実線形空間・実ベクトル空間における一次写像の定義

・定義:一次写像・線形写像/Image/Kernel/階数rank/退化次数nullity  
    
一次変換・線形変換・一次作用素・線形作用素/零写像 
・定理:
零写像は一次写像 

関連ページ
 ・一次写像:
ベクトル演算の一次写像/一次写像の代数系/一次写像と一次独立/一次写像―全射・単射/階数  
        
同型写像/同型写像と線形独立/一次変換の固有値と固有ベクトル
 ・一次写像と行列の関係:
一次写像の行列表示/基底の変換と一次写像と行列 
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定義:一次写像・線形写像linear mapping  


定義


実ベクトル空間Vから実ベクトル空間V'への写像fVV' 一次写像線形写像である」とは、
 
実ベクトル空間Vから実ベクトル空間V'への写像fVV' が、
 次の二要件を満たすことをいう。 
 
要件1: 写像fVV' ベクトル和を保存すること。  
     つまり、
V任意のベクトル(Vで定義された)の「写像fV'に写した」と、  
          それらの
ベクトルの「写像fV'に写した」どおしの(V'で定義された)とが、
         一致すること。
      
(u,vV) ( f ( u+v )=f ( u )+f ( v ) )  
 
要件2: 写像fVV' スカラー倍を保存すること。    
     つまり、
     「
V任意のベクトル」の任意の実数(R)による(Vで定義された)スカラー倍を、
     「
写像fによってV'に写した」と、  
     その
ベクトルの「写像fV'に写した」の
     
任意の実数(R)による(V'で定義された)スカラー倍とが、
     一致すること。
      
(vV) (aR) ( f (a v )=a f ( v ) )  
これを、一次変換・線形変換とよぶこともある。[ホフマン『線形代数学I3.1一次変換(pp.69-76);]


[文献]
・『岩波数学辞典210線形空間:B線形写像(p.570);
・砂田『行列と行列式』§5.1c定義5.10(p.157)
・永田『
理系のための線形代数の基礎1.3(p.19);
・志賀『線形代数3016(p.100); 
・ホフマン『
線形代数学I3.1一次変換(pp.69-76);
・神谷浦井『経済学のための数学入門』§5.2.1(p.163);
・藤原『線形代数4.1(p.93);]
・松坂『解析入門415.1-D (p.7)

一次写像の諸属性:Image,Kernel,階数rank,退化次数nullity 
具体例:一次変換/射影 

実ベクトル空間から実ベクトル空間への線形写像は、
 
実行列によって表される。(→一次写像の行列表示)  
 だから、
線形写像の分類・操作などが論じられる際には、
     それに対応する
実行列の分類・操作に思いをめぐらせるのが、
     肝要。

 


設定


上記の一次写像の定義は、以下の舞台設定上で、なされる。
 
R実数体(実数をすべて集めた集合) 
 
V実ベクトル空間 (実数体R上の線形空間・ベクトル空間」)  
 
V' 実ベクトル空間 (実数体R上の線形空間・ベクトル空間」) 
 
+実ベクトル空間Vにおいて定義されているベクトルの加法 
 
+実ベクトル空間V'において定義されているベクトルの加法 
 
スカラーに続けてベクトルを並べて書いたもの:実ベクトル空間Vにおいて定義されているスカラー乗法
                  および、
実ベクトル空間V'において定義されているスカラー乗法 

[トピック一覧:一次写像‐定義]
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定義:一次写像の像Image 


設定


R実数体(実数をすべて集めた集合)  
V実ベクトル空間 (実数体R上の線形空間・ベクトル空間」)  
V' 実ベクトル空間 (実数体R上の線形空間・ベクトル空間」) 
fVV'実ベクトル空間Vから実ベクトル空間V'への一次写像 


[文献]
・砂田『行列と行列式』§5.1c定義5.10(p.157);
・『岩波数学辞典』項目210-F(p.571);
・永田『理系のための線形代数の基礎1.6 (p.36);
・志賀『線形代数3021(p.133);
・佐武『線形代数学』V§4(p.103)

 


定義


一次写像fVV'Imageとは、定義域V全体のfによる像  
  
{ f (v ) | vV }
のこと。
つまり、
Vに属すあらゆるベクトルfによる像をあつめた集合を、fと呼ぶ。 


記号


一次写像fの像を、Image f , Im f などで表す。


意義


写像fVV' という概念は、
 定義域
V全体のfによる像が、終集合V'と必ずしも一致しなくてもよいものとして
定義されていた。(両者が一致する
写像は、特に、全射と呼ばれる)
一次写像fVV'の定義は、
写像fVV' の概念に、ベクトル和保存・スカラー倍保存の演算則を付け加えただけのものだから、
一次写像fVV'の定義も、定義域V全体のfによる像が、終集合V'と一致することを要求していない。
つまり、
一次写像fVV'には、定義域V全体のfによる像と終集合V'とが一致しないものが多く含まれている。
すると、終集合
V'とは別に、定義域V全体のfによる像を検討すべき機会が多々でてくる。
そこで「定義域
V全体のfによる像」の略称・記号として、「fの像」「Im f 」が用意されることになる。


性質


一次写像fVV'にたいして、
Image f は、V'部分ベクトル空間となる。
なぜ?→証明  
dim(Image f) 階数と呼ぶ。→詳細 

図解

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定義:一次写像の核・核空間 Kernel 


設定


R実数体(実数をすべて集めた集合)  
V実ベクトル空間 (実数体R上の線形空間・ベクトル空間」)  
V' 実ベクトル空間 (実数体R上の線形空間・ベクトル空間」) 
fVV'実ベクトル空間Vから実ベクトル空間V'への一次写像 


[文献]
・砂田『行列と行列式』§5.1c定義5.10(p.157);
・ホフマン『線形代数学I3.1一次変換(p.73);
・『岩波数学辞典』項目210-F(pp.571-2);
・永田『理系のための線形代数の基礎1.6 (pp.35-6);
・志賀『線形代数3021(p.133);
・佐武『線形代数学』V§4(p.103)

 


定義


一次写像fVV'Kernelとは、fによる像V'上の零ベクトルとなる「V属すベクトル」の集合。
つまり、
V'上の零ベクトルfによる逆像 
  
f1 ()={ vV | f (v )= }
のこと。


記号


一次写像fの核を、Ker fで表す。


性質


一次写像fVV'にたいして、
Ker f は、V部分ベクトル空間である。
なぜ?→証明  
dim(Ker f) 退化次数と呼ぶ。→詳細 
活用例:一次写像が単射(11写像)であるための必要十分条件、  

図解


どんな
一次写像fVV'であれ、V上の零ベクトルを、V'上の零ベクトルに写す。() 
だから、どんな
一次写像fVV'にたいしても、Ker fには必ず、V上の零ベクトル属す。 
もし、
一次写像fが、それ以外のV上のベクトルを、V'上の零ベクトルに写すなら、
それらの
V上のベクトルもすべて、Ker f属すことになる。

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定義:一次写像の階数 rank 


設定


R実数体(実数をすべて集めた集合)  
V実ベクトル空間 (実数体R上の線形空間・ベクトル空間」)  
V' 実ベクトル空間 (実数体R上の線形空間・ベクトル空間」) 
fVV'実ベクトル空間Vから実ベクトル空間V'への一次写像 


[文献]
・『岩波数学辞典』項目210-F(p.572);
・永田『理系のための線形代数の基礎1.6 (p.37);
・ホフマン『線形代数学I3.1一次変換(p.73);
・斎藤『線形代数入門』4章§5(p.116);
・佐武『線形代数学』V§4(p.105)
・砂田『
行列と行列式』§5.5-d定義5.80(p.194).

 


定義


一次写像fVV'階数rankとは、fの像[Image f ]次元のこと。
  すなわち、
rank f = dim(Image f)  と定義される。


性質


rank fdim V' 
これは、 
Ker f が「V部分ベクトル空間」であること()と、
Vの部分ベクトル空間」の次元は、Vの次元より大きくならないということによる。   
一次写像の階数の性質行列の階数 

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定義:一次写像の退化次数 nullity 


設定


R実数体(実数をすべて集めた集合)  
V実ベクトル空間 (実数体R上の線形空間・ベクトル空間」)  
V' 実ベクトル空間 (実数体R上の線形空間・ベクトル空間」) 
fVV'実ベクトル空間Vから実ベクトル空間V'への一次写像 


[文献]
岩波数学辞典』項目210-F(p.572);
・藤原『線形代数4.2(p.99);
・志賀『線形代数3021(p.133);
・佐武『線形代数学』V§4(p.105:脚注)

 


定義


一次写像fVV'退化次数nullityとは、
  
fの核[Ker f ]次元、すなわち、dim ( Ker f )  
のこと。


性質


dim ( Ker f ) dim V 
これは、 
Ker f が「V部分ベクトル空間」であること()と、
Vの部分ベクトル空間」の次元は、Vの次元より大きくならないということによる。  

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定義:一次変換・線形変換linear transformation 一次作用素・線形作用素


定義


実ベクトル空間V上の一次変換線形変換ないしV一次作用素・線形作用素とは、
 
実ベクトル空間VからV自身への一次写像fVV のことをいう。 


[文献]
・『岩波数学辞典210線形空間:B線形写像(p.570);
・永田『理系のための線形代数の基礎1.3(p.20);
・ホフマン『線形代数学I3.2一次変換の代数系(p.78);
・神谷浦井『経済学のための数学入門』§5.3(p.189);

関連事項:一次変換の行列表示/一次変換の固有値と固有ベクトル 

 


設定


上記の定義は、以下の舞台設定上で、なされる。
R実数体(実数をすべて集めた集合)  
V 実ベクトル空間実数体R上の線形空間・ベクトル空間」) 
+実ベクトル空間Vにおいて定義されているベクトルの加法 
スカラーに続けてベクトルを並べて書いたもの:実ベクトル空間Vにおいて定義されているスカラー乗法 

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定義:零写像


定義


実ベクトル空間Vから実ベクトル空間V'への写像fVV' 零写像である」とは、
V任意のベクトルの「写像fV'に写した」がすべて、V'零ベクトルとなることをいう。
     
(xV) (aR) ( f (x )= ) 


[文献]
・砂田『行列と行列式』§5.1c定義5.10(p.157)
・松坂『
解析入門415.1-D (p.7)

 

 


設定


上記の定義は、以下の舞台設定上で、なされる。
R実数体(実数をすべて集めた集合)  
V 実ベクトル空間実数体R上の線形空間・ベクトル空間」)。 
V' 実ベクトル空間実数体R上の線形空間・ベクトル空間」)。 
+ベクトル空間Vにおいて定義されているベクトルの加法 
+ベクトル空間V'において定義されているベクトルの加法 
スカラーに続けてベクトルを並べて書いたもの:実ベクトル空間Vにおいて定義されているスカラー乗法 
                  および、
実ベクトル空間V'において定義されているスカラー乗法  

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定理:零写像は一次写像


定義


ベクトル空間Vからベクトル空間V'への零写像は、一次写像の定義を満たす。


[文献]
・砂田『行列と行列式』§5.1c定義5.10(p.157)
・松坂『
解析入門415.1-D (p.7)

 

 


設定


上記の定義は、以下の舞台設定上で、なされる。
R実数体(実数をすべて集めた集合)  
V 実ベクトル空間実数体R上の線形空間・ベクトル空間」)。 
V' 実ベクトル空間実数体R上の線形空間・ベクトル空間」)。 
+実ベクトル空間Vにおいて定義されているベクトルの加法 
+ベクトル空間V'において定義されているベクトルの加法 
スカラーに続けてベクトルを並べて書いたもの:実ベクトル空間Vにおいて定義されているスカラー乗法 
                  および、
ベクトル空間V'において定義されているスカラー乗法 
 

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(reference)
日本数学会編集『
岩波数学辞典(第三版)』 岩波書店、1985年、項目210線形空間(pp.570-576)
線形代数のテキスト

志賀浩二『数学
30講シリーズ:線形代数30』朝倉書店、1988年、16講線形写像(pp.100-105)
ホフマン・クンツェ『
線形代数学I』培風館、1976年、2.3基底と次元(pp.41-50)
永田雅宜『
理系のための線形代数の基礎』紀伊国屋書店、1986年、1.3ベクトル空間(pp.14-6)
砂田利一『現代数学への入門:
行列と行列式2003年、§5.1-c(p.157);§5.5-d(p.194).
佐武一郎『線形代数学(44)』裳華房、1987年、Vベクトル空間§4一次写像の階数(p.103)
藤原毅夫『理工系の基礎数学
2線形代数』岩波書店、1996年、4.1線形空間と写像(p.93);4.2線形空間と写像(pp.98-9);
斎藤正彦『線形代数入門』東京大学出版会、1966年、第4章§5線形写像とくに線形変換(pp.113-9)

数理経済学のテキスト
神谷和也・浦井憲『
経済学のための数学入門』東京大学出版会、1996年、§5.2.1(p.163);§5.3(p.189).

 

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