n次元数ベクトル空間における基底―トピック一覧 
  ・基底の定義/基底であるための必要十分条件/基本ベクトルは基底の一例/基底の存在/座標ベクトル 
※実n次元数ベクトル空間関連ページ:実n次元数ベクトル空間の定義/線形結合/一次独立・一次従属/線形結合と線形独立・従属の関係/次元/部分ベクトル空間
※上位概念:一般のベクトル空間における基底/体上の数ベクトル空間における基底/実ベクトル空間における基底/
      n次元数ベクトル空間の部分空間の基底 
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定義:実n次元数ベクトル空間における基底 basis 
設定 R実数体(実数をすべて集めた集合)  
Rnn次元数ベクトル空間 
+n次元数ベクトル空間Rnに定義されているベクトルの加法
スカラーに続けてベクトルを並べて書いたもの:n次元数ベクトル空間Rnに定められているスカラー乗法
u1, u2, …, ull個のn次元数ベクトル
       具体的に書くと、
       u11, u12, …, u1nRとして、u1=( u11, u12, …, u1n ) Rn  
       u21, u22, …, u2nRとして、u2=( u21, u22, …, u2n ) Rn  
          :            :    
       ul1, ul2, …, ulnRとして、ul=( ul1, ul2, …, uln ) Rn 
       なお、個数lが有限個であること、個数lが、Rnnと等しくなくてもよいことに注意。  
vn次元数ベクトル
       具体的に書くと、v1, v2, …, vnRとして、v=( v1, v2, …, vn )   
       したがって、vRn
a1, a2, …, alスカラーa1, a2, …, al R  
定義 l個のn次元数ベクトル有限集合{ u1, u2, …, ul }
         n次元数ベクトル空間Rn基底basisである」
とは、
{ u1, u2, …, ul }が、次の2条件を満たすことを言う。
条件P1u1, u2, …, ul線形独立となること。
条件P2u1, u2, …, ul一次結合として、Rn属す任意のn次元数ベクトルを表せること。
    ( vRn) ( a1,a2,…,al R) ( v a1u1+a2u2++alul ) 
なお、この2条件は、次の条件と同値
条件Qu1, u2, …, ul一次結合としてRn属す任意のn次元数ベクトルを一意的に表せる。
※グリーン『計量経済分析I』定義2.6(p.26)は、 
 この定義の必要十分条件(→基底であるための必要十分条件)を、基底の定義としている。  
[文献]
・永田『理系のための線形代数の基礎』1.3(p.11);
・グリーン『計量経済分析I』定義2.3(p.24);定義2.6(p.26);

※関連事項:基底であるための必要十分条件
※活用例:座標ベクトル 
証明 (証明:条件P1;P2命題Q)
・条件P1;P2条件Q 
   永田『理系のための線形代数の基礎』補題1.3.2(pp.17-8); 
・条件Q条件P1;P2 
   永田『理系のための線形代数の基礎』補題1.3.2(p.18); 
n次元数ベクトル空間Rnの基底(の定義を満たすRn部分集合)は、複数セット存在しうる。
上位概念:一般のベクトル空間の有限集集合が基底であるということ体上の数ベクトル空間の有限集合が基底であるということ



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定理:実n次元数ベクトル空間の基底であるための必要十分条件
要旨 n次元数ベクトル空間Rn基底は、
どれも、「n個の線形独立n次元数ベクトル」である。
 ※「n個の線形独立n次元数ベクトル」を基底の定義とするテキストもある。[グリーン『計量経済分析I』定義2.6(p.26)]
 ※正則行列であるための必要十分条件―基底の観点も見よ。 
設定 R実数体(実数をすべて集めた集合)  
Rnn次元数ベクトル空間 
+n次元数ベクトル空間Rnに定義されているベクトルの加法
スカラーに続けてベクトルを並べて書いたもの:n次元数ベクトル空間Rnに定められているスカラー乗法
u1, u2, …, ull個のn次元数ベクトル
       具体的に書くと、
       u11, u12, …, u1nRとして、u1=( u11, u12, …, u1n ) Rn  
       u21, u22, …, u2nRとして、u2=( u21, u22, …, u2n ) Rn  
          :            :    
       ul1, ul2, …, ulnRとして、ul=( ul1, ul2, …, uln ) Rn 
       なお、個数lが有限個であること、個数lが、Rnnと等しくなくてもよいことに注意。  
vn次元数ベクトル
       具体的に書くと、v1, v2, …, vnRとして、v=( v1, v2, …, vn )   
       したがって、vRn
a1, a2, …, alスカラーa1, a2, …, al R  
  


[文献]
・永田『理系のための線形代数の基礎』1.3(p.11);
・グリーン『計量経済分析I』定義2.3(p.24);定義2.6(p.26);
詳細 l個のn次元数ベクトル有限集合{ u1, u2, …, ul }n次元数ベクトル空間Rn基底である」
ことは、
 { u1, u2, …, ul }が、次の2条件を満たすことと同値である。
  条件R1:u1, u2, …, ul線形独立となること。
  条件R2:ln であること。 
証明 ・「{ u1, u2, …, ul }が条件R1,R2を満たす」{ u1, u2, …, ul }Rn基底の定義を満たす」を示す。
 定理より、
  「n次元数ベクトル空間Rnにおいては、
     n個のn次元数ベクトルu1, u2, …, un線形独立ならば、Rn基底となる」
 から、
 { u1, u2, …, ul }が、条件R1,R2を満たす、 
      すなわち、{ u1, u2, …, ul=un} が(→R2)、線形独立となる(→R1)  
 ならば、  
 { u1, u2, …, ul=un} は、Rn基底の定義を満たす。 
・「{ u1, u2, …, ul }基底の定義を満たす」{ u1, u2, …, ul }が条件R1,R2を満たす」
 を示す。 
 ・基底であるための条件P1と、条件R1はもともと同じ。
  したがって、
   「{ u1, u2, …, ul }Rn基底の定義を満たす」{ u1, u2, …, ul }が条件R1を満たす」
 ・Rn次元に関する定理より、
    { u1, u2, …, ul }Rn基底の定義を満たすならば、ln となる。 
  したがって、
   「{ u1, u2, …, ul }Rn基底の定義を満たす」{ u1, u2, …, ul }が条件R2を満たす」



 

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定理:基本ベクトルは基底の一例
設定 R実数体(実数をすべて集めた集合)  
Rnn次元数ベクトル空間 
[文献]
・永田『理系のための線形代数の基礎』1.3(p.11);
・神谷浦井『経済学のための数学入門』§3.2.4(p.125);
・布川谷野中山『線形代数と凸解析』例2.4(pp.36-7)
本題

n次元数ベクトル空間Rn基本ベクトルは、Rn基底である。
そこで、n次元数ベクトル空間Rn基本ベクトルは、Rnの標準基底とも呼ばれる。

証明 基本ベクトルe1, e2,…,en線形独立)。   
基本ベクトルe1, e2,…,en一次結合として、Rn属す任意のn次元数ベクトルを表せる。
 実際、  
  任意v=( v1, v2, …, vn )Rn は、vv1e1+v2e2++vnen  と表せる。 
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定理:基底の存在
設定 R実数体(実数をすべて集めた集合)  
Rnn次元数ベクトル空間

本題 n次元数ベクトル空間Rnは、すべて、(少なくとも一セット以上の)基底を有す。
証明 少なくとも、n次元数ベクトル空間Rn基本ベクトルは、Rn基底であるから。
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定義:座標ベクトル
設定 R実数体(実数をすべて集めた集合)  
Rnn次元数ベクトル空間

[文献]
・松坂『解析入門4』18.1-A (p.84):数ベクトル空間限定;
・志賀『線形代数30講』8講:R2のケース「斜交座標」(p.51) ;10講:R3のケース(p.66)

※一般化:実ベクトルの座標ベクトル/
※活用例:基底変換行列 
定義

・「n次元数ベクトルvの《Rn基底 { u1, u2, …, un }に関する座標ベクトル」とは、
  n次元数ベクトルv=( v1, v2, …, vn )Rnを、
     「Rn基底{ u1, u2, …, un}一次結合v =x1u1+x2u2++xnun 
  として表した際の、
  実数(x1,x2,…,xn)のことをいう。
性質

・「n次元数ベクトルv=( v1, v2, …, vn )Rn
        《Rn標準基底 { e1, e2, …, en }に関する座標ベクトル」は、
 n次元数ベクトルv=( v1, v2, …, vn )それ自身である。
 実際、
 任意v=( v1, v2, …, vn )Rn は、
    v =v1e1+v2e2++vnen  
 と表される。

・「標準基底 { e1, e2, …, en }以外の《Rn基底 { u1, u2, …, un }》に関する
   n次元数ベクトルv=( v1, v2, …, vn )Rn座標ベクトル」に、
 基底変換の行列をかけると、
 「n次元数ベクトルv=( v1, v2, …, vn )Rn
        《Rn標準基底 { e1, e2, …, en }に関する座標ベクトル
 すなわち、
 n次元数ベクトルv=( v1, v2, …, vn )それ自身
 に変換される(→活用例:基底変換行列)。


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  (reference)
日本数学会編集『岩波数学辞典(第三版)』 岩波書店、1985年、項目210線形空間(pp.570-576)
線形代数のテキスト
志賀浩二『数学30講シリーズ:線形代数30講』朝倉書店、1988年、15講基底と次元(pp.94-99):有限次元ベクトル空間のみ扱っている。
ホフマン・クンツェ『線形代数学I』培風館、1976年、2.3基底と次元(pp.41-50)。
永田雅宜『理系のための線形代数の基礎』紀伊国屋書店、1986年、1.3ベクトル空間(pp.14-6)。
砂田利一『現代数学への入門:行列と行列式』2003年、§5.3-b(p.173).
佐武一郎『線形代数学(第44版)』裳華房、1987年、Vベクトル空間§6ベクトル空間の公理化(p.115)。線形従属・独立については、数ベクトルに限定?
藤原毅夫『理工系の基礎数学2:線形代数』岩波書店、1996年、4.1線形空間と写像(p.91)。 線形従属・独立については、数ベクトルに限定?
斎藤正彦『線形代数入門』東京大学出版会、1966年、第4章§2線形空間(p.96):実線形空間・複素線形空間のみ;附録V§2体(p.249)。

代数学のテキスト
本部均『新しい数学へのアプローチ5:新しい代数』共立出版、1969年、5.2-Aベクトル空間(p.132)。
酒井文雄『共立講座21世紀の数学8:環と体の理論』共立出版、1997年、1.6ベクトル空間(p.22):数ページしか触れていないが、逆に、一般の線形空間の理論の骨組みだけを浮かびあがってくるので、何が重要事項なのかを見極める上で便利。

解析学のテキスト
杉浦光夫『解析入門I』東京大学出版会、1980年、I章§4(pp.33-4)

数理経済学のテキスト
神谷和也・浦井憲『経済学のための数学入門』東京大学出版会、1996年、§3.1ベクトル空間とは何か(p.105)。
布川昊,谷野哲三,中山弘隆『線形代数と凸解析』コロナ社、1991年、2.4基底と次元(pp.36-41)。
西村和雄『経済数学早わかり』日本評論社、1982年、2章線形代数§1ベクトル(pp.26-)。


数理統計学のテキスト
William H. Greene(斯波・中妻・浅井訳) 『経済学体系シリーズ:グリーン計量経済分析I:改訂4版』エコノミスト社、2000年、第2章行列代数2.2行列の用語(pp.10-12);2.3行列の算法(pp.12-21)。
岩田暁一『経済分析のための統計的方法 (第2版)』東洋経済新報社、1983年、12.1行列の演算(pp.269-277);12.4.2逆行列(pp.294-5)。 
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