n変数関数の極限の定義:トピック一覧  

  ・定義: n変数関数 n変数関数の収束・極限値/∞への発散/−∞への発散 
  
・定義: n変数関数の収束と点列数列の収束の関連 

n変数関数の諸概念関連ページ n変数関数の諸属性/ n変数関数の極限の性質/ n変数関数の連続性/偏微分/全微分/ 
n変数関数の極限の具体例1変数関数の収束・極限値/2変数関数の収束・極限値/ 
n変数関数の極限の一般化実数値関数の極限/ベクトル値関数の極限/距離空間のあいだの写像の極限  
 
総目次

定義:n変数関数 

定義

n変数関数ないし多変数関数とは、
n個の実数(x1,x2,,xn)に対して、実数yを対応づける規則」
n次元空間Rn点集合(定義域)に属すにたいして、実数yを対応づける規則」
n次元空間Rn部分集合から、実数体Rへの、写像
のこと。

[文献]
西村『経済数学早分かり3章§1.1関数とは(p.104)
小平
解析入門U』§6.4(p309);
笠原『微分積分学1.4(pp.22-3)
杉浦『
解析入門II§6(p.50);
黒田『微分積分学8.2.1(p.276);
木『解析概論8.函数(p.19)

ベクトル
表現

n個の実数(x1,x2,,xn)とは、n次元数ベクトルのことにほかならないから、
n変数関数多変数関数とは、
n次元数ベクトルx=(x1,x2,,xn)にたいして、実数yを対応づける規則」。
n次元数ベクトル空間Rn部分集合(「定義域」)の各に対して、実数体Rを対応づける規則」
n次元数ベクトル空間Rn部分集合から、実数体Rへの、写像
などといっても同じ。

記号

y=f (x1,x2,,xn) 
y=f (x)  [ただし、xは、n次元数ベクトルx=(x1,x2,,xn)を表すとする]
・定義域ARnとして、  
   
f : AR  

関連

n変数関数の諸属性/極限/連続性/偏微分/全微分/矩形上の積分/点集合上の積分 

定義:n変数関数の収束convergence・極限値limit 

はじめに読むべき定義/ε-δ論法による定義/近傍概念による定義 

はじめに
読むべき
定義

n次元空間Rn上のP(x1,x2,,xn)A(a1,a2,,an)に近づけたとき、
 
関数f (P) = f (x1,x2,,xn)実数c収束する
n次元空間Rn上のP(x1,x2,,xn)A(a1,a2,,an)に近づけたときの、
 
関数f (P) = f (x1,x2,,xn)極限値実数cである」
    f ( P )c ( P A ) 
    
f ( x1 , x2 ,, xn )c ( x1a1 , x2a2 , ,xnan ) 
             
      
     
     
とは、
P(x1,x2,,xn)を、A(a1,a2,,an)一致させることなくA(a1,a2,,an)に近づけたとき、
P(x1,x2,,xn)A(a1,a2,,an)への接近経路にかかわらず、
関数f (P) = f (x1,x2,,xn)の値が同じ1つの実数cに近づくことをいう。
留意点  
   
(1)極限の定義において、PAが一致することは除外している。  
     
A関数f (P) = f (x1,x2,,xn)の定義域に含まれているとは限らない。 
   
(2) PAへの接近経路によって、
     
関数f (P) = f (x1,x2,,xn)が近づく値が異なるときには、
     「
P(x1,x2,,xn)A(a1,a2,,an)に近づけたとき、
        
関数f (P) = f (x1,x2,,xn)c収束しない
    
 「P(x1,x2,,xn)A(a1,a2,,an)に近づけたとき、
        
関数f (P) = f (x1,x2,,xn)極限値は存在しない」という。 
この定義は一見わかりやすい。
 ところが、「近づく」とはいかなる事態を指すのか、という点が、
 明らかにされておらず、
 この「収束」「極限」定義は、実のところは不正確で、
 証明での使用に耐えられない。
 そこで、
 「近づく」の意味を明確化するために、
 「収束」「極限」概念は、次のように厳密に定義される。 

[具体例]
1変数関数の収束・極限値
2変数関数の収束・極限値

[一般化]
実数値関数の極限
ベクトル値関数の極限
距離空間のあいだの写像の極限

[活用例]
n変数関数の連続性/偏微分 

[文献]
杉浦
解析入門II§6定義2-3(pp.51-2);
笠原『微分積分学1.4[2](p.28);
黒田『微分積分学』定義8.6(p.277);
木『解析概論9極限(p.20)

n変数関数の収束・極限の定義」先頭

厳密な
定義:
ε
-δ
 論法

n次元空間Rn上のP(x1,x2,,xn)A(a1,a2,,an)に近づけたとき、
 
関数f (P) = f (x1,x2,,xn)実数c収束する
n次元空間Rn上のP(x1,x2,,xn)A(a1,a2,,an)に近づけたときの、
 
関数f (P) = f (x1,x2,,xn)極限値実数cである」
    f ( P )c ( P A )  f ( x1 , x2 ,, xn )c ( x1a1 , x2a2 , xnan ) 
             
       
     
     
とは、
任意の(どんな)実数εに対して(でも)、ある実数δをとると、
  0<
d( P, A )<δ d ( f (P), c )<ε   
が成り立つ
ということ。
この定義を、
論理記号で表せば、
ε>0)(δ>0)(PRn )(0< d ( P, A )<δ d ( f (P), c )<ε ) 
となる。
d ( P, A )は、 n次元空間Rn上でのP(x1,x2,,xn)A(a1,a2,,an)との距離を、
 
d ( f (P), c )は、R上のf (P)cとの距離| f (P)c|を表す。 

[文献]
小平『
解析入門Up.259;
笠原『微分積分学1.4[2](p.28);
吹田新保『理工系の微分積分学pp.158-159.
高橋『経済学とファイナンスのための数学p. 143;
木『解析概論9極限(p.20)

※ユークリッド距離が定められたユークリッド空間Rnにおける極限概念     
 
関数f (P) = f (x1,x2,,xn)、すなわち、「 n次元空間Rn部分集合から、実数体Rへの、写像」について、
 収束・極限を扱う際には、
 特別な目的がない限り、
 
n次元空間Rn上の距離ユークリッド距離で定めて、 n次元空間Rnユークリッド空間Rnとし、 
 
実数体R距離ユークリッド距離で定めて、R1次元ユークリッド空間Rとする、
 設定のもとで考えるのが普通。 
 この設定下では、
    
 
    
d ( f (P), c )=| f (P)c|=| f (x1,x2,,xn)c|  
 だから、
 「
P(x1,x2,,xn)A(a1,a2,,an)に近づけたとき、関数f (P) = f (x1,x2,,xn)実数c収束する
 
P(x1,x2,,xn)A(a1,a2,,an)に近づけたときの、関数f (P) = f (x1,x2,,xn)極限値実数cである」
 の定義は、具体的には
  ┌
任意の(どんな)実数εに対して(でも)、
  |ある
実数δが存在して、
  |   「 

  |          
ならば  | f (x1,x2,,xn)c|<ε 」  
  └を成り立たせる
 
(ε>)(δ>)(x1,x2,,xnR)(| f (x1,x2,,xn)c|<ε)
 となる。

n次元数ベクトル空間の上に定義されたユークリッド空間R2における極限概念     
 
n次元空間Rnベクトルの加法スカラー乗法自然な内積(標準内積)ユークリッドノルム‖‖が定義されており、
 
n次元空間Rnn次元数ベクトル空間計量実ベクトル空間ノルム空間として扱える場合、
 
任意のn次元数ベクトルx, yRnのユークリッド距離はxy と表せる。
 このユークリッド距離を定義した
ユークリッド空間Rnのもとでは、 
 
d( P, A )PA   
 だから、
 「
P(x1,x2,,xn)A(a1,a2,,an)に近づけたとき、関数f (P) = f (x1,x2,,xn)実数c収束する
 
P(x1,x2,,xn)A(a1,a2,,an)に近づけたときの、関数f (P) = f (x1,x2,,xn)極限値実数cである」
 の定義は、具体的には
  ┌
任意の(どんな)実数εに対して(でも)、
  |ある
実数δが存在して、
  |   「 0<
PA<δ ならば  | f (P)c|<ε 」 
  |          
  └を成り立たせる
  (
ε>0)(δ>0)(PRn )(0<PA<δ| f (P)c|<ε ) 
 と表せる。   
 ただし、上記の
Pは、「P(x1,x2,,xn)」を表すn次元数ベクトル(x1,x2,,xn)
     上記のAは、「A(a1,a2,,an)」を表すn次元数ベクトル(a1,a2,,an)
 である。   

n変数関数の収束・極限の定義」先頭

近傍を
用いた
定義

n次元空間Rn上のP(x1,x2,,xn)A(a1,a2,,an)に近づけたとき、
 
関数f (P) = f (x1,x2,,xn)実数c収束する
n次元空間Rn上のP(x1,x2,,xn)A(a1,a2,,an)に近づけたときの、
 
関数f (P) = f (x1,x2,,xn)極限値実数cである」
    f ( P )c ( P A )  f ( x1 , x2 ,, xn )c ( x1a1 , x2a2 , xnan ) 
             
       
     
     
とは、
 
実数c任意の(どんな)「R上のε近傍Uε(c)」に対して(でも)、
 ある「
Rn上の点Aの除外δ近傍U*δ(A)」が存在して、
     
f ( U*δ(A) ) Uε(c) 
 を満たす
ということ。
この定義を別の表現でいうと、
 
任意の(どんな)実数εに対して(でも)、ある実数δが存在して、
        「 
f ( U*δ(A) ) Uε(c)  」
    すなわち「 
(x,y) U*δ(A) ならば、 f(x,y) Uε(c)
 を成り立たせる、
ということ。
この定義を、
論理記号で表せば、
Uε(c))( U*δ(A) )( f ( U*δ(A) ) Uε(c) ) 
ε>0)(δ>0)( f ( U*δ(A) ) Uε(c) ) 
ε>0)(δ>0)(PRn )( P U*δ(A) f (P) Uε(c)) 
となる。

[文献]
笠原『
微分積分学1.4[2](p.28);

※ユークリッド距離が定められたユークリッド空間Rnにおける極限概念     
 
関数f (P) = f (x1,x2,,xn)、すなわち、「 n次元空間Rn部分集合から、実数体Rへの、写像」について、
 収束・極限を扱う際には、
 特別な目的がない限り、
 
n次元空間Rn上の距離ユークリッド距離で定めて、 n次元空間Rnユークリッド空間Rnとし、 
 
実数体R距離ユークリッド距離で定めて、R1次元ユークリッド空間Rとする、
 設定のもとで考えるのが普通。 
 この設定のもとでは、
 
A(a1,a2,,an)の「Rn上の点Aの除外δ近傍U*δ(A)」は、
      
 
実数cの「R上のε近傍Uε(c)」は、(c−ε,c+ε) 
 だから、
 「
P(x1,x2,,xn)A(a1,a2,,an)に近づけたとき、関数f (P) = f (x1,x2,,xn)実数c収束する
 
P(x1,x2,,xn)A(a1,a2,,an)に近づけたときの、関数f (P) = f (x1,x2,,xn)極限値実数cである」
 の定義は、具体的には
  ┌
任意の(どんな)実数εに対して(でも)、
  |ある
実数δが存在して、
  |    
  |        
ならば  f (P)(c−ε,c+ε)   
  └を成り立たせる
 となる。

n次元数ベクトル空間の上に定義されたユークリッド空間Rnにおける極限概念  
 
n次元空間Rnベクトルの加法スカラー乗法自然な内積(標準内積)ユークリッドノルム‖‖が定義され、
 
n次元空間Rnn次元数ベクトル空間計量実ベクトル空間ノルム空間として扱える場合、
 
任意のn次元数ベクトルx, yRnのユークリッド距離はxy と表せる。
 このユークリッド距離を定義した
ユークリッド空間Rnのもとでは、 
 
A(a1,a2,,an)の「Rn上の点Aの除外δ近傍U*δ(A)」は、U*δ(A){ QRn | 0<QA<ε } 
 
実数cの「R上のε近傍Uε(c)」は、(c−ε,c+ε) 
 だから、
 「
P(x1,x2,,xn)A(a1,a2,,an)に近づけたとき、関数f (x,y)実数c収束する
 
P(x1,x2,,xn)A(a1,a2,,an)に近づけたときの、関数f (x,y)極限値実数cである」
 の定義は、
  ┌
任意の(どんな)実数εに対して(でも)、
  |ある
実数δが存在して、
  |   
PU*δ(A){ QRn | 0<QA<ε } 
  |   
ならば   
  |   
f (P)(c−ε,c+ε)  
  └を成り立たせる
 と表せる。   
 ただし、上記の
Pは、「P(x1,x2,,xn)」を表すn次元数ベクトル(x1,x2,,xn)
     上記のAは、「A(a1,a2,,an)」を表すn次元数ベクトル(a1,a2,,an)
 である。   

[トピック一覧:n変数関数の極限]
総目次

定理:n変数関数の収束の、点列・数列の収束への言い換え 

 

具体例:1変数関数の収束の、数列の収束への言い換え/ 2変数関数の収束の、点列・数列の収束への言い換え 
一般化:
実数値関数の収束の、点列・数列の収束への言い換え/ベクトル値関数の収束の、点列の収束への言い換え
     
距離空間の間の写像の収束の、点列の収束への言い換え   

定理1

次の命題P,Q,Rは互いに言い換え可能である。
つまり、命題
P命題Q命題R
命題P
P(x1,x2,,xn)A(a1,a2,,an)に近づけたとき
   
関数f (P) = f (x1,x2,,xn)実数cに収束する 
これを記号で表すと、
  ・
f ( P )c ( P A ) 
  ・
f (x1,x2,,xn)c ( x1a1 , x2a2 ,,xnan )
    
 など。 

 

 

[文献]
吹田・新保『理工系の微分積分学p. 159.
杉浦『解析入門I』定理6.2(p.53):証明付;
木『解析概論9極限(p.22):証明付.

命題Q
どんなRn上の点列{ Pi }={ P1 , P2 , P3,}={ (x11,x12,,x1n) , (x21,x22,,x2n) , (x31,x32,,x3n) ,}についてであれ、
 
1. その点列{ Pi }={ P1 , P2 , P3,}={ (x11,x12,,x1n) , (x21,x22,,x2n) , (x31,x32,,x3n) ,}A(a1,a2,,an)収束し
 
かつ  
 
2. その点列の各項 P1 , P2 , P3 , がどれもAと一致しない 
 
限り、 
 その
点列の各項 P1 , P2 , P3 , …を n変数関数f によりR上に写した像の数列 
    {
f ( Pi ) }={ f ( P1 ), f ( P2 ) , f ( P3 ) , }={ f ( x11,x12,,x1n ) , f (x21,x22,,x2n ), f (x31,x32,,x3n ), }
 は実数c収束する
 つまり、
  
任意のRn上の点列{ PI }={ P1 , P2 , P3,}={ (x11,x12,,x1n) , (x21,x22,,x2n) , (x31,x32,,x3n) ,}について、
   
PiA (i) かつ P1A , P2A , P3A ,ならばf (Pi)c (i→∞)  
 
論理記号で表すと、
   
{ Pi })( PiA (i)かつ(i) ( Pi A) f (Pi)c (i→∞)

命題R
いかなる
    「実数
a1収束する数列{ x11 , x21 , x31 ,…}」(ただし、x11a1 , x21a1 , x31a1 ,
    「実数
a2収束する数列{ x12 , x22 , x32 ,…}」(ただし、x12a2 , x22a2 , x32a2 ,
       : 
    「実数
an収束する数列{ x1n , x2n , x3n ,…}」(ただし、x1n an , x2n an , x3n an , )   
に対しても、
数列
 { f ( Pi ) }={ f ( P1 ), f ( P2 ) , f ( P3 ) , }={ f ( x11,x12,,x1n ) , f (x21,x22,,x2n ), f (x31,x32,,x3n ), }
実数c収束する
つまり、
{ xi1 } ,{ xi2 }, , { xin }
 (i) (xi1a1かつxi2a2かつかつxinan)かつxi1a1 (i→∞)かつxi2a2 (i→∞)かつかつxinan (i→∞)
      f ( xi1,xi2,,xin )c (i→∞)
なぜ?
 ・「命題
P命題Q」となるわけ→証明 [杉浦『解析入門I』定理6.2(p.53)] 
 ・「命題
Q命題P」となるわけ→証明 [杉浦『解析入門I』定理6.2(p.53);木『解析概論p.22;]  
 ・「命題
Q命題R」となるのは、点列の収束と数列の収束の関係による。 

定理2

次の命題P,Q,Rは互いに言い換え可能である。
つまり、命題
P命題Q命題R
命題P
P(x1,x2,,xn)A(a1,a2,,an)に近づけたとき
関数f (P) = f (x1,x2,,xn)収束する。 
すなわち、
  
  
が存在する
  
極限値の値をだしていないことに注意。

 

[文献]
小平『解析入門Up.259:証明略;
杉浦『解析入門I』定理6.2(p.54):証明付

命題Q
どんなRn上の点列{ Pi }={ P1 , P2 , P3,}={ (x11,x12,,x1n) , (x21,x22,,x2n) , (x31,x32,,x3n) ,}についてであれ、
 
1. その点列{ Pi }={ P1 , P2 , P3,}={ (x11,x12,,x1n) , (x21,x22,,x2n) , (x31,x32,,x3n) ,}A(a1,a2,,an)収束し
 
かつ  
 
2. その点列の各項 P1 , P2 , P3 , がどれもAと一致しない 
 
限り、 
 その
点列の各項 P1 , P2 , P3 , …を n変数関数f によりR上に写した像の数列 
    {
f ( Pi ) }={ f ( P1 ), f ( P2 ) , f ( P3 ) , }={ f ( x11,x12,,x1n ) , f (x21,x22,,x2n ), f (x31,x32,,x3n ), }
 が収束する
 
論理記号で表すと、
   
{ Pi })( PiA (i)かつ(i) ( Pi A)
  
極限値の値をだしていないことに注意。

命題R
いかなる
    「
収束数列{ x11 , x21 , x31 ,…}」(ただし、x11a1 , x21a1 , x31a1 ,
    「
収束数列{ x12 , x22 , x32 ,…}」(ただし、x12a2 , x22a2 , x32a2 ,
       : 
    「
収束数列{ x1n , x2n , x3n ,…}」(ただし、x1n an , x2n an , x3n an , )   
に対しても、
数列
 { f ( Pi ) }={ f ( P1 ), f ( P2 ) , f ( P3 ) , }={ f ( x11,x12,,x1n ) , f (x21,x22,,x2n ), f (x31,x32,,x3n ), }
収束する

活用例

コーシーの判定条件

[トピック一覧:n変数関数の極限]
総目次

定義:∞に発散する 

 

cf.1変数関数の発散/ 2変数関数の発散 

はじめに
読むべき
定義

P(x1,x2,,xn)A(a1,a2,,an)に近づけたとき、
 
関数f (P) = f (x1,x2,,xn)∞に発散する
   f ( x1,x2,,xn )→+∞ ( x1a1 , x2a2 , xnan ) f ( P )→+∞ ( P A ) 
    
   
とは、
P(x1,x2,,xn)を、
A(a1,a2,,an)一致させることなくA(a1,a2,,an)に近づけるとき、 
関数f (P) = f (x1,x2,,xn) が限りなく大きくなることをいう。
この定義は一見わかりやすい。
 ところが、
 「近づく」「限りなく大きくなる」とはいかなる事態を指すのかという点が、
 明らかにされておらず、
 この「発散」定義は不正確で、証明のなかでは使いものにならない。
 そこで、
 「近づく」「限りなく大きくなる」の意味を明確化するために、
 「発散」概念は、次のように厳密化される。 

 

[文献]
高木・押切
解析I・微分p.25.
杉浦
解析入門II§6定義8(p.60);

厳密な
定義

P(x1,x2,,xn)A(a1,a2,,an)に近づけたとき関数f (P) = f (x1,x2,,xn)∞に発散する
   f ( x1,x2,,xn )→+∞ ( x1a1 , x2a2 , xnan ) f ( P )→+∞ ( P A ) 
    
   
とは、
任意の(どんな大きな)実数Kに対して(でも)、ある実数δをとると、
   「0<
d( P, A )<δ ならば f (P) = f (x1,x2,,xn)K 」    
が成りたつ
ということ。
この定義を、
論理記号で表せば、
KR)(δ>0)(0<d( P, A )<δf (P) = f (x1,x2,,xn)K ) 
となる。
  * 
d( P, A )は、 n次元空間Rn上でのP(x1,x2,,xn)A(a1,a2,,an)との距離を表す。 

Euclid平面
において

関数f (P) = f (x1,x2,,xn)、すなわち、「 n次元空間Rn部分集合から、実数体Rへの、写像」について、
収束・極限発散等を扱う際には、
特別な目的がない限り、
n次元空間Rn上の距離ユークリッド距離で定めて、 n次元空間Rnユークリッド空間Rnとする
設定のもとで考えるのが普通。 
この設定下では、
    
 
だから、
P(x1,x2,,xn)A(a1,a2,,an)に近づけたとき関数f (P) = f (x1,x2,,xn)∞に発散する」 
の定義は、具体的には
  ┌
任意の(どんな大きな)実数Kに対して(でも)、
  |ある
実数δをとると、
  |  
 
  |     
ならば  f (x1,x2,,xn) >K   
  └を成り立たせる
  (
KR)(δ>0)( f (x1,x2,,xn) > K ) 
となる。

数ベクトル空間
の上に
定義された
Euclid平面
において

Rn ベクトルの加法スカラー乗法自然な内積(標準内積)ユークリッドノルム‖‖が定義されており、
Rn n次元数ベクトル空間計量実ベクトル空間ノルム空間として扱える場合、
任意のn次元数ベクトルx, yRn のユークリッド距離はxy と表せる。
このユークリッド距離を定義したユークリッド平面
Rnのもとでは、 
 
d( P, A )PA 
だから、
P(x1,x2,,xn)A(a1,a2,,an)に近づけたとき関数f (P) = f (x1,x2,,xn)∞に発散する」の定義は、
  ┌
任意の(どんな大きな)実数Kに対して(でも)、
  |ある
実数δが存在して、
  |   
 0<PA<δ ならば  f (x1,x2,,xn) >K   
  └を成り立たせる
  (
KR)(δ>0)(0<PA<δf (x1,x2,,xn) >K ) 
 と表せる。   
 ただし、上記の
Pは、「P(x1,x2,,xn)」を表すn次元数ベクトル(x1,x2,,xn)
     上記のAは、「A(a1,a2,,an)」を表すn次元数ベクトル(a1,a2,,an)
 である。   

[トピック一覧:n変数関数の極限]
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定義:−∞に発散する 

 

cf.1変数関数の発散/ 2変数関数の発散 

 

はじめに
読むべき
定義

P(x1,x2,,xn)A(a1,a2,,an)に近づけたとき、
 
関数f (P) = f (x1,x2,,xn)−∞に発散する」 
  f ( x1,x2,,xn )→−∞ ( x1a1 , x2a2 , xnan ) f ( P )→−∞ ( P A ) 
   
  
とは、
P(x1,x2,,xn)を、
A(a1,a2,,an)一致させることなくA(a1,a2,,an)に近づけるとき、 
関数f (P) = f (x1,x2,,xn) が限りなく小さくなることをいう。
この定義は一見わかりやすい。
 ところが、
 「近づく」「限りなく小さくなる」とはいかなる事態を指すのかという点が、
 明らかにされておらず、
 この「発散」定義は不正確で、証明のなかでは使いものにならない。
 そこで、
 「近づく」「限りなく小さくなる」の意味を明確化するために、
 「発散」概念は、次のように厳密化される。 

 

[文献]

杉浦
解析入門II§6定義8(p.60);高木・押切
解析I・微分p.25.

厳密な
定義

P(x1,x2,,xn)A(a1,a2,,an)に近づけたとき関数f (P) = f (x1,x2,,xn)−∞に発散する」 
  f ( x1,x2,,xn )→−∞ ( x1a1 , x2a2 , xnan ) f ( P )→−∞ ( P A ) 
   
  
とは、
任意の(どんな小さな)実数Kに対して(でも)、ある実数δをとると、  
   「0<
d( P, A )<δ ならば f (x1,x2,,xn)<K 」    
が成りたつ
ということ。
この定義を、
論理記号で表せば、
KR)(δ>0)(0<d( P, A )<δf (x1,x2,,xn)<K ) 
となる。
  * 
d( P, A )は、 n次元空間Rn上でのP(x1,x2,,xn)A(a1,a2,,an)との距離を表す。 

Euclid平面
において

関数f (P) = f (x1,x2,,xn)、すなわち、「 n次元空間Rn部分集合から、実数体Rへの、写像」について、
収束・極限発散等を扱う際には、
特別な目的がない限り、
n次元空間Rn上の距離ユークリッド距離で定めて、 n次元空間Rnユークリッド空間Rnとする
設定のもとで考えるのが普通。 
この設定下では、
    
 
だから、
P(x1,x2,,xn)A(a1,a2,,an)に近づけたとき関数f (P) = f (x1,x2,,xn)∞に発散する」 
の定義は、具体的には
  ┌
任意の(どんな小さな)実数Kに対して(でも)、
  |ある
実数δをとると、
  |   
 
  |        
ならば f (x1,x2,,xn) <K 」  
  └を成り立たせる
  (
KR)(δ>0)( f (x1,x2,,xn) < K ) 
となる。

数ベクトル空間
の上に
定義された
Euclid平面
において

Rn ベクトルの加法スカラー乗法自然な内積(標準内積)ユークリッドノルム‖‖が定義されており、
Rn n次元数ベクトル空間計量実ベクトル空間ノルム空間として扱える場合、
任意のn次元数ベクトルx, yRn のユークリッド距離はxy と表せる。
このユークリッド距離を定義したユークリッド平面
Rnのもとでは、 
 
d( P, A )PA 
だから、
P(x1,x2,,xn)A(a1,a2,,an)に近づけたとき関数f (P) = f (x1,x2,,xn)∞に発散する」の定義は、
  ┌
任意の(どんな小さな)実数Kに対して(でも)、
  |ある
実数δが存在して、
  |   
 0<PA<δ ならば  f (x1,x2,,xn) <K   
  └を成り立たせる
  (
KR)(δ>0)(0<PA<δf (x1,x2,,xn) <K ) 
 と表せる。   
 ただし、上記の
Pは、「P(x1,x2,,xn)」を表すn次元数ベクトル(x1,x2,,xn)
     上記のAは、「A(a1,a2,,an)」を表すn次元数ベクトル(a1,a2,,an)
 である。   

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reference

和達三樹『理工系の数学入門コース1・微分積分』岩波書店、1988年、pp.112-114.
吹田・新保『理工系の微分積分学』学術図書出版社、1987年。pp.158-159.
矢野・田代『社会科学者のための基礎数学 改訂版』裳華房、1993, p. 91.
岩波数学辞典(第三版)』項目58関数D族・列(p.158)、項目166収束(pp.436).
高木貞治『解析概論改訂第三版』岩波書店、1983年、p. 20.
小平邦彦『解析入門II(軽装版)岩波書店、2003年、pp.259-260.
杉浦光夫『解析入門』岩波書店、1980年、pp.50-54, p.60.  極限の定義が特殊なので注意。
高橋一『
経済学とファイナンスのための数学』新世社、1999年、pp.141-143.
高木斉・押切源一『解析I・微分』共立出版株式会社、1995年。