実ベクトル空間の基底変換と、一次写像の行列表現についての基底変換公式

 ・定義:基底変換行列  
 ・定理:
基底変換行列は正則/基底変換行列の逆行列
 ・定理:
一次写像の行列表示に関する基底変換公式/一次変換の行列表示に関する基底変換公式/相似/変換する/相似な行列の行列式・トレース 

関連ページ:
 
実ベクトル空間のあいだの一次写像と行列の関係について:実ベクトル空間のあいだの一次写像/実ベクトル空間一般のあいだの一次写像の行列表示と標準化/一次写像の階数と行列の階数の関係 
 ・
一次写像「f:RnRm」と行列の関係について:n次元数ベクトル空間から実m次元数ベクトル空間への一次写像/一次写像f:RnRmの行列表示と標準化/基底変換と一次写像の行列表示  
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定義:実ベクトル空間の基底変換行列


設定


この定理は、以下の舞台設定上で成り立つ。
R実数体(実数をすべて集めた集合)  
V 実ベクトル空間実数体R上の線形空間・ベクトル空間」)であって、
  
n次元。つまり、dimVn 
{ v1, v2, , vn }V基底をなす、Vに属すベクトルの集合
{ v'1, v'2, , v'n }V基底をなす、Vに属すベクトルの集合

[文献]
・永田『理系のための線形代数の基礎1.4行列と一次写像(p.30);
・志賀『線形代数3018(pp.115-6);
・ホフマン・クンツェ『線形代数学I2.4座標定理7(p.53);3.4行列による一次変換の表現(pp.93-94);
・『岩波数学辞典』項目83L線形写像(p.222);
・佐武『線形代数学』V§7(pp.120-122)
・砂田『
行列と行列式』§5.5(a) (p.188):
     体上のベクトル空間のあいだの一次写像全般について。
・岡田『
経済学・経営学のための数学2.6(p.98).

特殊例へのリンク:n次元数ベクトル空間の基底変換行列

本題1

{ v1, v2, , vn }も、{ v'1, v'2, , v'n }も、V基底であるとする。 
{ v1, v2, , vn }V基底なので、 
Vの他の基底をなすベクトルv'1, v'2, , v'nVも、
{ v1, v2, , vn }一次結合として一意的に表せる。 

すなわち、
  
v'1=p11v1+p21v2++pn1vn   
  
v'2=p12v1+p22v2++pn2vn   
   :     : 
  
v'n=p1nv1+p2nv2++pnnvn   
を満たす
n次正方行列  
   
     
が一意的に存在する。 
 
    
   
 v'1=p11v1+p21v2++pn1vn   
   
 v'2=p12v1+p22v2++pn2vn   
   
 :     : 
   
 v'n=p1nv1+p2nv2++pnnvn   
   を、
行列の乗法風に、
    
 と書く、簡便法が、頻繁に用いられる。
    (数ベクトル空間のケースだと、便利さが引き立つらしい) 
 この簡便法を用いると、上記の命題は、次のように、簡潔に表せる。
       
  を満たす
n次正方行列Pが一意的に存在する。

本題2

上記のn次正方行列Pを、
基底の変換{ v1, v2, , vn }{ v'1, v'2, , v'n }の行列基底{ v1, v2, , vn }から{ v'1, v'2, , v'n }への変換行列基底変換の行列と呼ぶ。

本論3

[基底変換の行列表現]
実ベクトル空間Vに属す任意ベクトルxは、
  
V基底α={ v1, v2, , vn }一次結合として一意的に表せる(∵基底の定義)。
 つまり、
  
任意xVに対して、ある実数x1 , x2 ,, xnが一意に存在して
    
x=x1v1+ x2v2++ xnvn 
  を満たす。
 この
実数の組(x1 , x2 ,, xn) 縦ベクトルを、
  
xの《V基底α={ v1, v2, , vn }に関する座標ベクトルと呼び、
   
[x]α 
  と表す。
実ベクトル空間Vに属す上記のベクトルxは、
  
V基底β={ v'1, v'2, , v'n }一次結合としても一意的に表せる(∵基底の定義)。
 つまり、
  
任意xVに対して、ある実数 x'1 , x'2 ,, x'nが一意に存在して
    
x=x'1v'1+ x'2v'2++ x'nv'n 
  を満たす。
 この
実数の組(x'1 , x'2 ,, x'n)縦ベクトルを、
  
xの《V基底β={ v'1, v'2, , v'n }に関する座標ベクトルと呼び、
   
[x]β 
  と表す。
・すると、
  
xの《V基底α={ v1, v2, , vn }に関する座標ベクトル [x]α 
  
xの《V基底β={ v'1, v'2, , v'n }に関する座標ベクトル [x]β 
  のあいだに、
  
基底{ v1, v2, , vn }から基底{ v'1, v'2, , v'n }への基底変換行列Pを用いた関係式、
  
[x]βP [x]α 
  が成り立つ。       

[文献]
・岡田『経済学・経営学のための数学2.6(p.98).

   

[トピック一覧:基底変換と一次写像]
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定義:基底変換の行列は正則行列


設定


この定理は、以下の舞台設定上で成り立つ。
R実数体(実数をすべて集めた集合)  
V 実ベクトル空間実数体R上の線形空間・ベクトル空間」)であって、
  
n次元。つまり、dimVn 
{ v1, v2, , vn }V基底をなす、Vに属すベクトルの集合
{ v'1, v'2, , v'n }V基底をなす、Vに属すベクトルの集合 


[文献]
・永田『理系のための線形代数の基礎1.4行列と一次写像(p.30);
・志賀『線形代数3018(pp.115-6);
・ホフマン・クンツェ『線形代数学I2.4座標(p.53);
・岡田『経済学・経営学のための数学』例題2.11(p.98).

本題1

実ベクトル空間( n次元)V基底を、{ v1, v2, , vn }から{ v'1, v'2, , v'n }へ変えたときの、
基底変換の行列Pは、
正則行列である。 

本題2

基底変換の行列P逆行列P−1は、   
有限次元実ベクトル空間( n次元)V基底を、
{ v1, v2, , vn }から{ v'1, v'2, , v'n }へ変えたときの基底変換の行列である。

[トピック一覧:基底変換と一次写像]
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定理:実ベクトル空間のあいだの一次写像の行列表示に関する基底変換公式


設定


この定理は、以下の舞台設定上で成り立つ。
R実数体(実数をすべて集めた集合)  
V実ベクトル空間実数体R上の線形空間・ベクトル空間」)であって、
  
n次元。つまり、dimVn  
 ・
{ v1, v2, , vn }V基底をなす、Vに属すベクトルの集合 
 ・
{ v'1, v'2, , v'n }V基底をなす、Vに属すベクトルの集合 
 ・
PV基底を、{ v1, v2, , vn }から{ v'1, v'2, , v'n }へ変えたときの基底変換の行列
W有限次元実ベクトル空間
   ただし、
m次元。つまり、dimWm  
 ・
{ w1, w2, , wm }W基底をなす、Wに属すベクトルの集合  
 ・
{ w'1, w'2, , w'm }W基底をなす、Wに属すベクトルの集合  
 ・
QW基底を、{w1, w2,, wm}から{w'1, w'2,,w'm}へ変えたときの基底変換の行列 
f : VW」:VからWへの一次写像 
A V基底{ v1, v2, , vn }, W基底{ w1, w2, , wm }を定めたとき1次写像fに対応する行列  
B V基底{ v'1, v'2, , v'n }, W基底{ w'1, w'2, , w'm }を定めたとき1次写像fに対応する行列  


[文献]
・永田『理系のための線形代数の基礎』定理1.4.4(p.30):証明付;
・志賀『線形代数3018(pp.117-8):証明付;
・草場『線形代数3.8(pp.92-95);
・砂田『行列と行列式』§5.5(a) (p.188):
     体上のベクトル空間のあいだの一次写像全般について。

特殊例へのリンク:一次写像f:RnRmの行列表示に関する基底変換公式

この定理はどこで使われるのか?:
  ・
相似な行列/変換 
  ・
一次写像の行列表示の標準化 

本題

V基底{ v'1, v'2, , v'n }, W基底{ w'1, w'2, , w'm }を定めたとき1次写像fに対応する行列Bは、
  「
W基底{w1, w2,, wm}から{w'1, w'2,,w'm}へ変えたときの基底変換の行列」の逆行列Q−1と、
  「
V基底{ v1, v2, , vn }, W基底{ w1, w2, , wm }を定めたとき1次写像fに対応する行列Aと、
  「
V基底{ v1, v2, , vn }から{ v'1, v'2, , v'n }へ変えたときの基底変換の行列Pとの
  
行列積等しい。     
すなわち、    
 
B=Q−1AP 

[トピック一覧:基底変換と一次写像]
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定理:一次変換の行列表示に関する基底変換公式


設定


この定理は、以下の舞台設定上で成り立つ。
R実数体(実数をすべて集めた集合)  
V実ベクトル空間実数体R上の線形空間・ベクトル空間」)であって、
  
n次元。つまり、dimVn  
 ・
{ v1, v2, , vn }V基底をなす、Vに属すベクトルの集合 
 ・
{ v'1, v'2, , v'n }V基底をなす、Vに属すベクトルの集合 
 ・
PV基底を、{ v1, v2, , vn }から{ v'1, v'2, , v'n }へ変えたときの基底変換の行列
f : VV」:VからVへの一次変換 
A V基底{ v1, v2, , vn }を定めたとき1次変換fに対応する行列  
B V基底{ v'1, v'2, , v'n }を定めたとき1次変換fに対応する行列  


[文献]
・永田『理系のための線形代数の基礎』系1.4.5(p.31);
・草場『線形代数3.8-3.1(p.95);
・ホフマン・クンツェ『線形代数学I3.4行列による一次変換の表現(pp.93-94);
・斎藤『線形代数入門』4章§5 (pp.117-8);
・松坂『解析入門418.1命題2(p.85):数ベクトル空間限定;
・砂田『行列と行列式』§5.5(a) (p.190):
     体上のベクトル空間のあいだの一次写像全般について。
・岡田『
経済学・経営学のための数学2.6(pp.99-100).
特殊例へのリンク:Rn上の一次変換の行列表示に関する基底変換公式

この定理はどこで使うのか?:
  ・
一次変換の行列表示の標準化の問題
  ・一次変換の行列表示の対角化の問題
(固有値問題) 

 

本題

V基底{ v'1, v'2, , v'n }を定めたとき1次変換fに対応する行列Bは、
  「
V基底を、{ v1, v2, , vn }から{ v'1, v'2, , v'n }へ変えたときの基底変換の行列」の逆行列P−1と、
  「
V基底{ v1, v2, , vn }を定めたとき1次変換fに対応する行列Aと、
  「
V基底を、{ v1, v2, , vn }から{ v'1, v'2, , v'n }へ変えたときの基底変換の行列Pとの
  
行列積等しい。     
すなわち、    
  
B=P−1AP  

[一次写像の行列表示に関する基底変換公式との違い]
一次写像f : VW」の行列表示に関する基底変換公式は、
 「
V基底」「W基底」を変更した際に、
 「変更前の
基底に関する一次写像fの行列表示」と「変更後の基底に関する一次写像fの行列表示
 の関係がどうなっているのかを説明するものだった。
 つまり、
 「
一次写像f : VW」の行列表示に関する基底変換公式は、
    ・
V基底のとりかた
    ・
W基底のとりかた
 の二点を操作するという設定で考察した結果えられたものである。

[文献]
・志賀『線形代数3020Teatime(p.131);26(pp.164-167);
・斎藤『線形代数入門』4章§5 (p.117);

・この方針に完全に従うならば、 
 「
一次変換f:VV」の行列表示に関する基底変換公式も、
    ・
fで写される前のV基底のとりかた
    ・
fで写された後のV基底のとりかた
 の二点を操作するという設定で考察するのが筋である。
 この場合、
一次写像f : VW」の行列表示に関する基底変換公式と全く同じ公式が得られる。
 すなわち、
  
「『fで写される前のV』の基底{ v'1, v'2, , v'n }, fで写された後のV』の基底{ v''1, v''2, , v''n }を定めたとき1次変換fに対応する行列Bは、
  
「『fで写された後のV』の基底{ v1, v2, , vn }から{ v''1, v''2, , v''n }へ変えたときの基底変換の行列」の逆行列Q−1と、
  
V基底{ v1, v2, , vn }を定めたとき1次変換fに対応する行列Aと、
  
「『fで写される前のV』の基底{ v1, v2, , vn }から{ v'1, v'2, , v'n }へ変えたときの基底変換の行列Pとの
  
行列積等しい。     
  
 つまり、  B=Q−1AP   
   
・ところが、「
一次変換f:VV」を扱う場合に、このようなかたちで基底をいじることは、一般的でない。
 「
fで写される前のV基底」「fで写された後のV基底」をそれぞれ別の基底に変更するのではなく、
 「
fで写される前のV基底」「fで写された後のV基底」をまとめて一つの共通な基底に変更することが普通である。
 だから、
 「
fで写される前のV基底の変更」「fで写された後のV基底の変更」という二つの操作ではなく、
 「
fで写される前のV基底」「fで写された後のV基底」をまとめて一つの共通な基底に変更するという単一の操作に対して、
 「操作前の
一次変換fの行列表示」と「操作後の一次変換fの行列表示」の関係がどうなっているのかを、
 明らかにすることが、課題として浮上することになる。
 そうして得られたのが、上記の
一次写像の行列表示に関する基底変換公式に他ならない。 
・このように、「
一次変換f:VV」を扱う場合、
 基底変更が、二点の操作ではなく、一点の操作に制約されていることは、
 重要である。
 このために、
  
一次写像の行列表示の標準化は常に可能であるのに、
  
一次変換の行列表示の標準化についてはそうはならない、
 という重大な帰結が生じるからである。

[トピック一覧:基底変換と一次写像]
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定義:相似


設定


この定理は、以下の舞台設定上で成り立つ。
R実数体(実数をすべて集めた集合)  
An次正方行列 
Bn次正方行列 


[文献]
・永田『理系のための線形代数の基礎1.4(p.31);
・ホフマン・クンツェ『線形代数学I3.4行列による一次変換の表現(p.97);
・斎藤『線形代数入門』4章§5 (p.118);
・砂田『行列と行列式』§5.5(a) (p.190):
     体上のベクトル空間のあいだの一次写像全般について。
・岡田『
経済学・経営学のための数学2.6(p. 100).

※相似な行列の性質:
 ・
固有値について:相似な行列の固有値・固有ベクトル
 ・

本題1

・「n次正方行列An次正方行列B相似である」とは、
  
A=P−1BP  
 を満たす
n次正則行列Pが存在することをいう。

本題2

一次変換の行列表示に関する基底変換の公式とあわせて考えると、
 
n次正方行列An次正方行列Bに相似であるということは、
 
任意の実ベクトル空間において、
 
ABは、
 同一の
一次変換を異なった二つの基底に関して表した行列であること
 を意味する。
[ホフマン・クンツェ『線形代数学I(p.97)]

[トピック一覧:基底変換と一次写像]
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定義:変換する 
 
[永田『理系のための線形代数の基礎1.4(p.31);
  ホフマン・クンツェ『線形代数学I3.4行列による一次変換の表現(pp.93-94);]
(舞台設定)
R実数体(実数をすべて集めた集合)  
A: n次正方行列   
P: n次正方行列 
(本題)
n次正方行列An次正方行列P変換するとは、
 
Aから P−1AP  
をつくること。    

[トピック一覧:基底変換と一次写像]
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定理:相似な行列については、どれも同一の行列式・トレースを有す

   


[文献]
・斎藤『線形代数入門』4章§5 (p.118);
・砂田『行列と行列式』§5.5(a) (p.192):
     体上のベクトル空間のあいだの一次写像全般について。

本題1

相似な正方行列行列式トレースは、どれも、同一値。

本題2

・このことを、一次変換の行列表示に関する基底変換の公式とあわせて考えると、
 
一次変換の表現行列行列式トレースは、
 どの
基底に関しても、同一値だということになる。
・つまり、
 
一次変換の表現行列行列式トレースは、
 
基底には全く依存せず、
 その
一次変換の特性そのものを表している。
 

   

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(reference)
日本数学会編集『
岩波数学辞典(第三版)』 岩波書店、1985年、項目83行列L線形写像(p.222)
線形代数のテキスト

志賀浩二『数学
30講シリーズ:線形代数30』朝倉書店、1988年、18講正則行列と基底変換(pp.115-8)
ホフマン・クンツェ『
線形代数学I』培風館、1976年、3.4行列による一次変換の表現(p.89)
永田雅宜『
理系のための線形代数の基礎』紀伊国屋書店、1986年、1.4行列と一次写像(pp.23-31)
藤原毅夫『理工系の基礎数学
2線形代数』岩波書店、1996年、4.3線形写像の階数と行列の階数(p.102)
斎藤正彦『
線形代数入門』東京大学出版会、1966年、第2章§3行列と線形写像(p.44):実線形空間・複素線形空間のみ;
佐武一郎『
線形代数学(44)』裳華房、1987年、Vベクトル空間§7ベクトル空間の公理化(pp.120-122)

数理経済学のテキスト
神谷和也・浦井憲『
経済学のための数学入門』東京大学出版会、1996年、§5.2.1線形写像の行列表現(p.165)

[トピック一覧:基底の変換と1次写像] 
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