環境健康ニュース(EHN) 2016年6月8日
内分泌かく乱物質: スキャンダルの秘密の歴史
ステファン・ホーレル

情報源:Environmental Health News, June 8, 2016
Endocrine disruptors: The secret history of a scandal
By Stephane Horel
http://www.environmentalhealthnews.org/ehs/news/2016/june/
endocrine-disrupters-the-secret-history-of-a-scandal


訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2016年6月12日
このページへのリンク
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/edc/EU/ehn_160608_EDCs_secret_history_of_scandal.html

消息筋によれば、欧州委員会は来週、内分泌かく乱化学物質に関する規則を取り上げる。残念なことに、決定を促す最も敏感な国家の秘密に値する文書は隠されたままである。(1/3)
編者注(EHN):この記事はもともと、ルモンド紙5月20日付けに発表されたものである。この英語版は Health and Environment Alliance (HEAL) により翻訳され、許可を得て発表するものである。
 我々はまた、調査の他の2編:ルモンド紙のフランス環境大臣セゴレーヌ・ロワイヤルへのインタビュー(2/3)、及びブリュッセルの産業側と関係ある科学者集団によって撒かれた疑いの種(3/3)も発表する。

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Graphic by AUREL. Translation courtesy HEAL

 これはヨーロッパで最もよく守られた秘密のひとつである。それは欧州委員会の迷路の中に、すなわち約40人の許可された担当者だけが入ることのできる厳重に管理された部屋の中に秘匿されている。そして紙とペンだけで、スマートフォンはの持ち込みは許可されていない。

 これは、欧州連合とアメリカの間の環大西洋貿易投資連携協定(TTIP)のための管理よりも厳重である。TTIP では、欧州議会の議員が TTIP 文書をみたいと望めば、彼らはポケットに何が入っているか誰からもチェックされずに閲覧室に入ることができる。

 その秘密とは約250頁からなる報告書である、その表題は欧州委員会の専門用語で”影響評価(Impact Assessment)”である。

 それは、汚染化学物質のグループに関連する規則の”社会−経済的”影響を評価する。内分泌かく乱物質と呼ばれるこれらの化学物質は、人間を含む動物種のホルモンを阻害することができ、多くの重大な疾病:ホルモン依存のがん、不妊、肥満、糖尿病、神経行動障害等の原因となると信じられている。

 それらは多くの消費者製品、化粧品、農薬、ビスフェノールA(BPA)のようなプラスチックの中に見いだされる。中期的に産業の全ての分野がこれらの化学物質の規制により影響を受けるであろう。数十億ユーロ(約数千億円)が危うくなる。

テレビ番組に相応しい曲折

 制限、おそらくは禁止の見通しが製造者の間に深刻な懸念を呼び起こしている。農薬産業は植物保護製品(Plant Protection Products)に関する欧州の規制への敵意を隠そうとせず、テレビ番組に相応しい曲折をもってその敵意から意志決定プロセスを作り出している。

 農薬の特別な扱いのために用意された文言、”内分泌かく乱物質として認められた物質は市場に出すことは許可されないであろう”が 2009年に欧州議会によって採択された。しかしそれらを認めないわけにはいかない。

具体的になすべきことことは、これらの物質を特定するための基準を設定することである。基準なしに法律を実施することはできない。
従って欧州委員会は内分泌かく乱物質を他の化学物質から区別するための方法を編み出すことを義務付けられている。具体的になすべきことことは、これらの物質を特定するための基準を設定することである。基準なしに法律を実施することはできない。

 国の保健当局、産業及び NGOs は、内分泌かく乱物質を特定するためのこれらの基準−内分泌かく乱物質の使用の制限、又はもっと過激に禁止の決定がなされるまで、何もできない仮死状態である。

 欧州議会での決定の7年後の今日に至っても、これらの基準はまだ存在しない。

 この遅延は、若返りの泉の場所が秘密であるように、極めて高度な秘密の結論をもつこの影響評価のせいである。影響評価はもともとの計画にはなかったが、産業側が規制を弱めるための方法としてそれを要求した。

 それは農薬産業と化学産業の両輪によるロビーイング電撃作戦で2013年の初夏に成功した。その活動は主にブッリュッセルのロビーイング組織:欧州作物保護協会と欧州化学工業連盟を通じて行われた。

超敏感なファイル

 農薬の巨大会社−ドイツの二大ヘビー級企業の BASF とバイエル、及びスイスの多国籍企業シンジェンタもまた戦いの場にいた。

 欧州委員会事務総長キャサリン・デイは最終的に、科学者集団の中にある様々な意見と”化学産業及び国際貿易の分野”−交渉が始まったばかりの TTIP への直接的な言及−への潜在的な影響に基く彼らの影響評価の要求に屈した。

 2013年7月2日のメモの中に、デイ、そして欧州連合の最高幹部は内分泌かく乱物質の表示のための基準は”敏感な問題”であると記述した。

 それは敏感であり、超敏感になった。

 欧州議会は欧州委員会にこれらの悪名高い基準を作成するための期限:2013年12月を与えていた。しかし何も出てこなかった。スウェーデンは欧州委員会を裁判に訴えた。この動きはフランス、デンマーク、フィンランド、及びオランダにより、そしてまた欧州議会及び欧州理事会というめったにない体制で支持された。

 欧州司法裁判所は遅れることなく対応した。

 2015年のクリスマス直前に、裁判所は欧州連合条約の守護者である欧州委員会は、”欧州連合の法に違反している”と裁定した。判決は、欧州委員会がその防衛の中心に据えていた”科学的基準の影響評価について申し立てられた必要性”を吹き飛ばした。

 しかし同日、欧州委員会保健担当委員ヴィテニス・アンドリュカイティスの報道担当はぶっきらぼうに影響評価は実施され続けるであろうと発表した。

 すでに超過敏であり、ファイルは燃え易くなった。

病気のコストは?

 欧州議会は怒り狂った。あるものはいくつかの書簡を欧州委員会委員長ジャン=クロード・ユンケルに送った。しかしこれらは効果がなかった。

 1月13日、欧州議会議長マルティン・シュルツはユンケルに書簡を送った。”欧州委員会の遅れは許容できない”。影響評価を続けることはEUの最高裁判所の”判決に対する挑戦”であるとシュルツは付け加え、欧州委員会は遅滞なくそれに従うよう要請した。そのメッセージは3月10日の第二弾の書簡の中でも繰り返された。

 いくつかの研究が、内分泌かく乱化学物質への暴露が引き起こす健康コストは年間 1,570億ユーロから 2,880億ユーロであることを示している。そういうわけでスウェーデンは圧力をかけ続けた。5月13日付けのルモンド紙が入手した文書の中で、スェーデンは、”法廷は基準を定義するために経済的な考慮をすることを禁止している”ことを、ぶっきらぼうに欧州委員会に思い起こさせた。

 それでは、大事に保管されている影響研究のページに書かれている”経済的考慮”の本質は何か?

 産業への影響に加えて、独立研究により推定された年間 1,570億ユーロから 2,880億ユーロというヨーロッパにおける内分泌かく乱物質への暴露に関連する疾病のコストを考慮しているのか?

 未定の状態は6月15日に終わるであろう。我々の消息筋によれば、内分泌かく乱物質の特定のための基準に関する最終提案はその日に欧州委員会委員らの会合で発表されるであろう。
続編

訳注:関連情報

  1. EHP 2016年4月25日掲載論文 欧州連合における内分泌かく乱物質を特定するための規制基準の設定に関連する科学的問題 アンドレアス・コルテンカンプ、トーマス・ツェラー、他

  2. ChemSec 2016年3月7日 環境委員ベラ EDC 基準は’もちろん’効力を含むと述べる

  3. EurActiv 2016年3月4日 ブッリュッセル 内分泌かく乱物質の定義を’今年の夏までに’と約束

  4. 内分泌学会プレスリリース 2016年3月1日 欧州委員会の保健衛生・食の安全担当委員が内分泌学会メンバーと内分泌かく乱化学物質に関して会談

  5. グリーンズ欧州自由連合 2016年1月29日 公衆健康/内分泌かく乱物質 欧州連合条約の守護者が巨大ビジネスの利益の守護者となるとき

  6. 欧州連合司法裁判所 2015年12月16日 プレスリリース スェーデン対欧州委員会の訴訟判決

  7. HEAL 2015年11月18日/最新更新 2015年11月26日 EU における公判が欧州委員会のホルモンかく乱化学物質に関する遅れに光を当てる

  8. Food Packaging Forum 2015年11月9日 欧州連合の内分泌かく乱物質スクリーニングのための方法論

  9. Newswise 2015年6月1日 内分泌学会 内分泌かく乱物質の特定と評価に関して欧州委員会に語る

  10. ChemSec News 2015年6月1日 ケムセック REACH の下での ホルモンかく乱物質への行動を求める

  11. run_red_button.gif(410 byte)2015年5月 ステファン・ホーレルと COE 有害な出来事:化学物質ロビーはどのようにホルモンかく乱化学物質への取組みを妨害したか

  12. norden news 2015年3月26日 北欧理事会 有害物質のない日々の環境を求める

  13. 内分泌学会 プレスリリース 2015年3月5日 内分泌かく乱化学物質の推定費用 EU で年間 1,500億ユーロを越える

  14. The Guardian 2015年2月2日 握りつぶされた EU 報告書: 数十億ポンドに値する農薬を禁止していたことになったであろう

  15. ChemSec News 2015年1月28日 加盟国及び欧州議会 EDC基準に関するスウェーデンの訴訟に参加

  16. EFSA Press Release 2015年1月21日 ビスフェノールA 暴露による消費者の健康リスクはない

  17. EDC Free Europe 2014年12月3日 ホルモンかく乱化学物質にノーと言おう!

  18. フランスのテレビで放映された新たな調査フィルム:Endocrination

  19. EurActiv 2014年7月2日 デンマーク政府 計画していたフタル酸エステル類の禁止を中止

  20. PAN-Europe 2014年6月18日 プレスリリース 内分泌かく乱基準 更新:どこにもたどり着かないロードマップ

  21. EurActiv 2014年6月11日 フランスが内分泌かく乱物質への迅速な行動を主張する

  22. Independent Science News 2014年5月26日 EU 安全機関は産業界のために迫りくる農薬禁止の逃げ道を企んでいることを見つかる

  23. Chemical Watch, 28 May 2014 Sweden sues EU Commission over EDC criteria delay - Environment minister seeks support from more governments

  24. EurActiv 2014年3月3日 内分泌かく乱物質に関する基準を発表するよう欧州委員会への圧力が高まる

  25. EurActiv 26 February 2014 Sweden to sue the Commission for delaying hormone-affecting criteria
    (EurActiv 2014年2月26日 スウェーデン ホルモン影響基準の遅延について欧州委員会を提訴するかもしれない)

  26. January 23rd, 2014 S&Ds strongly criticise the Commission for delaying action on endocrine disruptors
    (2014年1月23日 社会民主進歩同盟(S&Ds)内分泌かく乱物質に関する行動を遅らせる欧州委員会を強く批判)

  27. HEAL 2013年11月13日 プレスリリース 内分泌かく乱物質の規制の遅れは慢性疾患の防止と医療のための機会を無駄にする

  28. 2013年10月24日 欧州委員会  内分泌かく乱物質に関する専門家会議 議事録

  29. EHN 2013年10月15日 産業界とのつながりが深い科学者がEUの諮問委員会を辞任

  30. 2013年10月7日 スウェーデン及びデンマークの環境大臣から欧州委員会環境委員及び産業委員への内分泌かく乱化学物質に関する書簡

  31. 2012年10月2日 NGOs から欧州委員会ダリ委員及びポトチュニック委員への書簡

  32. EHN 2013年9月23日  特別報告:EUの化学物質政策を批判する科学者らは産業界とつながりがある

  33. Environmental Health 2013年8月27日 論評 内分泌かく乱物質に関して科学と政治を混ぜ合せてはならない: 毒性学誌編集者らによる”常識的介入”への回答

  34. 欧州労働組合研究所(ETUI) News 2013年6月26日  内分泌かく乱物質:パラダイムシフトを求める

  35. ラマツィーニ協会 プレスリリース 2013年6月13日 ラマツィーニ協会  内分泌かく乱化学物質(EDCs)と欧州連合における化学物質安全政策に関する公式見解を発表

  36. EurActiv 2013年5月24日 89人の科学者がホルモンかく乱化学物質に行動を起こすようEUに求めベルレモン宣言に署名

  37. 2013年3月27日 行動を求めるNGOs キャンペーン EDC フリー ホルモンかく乱化学物質をやめろ

  38. HEALプレスリリース 2013年3月13日  欧州議会の内分泌かく乱物質(EDCs)に関する採択は、健康を守ることの緊急性を伝えるものである



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