル  
  
 との
ABは、次のように定義される。
  
    
=a1b1a2b2a 3b3+…+an bn 
         (ここでの和・積は
実数体Rに定められている) 
    

活用例

 

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定義:行列の積


設定


R実数をすべて集めた集合実数体) 
A, B 実行列 

[文献]
・『岩波数学辞典83行列B(pp.219-220);
・永田『理系のための線形代数の基礎1.4(p.24);
・斎藤『線形代数入門2章§1(p.33);
・藤原『線形代数2.1(p.24);
・『高等学校代数幾何』(p.86);
・グリーン『計量経済分析2.3.4(p.14);
・高橋『経済学とファイナンスのための数学(p.17);
・戸田山田『計量経済学の基礎統計的手法の理論とプログラミング2.2.2(p.59)
・松坂『解析入門415.1-C (p. 4)


本題

実行列ABが定義されるのは、〈Aの個数〉と〈Bの個数〉とが一致する場合だけ。
 〈
Aの個数〉と〈Bの個数〉とが一致しない場合は、実行列ABは、考えない。

(m,n)型行列A(n,l)型行列BとのABは、次の(m,l)型行列として定義される。   
  
  
   
 つまり、
 
(m,n)型行列 
    
 と
 
(n,l)型行列 
     
 との
ABとは、
 あらゆる
ij列成分(AB)ij (i=1,2,,m, j=1,2,,l ) を、  
   
    
=ai1b1jai2b2jai 3b3 j+…+ain bnj 
         (ここでの和・積は
実数体Rに定められている) 
 によって定めた
(m,l)型行列である。
  
要するに、積AB ij列成分(AB)ij (i=1,2,,m, j=1,2,,l, )は、
   
AiBjを取り出して、
   
n次元横ベクトルになっているAi(ai1,ai2,,ain)と、
   
n次元縦ベクトルになっているBj
      
   との
を計算したもの。
上記の定義は、多くの教科書で、次のように略記されている。 
 
(m,n)型行列A=(aij), (n,l)型行列B=(bjk)にたいして、  
 
AB=(cik) ただし、
        

[n次元横ベクトルと実n次元縦ベクトルとの行列積]
n次元横ベクトルA=(a1,a2,,an)と、n次元縦ベクトルB= t (b1,b2,,bn) との行列積ABは定義可能。
 なぜなら、 
 
A1n列行列、Bn1列の行列であって、
 〈
Aの個数〉と〈Bの個数〉とがnで一致するから。 
・行列積
ABは、(1,n)型行列(n,1)型行列との行列積だから、(1,1)型行列、すなわち単なる実数、となる。
・行列積の計算結果→
詳細 

[n次元縦ベクトルと実n次元横ベクトルとの行列積]
n次元縦ベクトルA= t (a1,a2,,an) n次元横ベクトルB= (b1,b2,,bn) との行列積AB
 定義可能。 
 なぜなら、 
 
An1列行列、B1n列の行列であって、
 〈
Aの個数〉と〈Bの個数〉とが一致して、1であるから。 
・行列積
ABは、(n,1)型行列(1,n)型行列との行列積だから、(n,n)型行列となる。
・行列積
AB ij列成分(AB)ij (i=1,2,,n, j=1,2,,n )は、
 
横ベクトルとなっているAiと、縦ベクトルとなっているBjとの、を、
 計算したものとなるが、 
 
Ai1次元横ベクトル(単なる実数ai 、
 
Bj1次元縦ベクトル(単なる実数bj  
 であるから、    。
 
(AB)ij = aibj  
・以上から、
  

[文献]
・『高等学校代数幾何』(p.86);
・グリーン『計量経済分析2.3.6(p.19)

[(m,n)型行列n次元縦ベクトルとの行列積]
(m,n)型行列An次元縦ベクトルv= t (v1,v2,,vn) との行列積A vは定義可能。 
 なぜなら、 
 
Amn列行列、vn1列の行列であって、
 〈
Aの個数〉と〈vの個数〉とが一致して、nであるから。 
行列積A vは、(m,n)型行列(n,1)型行列との行列積だから、(m,1)型行列すなわちm次元縦ベクトルとなる。
行列積A v i行成分( A v )i (i=1,2,,m)は、
 
横ベクトルとなっているAiと、縦ベクトルvとの、を、計算したものとなるが、 
 
Ai n次元横ベクトル(ai1,ai2,,ain) 、
 
v n次元縦ベクトルt (v1,v2,,vn) 
 であるから、
 
( A v )i 
 
 
= ai1 v1ai2 v2+…+ain vn  (ここでの和・積は実数体Rに定められている
・以上から、
 

活用例:一次写像f:RnRmの表現行列/一次写像f:VWの表現行列 

[(n,n)型行列n次元縦ベクトルとの行列積]
(n,n)型行列An次元縦ベクトルv= t (v1,v2,,vn) との行列積A vは定義可能。 
 なぜなら、 
 
Ann列行列、vn1列の行列であって、
 〈
Aの個数〉と〈vの個数〉とが一致して、nであるから。 
行列積A vは、(n,n)型行列(n,1)型行列との行列積だから、(n,1)型行列すなわちn次元縦ベクトルとなる。
行列積A v i行成分( A v )i (i=1,2,,n)は、
 「
横ベクトルとなっているAi」と「縦ベクトルv」とのを、計算したものとなるが、 
 
Ai n次元横ベクトル(ai1,ai2,,ain) 、
 
v n次元縦ベクトルt (v1,v2,,vn) 
 であるから、
 
( A v )i 
 
 
= ai1 v1ai2 v2+…+ain vn  (ここでの和・積は実数体Rに定められている
・以上から、
  

活用例:一次変換f:RnRnの表現行列/一次変換f:VVの表現行列 

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[yahoo:yoko]

定義:行列のべき乗


設定


R実数をすべて集めた集合実数体) 
A 正方行列 

本題

正方行列Aのそれ自身との行列積AAを、A2と表す。
同様に、正方行列Aのそれ自身との行列積AAAA3
     
正方行列Aのそれ自身との行列積AAAAA4
     :    
 と表す。

活用例:ベキ等行列
性質:
べき乗の計算 

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(reference)
日本数学会編集『
岩波数学辞典(第三版)』 岩波書店、1985年、項目83行列(pp.219-)
線形代数のテキスト

永田雅宜『
理系のための線形代数の基礎』紀伊国屋書店、1986年、1.4行列と一次写像(pp.23-6)
佐武一郎『
線形代数学(44)』裳華房、1987年、I.ベクトルと行列の演算§2-3行列の演算(pp.4-16)
砂田利一『現代数学への入門:
行列と行列式2003年、§2.2一般の行列(pp.54-60)、§2.3行列の演算(pp.60-65)、§2.4行列の操作(pp.66-70).
藤原毅夫『理工系の基礎数学2線形代数』岩波書店、1996年、2.1行列の定義と演算(pp.21-29)
斎藤正彦『
線形代数入門』東京大学出版会、1966年、第2章行列§1行列の定義と演算(pp.31-40)

ホフマン・クンツェ『
線形代数学I』培風館、1976年、一次方程式(pp.1-27)
志賀浩二『数学
30講シリーズ:線形代数30』朝倉書店、1988年、17講線形写像と行列(pp.107-112)
数理経済学のテキスト
西村和雄『
経済数学早わかり』日本評論社、1982年、2章線形代数§2行列と行列式(pp.46-72)
神谷和也・浦井憲『
経済学のための数学入門』東京大学出版会、1996年、5章行列(pp.161-199):一次写像の行列表現を中心にしている。
William H. Greene(斯波・中妻・浅井訳) 『経済学体系シリーズ:グリーン計量経済分析I:改訂4版』エコノミスト社、2000年、第2章行列代数2.2行列の用語(pp.10-12);2.3行列の算法(pp.12-21)
岩田暁一『
経済分析のための統計的方法(2)』東洋経済新報社、1983年、12.1行列の演算(pp.269-277);12.4.2逆行列(pp.294-5)

 

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