定義:関数の収束convergence・極限値limit

 





ビギナーのための極限定義
ε-δ法による厳密な表現 ( 考え方 / 論理にこだわって / 論理記号読下しサンプル
近傍概念を用いた表現

【関連】
・1変数関数の極限概念:右極限/左極限/片側極限/包括的な極限/x→+/−∞での極限/発散
・関数一般に拡張された極限概念:
 →2変数関数の極限/n変数関数の極限/実数値関数一般の極限/n変数ベクトル値関数の極限/写像の極限   
 →数列の極限       








1変数関数の極限定義 
トピック一覧:1変数関数の極限 



ビギナー向け定義 ― 日常言語の枠内で

・「xx0に近づくとき、f(x)αに収束する」 f(x)α (xx0 ) 

  「xx0に近づくときのf(x)の極限値はα」 "f has limit A as x approaches a"[Fischer212] 

lim

 f(x)α

xx0

 とは、

  変数xが、 f の定義域のなかで、x0 以外の値をとりながらx0 に限りなく近づくとき、
   その接近ルートによらず、 
    f (x)実数αに限りなく近づく "f approaches A as x approaches x0"[Fischer, p.212] 
    ということ、

 つまり

  f の定義域のなかで、x0 以外の《x0に十分近いx》を 選ぶことで、
    αf (x) を好きなだけ近づけることができるということ[de la Fuente64]。


 * 関数fx0の周囲で定義されているのなら、
    関数fx0で定義されておらず、f (x0) が存在していなくても、かまわない。

 * 「f(x)x→x0のときαに収束する」「f(x)x→x0のとき極限値αを持つ」というとき、
    「xx0への接近」 は、
    xが決してx0に一致しないという制約下での「xx0への接近」を意味するが、
    「 f (x)実数αへの接近」については、
    「 f (x)実数αに一致しない」という制約はなく、
       f (x)実数αに一致するケースがあることも
    許容している。

 *  「f(x)x→x0のときαに収束する
    「f(x)x→x0のとき極限値αを持つ
    ということは、
    極限値α が f (x0) に一致することまで主張していない(cf.連続性)。



・ 「xx0に近づくとき、f(x)が収束する
  「xx0に近づくときのf(x)の極限値が存在する」"the limit of f(x) as x approaches a exists"[Lang39]

   

lim

 f(x)   が存在する 

xx0


 とは、

 「 f(x)α (xx0 )」 を満たす実数αが存在する

 ということ。

 





「変数xが、《f定義域》のなかで、x0 以外の値をとりながらx0 に限りなく近づくとき、f (x)実数αに限りなく近づく」ではなく、

 


「変数xx0 に一致してしまうところまでふくめて、変数xが《f定義域》のなかでx0 に限りなく近づくとき、f (x)実数αに限りなく近づく」という事態を表す概念については、
「極限」概念の雛形を参照。










【文献】
 ・吉田・栗田・戸田『高等学校 微分積分 新訂版』啓林館(平成元年3/31文部省検定済)2章1.関数の極限(T)(p.28)
 ・細井『はじめて学ぶイプシロン・デルタ』4章(p.28)
 ・和達『微分積分』2-3(pp.26-7)
 ・矢野・田代『社会科学者のための基礎数学 改訂版』§9(p.67)
 ・吹田・新保『理工系の微分積分学』1章§3U関数の極限(p.18)
 ・笠原『微分積分学』1.4[1](pp.24-25)
 ・松坂『解析入門1』3.1-E(p.100)
 ・Fischer,Intermediate Real Analysis, V.4.Def4.1(pp.212-3)
 ・Lang, Undergraduate Analysis,Chapter2§2(p.39)
 ・de la Fuente, Mathematical Methods and Models for Economists,2.5(p.64) 



[類概念]  極限/右極限/左極限/片側極限/連続   



 





【注意】 
 


・様々な教科書を手に取って、「x→x0のときf(x)αに収束する/f(x)極限値はα」をどのように定義しているか、チェックしていくと、
  下記2タイプの教科書が存在することに気づく。
   【教科書タイプ1】 「x→x0のときf(x)αに収束する/f(x)極限値はα」 を、 「変数xが、《f定義域》のなかで、x0 以外の値をとりながらx0 に限りなく近づくとき、f (x)実数αに限りなく近づく」(→左欄) で定義する教科書。
   【教科書タイプ2】 「x→x0のときf(x)αに収束する/f(x)極限値はα」 を、 「変数xx0 に一致してしまうところまでふくめて、変数xが《f定義域》のなかでx0 に限りなく近づくとき、f (x)実数αに限りなく近づく」 (→詳細)で定義する教科書。
・【教科書タイプ1】が多数派。しかし、【教科書タイプ2】には、杉浦『解析入門I』[定義2(p.51)定義3(p.52)命題6.4(p.55)]、Lang, Undergraduate Analysis[Chapter2§2(p.39)、赤『実数論講義』[定義6.1.3(p.163);定義6.1.4(pp.166-7)]等の有力タイトルも含まれるので、無視できない。
・両者は、同一の言葉・記号を、別の事態で定義しているので、混乱のもと。

・このノートでは、 

  【教科書タイプ1】の極限定義 を、  f(x)α (xx0)  または  

lim
  f(x)  α  で、
xx0

  【教科書タイプ2】の極限定義 を、  f(x)α (xx0, xD) または  

lim
 f(x) =α  で、
xx0
xD
 表すことによって、両者を区別する。

・この記法は、Lang,ラング現代微積分学』2章§2(p.47)や、杉浦『解析入門I』【命題6.4】(p.55)に沿ったつもり。

※なお、f定義域Dとしたとき、 
   【教科書タイプ1】が採用する極限定義の意味での「x→x0のときf(x)αに収束する/f(x)の極限値はα」 f(x)α (xx0) は、
   【教科書タイプ2】が採用する極限定義の意味での 「 『関数fの D{x0} への制限f * (x)はx→x0のときαに収束する/極限値αを持つ」  f *(x)α ( xx0 , xD{x0} ) [赤『実数論講義』定義6.1.3(p.163);定義6.1.4(pp.166-7)] 
                                 「 D{x0}のなかでxx0に 近づくときf(x)αに収束する/極限値αを持つ」   f (x)α  ( xx0 , xD{x0} ) [杉浦『解析入門』定義3・注意1(pp.52-54)]
  にあたる。








 






【日常言語による定義の限界】 

 この「関数の極限値」定義は、普段の言葉のみで理解できるので、一見わかりやすく感じられるけれども、
 本当は、実用に耐えられない代物。
  1. 「xx0 に近づく」ことと「f (x)実数α に近づく」こととが、いかなる関係にあるのか、
  2. そもそも「近づく」とはいかなる事態を指すのか、
 という点が何ら明確化されていないために、
 この「極限値」定義は、事態の的確な把握・伝達が求められる場面(性質の証明など)での使用に耐えられないのだ。

 そこで、
 事態の的確な把握が求められる場合、 
 上記二点を操作化した下記表現が用いられる。

 →ε-δ論法で記述した厳密な表現 ( 考え方 / 論理にこだわって / 論理記号読下しサンプル
    









1変数関数の極限定義 
トピック一覧:1変数関数の極限 



ε-δ法による厳密な「極限」定義 − 考え方


・アイデアのみを、ざっくり述べると、

 近傍概念を用いない表現であれ、近傍概念を用いた表現であれ、

 「f(x)x→x0のときαに収束する」 「f(x)x→x0のとき極限値αを持つ」とは、

 εに設定した距離を変更して、《αからの距離ε以内の目標接近ゾーン》の幅を変えるたびに、

 その時εに設定した距離に応じて、

   δに代入すると
     「xが《x0から距離δ以内のゾーン(x0を除く)》に突入すると、f (x)が《αからの距離ε以内の目標接近ゾーン》へ 突入する」
   を実現する距離

 が、実在すると確認できるので、

 εに設定した距離を変更して、《αからの距離ε以内の目標接近ゾーン》の幅をどのように変えていっても、
  その設定変更のたびに、その時「εに設定した距離」に応じて距離δをセットし直していくことで
     「xが《x0から距離δ以内のゾーン(x0を除く)》に突入すると、f (x)が《αからの距離ε以内の目標接近ゾーン》へ 突入する」
  を実現し続けることを保証できる

 ということ。

・「f (x)が《αからの距離ε以内の目標接近ゾーン》へ突入する」を数式で表すと、α−ε< f (x)α+ε」となるが、
   絶対値を用いて、「  | f (x)α|<ε 」 
   開区間を用いた集合表現で、「f (x)  ( α−ε, α+ε) 」
 とも表せる。

 なお、《αからの距離ε以内の目標接近ゾーン》とは、αのε近傍Uε(α)に他ならないので、これを使うと、
 「f (x)が《αからの距離ε以内の目標接近ゾーン》へ 突入する」は「f (x)Uε(α)」と表せる。

・「xが《x0から距離δ以内のゾーン(x0を除く)》に突入する」を数式で表すと、「x0−δ<xx0またはx0xx0+δ」となるが、
   絶対値を用いて、「 0<|xx0|<δ 」 
   開区間を用いた集合表現で、「 x ( x0−δ, x0 )( x0 , x0) 」「 x ( x0−δ, x0){x0}
 とも表せる。

 なお、《x0から距離δ以内のゾーン(x0を除く)》とは、αの除外ε近傍U*ε(α)に他ならないので、これを使うと、
 「xが《x0から距離δ以内のゾーン(x0を除く)》に突入する」は「f (x)U*ε(α)」と表せる。
  

  →除外近傍概念を用いない厳密な「極限定義」
  →除外近傍概念を用いた厳密な「極限定義」




【文献】
 ・笠原『微分積分学』1.4[1](pp.24-25) 
 ・和達『微分積分』2-4(2.28) (p.32)





 【他の表現】

  「アウトプットの誤差をε以下にしたければ、インプットの誤差を十分小さくδ以下にすればよいということ」[笠原25]



1変数関数の極限定義 
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