実行列についての逆行列・正則行列・特異行列 ― トピック一覧

定義:逆行列・正則行列・特異行列
・性質:
逆行列の一意性/左逆行列と右逆行列の一致/逆行列の逆行列/積の逆行列/転置行列と逆行列/正則行列と基本行列
・正則行列であるための必要十分条件:
正則行列であるための必要十分条件―階数の観点/正則行列であるための必要十分条件―一次独立の観点
                    
正則行列であるための必要十分条件―基底の観点 

実行列関連ページ:実行列の定義/正方行列に関する様々な定義/行列の和・スカラー倍の定義/行列の積の定義/行列の積の性質/転置行列の性質/行列の代数系
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定義:逆行列・正則行列・特異行列 inverse matrix, regular matrix, singular matrix

設定

R実数をすべて集めた集合実数体) 
A実行列n次正方行列 

[文献]
・『
岩波数学辞典』項目83B(p.220);
・永田『理系のための線形代数の基礎1.4(p.26);
・藤原『線形代数2.2(p.30);
・斎藤『線形代数入門2章§2(p.41);
・佐武『線形代数学I§3(pp.13-14);
・戸田山田『計量経済学の基礎統計的手法の理論とプログラミング2.2.3(p.62)
・ホフマン・クンツェ『線形代数学I1.6(p.22);
・岩田『経済分析のための統計的方法12.4.2逆行列(pp.294-5)

定義

任意のn次正方行列Aに対して、AX=XA=Inを満たす実行列Xが存在するとは限らない。
 「
AX=XA=Inを満たすX 」を有すn次正方行列Aもあれば、
 「
AX=XA=Inを満たすX 」を有さないn次正方行列Aもある。
AX=XA=Inを満たすX 」を有すn次正方行列Aのことを、
  
n正則行列regular matrix可逆行列invertible matrix非特異行列non-singular matrix
 と呼び、 
  この「
AX=XA=Inを満たすX 」のことを、Aの逆行列inverse matrixと呼び、A1で表す。
AX=XA=Inを満たすX 」を有さないn次正方行列Aのことを、
  
特異行列singular matrixと呼ぶ。

定理:逆行列の一意性


設定


R実数をすべて集めた集合実数体) 
A実行列n次正方行列 


[文献]
・『
岩波数学辞典』項目83B(p.220);
・藤原『線形代数2.2(pp.31-2):証明付;
・斎藤『線形代数入門2章§2(p.41);
・岩田『経済分析のための統計的方法12.4.2逆行列(p.295)

本題

n次正方行列A正則行列ならばA逆行列はただ一つ。
つまり、
n次正方行列A正則行列であって、X,YA逆行列ならばX=Y 

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定理:左逆行列と右逆行列の一致


設定


R実数をすべて集めた集合実数体) 
A実行列n次正方行列 


[文献]
・永田『
理系のための線形代数の基礎1.44(p.26)その証明(p.208);
・藤原『線形代数2.2(p.31):証明付;
・斎藤『線形代数入門2章§2(p.41);
・佐武『線形代数学I§3(pp.13-14);
・ホフマン・クンツェ『線形代数学I1.6(p.22;24):証明付;
・岩田『経済分析のための統計的方法12.4.2逆行列(p.295)

本題

任意のn次正方行列Aに対して、AX=Inを満たす実行列Xが存在するとは限らない。
 「
AX=Inを満たす実行列X 」を有すn次正方行列Aもあれば、
 「
AX=Inを満たす実行列X 」を有さないn次正方行列Aもある。  
 
n次正方行列Aが「AX=Inを満たす実行列X 」を有すとき、
  この「
AX=Inを満たす実行列X 」のことを、Aの右逆行列と呼ぶ。
任意のn次正方行列Aに対して、XA=Inを満たす実行列Xが存在するとは限らない。
 「
XA=Inを満たす実行列X 」を有すn次正方行列Aもあれば、
 「
XA=Inを満たす実行列X 」を有さないn次正方行列Aもある。  
 
n次正方行列Aが「XA=Inを満たす実行列X 」を有すとき、
  この「
XA=Inを満たす実行列X 」のことを、Aの左逆行列と呼ぶ。
任意のn次正方行列Aに対して、右逆行列左逆行列がともに存在するならば右逆行列=左逆行列
 つまり、
任意のn次正方行列Aに対して、AX=YA=Inが成り立つならばX=Y。 
任意のn次正方行列Aに対して、右逆行列左逆行列のいずれか一方の存在を仮定するだけで、
 
A正則行列であるといえる。
 つまり、
任意のn次正方行列Aに対して、AX=InもしくはYA=Inが成り立つならばA正則行列

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定理:逆行列の逆行列


設定


R実数をすべて集めた集合実数体) 
A実行列n次正方行列 


[文献]
・藤原『
線形代数2.2(p.37);
・斎藤『線形代数入門2章§2[2.1](p.41);
・ホフマン・クンツェ『線形代数学I1.6(p.22);
・岩田『経済分析のための統計的方法12.4.2定理12.12(p.296)

本題

n次正方行列A正則行列ならばA逆行列A1正則行列であって、(A1)1= A

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定理:行列積の逆行列


設定


R実数をすべて集めた集合実数体
A,B実行列n次正方行列


[文献]
・ホフマン・クンツェ『
線形代数学I1.6(p.22):証明付;
・藤原『線形代数2.2(p.36);
・斎藤『線形代数入門2章§2[2.1](p.41);
・佐武『線形代数学I§3-(19)(p.14);
・岩田『経済分析のための統計的方法12.4.2定理12.14(p.297)

本題

n次正方行列A,B正則行列ならば
AB正則行列であって、 (AB)1=B1 A1 

活用例:基本行列の積 

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定理:転置行列と逆行列


設定


R実数をすべて集めた集合実数体) 
A実行列n次正方行列 


[文献]
・『
岩波数学辞典』項目83B(p.220);
・藤原『線形代数2.2(p.30);
・岩田『経済分析のための統計的方法12.4.2定理12.13(p.296)

本題

n次正方行列A正則行列ならば、 ( tA )1= t( A1)  

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定理:正則行列と基本行列


任意の正則行列は、基本行列として、表される。
逆も成り立つ→詳細 


[文献]
・斎藤『
線形代数入門2章§4[4.3](p.52);
・永田『理系のための線形代数の基礎1.7定理1.7.5(p.41);

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定理:正則行列であるための必要十分条件−階数の観点から


設定


R実数をすべて集めた集合実数体) 
A実行列n次正方行列 


[文献]
・斎藤『
線形代数入門2章§4[4.3](p.52);
・永田『理系のための線形代数の基礎1.7定理1.8.4(p.44);


本題


次の2つの命題は同値。
・命題
1: n次正方行列A正則行列である。  
・命題
2: n次正方行列A階数nである。  

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定理:正則行列であるための必要十分条件−一次独立の観点から


設定


R実数をすべて集めた集合実数体) 
A実行列n次正方行列 


[文献]
・松坂『
解析入門4158.1-G-命題15 (p.15):数ベクトル空間限定;
・永田『理系のための線形代数の基礎1.7定理1.8.4(p.44);


本題


次の
3つの命題は同値
・命題
1: n次正方行列A正則行列である。  
・命題
2: n次正方行列Aを構成するn個の行ベクトルは、一次独立である。  
・命題
3: n次正方行列Aを構成するn個の列ベクトルは、一次独立である。  

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定理:正則行列であるための必要十分条件− Rnの基底の観点から


設定


R実数をすべて集めた集合実数体) 
Rnn次元数ベクトル空間 
A実行列n次正方行列 


[文献]
・松坂『
解析入門4158.1-G-命題15 (p.15):数ベクトル空間限定;


※関連事項:基底変換行列 


本題


次の命題は
同値
・命題
P: n次正方行列A正則行列である。  
・命題
Q: n次正方行列Aを構成するn個の列ベクトルは、
             
n次元数ベクトル空間Rn基底をなす。  
なぜ?
  以下二点より。
  ・
正則行列であるための必要十分条件―一次独立の観点
  ・
基底であるための必要十分条件  
   
 

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(reference)
日本数学会編集『
岩波数学辞典(第三版)』 岩波書店、1985年、項目83行列B行列の算法(p.220)
線形代数のテキスト

永田雅宜『
理系のための線形代数の基礎』紀伊国屋書店、1986年、1.4行列と一次写像(pp.23-6)
佐武一郎『
線形代数学(44)』裳華房、1987年、I.ベクトルと行列の演算§3行列の演算(pp.13-14)
砂田利一『現代数学への入門:
行列と行列式2003年、§2.2一般の行列(pp.54-60)、§2.3行列の演算(pp.60-65)、§2.4行列の操作(pp.66-70).
藤原毅夫『理工系の基礎数学2線形代数』岩波書店、1996年、2.2(p.30)
斎藤正彦『
線形代数入門』東京大学出版会、1966年、第2章行列§2(p.41)
ホフマン・クンツェ『
線形代数学I』培風館、1976年、1.6可逆な行列(pp.21-27)

志賀浩二『数学
30講シリーズ:線形代数30』朝倉書店、1988年、17講線形写像と行列(pp.107-112)

数理経済学のテキスト
西村和雄『
経済数学早わかり』日本評論社、1982年、2章線形代数§2行列と行列式(pp.46-72)
神谷和也・浦井憲『
経済学のための数学入門』東京大学出版会、1996年、5章行列(pp.161-199):一次写像の行列表現を中心にしている。
William H. Greene(斯波・中妻・浅井訳) 『経済学体系シリーズ:グリーン計量経済分析I:改訂4版』エコノミスト社、2000年、第2章行列代数2.2行列の用語(pp.10-12);2.3行列の算法(pp.12-21)
岩田暁一『
経済分析のための統計的方法(2)』東洋経済新報社、1983年、12.4.2逆行列(pp.294-5)

[トピック一覧:逆行列・正則行列・特異行列]
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