絶対値 : トピック一覧

  ・絶対値の定義/絶対値の性質
 ・絶対値関数 の性質連続性/微分可能性 総目次

定義:絶対値 absolute value


はじめに読むべき定義

任意実数x絶対値x| は、

  (i) x≧0 のとき、|x| = x 
  (ii) x≦0 のとき、|x| = −x 
 
 と、定義される。 

順序概念を前提とした定義

任意実数x絶対値x| とは、
 集合{ x, −x }最大元
   max { x, −x } 
 のこと。
  [杉浦『解析入門I』§1(p.4).
   吹田新保『理工系の微分積分学』1章§1問1(p.3)]




[文献]
 ・吹田・新保『理工系の微分積分学』1章§1問1(p.3).
 ・杉浦『解析入門I』§1(p.4).
 ・小平『解析入門I』§1.3(p.21)
 ・永倉・宮岡『解析演習ハンドブッ ク[1変数関数編]』2.3.23(p.59)
 ・神谷・浦井『経済学のための数学入門』定義2.2.2(p.67).


 ・和達『微分積分』1-2(p.4)
活用例:R上の距離概念 
複素数の絶対値については、次を参照。
 ・小平『解析入門I』§1.6(p.66)
 ・吹田・新保『理工系の微分積分学』3章§5I(p.90). 
 ・永田『理系のための線型代数の基礎』1.1複素数(p.6)


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絶対値の性質


  任意実数x絶対値x|は、次の性質にしたがう。

【絶対値の性質1】 非負性
 
どのような実数xであれ、以下を満たす。
  ・ x
  ・ x=0  x=0
論理記号で書くと、
   (xR)(x 0)
   (xR)(x=0x=0)
なぜ?→絶対値の定義からただちに。




[文献]
 ・杉浦『解析入門I』§1命題1.2-1(p.4);
 ・永倉・宮岡『解析演習ハンドブッ ク[1変数関数編]』2.3.24-i(p.59)
 ・神谷・浦井『経済学のための数学入門』定義2.2.2(p.67).


 ・和達『微分積分』1-2(p.4)
  

【絶対値の性質2】 もとの実数との比較
 
どのような実数xであれ、
     x x
 を満たす。
論理記号で書くと、 (xR)(x x
なぜ?→証明 




[文献]
 ・杉浦『解析入門I』§1(1.9)(p.4);


 ・永倉・宮岡『解析演習ハンドブッ ク[1変数関数編]』2.3.25-iii(p.59)


【絶対値の性質3】 もとの実数の反数と比較
 
どのような実数xであれ、
   x x
 を満たす。
論理記号で書くと、
  (xR)(x x




[文献]
 ・杉浦『解析入門I』§1(1.9)(p.4);






【絶対値の性質4】

どのような実数xであれ、
  xx
 を満たす。
論理記号で書くと、 (xR)(xx
活用例:
  ・anα (n→∞) ⇒−an→−α (n→∞) 」の証明 




[文献]
 ・永倉・宮岡『解析演習ハンドブッ ク[1変数関数編]』2.3.24-ii(p.59);






【絶対値の性質5】 積と絶対値の順序交換
 
どのような実数x,yであれ、
   xyx y 
 を満たす。

論理記号で書くと、
   (x、yR)(xyx y

なぜ?→証明




[文献]
 ・杉浦『解析入門I』§1命題1.2-2(p.4)
 ・神谷・浦井『経済学のための数学入門』定義2.2.2(p.67).
 ・永倉・宮岡『解析演習ハンドブッ ク[1変数関数編]』2.3.24-iii(p.59)






活用例:anα (n→∞)  ⇒『∀cRにたいして、can→cα (n→∞)』の証明 

【絶対値の性質6】 商と絶対値の順序交換
 
任意実数x、0を除く任意実数yについて、
   x/yx / y 
 が成り立つ。

論理記号で書くと、
 (x,yR)( y≠0 x/yx / y  )
 





[文献]
 ・永倉・宮岡『解析演習ハンドブッ ク[1変数関数編]』2.3.24-iv(p.59);






【絶対値の性質7】 累乗と絶対値の順序交換
どのような実数xであれ、
  x2x2
 を満たす

論理記号で書くと、
   (xR)( x2x2  )
・さらに言うと、
 任意実数xにたいして、 x2x2x2
なぜ?→証明   




[文献]
 ・永倉・宮岡『解析演習ハンドブッ ク[1変数関数編]』2.3.24-v(p.59);






【絶対値の性質8-1】 三角不等式

どのような実数x,yでも、
   xyxy   
 を満たす。

論理記号で書くと、
   (x、yR)( xyxy  )

なぜ?→証明    
活用例→d(x,y)=|xy|は距離の公準3三角不等式を満たす




[文献]
 ・吉田-栗田-戸田『昭和62年文部省検定済:高等学校数学I』啓林館,4章3.(p.104.)
 ・小平『解析入門I』§1.3(p.21)
 ・杉浦『解析入門I』§1命題1.2-3(p.4)
 ・神谷・浦井『経済学のための数学入門』定義2.2.2(p.67).


 ・永倉・宮岡『解析演習ハンドブッ ク[1変数関数編]』2.3.26-i(p.59);


【絶対値の性質8-2】
どんな実数x,yでも、
   xyxyxy
 を満たす。
論理記号で書くと、
 (x,yR)(xyxyxy
なぜ?→証明  
活用例→積分の三角不等式 




[文献]
 ・吹田・新保『理工系の微分積分学』1章§1問1(p.3).


 ・永倉・宮岡『解析演習ハンドブッ ク[1変数関数編]』2.3.26-iii(p.59)



【絶対値の性質8-3】
どんな実数x,yでも、
   xy xy 
 を満たす。

論理記号で書くと、
   (x、yR)( xy xy





[文献]
 ・杉浦『解析入門I』§1命題1.2-4(p.4):証明付.
 ・吹田・新保『理工系の微分積分学』1章§1問1(p.3).


 ・永倉・宮岡『解析演習ハンドブッ ク[1変数関数編]』2.3.26-ii(p.59)


【絶対値の性質9】

どんな実数xでも、
  x =  √ x2    
 を満たす。

論理記号で書くと、
   (xR)(x =  √ x2  ) 





[文献]
 ・吉田-栗田-戸田『昭和62年文部省検定済:高等学校数学I』啓林館, 2章2実数(p.54):証明無.


 ・



【絶対値の性質10-1】

任意の実数x任意の非負の実数aについて、
 以下の命題P,命題Qは同じことを意味している。
  命題Px  a
  命題Qa x  a

論理記号で書くと、
 x,aR)(a0x  a a x  a





[文献]
 ・永倉・宮岡『解析演習ハンドブッ ク[1変数関数編]』2.3.25(p.59)


 ・



【絶対値の性質10-2】

任意の実数x任意の非負の実数aについて、
 以下の命題P,命題Qは同じことを意味している。
  命題Px  a
  命題Qx aまたは x a




[文献]
 ・永倉・宮岡『解析演習ハンドブッ ク[1変数関数編]』2.3.25(p.59)


 ・


論理記号で書くと、
 x,aR)(a0xax aまたはxa」)


【絶対値の性質10-3】


任意の実数x,a任意の非負の実数εについて、
 以下の命題P,命題Qは同じことを意味している。
  命題Px−a  ε
  命題Qaεx a+ε




[文献]
 ・永倉・宮岡『解析演習ハンドブッ ク[1変数関数編]』2.3.25(p.59)


 ・


論理記号で書くと、
 x,a,εR)(ε0(xa  εaεx a+ε」)


【絶対値の性質11】

実数x,aが、
  「任意の非負の実数εに対して、xa < ε
  を満たすならば
 この実数x,aは、x=a を満たす。

論理記号で書くと、
 x,aR)(ε0)(xa < ε) x=a 





[文献]
 ・永倉・宮岡『解析演習ハンドブッ ク[1変数関数編]』2.3.27(p.59)


 ・



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絶対関数の性質


 絶対値関数y=f(x)=x は、次の性質にしたがう。


【絶対値関数の性質1】 連続性
 
絶対値関数y= f (x)=x は、x=0でも連続

なぜ? 

 (1)絶対値の定義より、
     f ()は定義されており、f ()=0.
 (2)(3) 絶対値の定義より、
   x→+0でもx→−0でも、f (x)→0





[文献]
 ・吹田・新保『理工系の微分積分学』2章§1例1(p.37).
 ・吉田-栗田-戸田『平成元年3/31文部省検定済:高等学校微分積分』.47


 ・和達『微分積分』3-2例2(p.46)
  

【絶対値関数の性質2】 微分可能性
 
絶対値関数y= f (x)=x は、
   x=0において微分可能ではない。

なぜ? 

  右微分係数
lim
h→+0
 f (x0+h)f (x0)  をみると。

h

  これが、x0=0で、
 
lim
h→+0
 f (0+h)f (0) 

h

 
lim
h→+0
 0+h0 

h




[文献]
 ・吹田・新保『理工系の微分積分学』2章§1例1(p.37).




  
活用例:絶対値の対数の微分




 
lim
h→+0
 h−0   ∵絶対値の定義より、x≧0ならx=x 

h

 
lim
h→+0
 h   

h

   =1


  左微分係数
lim
h→−0
 f (x0+h)f (x0)  をみると。

h

  これが、x0=0で、
 
lim
h→−0
 f (0+h)f (0) 

h

 
lim
h→−0
 0+h0 

h

 
lim
h→−0
 −h−0   ∵絶対値の定義より、x≧0ならx=xx≦0ならx=−x 

h

 
lim
h→−0
 −h   

h

   =−1

  よって、 微分係数 
lim
h→0
 f (x0+h)f (x0)  には、

h

       x0=0における有限極限値が存在しないので、

  絶対値関数y= f (x)=x は、x0=0で微分可能ではない。




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reference

吉田耕作・栗田稔・戸田宏『昭和62年3/31文部省検定済高等学校数学科用 高等学校 数学I 新訂版』啓林館, pp.52-5, p.104.
吉田耕作・栗田稔・戸田宏『平成元年3/31文部省検定済高等学校数学科用 高等学校 微分・積分 新訂版』啓林館.
小平邦彦『解析入門I』岩波書店、2003年、§1.3(p.21)。
杉浦光夫『解析入門I』東京大学出版会、1980年、§1(p.4).
神谷和也・浦井憲『経済学のための数学入門』東京大学出版会、1996年、p.67.
和達三樹『理工系の数学入門コース1:微分積分』岩波書店、1988年、1-2(p.4);3-2例2(p.46).
吹田・新保『理工系の微分積分学』学術図書出版社、1987年。、2章§1例1(p.37).