定義:関数の収束convergence・極限値limit

 





ビギナーのための極限定義
厳密な極限定義 − 考え方
厳密な極限定義 − ε-δ法による表現 論理にこだわって / 論理記号読下しサンプル
厳密な極限定義 − 近傍概念を用いた表現

【関連】
・1変数関数の極限概念:右極限/左極限/片側極限/包括的な極限/x→+/−∞での極限/発散
・関数一般に拡張された極限概念:
 →2変数関数の極限/n変数関数の極限/実数値関数一般の極限/n変数ベクトル値関数の極限/写像の極限   
 →数列の極限       









1変数関数の極限定義 
トピック一覧:1変数関数の極限 



ε−δ論法による厳密な「極限」定義

・《実数の集合Dを定義域とする1変数関数f 
 《実数の集合D》の集積点x0  
  実数α  
 に対して、

 「xx0に近づくとき、f(x)αに収束する」    f(x)α (xx0) 

 「xx0に近づくときのf(x)の極限値はα」 
  "f has limit a as x approaches x0"[Fischer212]   

lim

 f(x)α

xx0

 とは、

 どんな《正の実数》 を選んで、εに代入しても、
 εに代入した《正の実数に好都合な《正の実数》が少なくとも一個は存在するので、

 そのεに代入した《正の実数に好都合な《正の実数》を探し出してδに代入することによって、

   「どの《 f定義域に属す実数》をxに代入しても、
     fx0 は、     『 0<|xx0|δならば| f(x)α |ε  』
          すなわち『 x0δxx0または x0xx0δならばαεf (x)α+ε 』
          すなわち『 x( x0δ, x0 )( x0 , x0+δ) ならば、 f(x) (αε, αε) 』
          すなわち『 x( x0δ, x0+δ){x0} ならば、 f(x) (αε, αε) 』 
    を満たす 」

   を成り立たせることができる

  論理記号で表すと、
   ε>0  δ>0  xf定義域》 ( 0<|xx0|<δ | f (x)α|<ε)
   ε>0  δ>0  xf定義域》  ( ( x0−δ<xx0 またはx0xx0+δ α−ε< f (x)α+ε)  
   ε>0  δ>0  xf定義域》   (   x ( x0−δ, x0 )( x0 , x0)  f (x)  (αε, αε)  )   
   ε>0  δ>0  xf定義域》   (   x ( x0δ, x0+δ){x0}  f (x)  ( αε, αε) )

 ということ。

 どう読むの?→ 読み下しサンプル 
 どういうこと?→ 考え方 / 論理にこだわって  
 別の表現は?→ 近傍概念を用いた簡潔な表現 
 
「関数fx0において連続」の定義では、
  「0<|xx0|<δ」ではなく、「|xx0| < δ」─つまり、x0を含めて考えた。
*この定義の導入者は、ワイエルシュトラスであるという[岩波文庫『ゲーデル不完全性定理』解説(p.89)]。



・《実数の集合Dを定義域とする1変数関数f 
 《実数の集合D》の集積点x0  
 に対して、

 「xx0に近づくとき、f(x)が収束する
 「xx0に近づくときのf(x)の極限値が存在する」"the limit of f(x) as x approaches a exists"[Lang39]

   

lim

 f(x)   が存在する 

xx0

  
 とは、

 「 f(x)α (xx0 )」 を満たす実数αが存在する

   論理記号で表すと、
    αR  ε>0  δ>0  xf定義域》 ( 0<|xx0|<δ | f (x)α|<ε)
    αR  ε>0  δ>0  xf定義域》  ( ( x0−δ<xx0 またはx0xx0+δ α−ε< f (x)α+ε)  
    αR  ε>0  δ>0  xf定義域》   (   x ( x0−δ, x0 )( x0 , x0)  f (x)  (αε, αε)  )   
    αR  ε>0  δ>0  xf定義域》   (   x ( x0δ, x0+δ){x0}  f (x)  ( αε, αε) )

 ということ。

 





下記文献のうち、
 


 笠原『微分積分学p.25は、開区間を定義域とする1変数関数 に限定して、
 小平『解析入門Ip.76;79は、区間もしくは「区間から有限個の点を除いた《実数の集合》」「区間からx0を除いた《実数の集合》」を定義域とする1変数関数 に限定して、左記「xx0に近づくとき、f(x)αに収束する」「xx0に近づくときのf(x)の極限値はα」を定義しているが、 
 それ以外 は、《実数の集合》を定義域とする1変数関数 全般について、左記「収束」「極限値」を定義。










[文献]
 ・杉浦ほか『解析演習』2.16(p.11)Rnのケース。『解析入門I』の定義とちがって、x0を除外している点に注意。
 ・小平『解析入門I』§2.1 定義2.1(p.76)
 ・松坂『解析入門1』3.1-E(p.100)
 ・松坂『解析入門3』12.1-J(p.64):x0は定義域の集積点とする
 ・笠原『微分積分学』1.4[1](p.25)
 ・黒田『微分積分』定義3.1 (p.93)
 ・和達『微分積分pp.32-34
 ・吹田・新保『理工系の微分積分学』1章§3U関数の極限(pp.18-9);
 ・Fischer,Intermediate Real Analysis, V.4.Def 4.2(a)(pp.213)
 ・加藤十吉『微分積分学原論』5.1(p.43)
 ・和達『微分積分』2-4(2.28) (p.32)
 ・吹田・新保『理工系の微分積分学』§3(U) (p.18)
 ・永倉・宮岡『解析演習ハンドブック[1変数関数編]』4.1.1(p.134)
 ・de la Fuente, Mathematical Methods and Models for Economists,2.5Def5.1(p.64)(p.64)
 ・ルディン『現代解析学』4.1(p.81):距離空間から距離空間への写像の極限一般について。

 ・細井『はじめて学ぶイプシロン・デルタ』4章(pp.28-29)
 ・中谷『論理』6.4C極限(p.157-8)
 ・新井紀子『数学は言葉』例題4.3.1.2関数の極限の定義:6項述語の三重量化(pp.136-137)



 [類概念] 右連続/左連続/区間での連続性/一様連続性



 





【注意】 
 


・様々な教科書を手に取って、「x→x0のときf(x)αに収束する/f(x)極限値はα」をどのように定義しているか、チェックしていくと、
  下記2タイプの教科書が存在することに気づく。
   【教科書タイプ1】 「x→x0のときf(x)αに収束する/f(x)極限値はα」 を、 「ε>0  δ>0  xf定義域》 (0< |xx0|<δ | f (x)α |<ε)」 (→左欄)で定義する教科書。
   【教科書タイプ2】 「x→x0のときf(x)αに収束する/f(x)極限値はα」 を、 「ε>0  δ>0  xf定義域》 (   |xx0|<δ | f (x)α |<ε)」 (→詳細)で定義する教科書。
・【教科書タイプ1】が多数派。しかし、【教科書タイプ2】には、杉浦『解析入門I』[定義2(p.51)定義3(p.52)命題6.4(p.55)]、Lang, Undergraduate Analysis[Chapter2§2(p.39)、赤『実数論講義』[定義6.1.3(p.163);定義6.1.4(pp.166-7)]等の有力タイトルも含まれるので、無視できない。
・両者は、同一の言葉・記号を、別の事態で定義しているので、混乱のもと。

・このノートでは、 

  【教科書タイプ1】の極限定義「ε>0  δ>0  xf定義域》 (0< |xx0|<δ | f (x)α |<ε)」を、  f(x)α (xx0)  または  

lim
  f(x)  α  で、
xx0

  【教科書タイプ2】の極限定義ε>0  δ>0  xf定義域》 (  |xx0|<δ | f (x)α |<ε)」を、  f(x)α (xx0, xD) または  

lim
 f(x) =α  で、
xx0
xD
 表すことによって、両者を区別する。

・この記法は、Lang,ラング現代微積分学』2章§2(p.47)や、杉浦『解析入門I』【命題6.4】(p.55)に沿ったつもり。

※なお、f定義域Dとしたとき、 
   【教科書タイプ1】が採用する極限定義の意味での「x→x0のときf(x)αに収束する/f(x)の極限値はα」 f(x)α (xx0) は、
   【教科書タイプ2】が採用する極限定義の意味での 「 『関数fの D{x0} への制限f * (x)はx→x0のときαに収束する/極限値αを持つ」  f *(x)α ( xx0 , xD{x0} ) [赤『実数論講義』定義6.1.3(p.163);定義6.1.4(pp.166-7)] 
                                 「 D{x0}のなかでxx0に 近づくときf(x)αに収束する/極限値αを持つ」   f (x)α  ( xx0 , xD{x0} ) [杉浦『解析入門』定義3・注意1(pp.52-54)]
  にあたる。








 






【極限値を定義可能な範囲】

・右上の【文献】欄にリストアップした教科書を見比べると、
    

  

lim

 f(x)  が定義される「関数f  , 実数x0 の範囲」 (いかなる関数f実数x0 に対して、定義されるか) が 教科書によって《まちまち》だと気づく。

xx0

・ 

lim

 f(x)   が定義される 「 関数f実数x0 の範囲」 の違いで、これら教科書を分類したのが、下記4タイプ。

xx0

lim

 f(x)  が定義される 関数f実数x0  の範囲

xx0

関数f の範囲

実数x0 の範囲

各タイプに分類されたタイトル





【教科書タイプ1】

開区間定義域とする関数に限定

f定義域》(開区間に属す実数に限定

笠原

【教科書タイプ2】

区間もしくは「区間から有限個の実数をハジキ出してつくった《実数の集合》」を定義域とする関数に限定

f定義域に属す実数であるか、《f定義域》からハジキ出された有限個の点のいずれか。 

小平

【教科書タイプ3】

実数の集合》を定義域とする関数全般

「 ∃δ>0  《f定義域 ( x0−δ, x0){x0} 」 を満たす実数

松坂『解析入門1』;永倉・宮岡;黒田;細井

【教科書タイプ4】

実数の集合》を定義域とする関数全般 

f定義域》の集積点

ルディン;Fischer,de La Fuente;加藤; 松坂『解析入門3


・ 

lim

 f(x)  が定義される「 実数x0の範囲」 の違いが、少し分かりづらいので、

xx0
 

 f定義域》に対する位置関係について、実数x0の具体的なケースをあげ、その点で各タイプの教科書が

lim

 f(x)を定義しているかどうかを整理したのが下表。

xx0
  

f定義域》に対する位置関係について、
 実数x0の具体的なケース

 状況説明

このx0で 【教科書タイプ1】は

lim

 f(x) を定義してる? 


xx0

このx0で 【教科書タイプ2】は

lim

 f(x) を定義してる? 


xx0

このx0で 【教科書タイプ3】は

lim

 f(x) を定義してる? 


xx0

このx0で 【教科書タイプ4】は

lim

 f(x) を定義してる? 


xx0

※参考:このx0で 

lim

 f(x)

 は定義される?

xx0
xD














x0が《f定義域の内点》であるケース

x0は《f定義域》に属し、

x0の両隣も《fの定義域


区間の中間

極限値定義される

x0
f定義域》に属す「《f定義域集積点》である《定義域の境界点》」

x0は《f定義域》に属し、
x0の一方の隣も《f定義域》だが、
他方の隣は、《f定義域》ではない

閉区間の端点

× × ×
x0が《f定義域の孤立点》であるケース

x0は定義域に属すが、
x0の両隣は定義域でない


× × × ×

x0
f定義域》に属さない
f定義域集積点である境界点」の特殊ケース(1)

x0は定義域に属さないが、
x0の両隣は定義域

×

定義域に属さない
「定義域の集集積点である境界点」の特殊ケース(2)

x0は定義域に属さないが、
x0の一方の隣は定義域

開区間の端点

× × ×
 x0が《f定義域の外典》 x0は定義域に属さず、x0の両隣も定義域に属さない:
 つまり、x0は定義域の外点

× × × × ×

・最も広範なのは設定4。上記のノートでは、これを採用した。








1変数関数の極限定義 
トピック一覧:1変数関数の極限 



ε−δ論法による厳密な「極限」定義 − 論理にこだわって

変項 D, f , x0 , α を組み込んだ4項述語・4変項命題関数 

 「Dを定義域とする1変数関数f(x)xx0に近づくとき、αに収束する」 

   f (x) α (xx0 , xD) 

    

lim

 f (x) = α   

xx0
xD


    * 変項 D議論領域 : あらゆる《実数の集合D》《R部分集合》をあつめた集合 。すなわち、Rベキ集合。[杉浦Lang]
                    ※ は、教育的配慮から、あらゆる《区間和集合》をあつめた集合に限定している。
    * 変項 f議論領域 : あらゆる《Dで定義された1変数実数値関数》をあつめた集合
    * 変項x0議論領域 : fの定義域D触点を集めた集合。すなわち、fの 定義域D閉包
    * 変項α議論領域 : あらゆる実数をあつめた集合 R 

 とは、

 変項 f , x0 , α,ε, δ, x  を組み込んだ6項述語・6変項命題関数
  「 0<| xx0| <δならば| f (x)α |<ε  」
  すなわち
  「 x  ( x0−δ, x0 )( x0 , x0) ならば、 f (x) ( α−ε, α+ε)   」

    * 変項 f議論領域 : あらゆる《Dで定義された1変数実数値関数》をあつめた集合
    * 変項 x0議論領域 : fの 定義域D触点を集 めた集合。すなわち、fの 定義域D閉包
    * 変項εの議論領域 : あらゆる実数をあつめた集合 R   
    * 変項δの議論領域 : あらゆる実数をあつめた集合 R    
    * 変項 x議論領域 : f の定義域D  
    * 変項α議論領域 : あらゆる実数をあつめた集合 R 


 について、

 その3変項ε,δ, x を、 ∀ε>0  ∃δ>0 ∀xD で束縛し、
   f , x0 , D ,αを変項として残した4項述語・4変項命題関数  

  「 ∀ε>0  ∃δ>0  ∀xD  ( 0<| xx0|<δ | f (x)α |<ε)
  すなわち
  「 ∀ε>0  ∃δ>0  ∀xD  ( x  ( x0−δ, x0 )( x0 , x0) f (x) ( α −ε, α +ε)

 のこと。

・「 ∀ε>0  ∃δ>0  ∀xD  ( 0<| xx0|<δ | f (x)α |<ε) 」  は、下記の略記。
   「 ∀ε∈ { xR | x> 0 } ∃δ∈ { xR | x> 0 } xD  ( 0<| xx0|<δ | f (x)α |<ε )  」
      つまり、「 ∀ε∈ (0,∞)   ∃δ∈ (0,∞) xD  ( 0< | xx0|<δ | f (x)α |<ε )  」  
 ないし、
   「 ε ( ε>0 δ ( δ>0 かつ xD 0< | xx0|<δ | f (x)α |<ε  ) )   」

・上記定義が意味しているのは、

   { xR | x> 0 } つまり (0,∞) から、どの実数を 選んで変項εに代入しても、(←意味:「∀ε>0」 「∀ε∈ { xR | x> 0}∀ε∈ (0,∞)」 の部分)

  εに代入した実数に好都合な実数が、 { xR | x> 0 } つまり (0,∞) のなかに、少なくとも一個は存在するので、
  その《εに代入した実数に好都合な実数を、 { xR | x> 0 } つまり (0,∞)か ら探し出してδに代入することによって、(←意味 「∃δ>0」 の部分)
   「どの《Dに属す実数》をxに 代入しても、fx0 は、
       『 0<| xx0|δならば| f(x)α |ε  』を満たす」 (←意味:0< | xx0|<δ | f (x)α |<ε)  )   
  を成り立たせることができる

 ということ。 






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ε−δ論法による厳密な「極限」定義 ― 論理記号読み下しサンプル

【邦文読み下しtype1】  

∀ε>0 ∃δ>0 ∀x∈《 fの定義域》( 0<|xx0|<δ⇒|f(x)−A|<ε)」を、
 修飾関係にしたがわず、
 記号の順序に読み下して行く作法。

(1)任意の〜に対し、−が存在して、

 「任意のε>0に対し、あるδ>0が存在して、
   0<|xx0|<δを満たす全てのxに対して、
  | f (x)A |<ε が成り立つ」[松坂100]

(2)任意の〜に対し、−を選んで/とって/定めると、

 「任意のε>0に対し、適当にδ>0を(εに応じて)小さくとりさえすれば、
   0<|xx0|<δを満たす全てのxにつき| f (x)A |<ε
  が成立する」[笠原25]

 「どんなε>0に対しても、δ>0をうまく定めると、δ>|xx0|>0であるどんなxに対しても、| f (x)A |<εとなっている」[細井29]

 「任意の正数εにたいして、ある正数δをとると、 | f (x)A |<ε(0<|xx0|<δ) が成り立つ」[吹田・新保p.18]

 「任意の正の実数εに対応して正の実数δ(ε)が定まって、0<|xx0|<δなるとき、| f (x)A |<ε」[小平76]

【邦文読み下しtype2】  

∀ε>0 ∃δ>0 ∀x∈《 fの定義域》( 0<|xx0|<δ⇒|f(x)−A|<ε)」を、
 記号の順序にしたがわず、修飾関係にしたがおうとする読み下し。
 文才がない限り、誤読のもとになるので、推奨されない[→黒田『微分積分学』§2.5.2補足説明2(p.44)]。

 「任意の正数εに対して、x∈《fの定義域》,0<|xx0|<δならば、| f (x)A |<εとなる正数δ>0が存在する」[永倉・宮岡134]
 「∀ε>0に対して、|xx0|<δなら| f (x)A |<ε となるδ>0が存在する」
    [瀬山91]
 「任意の正の数εに対して、0<|xx0|<δならば、
    | f (x)A |<εとなるようなδが存在する」[和達32]


【英文読み下し】
  "for each ε>0, there exists a δ>0 such that xD and 0<|xx0|<δ imply | f (x)A |<ε " [Fischer p.213 ]
  "given ε, there exists a number δ>0 such that for all x∈S(domain) satisfying |xx0|<δ we have  | f (x)A|<ε " [Lang p.39 ]  



1変数関数の極限定義 
トピック一覧:1変数関数の極限 


【メモ】

・設定の違い 
  ・定義1の設定の違い(関数fの議論領域、x0の議論領域の設定の違い)
    初学者向けに限定された設定
     ↑
     設定1-1:fは、開区間Iで定義された関数。x0は、Iの一点。[笠原p.25]
     設定1-2:fは、区間もしくは「区間から有限個の点を除いた《実数の集合》」で定義された関数。x0は、Iの一点。[小平p.76;79]
     設定1-3:fは、《実数の集合》で定義された関数。  ∃δ>0 《fの定義域》⊃ ( x0−δ, x0){x0}
     設定1-4:集積点

     ↓
    一般的な設定  

 ・表記・表現の揺れ

     ε>0  δ>0  x ( 0<|xx0|<δ | f (x)A|<ε) {省略形→小平}
    ε>0  δ>0  x ( xI かつ 0<|xx0|<δ | f (x)A|<ε)  
    ε>0  δ>0  xI ( 0<|xx0|<δ | f (x)A|<ε)」

文献間の記述の揺れ

 ポイント1:設定の違い(関数fの定義域―x0 の議論領域)
 ポイント2:「 ε>0  δ>0  x ( 0<|xx0|<δ | f (x)A|<ε)」か、
       「 ε>0  δ>0  x ( x∈「fの定義域」 かつ 0<|xx0|<δ | f (x)A|<ε)」
       すなわち、 「 ε>0  δ>0  x∈定義域 (0<|xx0|<δ | f (x)A|<ε)」か、
      という事情。
       
おおまかな比較表 (だいたいのイメージなので、あてにしてはいけない)



極限
設定1
笠原
極限
設定2
小平
極限
設定3
松坂
黒田
ほか
極限
設定4

もう一つの
極限概念

x0は定義域に属し、x0の両隣も定義域:
 x0が《定義域の内点》(たとえば、区間の中間)

x0は定義域に属し、x0の一方の隣も定義域だが、他方の隣は、定義域ではない:
 たとえば、閉区間の端点(定義域に属す「《定義域の集積点》である《定義域の境界点》」)
× × ×

x0は定義域に属すが、x0の両隣は定義域でない:
 x0が孤立点(定義域に属す「定義域の集積点でない境界点」
× × × ×

x0は定義域に属さないが、x0の両隣は定義域:
つまり、(定義域に属さない「定義域の集積点である境界点」の特殊ケース)
×

x0は定義域に属さないが、x0の一方の隣は定義域:
 たとえば、開区間の端点(定義域に属さない「定義域の集積点である境界点」の特殊ケース)
× × ×

x0は定義域に属さず、x0の両隣も定義域に属さない:
 つまり、x0は定義域の外点
× × × × ×


I.関数の定義域を、区間ないし区間和に限定しているテキスト
 関数fの議論領域を、「区間ないし区間和を定義域とする関数」に限定しているテキスト
 (1)点
 [混乱回避のため、f,x0の議論領域を狭い範囲に設定。]

 笠原p.25:
  ・関数f, x0の議論領域について。
     fは、開区間Iで定義された関数。x0は、Iの一点。もっとも狭く定義。
    「開区間Iの上で定義された実数値関数 y=f(x):I→R を考える。xがIの一点x0に近づくとき、f(x)が一定値aに限りなく近づく、とうことを正確に表現しよう。」
  ・定義  :   ε>0  δ>0  x ( 0<|xx0|<δ | f (x)A|<ε)

 そこでの定義の有無
  ↓
  ○ x0は定義域に属し、x0の両隣も定義域: x0が《定義域の内点》(たとえば、区間の中間)
  × x0は定義域に属し、x0の一方の隣も定義域だが、他方の隣は、定義域ではない: たとえば、閉区間の端点(定義域に属す「《定義域の集積点》である《定義域の境界点》」)
  × x0は定義域に属すが、x0の両隣は定義域でない: x0が孤立点(定義域に属す「定義域の集積点でない境界点」)

  × x0は定義域に属さないが、x0の両隣は定義域:つまり、(定義域に属さない「定義域の集積点である境界点」の特殊ケース)
  × x0は定義域に属さないが、x0の一方の隣は定義域: たとえば、開区間の端点(定義域に属さない「定義域の集積点である境界点」の特殊ケース)
  × x0は定義域に属さず、x0の両隣も定義域に属さない: つまり、x0は定義域の外点


 小平:
   ・関数f, x0の議論領域について。(p.76;79)
     区間Iで、x0を除いて定義された関数f
     「本章では、主として、区間または区間から有限個の点を除いて得られる集合で定義された関数を考察する。関数fが、例えば、区間Iから1点aを除いた集合I-{a}で定義されているとき、fをIでaを除いて定義された関数という。さらに、fがIまたはI-{a}で定義されているとき、fをIで高々aを除いて定義された関数と いうことにする。(p.76)」「定義2.1 区間Iで高々点a∈Iを除いて定義された関数f(x)が与えられたとし、αを実数とする。・・・ならば、 x→aのときf(x)はαに収束する。αはx→aのときのf(x)の極限値であるといい、・・・あるいはx→aのときf(x)→αとかく。(p.76)」
     aは、閉区間の端点でもよいの?→(p.79)
       「上の定義2.1において、たとえば、I=[a,b)なるときには、x∈Iと考えているから、(2.1)は、『0<x-a<δ(ε)のと き|f(x)-α|<ε』と同値であって、したがってα=lim x→a f(x)は、xが右からaに近づくときのf(x)の極限値である。」
       「aがIの内点であるときにも、xが右から、あるいは左からaに近づくときの極限値を考察することがある。すなわち…となるならば、αはxが右からaに近 づくときのf(x)の極限値であるといい、…と書く。xが左からaに近づくときのf(x)の極限値も同様に定義する。」(p.79)
 
   ・定義:「(2.1) ε>0  δ>0  x ( 0<|xx0|<δ | f (x)A|<ε) 」   「 ε>0  δ>0  x ( xI かつ 0<|xx0|<δ | f (x)A|<ε)」
     p.77「厳密にいえば(2.1)は、0<|xx0|<δ, xIなるとき | f (x)A|<ε)」と書くべきであるが、xの元ではないIのときにはf(x)が定義されていないため、(2.1)は無意味である。(2.1)が意味をもつためにはxIでなければならないから、'xI'を省略したのである。以下、同様に、xの元ではないIのとき無意味な場合には条件xIを省略することにする。

 そこでの定義の有無
  ↓
  ○ x0は定義域に属し、x0の両隣も定義域: x0が《定義域の内点》(たとえば、区間の中間)
  × x0は定義域に属し、x0の一方の隣も定義域だが、他方の隣は、定義域ではない: たとえば、閉区間の端点(定義域に属す「《定義域の集積点》である《定義域の境界点》」)
  × x0は定義域に属すが、x0の両隣は定義域でない: x0が孤立点(定義域に属す「定義域の集積点でない境界点」)

  ○ x0は定義域に属さないが、x0の両隣は定義域:つまり、(定義域に属さない「定義域の集積点である境界点」の特殊ケース)
  × x0は定義域に属さないが、x0の一方の隣は定義域: たとえば、開区間の端点(定義域に属さない「定義域の集積点である境界点」の特殊ケース)
  × x0は定義域に属さず、x0の両隣も定義域に属さない: つまり、x0は定義域の外点

U.関数の定義域を、区間ないし区間和に限定せず、《実数の集合》一般でよいとしているテキスト
 関数fの議論領域を、「《実数の集合》《Rの部分集合》一般を定義域とする関数」に限定しているテキスト
      

 (1)点x0を「∃δ 《fの定義域》⊃ ( x0−δ, x0){x0} 」を満たすものに限定
 [定義域が除外近傍を含む]  「x0が定義域の内点⇒条件」だが、「条件⇒x0が定義域の内点」ではない。
              「x0が定義域の集積点⇒条件」だが、「条件⇒x0が定義域の集積点」ではない。   
             いや、∀ではなく、∃δ>0 《fの定義域》⊃ ( x0−δ, x0){x0}
           定義域に属す点については、孤立点はもちろん、、閉区間の端点を除外?
           定義域に属さない点については、外点はもちろん、開区間の端点も除外?
 松坂1:3.1-E(p.100)
       fは点x0のある近傍で、x0自身を除き、定義されているものとする。(x0においては、fは定義されていても定義されていなくても、どちらでもよい。)
   「いま、fを一つの関数とし、fはaのある近傍で、a自身を除き、定義されているものとする。(aにおいてはfは定義されていても、定義されていな くても、どちらでもよい。)」「"任意のε>0に対し、あるδ>0が存在して、0<|x-a|<δを満たすすべてのxに対して  |f(x)-α|<ε が成り立つ。"これが関数の極限のいわゆるε-δ式の定義である。」 lim x→a f(x)とf(a)は概念上別のものだという図解。  

 永倉・宮岡『解析演習ハンドブック[1変数関数編]』4.1.1(p.134):「関数fの定義域Iは点aの削除近傍{x∈R|0<|x-a|<h}(h>0)を含むものとする。すなわちfは点aのまわりで定義されていて、点aでは定義されていてもいなくてもよいとする。(4.1.1)次をみたすとき、xがaに近づくとき、f(x)の極限値はLであるという。
任意の正数ε>0に対して、x∈I, 、0<|x-a|<δならば、|f(x)-L|<εとなる正数δ>0が存在する。 」
      
        ということは、 ε>0  δ>0  x (x∈Iかつ 0<|xx0|<δ | f (x)L|<ε)」

 黒田:定義3.1 (p.93):
  「関数f(x)はx=aの近くで定義されているとする。ただし、x=aではfは定義されていても、いなくてもよいとする。言い換えれば、δ0をある正数として、D(f)《fの定義域》⊃ ( a−, a0 ){a} であるとする。このことを簡単に「fは0<|xa|<δ0で定義されている」という」
  「【定義3.1】(関数の極限)0<|xa|<δ0で定義されている関数f(x)がx→aのときある数αに収束convergeするとは、任意のε>0に対して、正数δ>0(δ<δ0)が存在して0<|xa|<δ ⇒| f (x)−α|<εが成り立つことをいう。αをx→aのときのf(x)の極限limitといい、極限αが存在するとき、f(x)はx→αのとき収束する、極限をもつなどという 」

 ・細井『はじめて学ぶイプシロン・デルタ』4章(極限値条件2pp.28-29;p.31)
        極限値条件2「 ε>0  δ>0  x ( 0<|xx0|<δ | f (x)A|<ε)」(p.28)
        「極限値条件2を考えるのにあたって、関数f(x)は点x=aの前後では定義されているのだとしていました。つまり、あるα,α'& gt;0があって、少なくともx∈(a-α,a)∪(a,a+α')であるようなxに対してはf(x)は値が定まっているのだとしていました。場合によっ ては、f(x)はaの右側のある区間(a,a+α')あるいは(a,a+α']でしか定義されていないということもあります。…こういうときには、 x∈(a,a+α)であるようなxにたいしてだけ極限値条件2を考えることにします。そして、極限値が存在する場合には、必要なら、…と表し、x=aにお ける右極限と言います。f(x)がaの左側のある区間(a-α,a)あるいは[a-α,a)でしか定義されていないときにも、同様に極限を考えて、…と表 し、左極限と言ったりします。x=aの両側で定義されている場合でも、必要なら、右極限や左極限を計算します。極限があるのは、右極限と左極限の両方が あって、それらが一致している場合です」(pp.31-32)  

 そこでの定義の有無
  ↓
  ○ x0は定義域に属し、x0の両隣も定義域: x0が《定義域の内点》(たとえば、区間の中間)
  × x0は定義域に属し、x0の一方の隣も定義域だが、他方の隣は、定義域ではない: たとえば、閉区間の端点(定義域に属す「《定義域の集積点》である《定義域の境界点》」)
  × x0は定義域に属すが、x0の両隣は定義域でない: x0が孤立点(定義域に属す「定義域の集積点でない境界点」)

  ○ x0は定義域に属さないが、x0の両隣は定義域:つまり、(定義域に属さない「定義域の集積点である境界点」の特殊ケース)
  × x0は定義域に属さないが、x0の一方の隣は定義域: たとえば、開区間の端点(定義域に属さない「定義域の集積点である境界点」の特殊ケース)
  × x0は定義域に属さず、x0の両隣も定義域に属さない: つまり、x0は定義域の外点


 (2)点x0を「関数の定義域の集積点」に限定

 (3)点x0を「関数の定義域の触点」に限定  
 [集積点] x0の対象領域は、定義域の導集合
 Rudin 4.1(邦訳pp.81-2) 距離空間から距離空間への写像の極限値。x0は、fの定義域のaccumulation point
   X,Yは距離空間で、E⊂Xとし、fはEからYへの写像とし、pをEの集積点とする。x→pのときf(x)→qとは、次の性質をもつ点q∈Yが存在することである。
          ε>0  δ>0  xE (  0<dX(x,q)<δ dY(f(x),q)<ε)
   上の定義で、p∈Xではあるが、pはEに嘱しなくともよい(すなわちfが点pで定義されていなくてもよい)。また、もし、もしp∈Eでも、f(p)≠lim x→p f(x)であってよい。
 Fischer:x0は、fの定義域のaccumulation point
        Def4.2a:  ε>0  δ>0  x ( xf定義域》 かつ 0<|xx0|<δ | f (x)A|<ε)
        つまり、    ε>0  δ>0  xf定義域》 ( 0<|xx0|<δ | f (x)A|<ε)
 deLaFuente 2.5Def5.1(p.64):x0は、fの定義域のlimit pointに限定。そうすれば、x0の近くに、定義域に属す点が必ず存在するから。
            Let (X,d) and (Y,ρ) be two metric spaces, with A a set in X, f a function A→Y, and x0 a (limit) point of A.
         We say that f has a limit y0 as x approaches x0 if
          ε>0  δε>0   s. th. (  0<d(x,x0)<δε ρ(f(x),y0)<ε)
         We then write f(x)→y0 as x→x0, or lim x→x0 f(x)=y0 .  

 加藤p.43:x0は、fの定義域の集積点であるときにかぎり、考えることにする。(そうでないと、極限値の一意性を保証できなくなる。)
       p.43「定義5.1 定義域X上の関数f(x)が、数aおよび数αについて、…。つまり、lim x→a (f)=α ⇔ ∀ε>0 ∃δ>0 (∀x∈X ;0<|x-a|<δ) |f(x)-α|<ε。 関数f(x)において、変数xは定義域X内の実数としたので、lim x→a (f)=α ⇔ ∀ε>0 ∃δ>0 0<|x-a|<δ⇒ |f(x)-α|<εと略記してもよい。  」
  松坂3(12.1-J(p.64):):  x0は定義域の集積点
             X,Yを二つの距離空間、AをXの部分集合、fをAからYへの写像とする。
             また、a∈XをAの1つの集積点とする(aはAに属していてもいなくてもどちらでもよい)
             そのとき、Yの点bが存在して、
              任意のε>0にたいし、適当にδ>0をとれば、
                d(x,a)<δを満たすa以外のすべてのAの点xにたいして、d(f(x),b)<εが成り立つならば、 
              bをx∈Aがaに近づくときのf(x)の極限という。      

     ということは、∀ε>0 ∃δ>0 ∀x∈A ( x≠a かつ d(x,a)<δ ⇒ d(f(x),b)<ε)


 そこでの定義の有無
  ↓
  ○ x0は定義域に属し、x0の両隣も定義域: x0が《定義域の内点》(たとえば、区間の中間)
  ○ x0は定義域に属し、x0の一方の隣も定義域だが、他方の隣は、定義域ではない: たとえば、閉区間の端点(定義域に属す「《定義域の集積点》である《定義域の境界点》」)
  × x0は定義域に属すが、x0の両隣は定義域でない: x0が孤立点(定義域に属す「定義域の集積点でない境界点」)

  ○ x0は定義域に属さないが、x0の両隣は定義域:つまり、(定義域に属さない「定義域の集積点である境界点」の特殊ケース)
  ○ x0は定義域に属さないが、x0の一方の隣は定義域: たとえば、開区間の端点(定義域に属さない「定義域の集積点である境界点」の特殊ケース)
  × x0は定義域に属さず、x0の両隣も定義域に属さない: つまり、x0は定義域の外点

 [あいまい]
 ×瀬山:f:R→R。だから、関数の定義域R。なのに、「この定義では、x=aでは関数が定義されていなくてもよいことに十分注意を払ってください。」→
  吹田・新保:x0の近くで定義された関数f